決定事項は覆せる。
決定していないものを覆す。
そうなるとわかっている事を『そうならないように』する。
( ^ω^)「クー、君は何所まで知ってるんだお」
川 ゚ -゚)「恐らくだけどね」
机の対面に座りあう二人。
紅茶の香りもクッキーの味も何一つ今までと変わらない『今日』で。
川 ゚ -゚)「私は君の知りたい事全てを知っているよ」
彼女はそう言った。
言葉の意味を推し量る事はする必要もない。
( ^ω^)「なら全部聞かせてもらうお」
川 ゚ -゚)「そもそもの大前提として、だ」
紅茶を口に含み、それを飲み干してから、クーは告げる。
川 ゚ -゚)「何故君が殺されなければならないのか、という事、まずはそれからかな?」
( ^ω^)「……頼むお」
川 ゚ -゚)「では答えから単刀直入に言おう。 君はね、ブーン」
川 ゚ -゚)「超能力者だ」
時が凍った。
HEY聞いてくれボブ、僕の邪気眼が本当になったぜ?
( ^ω^)「………………………………はい?」
物凄く怪訝そうな顔で首を捻るブーン。
クーはその反応を意に介さず紅茶を優雅に啜り。
( ^ω^)「すいませんがテレポートもタイムリープもサイコキネシスも使える覚えがないんですがお」
戸惑うブーンに対し、クーはあくまで冷静に告げる。
川 ゚ -゚)「無意識の異能者さ、君はね、『人の願いをかなえる力』を持っている」
( ^ω^)「いやごめん話がいきなり宇宙空間にぶっ飛んだ感じがして正直戸惑ってるんですがお」
川 ゚ -゚)「何を驚く。死を認識できる人間。嘘を嘘と見抜ける人間。そして死が繰り返す異常事態。そこにこんな要素があって何の不思議がある?」
にしても、なんだかそれは吹っ飛びすぎというか。
川 ゚ -゚)「納得いかないという顔だな」
( ^ω^)「わけがわからないといった顔だお」
ふむ、と一息ついて、クーは面白そうに語りだした。
この顔、この顔だ。
彼女が僕と話す時、この表情でなくてはならないのだ。
( ^ω^)「えーっと、そんな超能力があるから始末されるって事かお?」
川 ゚ -゚)「半分あたりだ」
半分か。
川 ゚ -゚)「君に超能力があるのは、別にそれといった問題じゃない、そんな連中はそこら辺に実際ごろごろ転がっている」
常識だろう? といわんばかりに言うクーに、ブーンは顔を背けて思った。
( ^ω^)「世界は何時の間にそんないやな世の中になったんだお……」
川 ゚ -゚)「最初からだ」
最初からっすか。
川 ゚ -゚)「そして……聞くがいい、君の対戦相手、彼もまた無意識の異能者さ」
( ^ω^)「――それは」
川 ゚ -゚)「彼、としておこうか。彼にはね、ブーン」
『人の願いを否定する力がある』
( ^ω^)「…………で、それがなんなんだお」
それを聞いて、ブーンは首を傾げる。
( ^ω^)「その人と僕は何の関係もないじゃないかお、勝手にやってくれって感じだお」
川 ゚ -゚)「大いに関係あるのさ。 君達の才能っていうのはね、それ単体では大した意味を成さない」
ふふ、とクーは笑う。
( ^ω^)「お?」
川 ゚ -゚)「彼が誰かの願いを否定したところで、それそのものは世界に大きな影響なんて与えない、否、与えられるほど強くはないのさ」
( ^ω^)「またスケールが大きくなったお……」
川 ゚ -゚)「事実だからツッコミはすっ飛ばそう。 願いを否定する力、とは願いのベクトルとは逆向きに働く力だが、仮にこの状態を-1としよう」
人差し指を一本たて、話を続ける。
川 ゚ -゚)「この-1の状態は、どうとでもできる、とは言わないが決して運命を決め付ける状態になることはない、ただ『そっち寄り』になるだけだ」
( ^ω^)「つまり……どういうことだお」
川 ゚ -゚)「端的に言えば願いが『叶いにくくなる』と言う事だ」
それは決してかなえられないわけではない、とクーは前置きする。
( ^ω^)「酷い力に思えるけど……だからそれとブーンが何の関係があるんだお」
川 ゚ -゚)「さっきも言ったろう、君の能力が『人の願いをかなえる力』だからだ」
それがどういう意味だか、ブーンにはまだわからない。
疑問を解決しにきて、より大きな疑問にぶつかるとは思わなかった。
川 ゚ -゚)「君は他人の潜在意識の願いのベクトルを+1できる、真逆の能力の持ち主なんだよ」
( ^ω^)「…………へ?」
理解できていない様子のブーンに、クーはふふん、と笑んで見る。
川 ゚ -゚)「なんだったら、ドクオ君の事を思い出してみたまえ」
( ^ω^)「……ドクオ?」
川 ゚ -゚)「彼は引きこもりだった、それを家から引きずり出して登校の習慣をつけて、受験に頭を悩ますレベルまで持っていったのは誰だったかな?」
( ^ω^)「それは……」
僕だ、だが。
( ^ω^)「それはドクオ自身の力で……」
川 ゚ -゚)「ドクオ君が、このままじゃいけない、と心の隅で思ってるだけでいいんだよ。それだけで君の能力はそれを後押ししてくれる」
努力の後押し。
やりたい事の後一歩。
ブーンの能力はまさしくそれ。
もちろん、君の能力もまた彼と同じように、願いを叶えやすくするだけの物でしかないんだがね、とクーは付け加えた。
川 ゚ -゚)「だから、君と『彼』は近くにいてはいけないんだ」
( ^ω^)「……そこらへんがわからんお」
それが問題ないのなら、別にいいじゃないか。
少なくとも、あって困る力とは思えない。
川 ゚ -゚)「大いに困る、何故なら今まさに君の状況がそうだからさ」
ぴ、と中指を立てて、告げる。
川 ゚ -゚)「君と彼は真逆の能力の持ち主で、そして相対している。 お互いの能力はお互いに作用しあい、そして自分自身の能力は自分に影響しない。この条件で、結果どうなると思う?」
その言葉をかみ締め、頭の中で考えてみる。
少しして、ブーンは言った。
( ^ω^)「もうちょっとわかりやすく」
川 ゚ -゚)「(-1)+(-1)は?」
OK,中学生レベルの問題です。
( ^ω^)「……えーっと………………。あああああああああああああ!」
7文字にまとめられた言葉を聴いて再び沈黙、そして考えた上で至った結論。
川 ゚ -゚)「このシチュエーションで、君は『生きたいと願う、彼はその願いを否定する』、−1」
楽しそうにクーは続ける。
川 ゚ -゚)「そして彼は君に『死んでほしいと願う、君はその願いを叶える』、−2」
ベクトルの向きが、同じ方向に。
真逆の物が同一に。
川 ゚ -゚)「ここまで来ると運命は確定事項となる」
そしてそれはブーンが決して
迫り来る死から逃れられないと言う事実――
川 ゚ -゚)「君たちが能力を持っているのはいい、お互い非干渉ならそれでいい、だけどお互いの能力が影響しあうぐらい近くにいて、運命を決定するぐらい大きな力になったとき、世界はそれを見逃さない」
だから
川 ゚ -゚)「どちらかが消える事でこの条件を覆さなくてはならないのさ」
納得できるわけはなかった。
ブーンは呆然とし、そして……
( ^ω^)「……ずっと気になってたことなんだけどお」
川 ゚ -゚)「ん?」
( ^ω^)「なんで僕は十回の猶予を与えられてるんだお?」
それは最初から、ショボンも口に出し、疑問に思っていた事だった。
殺すだけなら、最初からそうすればいい。
生かしておく必要なんて、無いはずなのに。
川 ゚ -゚)「ああ、それは単純に彼が君をループさせてるわけじゃないからだ」
クーはあっさりと言い切った。
川 ゚ -゚)「ついでに紹介しておこう、このくだらないゲームの主催者を」
ぱちんと指を鳴らすと、ぼや、とクーの後ろに人影が現れた。
それは見た事のある顔だった。
この馬鹿げた自体の引き金として、一番最初に。
( ^ω^)「…………君は」
(*゚ー゚)「……はぁい」
ひらひらと手を振るその姿は、まさしく夢の中でみた彼女そのものだった。
(*゚ー゚)「しぃ、って呼んで頂戴。 ……内藤君」
幽霊のように姿が安定せず、ゆらゆらとクーの後ろに漂う。
( ^ω^)「……ど、どうしてクーが」
川 ゚ -゚)「その説明もほしいかい?」
なぜか得意げに鼻を鳴らすクーに、ブーンは少し引き気味になり。
( ^ω^)「えーっと、まぁあとで」
川 ゚ -゚)「あとでか」
( ^ω^)「説明してもらわないわけには行かないお、だけどまずは」
しぃに視線を向けて言う。
( ^ω^)「続きの説明をこの子からしてもらわないといけないお」
その目は自らの死を確定させた者の、絶望した目ではなく。
( ^ω^)「何せ僕は誰も死なせずに、終わらせないといけないんだからお」
前を向いた者の目だった。
そんなブーンの顔を、しぃは数秒見つめ。
(*゚ー゚)「……変態な目をするのね」
( ω )「えー!?」
(*゚ー゚)「間違えた、大変な目をするのね」
( ^ω^)「間違いかお……」
マジでびびった。
(*゚ー゚)「誰も死なせないなんて、出来ると思うの?」
こほんと咳払いをしてから、しぃはいう。
無かった事にしたらしい。
( ^ω^)「出来る出来ないじゃなくてやるかやらないかなんだお」
(*゚ー゚)「……そう」
呟くと、しぃはクーの隣に座り足を組んだ。
幼い容貌なのにその仕草は結構似合っていた。
長年生きてきた魔女のように。
(*゚ー゚)「じゃあ教えてあげる、何でこんなことをしてるのか、よね」
( ^ω^)「YES」
川 ゚ -゚)「なれない英語を使わなくても……」
しぃは紅茶を一口飲んでから語りだす。
(*゚ー゚)「貴方をループさせてるのは紛れも無くこの私よ」
( ^ω^)「僕の夢に出てきたんだお」
(*゚ー゚)「ええ、最初に顔合わせしたわよね、その後もずっと」
( ^ω^)「踏み切りにもいたお」
(*゚ー゚)「ちゃんと見つけてくれたんだ」
くす、と微笑むその姿は天使そのものだった。
夢で見た時と変わらない、今となっては小悪魔にも見える。
クーとはまたタイプの違う、苦手な異性の部類だった。
(*゚ー゚)「意外と罵倒されたりすると思ったけど、そんな事ないのね」
( ^ω^)「恨み言を言ってる時間もあんまり無いお」
皮肉は受け流す、聞く余裕はない。
川 ゚ -゚)「先ずはそうだな……、お前の存在意義から話してやれ」
本題に入らない少女を促すクー。
わかったわかった、とどこか嬉しそうにつぶやいて、しぃは告げた。
(*゚ー゚)「私はこの世界の管理者、の代行人みたいなものよ」
( ^ω^)「管理……?」
(*゚ー゚)「神様、と呼ばれるものを貴方は信じる?」
無理です。
不可能です。
絶対没です。
( ^ω^)「……ああ、いいや信じるお」
川 ゚ -゚)「投げやりだな」
( ^ω^)「信じないと話が進まない気がしたお」
物分りが良くて助かるわ、としぃは微笑んだ。
(*゚ー゚)「で、まぁ私はこの地区の担当なの」
( ^ω^)「担当て」
非現実になったと思ったらまた現実的なことを。
(*゚ー゚)「貴方達みたいな人たちを隔離するのが、私の仕事よ」
( ^ω^)「隔離?」
(*゚ー゚)「もっと言うなら、抹消」
それはまさに今のことか。
生き延びられなかったら消される。
……抹消。
(*゚ー゚)「世界の計算式に影響を与える存在を見過ごす訳にはいかないのよ」
( ^ω^)「計算……式?」
川 ゚ -゚)「世界というのは巨大な計算式だ、という概念だよ」
先ほどと同じように指を一本立ててみせる。
川 ゚ -゚)「例えば、1+1によって2という現象が起こる」
二本目。
川 ゚ -゚)「そして2という数字に新しい数字が加えられて更に複雑な計算式になっていく」
川 ゚ -゚)「この数字の内容自体はなんだっていい、話す事でも動く事でも。 全ての行動は全てに起因し全ての原因に成り得て全ての結果となる」
( ^ω^)「はい、すとーっぷ、すとーっぷ」
ブーンはバンバンと机を叩いてノリノリになってきたクーの言葉をさえぎる。
( ^ω^)「結局どういうことだお」
川 ゚ -゚)「時空バタフライ理論とかそんな感じだ」
( ^ω^)「よくわかんないけどまだわかんないお」
川 ゚ -゚)「わかりにくかったかな? 似たような話をずいぶん前にしたと思うんだが」
その動作すらも楽しい、といわんばかりに笑みを崩さないクー。
川 ゚ -゚)「全世界全人類全生命体全現象、それら全てがそうやって計算式に直されるとしたら」
いや、と口の中で言い直す。
川 ゚ -゚)「全ての計算式が現実に反映されるとしたら、それがどれだけ膨大な量になると思う?」
( ^ω^)「そんなもの……」
想像も付かない。
世界中の紙に書き記したところで、一秒分すら表記できるわけも無い。
(*゚ー゚)「そして私はその計算式を乱したり、余計な数字を挿入する存在を、消すの」
ぱん、としぃは手を叩いてみせる。
(*゚ー゚)「タダ殺すだけじゃないわ、過去未来、全ての痕跡に至るまで、綺麗に」
( ^ω^)「…………えーっと」
川 ゚ -゚)「シャナのトーチとかレジンのキャストみたいな感じだ」
( ^ω^)「大変よく理解しました」
ていうか読んでたのか。
( ^ω^)「要約するとブーンはその世界の法則を乱しちゃうから消されるんだお?」
(*゚ー゚)「ええ、貴方達二人が運命の向きを決める事は、計算を大きく乱すわ」
そして今後の数字を乱し壊し歪めて行く。
(*゚ー゚)「だから『計算しなおす』の。貴方達という要素を除いた世界をね」
川 ゚ -゚)「二人同時に消されないのは、だからだ」
しぃの言葉を受け継いで、クーは言う。
川 ゚ -゚)「二人纏めて消した場合の再計算にかかる労力なんて、想像もしたくないだろう?」
ブーン一人だけでも最低16年間分、生まれる前にさかのぼるならもっと。
その量の自分がしてきた事全てを無かった事にするという修正。
(*゚ー゚)「でも私は迷った、どっちを消したらいいのかわからないから」
しぃの言葉をクーが継ぐ。
川 ゚ -゚)「だからどちらかを選ぶ為の基準を作った」
( ^ω^)「それが……このくだらないゲームの正体かお」
(*゚ー゚)「そう、実際計算式を狂わされる経験は、貴方がずっとしてきたでしょう?」
ベクトルをマイナスに固定されるということは即ち『どう足掻いても死亡という結果を出す計算をくみ上げられる』という事。
何をしても同じ結果になるなど、計算する側からしたら溜まった物ではないのだろう。
(#^ω^)「だったら何でこんな不公平なんだお! 絶対死んじゃうなら意味なんて無いのに!」
ブーンは思わず叫んだ。
どっちにしろ死んでしまうのなら、こんな勝負最初から無意味なのに。
(#^ω^)「ただ遊んでるだけなのかお! 僕で! 僕の代わりに死んだ皆で!」
(*゚ー゚)「本当にそう思う?」
( ^ω^)「……え」
(*゚ー゚)「私が始めたゲームよ、有利不利なんて、最初からわかってる。何で貴方に十回の猶予を与えたと思う?」
( ^ω^)「……なんでだお」
ずっと考えてきた疑問、悩んでも答の出なかったその理由を。
(*゚ー゚)「教えてあげないわ」
( ω )「えー!?」
驚愕するブーンの頭に、いつの間にか隣にいたしぃが手をのせる。
何時の間に、と思う暇も無い、感触は無く、ただ触れられたことがわかる奇妙な感覚。
(*゚ー゚)「代わりにいいモノを見せてあげる」
ドン、と意識が暗闇に飲まれる。
それは――――
( ^ω^)『なんだお、これ、なんなんだお……』
(*゚ー゚)「貴方が今まで経験してきた『今日』の……貴方が見ていなかった部分』
巡るように場面が変わる。
病院の廊下だったり。
図書館の前の道路だったり。
警察署だったり。
踏み切りの前だったり。
(*゚ー゚)「存分に眺めなさい、貴方の死が何につながっていたのか、誰がどんな思いをしていたのか」
見る、聞く、ただそれだけ。
触れることも影響を与える事もできない。
それらはもう計算されて答えの出されてしまった世界。
( ^ω^)「ドクオ……、先生……」
自分の死に責任を感じ、泣き喚く少年。
それを叩いて激励し、前を向かせた教師。
( ^ω^)「ツン……カーチャン……」
もう死に向かう自分をただ待つだけの、家族の姿。
( ^ω^)「ギコさん……ジョルジュさん……」
力の及ばない自分達を悔やむ、二人の刑事。
川 ゚ -゚)『後は任せた』
そう言って地面へ吸い込まれていく、彼女。
( ^ω^)「………………」
世界が白くなった。
そして気が付いたら椅子に座っていた。
テーブルの対面にクーが居て、横にはしぃが座っている。
( ^ω^)「…………だから、なんなんだお」
(*゚ー゚)「つまり、そういうことよ」
しぃはそれ以上何も言う気が無いと言わんばかりに口を噤む。
テーブルの上からにクッキーはすでになく、紅茶も冷め切っていた。
(*゚ー゚)「言っておくけど私は公平なつもり……決着をつけるのはあくまで貴方なんだから」
( ^ω^)「お?」
(*゚ー゚)「一番最初に言ったでしょ? 勝利条件は『貴方が生き残る事』よ。私に何をしたってそれは覆らないわ」
( ^ω^)「……つまり僕の対戦相手と決着をつけなきゃいけない、ってことかお」
(*゚ー゚)「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないわ」
ブーンとしぃは黙ったまま見つめあう。
数分間そうしていただろうか、やがてクーが横から口を挟んだ。
川 ゚ -゚)「ところで、いいのかねブーン」
( ^ω^)「お?」
何が? と聞き返そうとしたブーンに、クーは指で壁を示して見せた。
正確に言うなら、時計を。
――四時二十分。
川 ゚ -゚)「最初の事故が起こるまで、もう時間が無いんだが」
( ^ω^)「――――――」
( ゚ω゚) 「あれー!?」
クーの家を訪ねた時、まだ時間はたっぷりあったはずなのに!
ブーンは物凄い勢いでしぃに振り向き睨みつける。
(*゚ー゚)「…………」
ついーと可愛く目を逸らしながら、しぃは言った。
(*゚ー゚)「そりゃまぁ、脳に直接映像を見せてる間の時間は……うん、ねぇ」
( ^ω^)「そりゃないお!」
川 ゚ -゚)「全速力で走ってももう事故現場には間に合いそうにないな」
■( ^ω^)が十回死ぬようです最終日 犠牲者が出ちゃったので -完-
(#^ω^)「んなわけぇねえおおおおおおおおおおおお!!!」
川 ゚ -゚)「違うのか」
( ^ω^)「はぁ、はぁ、ともかく、だお」
ブーンは椅子に座りなおし、冷めた紅茶をすすった。
( ^ω^)「ブーンはここを離れる気なんて、最初からなかったお」
川 ゚ -゚)「どういうことだ?」
( ^ω^)「ブーンが居なかったら、クーはまた飛び降りるお」
川 ゚ -゚)「…………」
それはしぃに言わせれば『計算式が当てはまった状態』なのだろう。
全ての『今日』に共通している死は、誰かが死ぬという答が最初から用意されている。
そこに誰が入るかの違い、なのだ。
川 ゚ -゚)「……それで、交通事故のほうはどうするんだね?」
クーは時計をちらりと見る、もう事故発生まで一分もない。
川 ゚ -゚)「君は、誰も死なせないんだろう?」
( ^ω^)「そうだお」
川 ゚ -゚)「なら……」
( ^ω^)「そう、だから」
しぃの話。
クーの話。
今までの経験と情報。
渦巻いていた不安が、綺麗に消えた。
( ^ω^)「――まずは僕の勝ちだお」
かち、と時計が二十三分を指した。
トラックが人を跳ね飛ばす轟音が、此処まで聞こえてくる。
はずだった。
川 ゚ -゚)「…………?」
(*゚ー゚)「……なんで」
( ^ω^)「ベランダには出ちゃ駄目だけど、見てみるといいお」
隣の部屋を指差すブーン、三人は移動し、窓ガラス越しに、点のようなその光景を見る。
そしてクーは。
川 ゚ -゚)「……くっ」
口を押さえ。
川 ゚ -゚)「あーっはっはっは、あははははは、はっはっは!」
盛大に、体をそらせて、思いっきりに笑った。
川 ゚ -゚)「なるほど、なるほど、確かにそうだな、前提条件を覆せる!」
(*゚ー゚)「……呆れた」
しぃは言葉通り肩をすくめて見せて、クーは一通り笑った後、窓ガラスとは反対を向いた。
(*゚ー゚)「……交通整理、なんて!」
( ^ω^)「そう、何にもおかしいことじゃないお」
ブーンは自分が一つ捻じ曲げた運命の要因を語ってみせる。
( ^ω^)「『事故が起こる』様になってるなら『事故の原因を取り除く』、しぃに言わせるなら『計算式を変える』」
この場合は、むしろ付け加えるといったほうが妥当か。
図書館の前の道路、否。
VIP市の大通り、ほぼ全てにおいてそれは行われていた。
警察官達が本来点滅しているはずの、光を発さなくなった信号の下で、旗を手に持ち、車を誘導する姿が。
( ^ω^)「警察官が道路に立って、旗を振ってる状況で……」
事故が起こる結果に同じ数字をマイナスでぶつけて『0』にする。
( ^ω^)「信号無視するトラックも、飛び出しする学生も、居るわけがないお」
数時間前にさかのぼる、それはドクオとジョルジュに語った全て。
( ^ω^)「ジョルジュさん、ドクオ」
男二人に向き直り、ブーンは言った。
( ^ω^)「聞いてくださいお、僕は――」
自分が十回の死に瀕している事。
そしてそれを回避したら誰かが死ぬ事。
死んでいった面子の中に、二人が居る事。
('A`)「……マジかよ」
( ゚∀゚)「だが、説明は付くな」
ドクオは半信半疑の様子だが、ジョルジュはにやりと笑って言ってみせる。
( ゚∀゚)「お前が俺の事を知っていた理由も、こいつが」
ぴ、と親指でドクオを指し示し。
( ゚∀゚)「お前の事をなんとなくほうって置けなくなったのも、な」
('A`)「…………」
( ^ω^)「信じてもらえると、思いましたお」
今までの『今日』の僕が出会った貴方は、こんな馬鹿げた話をちゃんと信じてくれた。
( ゚∀゚)「『嘘』を言ってるようにゃみえねーしな」
常套句を口にすると、ジョルジュは更に言う。
( ゚∀゚)「で、打ち明けるってこたー何かしろって事だろ。 言えよ」
('A`)「……俺もだ」
パン、とドクオは自分の顔を叩いた。
('A`)「お前が変な事言い出すのは今に始まった事じゃねーし、今も半分疑ってるけどよ」
手の甲を前に突き出し。
('A`)「嘘だったら打ん殴って終わり、本当だったらお前が助かる」
お前が見てきた俺は多分、そうしてるはずだぜ。と
ジョルジュはドクオの出した手に自分の手を重ね、ブーンを見た。
( ゚∀゚)「おら大将、俺たちゃ何をすりゃいい」
( ^ω^)「…………」
ブーンも手を載せる、三人は示し合わせたように手を振り上げ。
( ^ω^)「僕と……皆を、助けてほしいお!」
――――振り下ろした。
( ^ω^)「先ずジョルジュさんに頼みたい事は二つですお」
( ゚∀゚)「うし」
まるでクーみたいだな、と思いながら指を2本たてて言う。
駅近くのマクドナルドで、ポテトだけを頼んで席を取った三人は(ジョルジュのおごり)、そこで作戦会議をしていた。
( ^ω^)「図書館の前に警察官を配置してくれる事、そして電車の発車を止めること」
一通り、ブーンが知っている死の要因を説明し終え、その上での頼み。
( ^ω^)「警察官が一人いれば、信号無視する馬鹿はいなくなると思うんですお」
( ゚∀゚)「ああ、そりゃ問題ねぇ、一気に交通整理させる」
('A`)「え、ちょ、いいんすか」
はっはっは、とポテトを一つ摘んで口にいれ。
( ゚∀゚)「たまたまVIP市の路上に並んでる信号機が誰かに悪戯されて止まっちまったら、そりゃ警官がでしゃばらざるを得ないだろ?」
ペーパーナプキンで手の油を落としてから、ジョルジュは携帯電話を取り出した。
手元でもて遊びながら、しかし電話はかけず。
( ゚∀゚)「だが電車の方はちときついな、管轄が違う」
( ^ω^)「管轄?」
('A`)「信号機に細工をするぐらいは何とか成るけど、電車だと被害が大きいんっすね」
( ゚∀゚)「そーいうこった、一分止まるだけでどれだけの金が動くと思う? どれだけの人間の足が止まると思う?」
妥当な理由が無いと、電車を止めることなんてできやしない、ということか。
無理にとめたらその被害額は、全てその人間が負担する事になる。
一定区間の間の信号とは比べ物にならないのだろう。
('A`)「……そっちは俺に任せとけ」
( ^ω^)「ドクオ?」
('A`)「俺を誰だと思ってやがる、万年引きこもりでネットとゲームに精通しきったプロフェッショナルだぜ?」
どこか楽しそうに、或いはおびえているように。
('A`)「先ず小さな爆弾を作る、それを適当に被害の無い場所で爆発させる」
誰かに聞かれたら困ると思ったのか、ひそひそと小声で話し出す。
('A`)「なるたけ人が見てる場所で、だ。 んでもって次に脅迫状を駅員に叩きつける。『●時発の電車を止めろ、さも無きゃ走行中に線路に仕掛けた爆弾を爆破させる』ってな」
( ^ω^)「それはいくらなんでもあれじゃないかお! もしつかまったら!」
('A`)「大声出すな馬鹿。 いいか? 犯人を調べる警察は」
ジョルジュをちらりと見る。
('A`)「こっち側だぜ?」
( ^ω^)「でも……それに爆弾なんて」
('A`)「前にネット通販で取り寄せたのがある、実際作った事もあるぜ。火力の調整も完璧だ」
お前何してるのん。
( ゚∀゚)「まあそこら辺の工作はしてやるよ、万が一何かあっても2,3年で出られるしな」
助けろよ。
( ゚∀゚)「とにかく、だ」
ジョルジュはブーンの目を覗き込んで告げる。
( ゚∀゚)「俺とこいつにできるのは多分それまで、後はオメーが何とかする問題だ」
その視線は鋭く、痛い。
( ゚∀゚)「こっちゃ懲戒免職覚悟、こいつにいたっちゃ人生まで賭けてんだ。こんなくだらねー世迷言見たい話によ」
( ^ω^)「……はいですお」
( ゚∀゚)「だから、絶対に勝ちやがれ」
( ^ω^)「……はいですお!」
('A`)「んじゃあ早速」
ドクオが席を立つ。
( ゚∀゚)「行くとしますか」
ジョルジュがその後を追う。
( ^ω^)「よろしく頼むお、あと」
歩き出した二人に、ブーンは立ち上がり、そして頭を下げた。
( ^ω^)「ありがとうございますお」
( ゚∀゚)「……へっ」
小さく笑い、背中を向けて店を出るジョルジュ。
ドクオは照れくさそうに頭を掻いて。
('A`)「何言ってんだよ」
ブーンの頭をぱん、と叩いた。
('A`)「俺がお前の馬鹿に付き合うのは、今に始まった事じゃねーだろ」
だからこれが、最初の勝利。
妥協できないラインを一歩、通過した。
( ^ω^)「そして……僕は絶対クーをベランダから出さないし、僕もベランダに出ない」
既に椅子に座りなおしたクーと、横にいるしぃを見て、ブーンは言う。
( ^ω^)「だから誰も自殺しない」
原因排除を断言、した。
川 ゚ -゚)「……ああ、私の負けだよ、この点に関して。 もう絶対自殺はしない」
約束するよ、とクーは言った。
( ^ω^)「おk」
ガッツポーズを決めるブーン、しぃはそんな二人の様子を見てため息をついて。
(*゚ー゚)「クー、あの事は言わなくていいの?」
新たな絶望をつけ喰わえる。
クーの動作が止まり、ブーンは首をかしげた。
( ^ω^)「あの事?」
川 ゚ -゚)「それは……」
クーが何か言う前にしぃは告げた。
(*゚ー゚)「内藤君のループは今日でおしまい、って言う事」
もうブーンに猶予など無いという事実を新たに。
しぃは無常にたたきつけた。
:( ^ω^)は十回死ぬようです・最後の一日 途中
:前半終了
:後半に続く!
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