('A`)は野球選手のようです 4-3
素振りをして、打席に向かう。
その背中は、こころなしか温厚な朴にはそぐわない雰囲気が漂っていた。
从'ー'从 (……かなり、イライラしてるね。そういう時が一番打ちとりやすいんだよ)
( ><)『さあ朴に対しての第1球目……あっと危ない!』
1球目は朴の頭部近くに投げられた。
ブラッシュボールだ。
渡辺は帽子を取って謝る。
( ゚∋゚)『珍しいですね……渡辺があんなすっぽ抜けを投げるとは……』
从'ー'从 (わざとだよ)
これも朴をイライラさせる作戦だ。
こうすれば頭に血がのぼる。そんな相手は打ちとりやすい。
ましてや相手は大の得意にしている朴。麻雀で言うと4枚目の字牌と言うやつだ。
しかし渡辺は朴をなめ過ぎていた。
ブラッシュを受けて朴は頭に血がのぼるどころか冷静さを取り戻していた。
<ヽ`∀´> (わざわざボールひとつくれるとは……ありがたい)
カウントは0−1。バッティングカウントだ。
第2球。スローカーブ。
打たれるわけがない、と慢心して投げたボールは甘く肩口から真中へ入ってきた。
<#ヽ`∀´> 「うああっ!!」
从;'ー'从 「!」
( ><)『捉えた――!! 大きい――!!』
( ><)『打球はフェンス直撃! 毒田生還!』
<#ヽ`∀´> 「くそっ!!」
最高の当たりだった。しかし、やはりこの球場は大きすぎた。
高く上がった打球はセンターの頭を超えフェンスに直撃した。
( ><)『センター、ショート長岡に中継! 3塁コーチャー腕を回している!』
比木は一気にホームに突入する。
ここで点が入れば同点。試合は振り出しに戻る。
( ><)『長岡好返球! ホームでボールと比木が交錯する――!!』
タイミングは微妙だ。
しかしこの判断は子供でもわかる。
キャッチャーミットには、何も収まっていなかったからだ。
「セーフ!!」
( ><)『セーフセーフ!セーフです! 不振の朴が待望の2点タイムリーツーベース!』
( ´∀`)「よし!!」
監督が2塁ベース上の朴に向けて手を挙げる。
朴もそれに呼応してはにかみながら手を挙げた。
( ><)『ふりだしに戻りました! 2‐2同点!』
V 2‐2 RW
( ゚∋゚)『今は渡辺くんの慢心ですね』
鳥谷はまだカバーに入ったところで呆然としている渡辺を評価する。
( ><)『と、いいますと』
( ゚∋゚)『確かに渡辺くんは朴くんに対して圧倒的有利な立場にあった』
( ><)『えー、2人の通算対戦成績は1割台ですか』
( ゚∋゚)『ええ、だから彼はこう思った筈です。「打たれる訳がない」それが慢心……その結果がこれです』
( ><)『なるほどなるほど。なおもランナー2塁、バッターは7番川島です』
(K‘ー`)(……)
バッターボックスの土をならす。
自分は渡辺からヒットを打った事がない。
しかし。
(K‘ー`)(朴さんも打ったんだ……僕も打てる!)
渡辺の初球スクリュー。
左打者の自分の膝元に落ちるボールだ。
だが、少し高い。
これなら。
( ><)『また捉えた! 打球は……あーしかし一塁手の正面です』
J( ゚_ゝ゚)し(魔空間の気配!)
( ><)『一塁手捕球……あっーと、一塁ベースに打球が当たったぁ!』
从;'ー'从(!?)
(K;‘ー`)(!?)
( ゚∋゚)『!?』
J( ゚_ゝ゚)し(計画通り)
( ><)『打球はファーストの遥か頭上を超える! これはアンラッキー!』
<ヽ`∀´>(チャンス!)
( ><)『朴が本塁突入! 投げられない! 逆転! ヴィッパーズ逆転!』
( ><)『池沼落ち着いてセカンドへ! 川島間に合うか!?』
「アウト!」
( ><)『間に合わない! 川島二塁を狙いましたが池沼の好返球で憤死!』
(K;‘ー`)(……くそっ)
( ><)『しかしヴィッパーズラッキーなヒットで逆転成功! 4回裏逆転成功です!』
V 3‐2 RW
序盤に崩れた両エースだが、5回以降は両者完璧なピッチング。
点どころかランナーすらほとんど許さない。
試合は3‐2とヴィッパーズ1点リードのまま8回に突入した。
( ><)『さあ、8回表攻撃は7番の天王寺からです』
( ゚∋゚)『その前に……ああ、ピッチャー交代ですね』
( ><)『100球以上を投げた高岡、ここでお役御免です』
( ゚∋゚)『7回2失点ですか。まあ合格ラインですね』
( ><)『さあ次のピッチャーは……杉浦ですね』
( ゚∋゚)『1点差ですからね、是非とも逃げ切りたいでしょう』
( ><)『昨年は150キロを超える直球と大きく曲がるスライダーを武器に27HP。球界屈指の中継ぎ左腕です』
( ゚∋゚)『彼のスライダーはなかなか打てないと思いますよ』
( ><)『はい、期待しましょう』
(-_-)「スライダーの調子はどうですか?」
( ФωФ)「ああ、万全だ。手術の影響はなさそうだな」
シーズンオフ、杉浦は左肘にメスを入れた。
軽い手術だがやはり利き腕にメスを入れるのは不安だろう。
( ФωФ)「それに789の下位打線だしな」
(-_-)「……油断は」
( ФωФ)「油断はしない。だが、自信は持つ」
(-_-)「わかりました」
( ><)『さあ、投球練習を終えて右打席に天王寺が入ります』
(-_-)(……)
アウトローにミットを構える。
球種はストレート。
杉浦は球種をストレートとスライダーとチェンジアップしか持っていない。
しかしそれでも抑えられるのはそれぞれの球威が素晴らしいからだ。
( ФωФ)「……」
杉浦が構える。
サイド気味のフォームから――一気にボールが弾き出される。
「ストライク!」
球速表示を見た観客にざわめきが起こる。
球速は154キロ。この試合最速のボールだ。
(-_-)(……)
2球目、今度はスライダーを要求する。
ボールからアウトコースギリギリに決まるスライダーだ。
( ゚∋゚)『今日は杉浦調子良さそうですね』
( ><)『そうですね。154キロを記録しました。さあ2球目』
「ストライク!」
惚れ惚れするようなコントロール。
自分が構えた所にきっちり収めてくる。
3球目はチェンジアップを外に外す。
ボールでカウント2‐1。
(-_-)(ねじ伏せましょう)
( ФωФ)(おうよ)
杉浦が放った第4球目。
何の迷いもないクロスファイア。
直前にチェンジアップを見せられた打者は何もできずに見逃した。
「ストライクアウト!!」
わあっと場内から歓声が上がる。
この球は、155キロを記録していた。
杉浦は続く8番も三振に取る。
次はピッチャーの渡辺の打席だ。
( ><)『渡辺は……変えません。続投です』
( ゚∋゚)『ランナーが出たら代打を出してたでしょうけどね』
結局渡辺が杉浦の球を打てるはずもなく三振。
8回表は杉浦の三者三振で幕を閉じた。
渡辺も杉浦に負けず劣らずのピッチング。
既に100球を超えているが調子は逆に上がっている。
最終回前にもう1点というヴィッパーズの思惑を振り切り、678番を三者凡退に打ち取った。
( ゚∋゚)『いやーいいピッチングですね。これで勝ち星がつかなきゃ可哀想ですよ』
( ><)『8回を投げぬいた渡辺、結局とらえることができたのはあの4回だけでした』
( ゚∋゚)『そう考えるとあのベース直撃はなんともアンラッキーでしたねぇ』
『ニュー速ヴィッパーズ、選手の交代をお知らせします。ピッチャー、杉浦に代わりまして、斉藤。背番号66』
わあっと場内が歓声に包まれる。
コールされたのはヴィッパーズの守護神・斉藤。
(・∀ ・)「胃が痛い試合だぜー」
(;'A`)「大丈夫っすか?」
( ・∀・)「大丈夫だよ。こいつ発言の8割は嘘だから」
(・∀ ・)「ははは、俺茂等さんのそういうところ大好きですよ」
( ・∀・)「そうかそうか、嬉しいねえ」
(;^Д^) (狐と狸の化かし合い……)
( ><)『さあ最終回のマウンドには守護神斉藤。昨シーズンは36セーブをあげました』
( ゚∋゚)『セーブ数もそうですがブロウンがないですからね。非常に安定した投手です』
( ><)『「火の玉ストレート」と評されるその直球は打者のバットに当てることすら許しません』
( ゚∋゚)『あの速球は凄いですよ』
(-_-)(……)
いつもそうなのだが、斉藤をリードするときは胃が痛い。
リード、と言うのもおこがましい。
あまりのコントロールの悪さにリードするにも「ストライク」か「ボール」ぐらいにしか分けられないからだ。
( ><)『さあ最終回。バッターはここまで2安打の長岡。1番からの好打順です』
( ゚∋゚)『なんとしてもランナーにならないといけませんね』
(;゚∀゚)(日本屈指のクローザー、斉藤さん……打てるのか?)
若干気圧されながら右打席に立つ。
マウンド上の大投手は身長よりも大きく見えた。
( ><)『さあ、長岡に対しての第1球』
(;゚∀゚)(!)
顔近くのブラッシュボール。
ちょうど渡辺が朴に放ったようなボールだ。
しかし違うのは球速。
渡辺が130キロ。対して斉藤は148キロ。その差は歴然だ。
(;゚∀゚)(ひー、当たったらどうしてくれんだよ)
一旦打席を外し二度三度素振りをする。
審判に一礼して打席に戻る。
(-_-)(……わざとだな?)
(・∀ ・)(若手は芽の内につぶさなきゃ)
斉藤はマウンド上でニヤニヤしながら比木とアイコンタクトを取る。
(-_-)(あまりふざけてたら……足元すくわれるぞ)
(・∀ ・)(すいません、比木さん)
(-_-)(ふん、次はカーブだ)
(・∀ ・)(うぃっす)
第2球、アウトコースへカーブが来る。
先ほどブラッシュを受けた長岡は踏み込めずに見逃した。
カウント1‐1。
(;゚∀゚)(うーん……)
3球目、真ん中高めのボール球のストレート。
普通のストレートよりもホップする斉藤のストレートは長岡のバットの遥か上を通過した。
( ゚∋゚)『……ダメです。まったく見えてません』
( ><)『そうですね。とんでもないボールを振ってしまいました』
(-_-)(……もう決まりだな)
(・∀ ・)(らくしょー)
(;゚∀゚)(くっ……追い込まれた……)
4球目、インハイへのストレート。甘いコースに入ってくる。
しかし長岡の脳裏には先ほどのブラッシュがちらついてしまった。
(;゚∀゚)(バットが……出ない!)
結果怖じ気づいてしまい見逃し三振。
長岡はとぼとぼとベンチに帰っていった。
(・∀ ・)(これで潰れましたかね?)
(-_-)(言い方が悪いぞ。苦手意識を植え付けたんだ)
(・∀ ・)(さいですか)
(-_-)(きっとあいつはレールウェイズの不動のリードオフになるぞ)
(・∀ ・)(ふーん)
この後2番をセカンドゴロに打ち取った斉藤。
続く3番をセカンドのエラーで塁に出すものの4番を三振に取りゲームセット。
2010年の開幕戦はヴィッパーズが幸先のよいスタートを切った。
<なにてめーエラーしちゃってんの?
俺の勝ち星消えたらどうすんの?
<なにてめーエラーしてんの?
俺が同点に追いつかれたらどうすんの?
<こめかみはやめてこめかみはやめてアッー
試合結果
RW 011000000 2
V 00030000X 3
勝 高岡 1勝
敗 渡辺 1敗
S 斉藤 1S
本 我孫子 1
試合後のミーティングで茂等さんを始め高岡さん、斉藤さん、荒巻コーチにたっぷり絞られた。
何でもないセカンドフライを落としたのだから仕方ないが。
('A`)「待ってたかい……俺のポルシェちゃん」
俺は帰りは必ず自分の足で帰ることにしている。
理由は単純に試合後の閑散としたスタジアムなんかの景色が好きだからだ。
あ、ポルシェってのは足で漕ぐタイプのあれ。
どうせ俺みたいな中堅選手がチャリ漕いでたってわかりゃしない。
ゆくゆくはチャリを漕げないほど人気の選手にはなりたいが。
('A`)「よし、んじゃ帰りますかい」
スタジアムから寮まではものの1時間程度で到着する。
それぐらいなら筋肉の疲労抜きとしてもちょうどいい。
「あの……」
誰かに話しかけられた。
何だろう、熱狂的なファンにエラーについて説教されるのだろうか。
('A`)「はい、なんですか」
振り向く。
('、`*川「毒田さんですよね?」
(゚A゚)
('、`*川「覚えてますか? 週プロの伊藤ですけど」
(゚A゚)
('、`*川
('A`)「覚えてますよ」
あれー、この人って俺がやらかした(>>118)時の記者さんじゃなかったっけ。
なんだろう。ボイレコ突きつけられてセクハラで東京地裁に連行だろうか。
('、`*川「今日は活躍されてましたね」
('A`)「活躍? ポロリとかですか?」
自虐風ギャグで場を和ませる作戦だ。
('、`;川「あっ、その……ごめんなさい」
('A`)「……」
('、`*川「……」
('A`)「……」
('、`*川「……」
オーケイ大佐……またもエラーだ。
俺が悪かった……
('、`;川「あ、あの!」
(゚A゚)「ひゃい!?」
思わず声を裏返して目をひん剥いてしまう。
急に声をかけられたときの悪い癖だ。
('、`;川「これ、受け取ってくれますか!?」
('A`)「訴状ですか?」
(あ、ありがとうございます)
('、`*川「ち、違います」
('A`)「あ、そうですよね……なんだろ。開けていいですか?」
('、`*川「どうぞ」
彼女から手渡されたのは何か包みに入った手のひらサイズの小物だった。
開ける許可をもらったので綺麗に包装紙を開ける。
('A`)「……御守り?」
('、`*川「怪我しないように、って御守りです。前の取材のとき、渡せなかったから」
('A`)「あ……ありがとうございます」
何のことはない。
彼女はただ仕事熱心なのだ。きっと取材した選手全員に渡している御守りだろう。
自分のファンだとか、そんな汚い目で伊藤さんを見ていた自分が嫌になる。
('A`)「……ありがとうございます。ユニフォームの中に入れてプレーします」
('、`*川「本当ですか!? ありがとうございます!」
彼女の顔がぱあっと明るくなる。
ほんとに眩しい笑顔だ。
その笑顔をあのへちゃむくれピッチャーも受けたのだと思うと殴りたくなる。
それに怪我は怖いものだ。
俺自身は大きい怪我をしたことはないが、怪我で選手生命を断たれた天才を何人も見てきた。
そのことを考えると、伊藤さんの心遣いに涙が出る。
('、`*川「あ、毒田さんのインタビューが入った週プロ読みました?」
('A`)「あ、いや……忙しくて読んでないんです。スイマセン」
嘘だ。
本当はあの傷口が開くのをためらっただけだ。
('、`*川「そんなこともあろうかと持ってきたんですよ。コレ」
('A`)「あ、そんなわざわざ……スイマセン」
('、`*川「いえいえ。えーと……」
立ちながらペラペラと雑誌のページをめくる伊藤さんを見る。
春らしい服装に身を包んだ彼女は社会人というよりも女子大生に近い。
しかし選手の取材を任せられるということはなかなかのキャリアなのだろう。
('A`)(おっぱいでけーな……)
服の上からでもわかる膨らみを見つめる。
C……D……大穴でEか……?
('、`*川「あ、ありましたよ!」
(゚A゚)「ひゃい!」
またとんでもない裏声を出してしまう。
('A`)「どれどれ……」
渡されたページの写真を見る。
俺のプレー中の写真や、通算成績などと合わせてインタビューが載っている。
まあ、当然ながら俺が口走ったことは載っていない。
('A`)(これって……)
(゚A゚)(誤解を解くチャンスじゃねえの!?)
('A`)「あのー……」
('、`;川「なにか不備がありましたか?」
伊藤さんが不安そうな顔で問いかけてくる。
正直その顔もいいとか思ったりしたが、そんなん言ってる場合じゃない。
('A`)「いやいや、すごいいいレイアウトですよ」
('、`*川「そうですか。よかった。……では、なにが?」
('A`)「あのー、あれ、あるじゃないですか」
('、`*川「?」
('A`)「あのー、ほら。俺が口走った」
('、`*川「……」
('A`)「えーと……」
('、`*川「! ああ、『君が好きだ』?」
(゚A゚)
(゚A゚)
('A`)
('A`)「そう、それです」
('、`*川「びっくりしましたよー」
('A`)「あー、それですね……」
誤解なんですよ。と言おうとした。
第一印象は最悪だが、挽回すれば食事ぐらいは……
('、`*川「ちょっと嬉しかったですけど」
(゚A゚)
('、`*川
(゚A゚)
目をひん剥いて時間を停止させてる俺に彼女はにこり、と微笑んだ。
('、`*川「じゃあ、そろそろ失礼します。明日からも、頑張ってくださいね」
(゚A゚)
(゚A゚)「ハイ」
そうして彼女は大通りからタクシーに乗って行ってしまった。
俺は彼女が行ってからも彼女がタクシーに乗った一点を見つめていた。
('A`)「あ、週プロもらったままだ……」
('∀`)「いいいいっっっっっやっほぉぉぉぉぉぉ!!!!」
俺は帰り道の河原を自転車立ち漕ぎで帰った。
夜の河川敷の風はひんやりと心地よく、すっきりとした気分になる。
('∀`)「明日はノーエラー猛打賞じゃーい!!」
夜空の星は、まるで俺を祝福するかのように煌めいていた。
後日、内藤が伊藤さんから御守りをもらっていないことと、
もらった週プロの俺の記事の隅に連絡先が書いてあるのを発見した。
('∀`)
その次の日、俺は5打数5安打2本塁打7打点。
その年熱愛報道が出て野球板が大荒れに荒れるのはまだ先の話だ。
―――第一部 終わり―――
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