そろそろ風が肌寒くなる9月。
夜になると気温も低くなり人々はやがて来たる冬に思いを馳せる。
しかしこの地は違う。横浜に在するニュー速スタジアム。
そこでは野球ファンが試合開始を今か今かと待ち続けていた。
( ><)『全国一億人の野球ファンのみなさんこんばんは。
今日の試合はヴィッパーズ対レールウェイズ』
( ><)『ヴィッパーズが勝てばリーグ優勝が決定。
レールウェイズが勝てば明日に優勝決定戦が行われます』
( ><)『どちらに取っても絶対に負けられない一戦。
実況は私、稚内弘人。解説は昨日全日程を終えた東京ビッグバンズの松井選手です』
にしこり『こんばんは。よろしくお願いします』
( ><)『松井さんから見て両チームはどうでしたか?』
にしこり『どちらも投手、特に中継ぎ陣に苦しめられましたね。
ヴィッパーズにはトリプルSと呼ばれる中継ぎ陣、
レールウェイズにはアメリカ三銃士にやられましたね』
( ><)『ヴィッパーズの快進撃を支えたトリプルS。
流石・杉浦・斉藤の頭文字を取った名称です。
3人合わせた防御率は1点台前半』
にしこり『技巧派の流石くん、左の杉浦、火の玉ストレートの斉藤くん。
この3人が7、8、9と出てくるんですから。たまりませんね』
( ><)『対するレールウェイズのアメリカ三銃士はジョーンズ、ウィリアムズ、バルケン。
外国人枠を惜しみなく使った采配で独走を狙うヴィッパーズを追いました』
にしこり『このような舞台に上がってくる選手たちですからね。
中途半端な選手は出てこない。ベンチ裏では緊張もしていないんじゃないですか』
( ><)『そうですか。現在時刻は午後5時半。試合開始は午後6時。もうしばらくお待ちください』
スタジアムの観客席には試合開始を待ちきれないファンで今にも溢れそうだ。
両チームの応援団による応援合戦も勃発している。
選手名が入った旗もブンブン振り回されている。
そんな熱気はベンチ裏のミーティングルームにも届いてくる。
(ヽ゚A゚)
(ヽ゚ω゚)
(ヽ<゚<<゚<)
(Kヽ゚ー゚)
松井さんの予想は外れ、俺達若手は緊張していた。
手足がぷるぷると震え、息は荒く、動悸は止まらない。
いっそ救心でも一気したい気分だ。
(ヽ゚ω゚)「僕がこんな試合の先発とか……」
この白目を剥いてるへちゃむくれは内藤。
チキンっぷりを遺憾なく発揮し、一度は整理対象にもなった男だ。
しかし今年はなぜか覚醒し今季9勝。
( ^ω^)「10勝したら彼女に結婚を申し込むんだお!」
開幕前にそんなことも言っていた。
チャンス的に考えて10勝するには今日勝つしかない。
公的にも私的にも今日が正念場らしい。
(ヽ<゚<<゚<)
(;^Д^) 「和手枡ー、おーい」
これまた白目(というよりイッてるようだが)を剥いてるのは和手枡。
若手の捕手として主に内藤とコンビを組んでいる。
('A`)(正捕手を差し置いて先発だもんな……)
この誰でも緊張する大一番で和手枡が指名された。
あがり性の和手枡のこと、今すぐ吐いてしまってもおかしくない。
(Kヽ゚ー゚)
こいつは川島。
緊張しているようだが違う。こいつは演技をしているだけだ。
(K‘ー`)「あ、バレました?」
('A`)「心臓に毛が生えてるお前が緊張なんかするかよ」
(K‘ー`)「そういう毒田さんも言うほど緊張してませんね」
('∀`)
(K‘ー`)(あ、変なスイッチ押した)
('∀`)「聞きたいか? わてが緊張せえへん理由聞きたいか?」
(K‘ー`)(うぜー)
('∀`)「伊藤さんおるやろ、伊藤さん」
(K‘ー`)「おう」
ナチュラルに後輩がタメ口だが気にならない。
なぜなら俺にはloveパワーがついているからだ。
('∀`)「昨日の晩電話が来てな? 明日頑張ってくださいって! ひょー!!」
(K‘ー`)「すげーあこがれるぅー」
後輩が興味なさげだが関係ない。
俺にはloveパワーがついているからだ。
時間は昨晩のこと。
部屋でなかなか寝付けなかった俺に電話がかかってきた。
('A`)(『朝比奈みくる生声電話』は今日の分来たはずだけど……)
そう思い携帯のディスプレイを見る。
そこには『着信 伊藤さん』の文字が浮き上がっていた。
( A)゚゚
慌てた俺はすぐに通話ボタンを押す。
少し来ていた眠気も飛んでしまう程の衝撃だった。
お互いの連絡先は知っていたが、実際に連絡をとることはほぼなかったからだ。
(;'A`)「もしもし?」
慌てた感情が声に出ないように細心の注意を払いながら応答する。
電話の向こうからは少し鼻にかかった声が聞こえてきた。
思わず勃起した。
『毒田さんですか? ……夜分遅くにすいません』
(:'A`)「ナンデスカ?」
思わず声が裏がえる。
基本的に女性との接点が無かった俺は今でも女性と話すときは緊張する。
『いえ……明日、大事な試合ですよね?』
(;'A`)「ええ、まあ」
『明日……応援に行きます』
(;'A`)「あ、取材ですか……お疲れ様です」
『いえ、自費です』
(;'A`)「へ?」
『毒田さんのために……自費で行きます』
('A`)(……)
(゚゚A)
(゚゚A)
(゚A゚)
('A`)
('A`)(……)
『……』
('A`)「あの、それはどういう……」
『……言わさないでください』
(;'A`)「スイマセン……」
『明日』
(;'A`)「?」
『明日、お話があるんです』
('A`)(……)
『それじゃあ、また』
('A`)「あ、ハイ」
そうして電話は切れた。
俺は伊藤さんが放った最後の言葉の意味があまり理解できず布団に入った。
('A`)(……)
(゚A゚)「はうっ!」
俺が伊藤さんの言葉の重大さに気づいたのは布団に入ってから30分後のことだった。
('∀`)「どや、この展開! もうあれしかあらんやろ慶三!」
そう言って慶三に話しかける。
しかし慶三はとっくに他の所に行き、代わりにいたのはなぜか魔将だった。
J( ゚_ゝ゚)し「なんやどないしたんや独男」
(;'A`)「ど、独男ちゃうわ!」
J( ゚_ゝ゚)し「嘘言いなや。この前ホライゾンが独男は童貞やって話しとった」
('A`)(あいつ本当のこと言ってんじゃねーよ……)
J( ゚_ゝ゚)し「だいたいその顔で独男ちゃうかったら奇跡やで」
('A`)
『お待たせいたしました。両チーム、スターティングメンバーの発表です』
ウグイス嬢のその言葉に応援合戦を繰り広げていた場内が静まる。
しかしその静けさは嵐の前のものでしかない。
( ><)『さあ、スターティングメンバーの発表です』
にしこり『予想が当たっているかどうか楽しみですね』
『先攻、シベリアレールウェイズ、1番、ショート、長岡。背番号7』
その言葉にビジター側、つまりレールウェイズのファンから歓声が上がる。
大卒2年目、今や押しも押されぬスター選手の長岡だ。
( ><)『1番長岡。今季は一時期日本記録ペースで安打を量産しました』
にしこり『今は少し落ち着きましたが、打率.369は脅威ですね』
( ><)『今季の首位打者は確定。あとは優勝で華を添えられるか! 長岡譲二!』
『2番、サード、京橋。背番号35』
( ><)『2番京橋。レールウェイズが誇る流線型打線の中核を担う和製大砲!』
にしこり『本塁打王を狙えるパワーを持ちながら2番ですからね。
逆に言うと京橋くんを2番に置けるレールウェイズの層の厚さですね』
( ><)『そのパワーと俊足で30‐30を達成! 長岡と共に相手をかき回す! 京橋!』
『3番、ライト、池沼。背番号99』
( ><)『3番池沼。長く代打に甘んじた男がついにレギュラー奪取』
にしこり『母親をベンチに置くと落ち着くんでしたっけ』
( ><)『はい、今季から池沼のためだけに母親淳子さん(62)をコーチとして登録。
そのとたん3割に届くというムチャクチャな成績を残しました』
にしこり『彼は天才ですよ。ちょっと頭が弱かっただけで』
『4番、キャッチャー、ビコーズ。背番号44』
( ><)『前代未聞の助っ人キャッチャー! 圧倒的な打棒で正捕手の座をガッチリキープ!』
にしこり『彼は日本語を話せないはずなんですが。どうやってコミュニケーションを取ってるのか』
『5番、レフト、小和田。背番号6』
( ><)『ケガ続きの眠れる天才がついに覚醒!』
にしこり『開幕戦を除いて全試合出場ですか。立派ですね』
( ><)『小和田選手はこれについて』
(^o^)「ドー……サプリメントのおかげです」
( ><)『ということです』
にしこり『ちょっとそれ放送して大丈夫ですか』
『6番、ファースト、藤山。背番号24』
( ><)『次世代の4番が現れた! 高齢化が進むレールウェイズに一石を投じる!』
にしこり『しかしこのチームはみんな顔が似てますねえ』
『7番、セカンド、十三。背番号13』
( ><)『果たして読める人はどれだけいるのか! 堅守でレギュラーは渡さない! 十三!』
にしこり『じゅうさん……?』
『8番、センター、放出。背番号41』
( ><)『果たして読める人はどれだけいるのかパート2!
かつての4番も歳には勝てないか! 放出!』
にしこり『ほうしゅつ……?』
『9番、ピッチャー、渡辺。背番号27』
( ><)『今や押しも押されぬレールウェイズのエース!
17勝を上げ最多勝はほぼ確実! スローカーブで相手を翻弄! 渡辺!』
にしこり『彼にはやられましたね。あのスローカーブはもはや芸術の域です』
( ><)『80キロ台のスローカーブと130キロのキレのある速球が武器です。
果たしてヴィッパーズ打線を抑えられるか』
先攻 シベリアレールウェイズ
打順 守備 名前 AA 年齢
打率 本塁打 打点 盗塁
1 遊 長岡 ( ゚∀゚) 22
.369 14 61 31
2 三 京橋 35
.279 31 84 33
3 右 池沼 (^q^) 34
.333 23 106 0
4 捕 ビコーズ ( ∵) 31
.289 24 97 0
5 左 小和田 (^o^) 32
.321 42 123 0
6 一 藤山 /^o^\ 26
.276 25 85 0
7 二 十三 29
.231 8 41 0
8 中 放出 37
.256 2 13 0
9 投 渡辺 从'ー'从 29
17勝 9敗 防2.79
先攻 シベリアレールウェイズ
打順 守備 名前 AA 年齢
打率 本塁打 打点 盗塁
1 遊 長岡 ( ゚∀゚) 22
.369 14 61 31
2 三 京橋 35
.279 31 84 33
3 右 池沼 (^q^) 34
.333 23 106 0
4 捕 ビコーズ ( ∵) 31
.289 24 97 0
5 左 小和田 (^o^) 32
.321 42 123 0
6 一 藤山 /^o^\ 26
.276 25 85 0
7 二 十三 29
.231 8 41 0
8 中 放出 37
.278 2 13 0
9 投 渡辺 从'ー'从 29
17勝 9敗 防2.79
('A`)(……)
対してヴィッパーズのスタメンも発表される。
いつもと変わりのないメンバーだ。
これでここまで戦ってきた。
('A`)(……勝たなきゃ)
俺たちには勝たなくてはならない理由がある。
ヴィッパーズは残り2試合。
今日負ければ否応なく明日の優勝決定戦に出なければならなくなる。
( ^ω^)(……それはダメだお)
そうなると、試合に出ることが難しくなる人間が1人いる。
(´・ω・`)
既に引退を表明した三冠王・諸本さんだ。
逆に今日優勝を決めれば明日の試合を諸本さんの引退試合として使える。
('A`)(……)
諸本さんは入団から引退までヴィッパーズ一筋だ。
最後は、ヴィッパーズの本拠地で飾ってあげたい。
本拠地で胴上げ、そして諸本さんを迎える。
それがヴィッパーズみんなの意志だった。
『どっくおっとこ! どっくおっとこ!』
俺の名前のコールに合わせて球場が沸く。
ファンの声援の後押しを受けて緊張もほぐれた。
帽子を目深にかぶる。戦いの時はすぐそこだ。
後攻 ニュー速ヴィッパーズ
打順 守備 名前 AA 齢
打率 本塁打 打点 盗塁
1 二 毒田 ('A`) 25
.318 6 37 2
2 中 川島 (K‘ー`)22
.278 9 58 23
3 左 ガイエル J( ゚_ゝ゚)し 37
.243 37 89 2
4 一 宝 ( ^Д^) 27
.307 31 106 0
5 三 朴 <ヽ`∀´> 33
.266 24 73 1
6 右 擬古 (,,゚Д゚) 31
.244 0 27 10
7 遊 茂等 ( ・∀・) 36
.227 1 18 12
8 捕 和手枡 ( <●><●>) 24
.189 0 7 0
9 投 内藤 ( ^ω^)25
9勝10敗 防3.84
(;^ω^)(……うう)
どこかの偉い人の始球式が終わり、自分にボールが渡される。
今日のお客さんの数は5万人。その歓声はすり鉢状になったグラウンドに響く。
内藤は、緊張していた。
( ゚∀゚)(……)
右打席には、長岡が立っている。
始球式のときあっけなく空振っていた長岡。
自分にもあんなスイングをしてくれたらいいのに、と思う。
和手枡が野手に守備位置の指示をする。
それが終わって和手枡もキャッチャーボックスに座った。
長岡がバットを構える。
球審の手が上がる。
「プレーボール!」
わあっと、歓声が上がった。
内藤はそれを他人事のように聞いていた。
(;^ω^)(一球目……)
このような大事な試合、初球何を投げるかは重要だ。
自分の主な持ち球はストレート・カープ・シュート・フォーク。
何を投げるか……
( <●><●>)(最初は思い切りストレートを入れましょう。長岡も初球はみるはずです)
(;^ω^)(把握だお)
( ゚∀゚)(……)
(;^ω^)(くっ……)
既に長岡には威圧的な雰囲気が漂っている。
首位打者の風格だろうか。
それに負けないように左足を力強く踏み出し、力一杯ボールを投げ込む。
( ゚∀゚)(……見、だな)
初球は見送る。
低めへの153キロストレート。
内藤の調子はいいらしい。
( <●><●>)(……)
長岡の様子を見る。
先ほど長岡のバットはピクリともしなかった。
恐らく最初から見逃すつもりだったのだろう。
( <●><●>)(ワンストライク儲けた……)
(;^ω^)(……)
早くも汗をかいている内藤が自分のサインに頷く。
内藤の力強いフォームから球が繰り出される。
( ゚∀゚)(!)
長岡は待ち球と違ったのか、大きく曲がるカーブを空振る。
早くもツーストライク。追い込んだ。
3球目はフォークを見せてボール。
続いて4球目。サインはストレート。内藤は頷く。
(;^ω^)(いけっ!)
右腕から繰り出される思い切ったインハイへのストレート。
これはコーナーに決まるだろう。かと言って簡単に打てる球でもない。
( <●><●>)(完璧!)
そう思った瞬間、長岡がバットを出した。
カン、と乾いた音が響いた。長岡のバットから。
「ファール!」
( ゚∀゚)(……)
長岡が打った球はバットの根元に当たって真後ろに飛んだ。
ファールボール。カウント変わらず2‐1。
( <●><●>)(……嫌な感じです)
完璧なボールを苦もなくカットされた。
こんなバッティングをされたらピッチャーはたまらない。
和手枡が感じた通りの展開になる。
5球目はすっぽ抜けのボール。
6球目は際どいシュートを難なくカットされる。
( ゚∀゚)(……)
長岡は顔色一つ変えない。
(;^ω^)(……)
対して内藤はすでに汗だくだ。
7球目は落ちる球を見逃されボール。
圧倒的投手有利のカウントからフルカウントまで持っていかれた。
( <●><●>)(落ち着いて低めに集めましょう)
(;^ω^)(把握)
要求したのはストレート。
今日の内藤の球威なら長岡でも打ち取れる!
(;^ω^)(……いけっ!)
内藤が8球目を投げ込む。
ボールはきっちりアウトローへ向かう。
(;゚∀゚)(っ……)
長岡の表情が歪む。
長岡のバットは出ない。
バシィンと、力強い音がミットに響く。
アウトローいっぱいのストライク。
長岡も苦虫を噛み潰したような顔をする。
( <●><●>)(……よし!)
長岡を見逃し三振に打ち取った。
これでひとまずは安心できる。そう思った時だった。
「ボール! フォア!」
(;<●><●>)(なっ……!)
( ゚∀゚)(……ラッキー)
(;^ω^)(……)
内藤がマウンド上で不服そうな顔をする。
和手枡は立ち上がって審判に訊ねる。
( <●><●>)「今のが、ボールですか」
審判は和手枡とは目を合わさず、コクリと頷くだけだった。
123 456 789 RH
RW 00
V 00
RW 渡辺‐ビコーズ
V 内藤‐和手枡
現在
一回表
ノーアウト一塁
バッター京橋
『2番、サード、京橋。背番号35』
(;^ω^)(……)
ふ、と一息つく。
あの誤審は痛いが仕方がない。序盤から抗議して心象を悪くするのもよくない。
(;^ω^)(こっから……こっから抑えりゃいいんだお)
( <●><●>)(京橋さん……バントはないでしょう)
京橋はバントをしない2番として活躍する選手だ。
リードとしては4番を相手にする感じでよい。
それよりも警戒する相手がいる。一塁の長岡だ。
( ゚∀゚)
現在リーグ2位の31盗塁。
塁に出すのは禁物だったのだ。
(;^ω^)(……)
牽制を入れる。しかし長岡はスタンディングで帰塁する。
内藤はランナーに強いピッチャーではない。
牽制やクイックに難があるのだ。
(;^ω^)(……)
長岡をチラチラと見つつ1球目を投げる。
ウエスト気味のストレート。しかし長岡はスタートしない。
( <●><●>)(京橋さんも簡単に抑えられる人じゃありません……)
(;^ω^)(わかってるお)
( <●><●>)(長岡さんに走られるのはある程度しかたありません。バッターに集中です)
(;^ω^)(把握)
内藤がセットポジションからボールを投げる。
長岡はスタートしない。
ボールはやはり長岡を意識したアウトコースへのストレート。
これも外れてカウント0‐2。
(;^ω^)(……苦しいお)
「タイム」
京橋がタイムをかけ左打席をならす。
その時長岡をチラリと見る。
長岡はヘルメットのふちを触る。盗塁の合図だ。
( ゚∀゚)(……仕掛けます)
京橋は小さく頷く。
バッテリーにわからないくらい小さく。
(;^ω^)(……警戒だお)
なおも内藤は牽制を入れる。
しかし長岡は相変わらずスタンディングで帰るのみだ。
(;^ω^)(走る気はないのかお……?)
(;^ω^)(……)
内藤の京橋に対する3球目。
長岡は内藤の足を見ていた。
( ゚∀゚)(……)
内藤がセットポジションに入る。
内藤の左足が上がって――最高点に達する少し前。
( ゚∀゚)(今だ!)
それを見て疾風のごとく走り出す。
レフトスタンドがその長岡の姿に沸く。
(;^ω^)(くっ!)
( <●><●>)(させるか!)
ボールはストライク。
和手枡が捕球してすぐさま2塁に送球する。
正捕手の比木以上と評される肩だ。絶対に刺せる――!
( <●><●>)(いけぇっ!)
その強肩から繰り出されたボールは長岡を刺せるタイミングだった。
――きっちりと、野手のグラブに投げることができれば。
(;・∀・)(くっ……!)
捕球に入った茂等もたまらずジャンプするほどの送球。
なんとかグラブには収めたがランナーは悠々セーフだ。
( ゚∀゚)(……よしっ!)
2塁上でガッツポーズを見せる。
ノーアウト2塁。早くもピンチを迎えた。
(;^ω^)(……)
内藤は恨めしそうに長岡を見る。
早くもピンチ。カウントは打者有利でバッターは強打者。
(;^ω^)(……くっ!)
ピンチにビビる弱い自分が出てきそうになる。
それを必死で押しとどめる。
( <●><●>)(大丈夫です。内藤さんなら抑えられます)
(;^ω^)(たりめーだお)
和手枡の言葉に強気で返す。
実際は心臓がうるさいのだが。
(;^ω^)(でも、盗塁の危険はほぼ消えたお。全力で投げる!)
( <●><●>)(……)
和手枡はインハイにミットを構える。
内藤はそれに頷く。
(;^ω^)(……いけ!)
(;<●><●>)(なに!)
予想外の事態。
今季1回もバントをしたことのない京橋がバントの構えに入ったのだ。
(;^ω^)(……っ!)
コン、と転がる。
長岡はそれを見てスタートを決める。
(;<●><●>)(キャッチャーの範囲じゃない……!)
しかしとっさに対応できず、サードの朴の反応が遅れる。
京橋はバットに当たった瞬間にスタートするドラッグバントを決めている。
(;<●><●>)「触るなぁ!!」
和手枡の出した結論はそれだった。
ボールは三塁線ギリギリ。あのままなら絶対に切れる――!
<;ヽ`∀´>(!)
それを聞いて捕球大勢に入っていた朴が固まる。
しかし――
( ><)『切れない! 内藤・朴・和手枡呆然とボールを見つめる!』
(;^ω^)(……)
(;<●><●>)(……)
<;ヽ`∀´>(……)
にしこり『きっと3人はボールを蹴り出したいでしょうね』
(;^ω^)(……)
ノーアウト一塁三塁。
いきなり大大ピンチ。
『3番、ライト、池沼。背番号99』
(^q^)「始めようか。究極の演劇(ロンド)を」
右打席には100打点を記録した池沼。
こんなときに怖すぎるバッターだ。
(;^ω^)(……)
何も考えずに和手枡の構えたミットに構える。
ストライク。しかし。
( ><)『京橋走った!』
(;^ω^)(!)
(;<●><●>)(!)
しまった。33盗塁している京橋が完全にノーマークだった。
先ほどのミスで完全に浮き足立っていた。
(;^ω^)(くっ……)
結局和手枡が送球するも悠々セーフ。
あっという間にランナー2塁3塁。
(^q^)(これはもらったでやんす)
(;^ω^)(……)
流れが悪い。このまま投げてもきっと打たれる。
野手陣をチラリと見る。
毒田が駆け寄ろうとしてくる。それを手で制する。
(;^ω^)(大丈夫だお)
('A`)(……)
今まで毒田には何度も助けてもらった。
何度も助けてもらいっぱなしではいられない。
('A`)(……きっちり抑えろよ)
(;^ω^)(把握)
それを見て毒田は守備位置に戻る。
それを見て内藤は打席の池沼を見る。
(^q^)(……)
(;^ω^)(……)
(;^ω^)(……)
池沼に対しての1球目。アウトコースへのカーブ。
見逃してストライク。
(^q^)(カーブ……次はストレートか?)
( <●><●>)(次は……で)
(;^ω^)(把握)
2球目。
(^q^)(ストレート!)
140キロ後半のストレート。
内角低めに決まりそうだがこれなら打てる。
(^q^)(うぃくwwwwww)
バットを出す。イメージ通りなら、ボールはスタンドに入る!
しかし、ボールは力なくショートに転がる。
ショートに行ったためランナーは動けない。
(^q^)(……シュートれすか)
(;^ω^)(なんとかワンアウト……)
芯で捉える前、少し動いた。
内藤が得意とする打ち取る球、シュートボールだ。
(^q^)(……うぃく)
うなだれる。
ベンチの母親の胸で、池沼はさめざめと泣いた。
( ∵)(ゴェェ)
( <●><●>)(相変わらず読めない……)
『4番、キャッチャー、ビコーズ。背番号44』
ビコーズはシーズン途中で入団した助っ人だ。
前代未聞の助っ人キャッチャーとして打線の中核を担っている。
顔から狙い球が読みにくく、だいたいのキャッチャーからは嫌われている。
( <●><●>)(内野ゴロか三振が一番ですが難しいでしょう)
(;^ω^)(1点は覚悟の上だお)
( <●><●>)(わかりました。……)
ミットを構える。
インコースへのストレート。
(;^ω^)(……)
内藤は頷く。
( <●><●>)(よし!)
インコースに決まるストレート。
これは打っても内野ゴロにしかならないはずだ。
( ∵)(それを内野ゴロにしないのが……4番!)
(;^ω^)(!)
しかしビコーズはバットを振った。
初球打ちの打球はしかしセカンドに転がっていく。
( ∵)(詰まったか!)
ボールはビコーズのバットの根元に当たり力なく転がる。
('A`)(セカンドゴロ……)
(;'A`)(!)
( ∵)(……行け! 長岡!)
長岡が、3塁からホームに突入しようとしていた。
( ゚∀゚)(もらったぁ!)
黄金の足を飛ばし、もうその距離を半分まで縮めている。
('A`)(グラブで取ったら間に合わない!)
グラブを使わず素手でボールを取り、ホームに返す。
タイミングは微妙だ。
(#'A`)「うらぁ!」
( <●><●>)(……)
和手枡がベース上で長岡が構える。
長岡がヘッドスライディングで突入する。
(#゚∀゚)「うおおっ!」
(#<●><●>)「あああっ!」
長岡がベースを触る。
和手枡が補給し、長岡の腕にタッチする。
場内が静まる。
5万人の目は球審に注がれる。
( ゚∀゚)(セーフだ!)
( <●><●>)(アウトです!)
「……」
('A`)(どっちだ……?)
こちらからはタイミングは微妙だ。
恐らくプレーした本人たちも微妙なのではないか。
「アウトォ!」
ライトスタンドから歓声が上がる。
逆にレフトスタンドからはため息が漏れた。
(#゚∀゚)(……)
ホームベース上にうつぶせになる。
悔しそうに右腕を地面に叩きつけた。
(;^ω^)(た、助かったお……)
( <●><●>)(ツーアウトです。気楽に行きましょう)
(;^ω^)(おう)
( ><)『毒田の好返球で長岡本塁憤死です』
にしこり『いい返球ですたね。迷いが無かった』
( ><)『さあ、ツーアウトランナー1塁3塁です』
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