誰もが望んだ、だからきっとここに居た。

誰かが望んだ、だからきっとここに居る。

誰かは望んだ、だからきっとここに居て、

誰かに望んだ、救ってください、と。

「だから、僕は――」

…………。


夢――、だ。

わかる。

僕はこの夢を経験している。

『もう』『何度も』

(*゚ー゚)「お久しぶり、かしら?」

ふわり、と彼女は現れた。
唐突に、突然に。
彼女は硝子細工のように透き通っていた。

美しく、儚く、幼く、そして。

(*゚ー゚)「起きたら忘れてしまう夢だけど、聞きたい事があるならどうぞ?」

恐怖を内包している存在。
そんな彼女はくすくすと笑いながら、そこに立っていた。


「何で――、こんな事――」

(*゚ー゚)「必要だからよ」

それに、と彼女は付け加えた。

(*゚ー゚)「やってるのは、私じゃないもの」

「それは――、どういう――」

(*゚ー゚)「何れわかるわ。 アナタが死ななければ、だけれど」

くるくると踊るように回転しながら、彼女は言う。

(*゚ー゚)「さぁ……、ラストゲームよ」

その言葉を最後に、ぷつん、と、僕の夢が途絶えた。

…………。







■( ^ω^)は十回死ぬようです。
■六日目の朝・開始。


目が覚めると、そこは普段から変わらぬ自分の部屋だった。
ヲタグッズ、ポスター、フィギュア、抱き枕に腐女子御用達のBLノベルまである。

( ^ω^)「…………」

両手を何度か握り、離し、握りを繰り返す。
体がどこか軋んでいた、疲労と言うほどでも無いが、多少の違和感がそこにある。

( ^ω^)「着替えるかお」

しわしわになった制服を着込み、荷物を整えて階下へと向かう。

( ^ω^)「おはようだおー」

ξ゚听)ξ「五月蝿い黙れ耳が腐る」

妹の声が耳に入る。
暴言は何時ものことなので、気にせずに席についた。


J( 'ー`)し「おはよう、ご飯できてるからちゃっちゃと喰ってとっとと行ってきなさい」

皿の上にはバターの塗られたトーストと。

( ^ω^)「目玉焼きの目玉が無いお」

J( 'ー`)し「ごめん、食べた」

( ^ω^)「おまwww」

お前かよ。


J( 'ー`)し「ああ、カーチャン今日はタッキーのコンサート行かなきゃいけないから夕食はピザでもとって食べてなさいな」

しかたなくブーンはバターの塗られた食パンと目玉の無い目玉焼きを口に運ぶ。

ξ゚听)ξ「これってただの焼きなのかしら……」

( ^ω^)「知らないお……」

数分後、なんだかんだで綺麗になった皿を流し台に運び、家を出るまで数分前、といった時間になった。

ξ゚听)ξ「あ、兄貴ー」

( ^ω^)「お?」

ツンが自分のカバンから。

一冊の本を。

取り出した。

ξ゚听)ξ「これ、返しておいてくれる?」

…………。


川 ゚ -゚)「現象が起こると言う事は、何らかの要因が必ずある、と言う事だ」

手元のカップを弄りながら、彼女は静かに語る。

川 ゚ -゚)「そして要因自体が現象である以上、全ての出来事は何かに必ず連鎖し、留まると言う事は決して無い」

目の前の存在は、それこそ彼女からして異質であるが、それに気負った様子は一切ない。

川 ゚ -゚)「つまり、私と君の出会いという出来事すら何らかの要因になっている、と言う事だ」

だから。

川 ゚ -゚)「私の死も、無駄にはならんさ」

紅茶を口に含んで、部屋の隅をじっと見つめる。

川 ゚ -゚)「お前じゃ彼には、勝てないさ」

…………。


( ^ω^)「ドクオッ!」

('A`)「……よう」

二人がいつも待ち合わせる場所に、ブーンは走って向かっていた。
その形相があまりにこわもてだったので、ドクオは思わず一歩引いてしまった。

( ^ω^)「お、元気かお……」

('A`)「お前よりは元気じゃねえな」

その軽口を聞いて、ブーンはわかってはいても胸をなでおろす。


『自分の頭の中に残っている最後の親友の顔が自分の死を間際にした泣き顔』だった故などと、本人に言えるわけは無いが。


( ^ω^)「まあ元気でよかったお、ドクオ」

('A`)「あん?」

( ^ω^)「今日は図書館とか踏切の近くに行っちゃ駄目だお、速やかに家に帰るお」

('A`)「……なんだそりゃ」

( ^ω^)「いいから」

その真剣な眼に、ドクオは何かを感じたのか、暫く黙っていたがやがてこくりと頷いた。


ぽつぽつと小走りになりながら歩みを進め、大き目の交差点に出たところでブーンは言った。

( ^ω^)「それじゃ僕は学校休むから、先生に適当言ってごまかしておいてくれお」

('A`)「は。 なんだそりゃ」

( ^ω^)「用事があるんだお」

('A`)「学校サボってまでの用事ってなんだよ……」

( ^ω^)「……大事な事なんだお」

何を基準にして長いとするかは人それぞれだろうが、ドクオは長い付き合いだと思っている、
だから、こいつがこういう事を言うときは何かしらの事情があるのだと言う事を、察した。
故に。



('A`)「……なら俺も付き合ってやるよ」

( ^ω^)「ほわーっと!?」

('A`)「よくわかんねぇけど、わかんねぇんだけどさ」

ドクオは恥ずかしそうに、という表現が当てはまるかどうかはわからないが、顔を背けて呟いた。





「お前を一人にしちゃいけないような気がするんだよ」





('A`)「それにサボりなんて高校入った直後は結構やってたじゃねえか」

その後ペニサスによる指導と言う名の拳が突き刺さり此処暫くやっていなかったが。

( ^ω^)「ドクオ……、でも」

('A`)「でもも糞ももんじゃも焼肉もねぇよ」

ドクオは学校の方向から体をずらし、歩き出す。

('A`)「今日一日付き合ってやる、とっとと行こうぜ」

( ^ω^)「……っ、ドクオ!」

先へと進もうとするドクオの腕を、ブーンが掴む。
無表情で振り返るドクオに、告げる。

( ^ω^)「僕あっち行きたいんですが」

ドクオが向かおうとした方向ときっちり逆方向を指差しながら。

…………。


('A`)「制服で駅ってヤバイんじゃねえか……?」

( ^ω^)「ちっとやりたい事があるんだお」

切符を買ってホームへと向かう、ブーンには今までの『今日』で見覚えがある場所だ。

('A`)「何所行くんだ?」

( ^ω^)「二つ先の駅だお」

電車を待っている間、ドクオとブーンはなるたけ目立たないように人の影に隠れながら会話をする。

('A`)「誰かと待ち合わせでもしてんのか?」

( ^ω^)「いや……、そういうわけじゃないんだけど」

それは『何したかったんだ? お前』といわれるような作業になるだろうが、ドクオはきっと付き合ってくれるのだろう。
ブーンが今できる事は、一つしか無い。

「二番ホームに各駅停車が参ります、黄色い線の内側まで――」

アナウンスから聞こえる声と、並行して遠くから巨大な鉄の塊がコチラへ向かってくるのが見えた。


( ^ω^)「人多いお」

('A`)「そりゃお前通勤ラッシュの時間帯ですからー」

大人数に揉まれながら、ブーンとドクオは小声で会話をしていた。
人の数は溢れ帰るとかいう次元ではなく、何かもう異界の領域だ。

( ^ω^)「コミケ会場は押しつぶされたりしないおっ」

('A`)「押されるけどなっ」

マクドナルドのハンバーガーの如く潰される状況は数分間続き。

( ^ω^)「はぁ、はぁ、はぁ」

一つ目の駅で人が何人か降りて、つま先たちしなくてもいいスペースがようやく生まれた。


('A`)「助かったぜ……」

( ^ω^)「本当通勤ラッシュは地獄だぜ」

('A`)「俺将来在宅ワークがいいな」

などとくだらない話をする。
だから二人は気がつかなかった。

ブーンの手が上へとあがった。



( ^ω^)「へ?」

それは自らの意志によるものではなく。

「この人! 痴漢です!」

若い女性が思いっきりブーンの腕を掴み上げていた。

( ^ω^)「え、ええええええ!!!!」

…………。


( ^ω^)「僕はやってないですお!」

「でもねぇ、やった人は皆そう言うんだよねぇ」

二つ目の駅、丁度ブーンの目的地で降ろされた二人は、駅員室に連れて行かれていた。

( ^ω^)「本当ですお!」

しかし、女性は涙で頬をぬらしながらブーンを指差し。

「確かに触られました、スカートの中まで!」

OL調の服を着ていて、出るところが出ている上に、舐め鎌しい雰囲気を纏っているためか、駅員達は女性の言葉を完璧に信じているらしかった。



( ^ω^)「本当にやってませんお!」

('A`)「そうですよ! コイツは無罪です!」

二人の声は当然の如く聞き入れられない。

「とりあえず警察に引き渡すか」

「だな」

( ^ω^)「警察!」

不味い。
そんな事になったら時間が無くなる。
タイムリミットが来てしまうかもしれない。

その時だった。


「警察の方つれてきましたー」

('A`)「早っ!」

「いやぁ、110番したら近くにいるという事なので……」

今しがた部屋に入ってきた駅員の後ろから、男が現れる。

「痴漢かぁ、若いねぇ」

サラリーマン調の服に身を包んだ、若いねぇ、といった本人の顔立ちも言うほど老いては居ない。

ただその姿は、もう運命を感じざるを得ないほど、見覚えのある物だった。


( ゚∀゚)「んじゃあ、ちっと話聞かせてもらうぜ学生君」


ジョルジュという名の刑事が、そこに居た。


( ^ω^)「ジョルジュさん……!?」

( ゚∀゚)「あ?」

思わず立ち上がり、名前を叫んでしまったブーン。
ジョルジュはすたすたとコチラに向かい近寄ってきた。

( ゚∀゚)「おい」

( ^ω^)「は、はひ!」

お互いの顔が後数センチで愛を交し合えてしまう距離まで近づく。


( ゚∀゚)「お前、痴漢したのか?」

( ^ω^)「してないですお! 神に誓って!」

暫く、数十秒にわたりジョルジュはブーンの瞳を見つめていた。

('A`)「…………」

周りの人間もその唐突な行動に息を呑み、次を待つ。

( ゚∀゚)「……おい、小娘ちゃん、こいつはやってないそうだぜ」

そういわれると、女性はびくりと肩を震わせたが、しかし涙目で言う。

「そんな事無いです! 私は確かに触られました!」


その様子をじぃ、と観察していた刑事だが、やがて首を振って、言った。

( ゚∀゚)「はっ、嘘だね」

「え、いや、しかし」

駅員の一人がジョルジュに何かを言おうとしたが、それをドクオが遮った。

('A`)「そうです! コイツが痴漢なんてするわけありません!」

ドクオはブーンと過ごしてきた日々をゆっくりと思い出す。

こいつは、
こいつは――。


('A`)「ロリコンで変態で射程範囲は六歳から十五歳までのお子様(義理妹だと直よし)で甘えん坊のゴスロリ娘が大好きなんだ!
恥じらい顔で微乳なら大歓迎! ご飯六合はいける変態です! そんなこいつがこんなむちむちボインを痴漢するわけがありません!」


引いていた。

世界には今確かに二つだけだった。

力説する馬鹿と、冷めた眼で見られる変態。




「……あー、お嬢さん」

「……っ」

それで、終わりだった。

観念したように女性は膝をつき、ごめんなさい、と呟いた。


…………。


( ゚∀゚)「近くにいた警官呼んだから、向こうはもういいだろ」

笑いを堪えながら、ジョルジュ、後ろにブーンとドクオが控える形で歩いていた。
あの後、数分間駅員に頭を下げられ続けたブーンであった。

( ゚∀゚)「しかし、災難だなぁお前、いやほんと……」

げらげらと笑い出しかねない勢いだった。
そこはかとなくむかついた。

('A`)「でも刑事さん、自分で言うのもあれっすけど、良く信じてくれましたね」

( ゚∀゚)「ああ、俺は嘘をついてるかどうかなんてよ――」


『眼を見りゃわかんだよ』


その存在感は今までの『今日』で見てきたジョルジュのものと、まったく同じものだった。

圧倒的、高圧的、そして味方という立ち位置に居ると安心できる存在。

駅の改札口を出たところで、ジョルジュは片手を挙げてその場を去ろうとする。

( ゚∀゚)「じゃーな悪ガキ共、事情は知らんがあんま制服でぶらぶらしてんじゃねーぞ」

そういい、ポケットに手を入れて歩き出す――。

( ^ω^)「待ってくださいお!」

それを、ブーンが轢きとめた。

( ゚∀゚)「……あん?」

( ^ω^)「刑事さんに、聞きたい事がありますお」

('A`)「ブーン?」


そのただならぬ表情に、ジョルジュは少し困ったような顔をしたが、言った。

( ゚∀゚)「んだよ、ちっとなら付き合ってやるぜ」

ブーンはためらうように、その言葉を紡ぎだす。

( ^ω^)「……人は、何で死ぬと思いますかお」

( ゚∀゚)「……は?」

('A`)「……お前、とうとうそこまで」

呆れた顔をする二人を前に、ブーンは両手をわたわたとふった。

( ^ω^)「いや、違いますお! なんかこう刑事的な視点からの意見を聞きたいんですお!」

( ゚∀゚)「なんじゃそりゃ……、まあいいや、ありがちな台詞だけどな――」


『生きてるから、死ぬんだろうな』




( ゚∀゚)「参考になったかよ?」

('A`)「……格好いい台詞だな、生で聞くと」

( ^ω^)「……じゃあ、もう一つだけいいですかお」

ブーンは、これが聞きたかったかといわんばかりに、呟いた。

( ^ω^)「死なないためにはどうすればいいですかお?」

ジョルジュは数秒黙り込んだ、静かにブーンの顔を見ている。
やがて、ふむ、と口の中だけで呟き、言葉を紡ぐ。
まるでクーのようだ、とブーンは少し思った。



( ゚∀゚)「……なんつーかな、死っつー状態に、いきなりなることはないだろ?」

生きてる→怪我をする→血が出る→血が足りなくなって→死ぬ。
言われれば当然の話だ、もっと細分化する事だって出来る。

( ゚∀゚)「生きてる→死ぬへ直結する事はありえない。なら間の要因をどっか消してやりゃいい」

つまり。

( ゚∀゚)「血が足りないなら血を注ぎ足して、怪我をしたなら怪我を治せばいい、そういうこったろ?」



('A`)「はぁ、そうっすね。 それが出来ないから難しいんですけど」

( ゚∀゚)「わかったような事言ってんじゃねえよ、まぁ、極論言っちまえば車がなけりゃ交通事故はおきねぇってこった」

それは、決定的な一言だった。

ブーンの考えていた溶けないパズルが、綺麗に嵌っていくように。
そしてそれは、一人では絶対に出来ないことで――。

( ^ω^)「ジョルジュさん、ドクオ」

言おう。
そして、すべてに終止符を打とう。

( ^ω^)「聞いてくださいお、僕は――」

…………。


予感はしていた。
念のために、紅茶の準備をしておいてよかった。
彼女がゆっくりと待っていると、やがて扉をノックする音が聞こえた。

川 ゚ -゚)「入りたまえ」

多少声を荒げて言うと、きぃ、と扉が開いた。
リビングに向かってくる足音の主を見て、クーは微笑む。

川 ゚ -゚)「思ったよりも、早かったな」

( ^ω^)「思った時には、遅かったんだお」

内藤ホライゾンは、そこに居た。


川 ゚ -゚)「何か言いたいことがあるかね?」

( ^ω^)「聞きたいことなら山ほどあるお」

ブーンはそれが当然と言うように、クーの対面に向かって座る。
二人は向きあう、そして、告げる――。

川 ゚ -゚)「そうか、ならば、やる事は一つか」


『答えあわせを、始めよう』



■( ^ω^)は十回死ぬようです・最後の一日、開始。





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