【第10話:銀狼】
( ゚∀゚)「くぁ・・・・・・眠すぎ・・・・・・」
朝の光に眼を奪われ、大きく欠伸をかいた。
大股で歩きながらも遅鈍なその歩きは、性質の悪さをまざまざと見せ付けている。
そんな彼の傍らを通る者など、誰一人としていなかった。
( ゚∀゚)「遅刻かね。まぁどうでもいいか・・・・・・」
それは、彼が近寄り難い人物という意味もある。
だがそれ以上に、今の時間が最も大きな要因になっているのだろう。
既に大半の生徒は学校に着いている頃合いなのだから。
( ゚∀゚)(残り10分・・・・・・走れば間に合うんだけどなぁ)
しかし、朝っぱら走るのはかったるい。
そんな想いからか、彼は足を速める気配など一向に見せなかった。
それどころかジグザグに進路を動かし、他の歩行人の邪魔になるように振舞っていた。
( ゚∀゚)「・・・・・・ん?」
何かの気配を感じ、彼は振り向いた。
人間がそこにいるというのではなく、何か、殺気に近いものを感じたのだ。
( ゚∀゚)「ああ・・・・・?どこのどいつだ?」
睨みを利かせ、周りの者を威嚇する。
そんな彼に対し、まともに視線を交錯させる者など誰一人としていない。
・・・・・・だがしかし、その相手は未だ視界に入ってはいなかっだけだったのだ。
『・・・・・・・・ぉぉぉぉ!!』
地響きのように低く唸る音。
それがジョルジュの耳に入り、段々と大きくなっていく。
その音量の加速度は、人のそれとは比べ物にならない。
獣が遠吠えをしながら迫ってくる、そんな錯覚さえ覚えさせる程。
そして高速で近づいてくる何かに対し、ジョルジュは身を屈めて戦闘態勢に移る
( ゚∀゚)(機を逃せば・・・・・・やられる!!)
両手を前に突き出し、膝を曲げて構えをとる。
刹那の争いになる事を理解したジョルジュが行った判断は真っ向からの勝負であった。
迫り来る獣を真正面から受け止めるつもりなのだ。
それは、数多の危機を乗り越えた漢ならではの判断。
正体不明のエネミーを前にして、正々堂々の対決をするという決断。
( ゚∀゚)(カウント・・・8・・・7・・・6・・・来るな)
現れるは、銀色に輝き、漆黒の脚をもつ機械獣。
絶え間なく動き続ける脚が、その運動能力の高さを誇示している。
ジョルジュが姿を確認するのと、二人が激突する間には僅かな時間しか残されてはいない。
瞬間、獣の口と目が一斉に開かれた。
(;゚д゚ )「何をしておる馬鹿者がぁああああ!!」
(;゚∀゚)「・・・・・・へ?」
自転車に乗ったミルナが吼えた。
けたたましい音を響かせ、吹っ飛ぶ自転車とミルナとジョルジュと。
それぞれが跳ねたり回ったり削れたりで、その場はまさに地獄絵図だった。
(;゚д゚ )「貴様・・・・・どこまで屑なら気が済む・・・・・」
(;゚∀゚)「ちがっ、ちょっとした勘違いから来る事故だったんだよ・・・・・」
二人がむっくりと起き上がり、頭を軽く叩く。
自身の安否を確認すると、ミルナがジョルジュに詰め寄った。
(#゚д゚ )「事故とな!?自ら向かって来ておいて事故とな!?」
(;゚∀゚)「いや銀狼が・・・・・・」
(#゚д゚ )「何を訳の分からん事を口走っておる!!
見ろ!俺のシューティングスターがズタぼろだ!!」
ミルナは惨めな姿になった自転車を指差しながら涙を流した。
( ゚∀゚)「いや、本当にすまんかった。
この絆創膏をあげるから許しておくれ」
(#゚д゚ )「そんな事で俺の怒りが収まると思うのか・・・・・・!?」
( ゚∀゚)「いらないのか?」
(#゚д゚ )「いるに決まっておろう!!」
ミルナは乱暴に絆創膏を奪い取ると、擦り傷を負った腕にペタリと貼り付けた。
(;゚д゚ )「しまった!消毒をしていないではないか!
おのれジョルジュ!この俺を罠にかけようとは・・・・・・」
( ゚∀゚)「知らなぇよ。てか、唾でもつけとけばいいだろ?」
( ゚д゚ )「馬鹿者!唾液には確かに、消毒作用も含まれている。
しかしだな、それ以上に雑菌が含まれていてだな・・・・・・」
ミルナのくどくどとした演説にジョルジュは耳を傾けなかった。
銀狼の正体が、自転車だということに重度のショックを受けていたのだ。
(;゚д゚ )「しまったああああああああ!!」
(;゚∀゚)「今度はなんだあああああああ!!」
(;゚д゚ )「俺は遅刻をしない為に急いでおったのだ!!
ぐはぁ、このままでは俺の無遅刻無欠席伝説が崩れ去ってしまう・・・・・・」
( ゚∀゚)「まだ走れば間に合うんじゃね?」
( ゚д゚ )「そうだな・・・・・・よし!」
ミルナは一度頷くと、ジョルジュの手をとり、握り締めた。
その力といったら、リンゴを握力だけで破壊するような圧倒的パワー。
( ゚∀゚)「・・・・・・何の真似だ?」
( ゚д゚ )「生徒会副会長として、遅刻しそうな生徒を見過ごす訳にはいかんな」
ミルナが微笑むと、真っ白な歯がキラリと輝いた。
生まれてこの方、毎日3回の歯磨きを欠かしはしない。
( ゚д゚ )「さぁ行くぞ!!」
(;゚∀゚)「放せっ!!ってか、はえーよ馬鹿野郎!!」
大爆走。
風すらも置き去りにする速度。
これぞ、神速のミルナの真骨頂である。
(;゚∀゚)「おまっ!馬鹿っ!お前の速度で俺がやばい!!」
( ゚д゚ )「何も案ずる事は無い!!
引きずってでも学校に送り届けてやるから安心しろ!!」
(;゚∀゚)「そういう事じゃねぇえええええ!!」
電信柱に顔面をぶつけたりしながらも、ジョルジュは追いつこうと必死になる。
流れ出る鼻血に『運動をもっとするべきだった』と後悔の念を抱く。
いや、それ以上にミルナと関わった事をか。
( ゚д゚ )「見ろ!!愛すべき我が校の生徒達の姿が見えてきたぞ!!」
(;゚∀゚)「ま、マジかよ!!」
見れば、確かに一般の生徒達の姿がそこにはあった。
悠々と時間に余裕を持って登校している者たちである。
( ゚д゚ )「やぁ皆さん!おはよう!!
生徒会副会長のミルナでございます!!
今日も元気に一日楽しくすごしましょうねぇええ!!」
(;゚∀゚)「呑気に挨拶してんじゃねぇよおお!!」
そこで、ふとジョルジュは気付いた。
周囲から向けられる白い視線が、自分にも向けられている事を。
否、それも違う。
数多の瞳は、二人対して向けられていたのだ。
( ゚д゚ )「もっとシャキシャキせんかぁ!」
そこで、ようやくジョルジュは気付いた。
主観的ではなく、客観的に見た自分の立場を。
しっかりと握られた手。
行き来する熱の篭った言葉。
登校を共にする程の二人の仲。
どう見ても―――
(;゚∀゚)「違うよ!!俺は断じてそんな趣味はねぇよ馬鹿やろおおおお!!」
( ゚д゚ )「五月蝿い!!さっさと走らんか!!」
汗で繋がった手が滑ろうとも、離れない。
込められた力は、そんな障害で易々と葬られるものではないのだ。
それはきっと、愛の力・・・・・
(;゚∀゚)「だから、ちげぇよ!!」
ではないようだ。
指をジョルジュ達に向ける生徒。
周りに聞こえないように声を潜めて話す生徒。
腐った妄想を脳裏に浮かべる生徒。
蔓延る笑顔と爽やかな挨拶
麗らかな朝日の眩しい、のんびりとした朝だ。
(;゚∀゚)「助けてぇええええええ!!」
そんな穏やか世界を壊そうとは、さすが不良である。
まったく、困ったものです。
しかし、そんな男を慈悲の念を込めて見つめる影もある。
ξ゚听)ξ「・・・・・・なにやってんだか」
金髪のいけいけなお嬢さんはそう呟いた後、溜め息を零した。
もの凄い勢いで遠ざかっていく男達を見つめ、もう一つ。
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・
( ゚∀゚)「あれ?ブーンはどうしたんだよ」
('A`)「放課後は何か知らんが、あいつは大抵、家の近所の公園にいるぞ」
( ゚∀゚)「ふーん?まぁ、別にいいか・・・・・・」
ドクオは内藤が少女に会いに行っていることを知っていたが、口には出さなかった。
脳内からその現実を削除することで、軽い現実逃避を行っている模様である。
('A`)「というか、また俺の家に来る気かよ?」
( ゚∀゚)「なんだ、悪いのかよ?」
('A`)「いや別に・・・・・・」
かつての、支配と服従の関係の面影など見る由も無かった。
内藤がいない日は二人で過ごす事も多かったし、互いがそうすることを望んでいた。
ドクオは友達が欲しかったし、ジョルジュは一般の人間との関係を欲していた。
それを考えると、この関係は至極当然のものなのかもしれない。
( ゚∀゚)「なぁ、ちょっとそこの自販機でジュース奢ってくれよ」
('A`)「あ?ざけんな、自分で買えよ屑」
( ゚∀゚)(こいつ・・・・・・)
ジョルジュは握った拳を押さえ込む。
ドクオの順応能力の高さは人智を逸していたのだ。
二人はぶらぶらと、だらしなく歩く。
威圧感のある男と、薬でもやってそうな薄気味悪い男の二人組み。
当然、周囲からは畏怖の目を向けられている。
しかしドクオは滅多に無い経験に、若干の優越感を抱いていた。
軽い厨ニ病発症である。
( ゚∀゚)「そういやさー、最近まじで困ってるんだよな」
('A`)「何がだ?」
( ゚∀゚)「ほら、この前さミルナって言うやつに会っただろ?」
ドクオは少し空を見つめた後、拳と手のひらで、ぽんと鳴らした。
('A`)「あの生徒会の人だよな、どうしたんよ?」
( ゚∀゚)「なんか最近、付き纏われてる感じがしてだな・・・・・・」
( ゚д゚ )「それは心外だな、お前が悪事を働かないように見張ってやってるというのに」
(;'A`)・(;゚∀゚)「うわああああああああ!!」
突如、現れたかのようなミルナ。
その実態は傍らにあった木から飛び降りてきたのである。
高速で屋根を伝い、まるで忍者のようにここまでの道をやって来た。
普通に走った方が速い事に彼は気付いていない。
(;'A`)(うちの生徒会は奇抜な登場しか出来ないのか・・・・・・!?)
(;゚∀゚)「何でお前がここにいるんだよ!!」
( ゚д゚ )「今日は陸上部の練習が休みだったんだ」
(;゚∀゚)「そういう事言ってるんじゃねぇよ、この馬鹿!」
( ゚д゚ )「む、馬鹿と言った方が馬鹿と言うのはしらんのか」
ドクオとジョルジュが心中で突っ込んだのは、全く同じタイミングだった。
( ゚д゚ )「それにしても意外だ、ジョルジュと・・・・・ええと」
('A`)「ドクオです」
( ゚д゚ )「おお、そうか、よろしくなドクオ君。
君のようなまともそうな人間と、ジョルジュのようなやつが共にいるとは・・・・・・」
( ゚∀゚) 「お前にだけはまともじゃないと言われたくないがな」
ミルナが飛び掛ろうとした所で、ドクオが間に入り二人をなだめる。
一触即発の雰囲気の中、軟弱そうな男だけが抑止となっていた。
( ゚д゚ )「で、一体何故なんだ?」
( ゚∀゚)「そんなん、俺が多種多様な人間との関わりを持つのも悪く無いかなって―――」
('A`)「ジョルジュがな、友達が欲しいんだってよ」
(;゚∀゚)「んなっ!!」
感嘆の表情をジョルジュは浮かべ、ミルナは『ほう』と頷く。
ドクオはドクオでにんまりと嫌らしい笑顔を浮かべていた。
( ゚д゚ )「不良にありがちな寂しがりやなんだな」
(;゚∀゚)「違う違う!俺はそんなのじゃ断じてねぇ!!
孤独大好きなロンリーウルフに決まってるだろうが!!」
( ゚д゚ )「何も恥ずかしがる事はないぞ。
どれ、生徒会として携帯のアドレス交換ぐらいなら・・・・・・」
(;゚∀゚)「誰がするかあああああああああ!!」
荒々しい雄たけびは何と言っても近所迷惑。
だがドクオはふてぶてしくも、ミルナと携帯の赤外線通信を行っていた。
( ゚д゚ )「で、強がらなくてもいいからお前は?」
(;゚∀゚)「俺のメモリー数なめんじゃねぇぞ!!」
( ゚д゚ )「シャイボーイっていうやつか・・・・・」
(*'A`)(メモリーが増えていく・・・・・・)
( ゚д゚ )「それはともかく、行くとするか」
( ゚∀゚)「は?どこにだよ」
( ゚д゚ )「どこって、ドクオ君の家に決まってるじゃないか。
俺が行っても何の問題はなかろう?」
('A`)「もちろんです、ミルナの兄貴」
ドクオの敬礼のポーズは嫌にびしっと決まっていた。
『苦しゅうない』と返すミルナもまた、様になっている。
(;゚∀゚)「ざけんな、何でお前が!!
って、先に行くな!!俺を蔑ろにするな!!
畜生、ああああ!!もぉぉおおおおお!!」
―――納得いかねぇええええええ!!
ジョルジュの悲痛な叫びは、大空に吸い込まれていった。
電信柱に留まっている蝉の鳴き声が、余韻すら打ち消してしまった。
今日も一日、平和である。
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・
( ^ω^)「あ、アイス当たったお」
(*゚ー゚)「やったね!!60円ゲットだぜ!!」
( ^ω^)「でも、この舐めた棒を店員に渡すの気が引けないかお?」
(*゚ー゚)「そうだねぇ。
私ならともかく、ブーン君が口に入れたものなんてねぇ・・・・・・」
( ^ω^)(ぶっちゃけその通り、とは言えねぇ)
深く頭を悩ませるしぃの素振りに、内藤は不埒な妄想を抱く。
その瞳は、彼女の口元に一心不乱に向けられていた。
( ^ω^)「夏はやっぱりアイスに限るお」
(*゚ー゚)「毎日、同じ事言ってる気がするんだけど」
( ^ω^)「しぃちゃんのその台詞すらも、だお」
この言葉の後に笑いあうのすら、この二人のお約束である。
それでも、飽きはしないし、いつまでもこのままなのだろう。
( ^ω^)「面倒くさいし・・・・・捨てるかお?」
(*゚ー゚)「よし、シュートだ内藤選手!!」
内藤が棒を投げる。
くるくる回ってゴミ箱にすとん。
内藤は高々と腕を掲げ、しぃはぱちぱちと両手を鳴らした。
改めて言うならば、今日も一日、平和である。
【第十話:おしまい】
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