何かを犠牲にして生き延びようと思うか。

誰かを犠牲にして生き延びようと思うか。

自分を犠牲にして生き延びようと思うか。

全てを犠牲にして生き延びようと思うか。

あなたが生を望む限り、あなたは死に続ける。

私が死を望む限り、あなたは死に続ける。

…………。







■( ^ω^)は十回死ぬようです
■五日目の朝・開始


( ^ω^)「……お、朝かお」

目が覚めると、そこは普段から変わらぬ自分の部屋だった。
ヲタグッズ、ポスター、フィギュア、抱き枕に腐女子御用達のBLノベルまである。

( ^ω^)「……なんか体が重いお」

なんだか深い倦怠感がある、溶かした鉛が体の先端に溜まっているようだ。

( ^ω^)「…………なんだか、凄く嫌な気分だお」

そのまま数分間、だるー、と、ベッドの上でごろごろとしていた。
だがそのままでいる訳にも行かないので、のろのろと荷物をまとめ(学校で読むラノベと漫画)、制服に着替え(しわだらけ)、朝食を食べる為に1階へと降りる。


( ^ω^)「…………」

ξ゚听)ξ「な、なによ、人の顔見たら挨拶ぐらいしなさいよ……」

( ^ω^)「おはようだお……」

ξ゚听)ξ「暗いわね……、死人みたいな顔してるじゃない」

今日は鏡を見ていないが、物事をはっきり言うタイプのツンがそう言っているなら(特に彼女は、ブーンには容赦が無い)そうなのだろう。
夏休みが終わり、宿題が終わっていない時のような倦怠感は身体を犯している。

J( 'ー`)し「おはよう、ご飯できてるからちゃっちゃと喰ってとっとと行ってきなさい」

( ^ω^)「…………」

……何所に朝ごはんがあるのでせうか?


テーブルの上、ブーンの定位置にあったのはパンくずが散っている皿だけであり、それ以外の何もなかった。

( ^ω^)「……お姫様?」

ξ゚听)ξ「何」

( ^ω^)「何故に僕の朝食がないのでせうか?」

ξ゚听)ξ「喰った」

( ^ω^)「誰が」

J( 'ー`)し「私が」

お前か。


( ^ω^)「ただでさえ体調悪いのに朝飯抜きは簡便だお……」

だるそうにするブーンを、ツンが少し心配そうな顔で眺める。

ξ゚听)ξ「本当に大丈夫?」

( ^ω^)「休むほどではないお……」

腹は減ってるがな。

J( 'ー`)し「あー、夕飯はピザだから我慢しなさい」

ξ゚听)ξ「え、まじで?」

自分はがっつりと朝食を食べ終えているツンが身を乗り出してきた。

J( 'ー`)し「カーチャン、今日はタッキーのコンサート行って来るから、デリバリーで頼むわ」

ξ゚听)ξ「よっし、トッピングはサラミね!」

( ^ω^)「……いや、ベーコンを」

死にそうな表情の兄を無視して母親と交渉を続ける妹。
ブーンの意見が聞き届けられるか否かは、実際の注文時にすべてがかかっているようだ。



ξ゚听)ξ「あ、そうだ兄貴ー」

( ^ω^)「はい……?」

結局あまっていた生食パンを一枚だけ口に放りこみ、二秒で咀嚼し五秒で飲み込み、出かける準備を整えたところで、ツンがそれを差し出してきた。

ξ゚听)ξ「これ返しておいて」

手渡されたのは一冊の文庫本だった。

( ^ω^)「飲み込んで、僕のエクス・カリ。」

ξ゚听)ξ「そこで切るなぁぁぁぁ!!」

鉄拳がブーンの頬を綺麗に打ち抜いた。

…………。


( ^ω^)「カリにバーってエロいような気がするんですが」

('A`)「そんな体調悪そうな顔しながら放たれる第一声がそれってお前」

何時もの定位置でドクオと合流し、歩き出す。
ブーンの歩行速度が普段より遅いので、ドクオもそれに付き合っていた。

( ^ω^)「いやぁ……、だるいわぁ」

('A`)「まじで大丈夫かお前、学校休んだ方がいいんじゃね?」

( ^ω^)「いやいや、優等生な僕がそんな真似をしたら……」

('A`)「優等生じゃありえないけどなんだよ」

( ^ω^)「先生が家に殴りこみ☆ とかありそうで嫌だお」

('A`)「…………」

ああ、ありうるな、という顔をしているドクオ。


('A`)「久々にゲーセンでメルブラとかどうかと思ったんだけどなぁ、無理っぽいか」

( ^ω^)「ぁぁ、どっちにしても本返しにいかないといけないから……」

('A`)「本?」

疑問符で尋ねてくるドクオにブーンはぐったりとした顔で言う。

( ^ω^)「ツンが本返してきてくれってお……」

('A`)「あー、なるほど」

ドクオも察したらしい、一人で頷くと一歩前に出る。


('A`)「んじゃまあ、放課後までにお前の体調がよくなってたらっつーことで」

( ^ω^)「お、ついてきてくれるのかお」

('A`)「当たり前だろ、戦友」

( ^ω^)「……友よ」

がっしりと拳を交える二人。

('A`)「ところで時間は?」

( ^ω^)「大ピンチ」

当然の如くだが、急がないと遅刻します。

…………。


('、`*川「あなたはいい子なんだけどね……、なんというか、ベクトルを少しでもいいから勉強の方に向けてくれないかしら」

( ^ω^)「精一杯の努力はしましたお……」

居眠りしなかっただけ。
放課後、職員室。
今日の小テストの結果について、担任のペニサスから一言あるようだった。

('、`*川「10点中0点は不味いでしょう……、まぁ、今日は顔色も悪かったみたいだけど」

( ^ω^)「はぁ、色々ありましてお……」

朝からの気だるさは取れなかった、昼食の素うどんも結局半分程度で残してしまい、ドクオから本気で早退しろと迫られてしまった。

('、`*川「しょうがない、ちょっとおいで」

( ^ω^)「お?」


手招きのままに、ブーンはペニサスへと近寄った。
そのままぼーっとしていると、額に冷たいものが当たる。

ペニサスの手のひらだった。

( ^ω^)「あ……」

('、`*川「ふうん、少し熱っぽいわねぇ、君にしてはよくがんばった」

そのままぐい、と体を持ってこさせて、抱きしめられた。

肩をぽむぽむと叩かれる。

小さな教師の体から、暖かい体温が伝わってくる。

( ^ω^)「せ、先生?」

('、`*川「……うん、心臓は動いてる、生きてるね」

そりゃアンタ。

死んでたまるか。




('、`*川「今日は家に帰って、ゆっくり休みなさい」

( ^ω^)「あ、はいですお」

解放されて、ひんやりとした額の感触と、暖かい抱擁の感触が消えた。

('、`*川「本当は頼みごとがあったんだけど、今日はいいわ」

( ^ω^)「へ?」

('、`*川「ん、なんでもない」

( ^ω^)「はぁ」

何か何時もと違う、変に優しい担任の態度に困惑しつつ、ブーンは職員室を後にしようとする。


('、`*川「内藤君」

( ^ω^)「へ?」

扉を開けて、今まさに外へ出ようとしたところで、呼び止められる。

('、`*川「気をつけて、帰りなさい」

( ^ω^)「はぁ、わかりましたお」

そして、閉まる扉。

('、`*川「本当に……、嫌な予感が……、ね」

…………。



('A`)「おー、大丈夫かお前」

外に出て目に飛び込んできたものは、頭にカバンを載せてバランスをとっている戦友の姿だった。

( ^ω^)「お、まぁ、なんとか」

だるさは変わらないが、まあマシになってきた、といったところだ。
朝に比べれば。

('A`)「本返してきてやろうか?」

昇降口に向かいながら、ドクオが言う。



( ^ω^)「いや、一応頼まれ物だし、僕が行きますお」

('A`)「……つれねーなぁ、『ついてきてくれ、頼りなる英雄ドクオ様』とか言えば一緒にいってやらんでもないのに」

( ^ω^)「ずべこべ言わずついてこいや」

('A`)「くぉら」

下駄箱で靴を履き替えた二人の足は、そのまま図書館へと向かう。

…………。


十数分後、横断歩道の向こうに図書館が見えた。

( ^ω^)「信号青だお……、急ぐお」

('A`)「テメェ、落ち着けコラ」

ぐい、と襟を引っ張られて停止するブーン。

図書館前の横断歩道は、歩行者側の信号が青になるのが遅く、また青から赤になるのが非常に早い為、急いで渡るべく周囲の人間は小走りになっていた。

('A`)「体調悪いのにトドメさしたら本末転倒だろうが」

( ^ω^)「……いやでも」

('A`)「でもも糞もすももももももねぇんだよ」


信号機の色は変わらず、二人は歩みを進める。

確かにだるいが、もうそこまで気を使うほど消耗している訳でも無いのに。

( ^ω^)(でも、嬉しいお)

誰かが自分の為に心配してくれると言う事は。

('A`)「あ」

二人が残り数歩、というところで、信号が点滅し始めた。

('A`)「ちっ、待つか、しゃーねぇ」

( ^ω^)「お手数かけるお」

('A`)「今度ハンバーガー奢れよ」

( ^ω^)「ちょwww」

数秒後に、二人の脇を通り過ぎるように、一人の学生がかけて行った。

信号機の点滅は、もうすぐ赤に変わろうと――――。




……赤に。

……なる前に。

……何か。

……なかったか?



何気なく、ブーンは横を振り向いた。

何故そうしたのか。

過去の経験からか。

あるいは、音を読み取ったのか。

遠くにあると認識できるそれは、瞬きの間に突っ込んでくるというのに。

そこには。

( ^ω^)「ドクオっ!」

とっさの判断だった。


('A`)「へ?」

ほうけた顔をする親友を、その手で突き飛ばす。

歩道側へと。

同時に。

まるで直下型地震を局地的に、そして破壊の方向性を明確にしたような衝撃が。

自らの体を吹っ飛ばし、地面に当たって大きくバウンドした。




皮肉な事だった。

あの瞬間。

記憶にある限り『始めて死んだあの瞬間』は即死だったのに。

今こうして生きていて。

そして同時に。

『トラックに吹っ飛ばされた経験で記憶が蘇る』なんて。



('A`)「ブーン!! ブーン!! おいふざけんなよ!! おい!!」

意識があった。
次の朝かと思った。

だが、違う。

まだ、生きていた。

(  ω )「……………………ぁ」

声が出てくるなんて思いもよらなかった。
周囲が熱い。
どれぐらい気を失っていたかはわからないが、自分が死にそうな事ぐらいはわかる。
味わった事の無い痛みと、人間にありえない体勢。
ガソリンがもれ出て、炎が広がったんだと理解するのに、時間はかからなかった。
あるいは、既に経験した記憶を、そのまま引っ張ってきただけなのか。


(  ω )「ド……ク……僕……は……」

('A`)「喋るな! 今救急車呼んだから! 糞ッ、こんな事のために携帯買ったんじゃねえぞ!」

ドクオのメモリには、多分僕と家族の名前ぐらいしか登録されていないのだろう。
涙を流しながら、この手を握り、名前を呼ぶ声。

(  ω )「死……で……また……」

('A`)「喋るなって! 死ぬな! お前が死んだら俺はまた引きこもるぞ! 次はお前が家に来てくれたって家にいれてやらねえぞ!」

それは――困る。

(  ω )「聞い……て……、次……」

('A`)「え?」

ただ、確信した。
意識がゆっくり遠のいていく中で、僕は。

もう駄目だ。


許しておけない。

わかっていたことだ。

この不条理な死は容赦なく僕以外にも襲い掛かる。

止めなくてはならない。

絶対に。

誰一人、死なすこと無く。

だから言う。

一人じゃ無理だ。

この言葉を、お前なら――――

「次の僕を 助けてくれお」

その瞬間、意識はぷっつりと途絶えた。

…………。


「次の僕を、助けてくれお」

次? 次ってなんだ。

命なんか一つっきりだろう。

皆、だから、がんばって、生きてるんじゃないのか。

だが、それが、友人の望みならば、答えよう。

('A`)「わかった、絶対、絶対助けてやるから!」

涙がこぼれる、止められない、ふざけんな。

助ける? 誰から?




違う、誰だ。

こんな事をしたのは誰だ。

助けてくれってこいつが言ったんだ。

俺に、こいつが。

『誰か』が『何か』を『こいつ』にしてるんだ。


('A`)「俺が! 絶対に! 死なせたりするもんかぁぁぁぁ!!」

もう動かない友の体を、尋常じゃない力で担ぎ上げる。

('A`)「う、あ、あああああ!!」

…………。


それから起こった出来事に、たいした事情は存在しない。

ドクオが燃え上がる炎の中から、ブーンの体を引きずり出して、体にまわった炎を消した直後に、救急車が到着した。

たまたま近くにいた、というのが、幸いした。

その時、ブーンは仮死状態、正確に言えば、脳内の出血により脳の圧迫が始まっていた頃だった。

まだ、生きていた。

死んでいないという意味で、だが。


母親と妹が、涙を流しながら、緊急手術室の前で涙を流すのを、ドクオは見ていることしか出来なかった。

不運なことに、その間に起きた女学生の飛び降り自殺や、脱線事故が発生し、人手が足りなくなった。

既に助かる見込みのないとされた彼の手術が、ギリギリの部分で放置されていた、と言う事は、後で明らかになる事実だが。

どちらにせよ、手の施しようが、無かったと言う事だ。

脳死状態となった人間は、体だけならば生きてゆける。

生命維持装置をつけて、循環機能を何とかすれば、だが。

彼を延命するかどうかの判断は、遺族へとゆだねられた。


('A`)「畜生、畜生、畜生、畜生――――」

待ってろ、俺が絶対に。

助けてやるから――――!!

遺族が選んだのは。

その道は。

数分後、事故から実に四時間以上、細かい波長を刻んでいた心電図から、波が消えた。

:五回目の死亡・安楽死
:実行犯・医者
:死亡時刻・八時二十五分
:( ^ω^)は十回死ぬようです・続く。





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