('A`)は野球選手のようです 3-2
ついに明日は開幕だ。
球場はニュー速スタジアム。
横浜に建てられた両翼98m・センター123mの屋外型球場だ。
対戦相手は前年4位のシベリアレールウェイズ。
後輩の長岡がいるチームだ。
風の噂では長岡も開幕一軍を果たしたらしい。
明日の試合に出てくる可能性は高い。
('A`)「……」
なかなか寝付けない俺は寮のロビーに出てきた。
そこには、恐らく俺と同じ理由だろう。内藤がいた。
背中をこちらにむけてるため俺には気づいていない。
('A`)(脅かしてやるか)
そう思いそろそろと近づく。
( ^ω^)「うん……うん……ありがとう」
('A`)(なんだ……?電話?)
どうやら携帯で誰かと通話しているようだ。
時間は既に夜の2時。
こんな時間に誰と会話しているのだろうか。
( ^ω^)「うん……うーん……僕は先発だから明日は投げないお」
('A`)「……」
会話の内容から見るとあまり野球が詳しくない人物らしい。
( ^ω^)「うん……愛してるお、ツン」
('A`)
ピ
(;^ω^)「ふぅ……さて、寝るかお……わぁ!!」
(゚A゚)「この世で一番重い罪……『てめーは俺を怒らせた』」
(;^ω^)「松尾! いや待つお!」
(゚A゚)「金属バットで死ぬか? アオダモで死ぬか? メープルで死ぬか? 選べよ」
( ^ω^)「落ち着けって」
内藤にこめかみを握られる。
ピッチャーの握力はゆうに80kgを超える。
脳がキリキリ言い出したところで俺は正気に戻った。
('A`)「で? ツンって誰よ」
キリキリと痛むこめかみを抑えながら問いただす。
この一軍半チキンへちゃむくれに彼女などあってはならない。
宇宙のバランスが崩れる。殺してでも奪い取る。
( ^ω^)「あれ? ドクオも知ってるはずだお」
('A`)「……まさか」
( ^ω^)「……」
('A`)「津村?」
( ^ω^)「そうです」
('A`)「殺す」
( ^ω^)「落ち着けって」
今度はヘッドロックをきめられる。
内藤の筋肉質な腕が頭をガンガンと締め付ける。
頭がちぎれそうな所でタップした。
('A`)「いやいや津村って。釣り合ってねーよ。ねーよ!?」
( ^ω^)「つーか高校の時から付き合ってますが」
(゚A゚)「マジで!?」
( ^ω^)「マジで。今年で8年目」
(゚A゚)「中堅選手じゃねえか……」
ツンこと津村とは、俺達が高校のときの同級生だ。
俺達の母校はスポーツと一般に別れていて、一般は大層頭が良かった。
その頭がいい一般クラスの中で最強の美貌を保っていたのが津村だった。
('A`)「スポーツと一般とか接点なかったと思うんだけど」
( ^ω^)「そんなことないお? 長岡とかも付き合ってた筈だお」
('A`)「あいつ明日殺すわ」
( ^ω^)「ほら、県大会の決勝」
('A`)「お前がサヨナラツーラン打った奴か?」
( ^ω^)「それぞれ。あの後告白されたんだお」
('A`)「しかもあっちからかよ」
(゚A゚)「つーかツーランのきっかけを作ったのは俺ですが。ランナーは俺ですが!?」
( ^ω^)「人徳の差だお」
納得がいかない。
まあ、きっかけはどうあれ内藤が付き合ってる女の子を裏切ることはないだろう。
( ^ω^)「実は目標があって」
('A`)「んだよ」
( ^ω^)「10勝したらプロポーズしようかなって」
('A`)「ごめん俺お前先発の時メンバー外れるわ」
( ^ω^)「真剣だお」
('A`)「もう無理それ俺もうヴィッパーズのために働けない」
( ^ω^)「……そういえば」
('A`)「んだよ」
あからさまに不機嫌な声で返事をする。
いくら親友といえど結婚なんて悔しい。
( ^ω^)「週刊プロ野球の伊藤さんは」
('A`)「結婚前に死にたくなかったら今すぐその口を閉じろ豚」
( ^ω^)「違うお、聞けお」
('A`)「んだよ」
伊藤、という名前を聞いただけであの事件(>>118)を思い出す。
あの時はなんだか茂等さんに言われたのと久しぶりの取材で舞い上がったことが原因だ。
素ではない。けしてない。
( ^ω^)「この前取材されたの。週プロに。伊藤さんに」
('A`)「……」
( ^ω^)「彼女アクアリウム時代のドクオのストラップつけてたお」
少し考える。
('A`)「……」
(゚A゚)「マジで!?」
( ^ω^)「マジ。ファンじゃなかったらドクオのグッズなんて買わないお」
( ^ω^)「だから今度会ったら食事にでも誘えば?」
('A`)「内藤……お前いい奴だな」
( ^ω^)「じゃあ僕の10勝に貢献してくれるかな?」
('∀`)「いいともー!」
こうしてなんだかランラン気分になった俺は浮かれて部屋に戻りベッドに入ってすぐに寝た。
翌日。ニュー速スタジアムに向かうバスの中。
俺はゴキゲンだった。
今なら道行く人片っ端から「幸せですか?」と問いたい気分だ。
('∀`)「うふふ」
J( ゚_ゝ゚)し「なんだかドクオゴキゲンねー」
('∀`)「あ、わかる?アーロン、わかっちゃう?」
J( ゚_ゝ゚)し「あーまたボールがケツについとるわーほんま魔空間制御むずいでー」
('∀`)「ついに俺にも球春じゃない春到来よ」
J( ゚_ゝ゚)し「あれ? でもそれってファン1人なくしたってことじゃね?」
('A`)
グラウンドに入る。
今日は午後6時からプレイボール。
天気も快晴、雨の心配はない。
人気球団のヴィッパーズらしく既にスタジアムは一杯になり始めている。
( ^ω^)「おっドクオー開幕スタメンおめだおー」
先ほどのミーティングで今日のスタメンが発表された。
2番セカンド。それが俺に今日与えられた仕事場だ。
('A`)「おー」
(;^ω^)「どうしたお? なんか元気ないお」
('A`)「気のせいじゃね? それよりさ」
( ^ω^)「?」
('A`)「ホモビデってどうしたら出れるかな?」
(;^ω^)「ドクオ!? 本当にどうしたお!?」
( ゚∀゚)ノシ「毒田さん! 内藤さん!」
( ^ω^)ノシ「おっ、長岡。おいすー」
('A`)ノシ「よく見たら長岡も美男子だよね……」
(;゚∀゚)「な、なんですか? なんだか身の危険を感じるんですが」
('A`)「いや、なんでも? それよりさ、お前彼女いるの?」
( ゚∀゚)「え? いますよ? 今日も来てます」
あそこ、と言って長岡が指差した先には。
ミセ*゚ー゚)リ「ながおかくーん! ファイトー!」
美少女がいた。
(*゚∀゚)「可愛いでしょう? いやーもう家だと甘えてきて困っちゃいますよ」
(;^ω^)
('A`)「へえ……」
ポン、と長岡の肩に手を置く。
そして静かな声で話しかける。
('A`)「おまえさ、ポジションどこだっけ」
( ゚∀゚)「え……ショート、ですけど」
('A`)「うんうん、そうだよね。高校時代二遊間組んだもんね」
(;^ω^)
('A`)「二遊間ってさ、信頼関係が大事って言うよね」
( ゚∀゚)「はあ……」
('A`)「信頼関係できてるよね、俺達」
( ゚∀゚)「え? はあ、まあ」
('A`)「じゃあさあ!! なにてめー彼女いるの!? なんなのあの可愛い彼女!?
するの!? 浅草観光するの!? 夜はベッドで生でして
ミセ*゚ー゚)リ『へへ……救援失敗したかも』とかするの!? ああーん!?」
(;^ω^)「ごめん長岡! 今ドクオは情緒不安定なんだお!」
('A`)「やめろ! こめかみを抑えるんじゃねえ!」
( ゚∀゚)「え、はあ」
(;^ω^)「じゃ! いい試合をするお!」
( ゚∀゚)「は、はあ」
('A`)「やめろー! 俺は長岡をSATSUGAIするまで死ねねえー!」
そうして俺はベンチ裏までズルズルと引きずられた。
余談だが、この会話が一部のファンに録音されていたらしく、俺のネット上の愛称は「独男」になった。
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