【第9話:米】



(*゚ー゚)「そっか・・・断ったんだね」

( ^ω^)「・・・・・お」

二人が口を閉ざすと、蝉のじぃじぃと鳴く声だけが辺りに響いた。
呑気な顔でアイスを頬張る内藤に対し、しぃの顔は浮かない。
夕焼けに伸びた影を見つめ、ぱたぱたとせわしく足を動かしていた。


(*゚ー゚)「後悔とかはしてないんだね?」

( ^ω^)「んー、微妙なところだお」

ぴく、としぃの体が僅かに反応する。
内藤は食べ終えたアイスの棒を、傍らにあったゴミ箱に狙いを澄ませ、投げ入れる。

( ^ω^)「そりゃ、僕には勿体無いくらいの綺麗な人だったんだお。
       自分の選択だったとしても、未練が残るのが当然じゃないかお?」

棒は見事な放物線を描きゴミ箱に飛び込む。
内藤はそれを見届けると、満足気な表情を浮かべた。


( ^ω^)「後悔は無いけど、未練は残るお。
       あれ、これってもしかして矛盾してるのかお?」

(*゚ー゚)「んーん、言いたい事は分かるからいいよ」

動いていた足は、その言葉と共に止まる。
同時に視線を内藤へと向け、一呼吸を置いてから口を開く。


(*゚ー゚)「変な言い方だけど、断ることって凄く勇気がいることだもんね。
    それを悩んで悩んで、その果てに決めた君は凄いと私は思うよ。」

(;^ω^)「えらく、上からの目線じゃないかお?」

(*゚ー゚)「恋愛小説マスターの私ですからね!」

しぃはニッコリと微笑んだ。

その笑顔は、内藤の選んだ選択の結果によるものである。
故に、彼の胸に幸せな気持ちが溢れるのは至極当然のことであった。


( ^ω^)「しぃちゃんと居ると、何か安心するお」

(*゚ー゚)「え?」

( ^ω^)「凄く心地良いんだお、もうちょい口を良くしてくれれば最高だお」

(;゚ー゚)「いきなりそんな事言うなんて・・・・・頭でもぶつけたの?」

しぃの顔色が青くなったり、赤くなったりを延々と繰り返す。
春夏秋冬の木々の変化よりも多彩なそれは、実に滑稽なものであった。


( ^ω^)「まぁ、しぃちゃんがそう思うならそれでもいいお・・・・・」

内藤はベンチからおもむろに席を立つ。
大きく背筋を伸ばし、長時間座っていたことの疲れを吹き飛ばしていた。

(*゚ー゚)「帰るの?」

( *^ω^)「・・・お腹すいて死にそうなんだお」

しぃはアイスを食べていた彼の事を思い浮かべ、口から息を漏らす。
そんな少女の思いなど露知らず、内藤は腹をさすっていた。


( ^ω^)「それじゃ、また明日」

(*゚ー゚)「明日はハーゲンダッツは期待しててもいいの?」

(;^ω^)「んあー、まぁその時の気分によるお・・・・・」

両者が、大きく手を振り別れの挨拶を済ます。
内藤は夕食の事を妄想しながら、鼻歌交じりに歩いていった。


一方、しぃはその姿をただじっと見つめていた。

影法師だけが、太陽の動きと共に揺らめいている。
彼の姿が公園から姿を消しても、視線は動かない。

夕焼けの薄暗闇にその顔は燃えていた。
何もせずに押し黙っていたその瞳には、何が秘められていたのか。

しかしその表所は、喜びとも哀しみとも呼べぬ、複雑なものが現われていただけだった。


・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・

それは、内藤が席を外したほんの僅かな時間だった。


( ^ω^)「おい、僕の弁当はどこにいったんだお!」

見れば、そこに置かれていたのは空になった弁当箱と思われるもの。
彼の母親が、早起きして丹精込めて作ったものなのだろう。


('A`)「アイ、ドント、ノウ」

( ^ω^)「・・・・・ジョルジュは?」

( ゚∀゚)「ミートゥー」

('A`)「オー、アンビリーバボー」

彼らの頬にはまだ瑞々しい米粒がついていた。
あまりにも、決定的すぎる証拠だった。


( ゚ω゚)「てめぇら、自分の顔を見てから嘘付きやがれお!」

( ゚∀゚)「オー、ドクオ!ライス!」

('∀`)「ユーもNE−!」

( ゚∀゚)('∀`)「AHAHAHAHAHAHAHA!!」

爽やか過ぎるほどの高笑い。
思わず、釣られて笑顔になってしまいそうなものだ。


( ゚ω゚)「・・・・これで何度目だと思ってるんだお?」

内藤には効果を成さないかった。
目が平常時のそれとは異なっていた。

( ゚ω゚)「カーチャンが頑張って僕のために作ってくれたんだお。
      カーチャンが愛情込めて僕に食べてもらうために・・・・・」

('A`)「ワカテルヨー、ウマカタモン」

( ゚∀゚)b「オーイエス!オーイエース!」


('A`)「特にあれが美味かったな、あのなんか巻いてる揚げ物」

( ゚∀゚)「ああ、あれは絶品だったな!」

(  ω )「・・・・・のことか」


('A`)「ん?」

( ゚ω゚)「春巻のことかぁあああああ!!!」

奇しくも、それは内藤の好物であった。
猪突猛進なまでの勢いで両者に彼は迫っていく。

かと思えば、方向は完全にドクオに標的は定められていた。
どうやら、力量の差を見極める理性は残されていたようである。

ドクオの胸倉を掴み、引き摺り、屋上の柵間近へと運んでいく。

畏怖の表情を浮かべて、今の状況に危機を感じるドクオ。
反して、ジョルジュはにたにたと満面の笑みを浮かべていた。
他人の不幸は蜜の味。


(;'A`)「待て、落ち着け、これは孔明の罠だ」

( ゚ω゚)「大丈夫、ドクオは屋上から落ちるんじゃないお。
     現世から、地獄へと直通で堕ちるんだお」

('A`)「おいおい、俺は天使になる男だぜ?」

( ゚ω゚)「堕天使の方が、よく似合うんじゃないかお?」


( ゚∀゚)(なんか、微妙にカッコいいね)

二人が起こす騒動を、コッペパンを食べながら呑気に眺めていた。
他人の不幸をジャムのように、甘美に思っていた。

そして、ドクオの腰までもが、柵からはみ出した時であろうか。
もしくは、内藤がもう少しで仕留められると脳裏に浮かべた時であっただろうか。

一陣の風が、その場に舞い降りた。


(#゚д゚ )「貴様らぁああああ!!何をやっとるかぁああああ!!」

怒号と共に、男が駆け寄ってくる。
その表情は鬼神とでも表すのが適していようか。

(#゚д゚ )「人の命というものはなぁ!!
     繊細で・・・・・高貴で・・・・・易々と捨てていいものではないんだああああ!!」

と思えば、玉になった涙がその大きな瞳から零れ落ちていた。
古き良き時代を感じさせる、実に昭和な男だった。


(;^ω^)「え、いや別に僕は・・・・・・」

( ゚д゚ )「あいやぁ!何も言うなぁ!
     この俺には全てが分かっているから任せておけ!」

ドン、と誇らしげに胸を叩く男。
もはや、冗談だと言っても信じはしないだろう。

('A`)(まぁ、俺は助かったからいいけどね)


( ゚д゚ )m9「またお前だな、ジョルジュ!!」

( ゚∀゚)「俺はまたミルナか、って感じだがな」

大きく突き出された人差し指が、真っ直ぐに向き立てられている。
ジョルジュは呆れた表情を浮かべ、ゆっくりと立ち上がった。


( ゚д゚ )「善良な市民を脅し、殺人を犯せようなどと・・・・・どこまでも外道だな!」

( ゚∀゚)「それで、わざわざ外からそれを見てここまで来たのか?」

( ゚д゚ )「無論だ。悪事を見逃すなど俺には出来ない」

(;^ω^)(・・・グラウンドから屋上まで、ものの一分で来たのかお!?)

ミルナは涼しい顔を浮かべていた。
それは、単に彼の燃えたぎる部活魂の所為だろう。

雨の日も風の日も、彼は陸上に精を出していた。
孤独であったとしても、風邪であったとしても走り続けていた。

そのうち屈強な体を手に入れ、同時に、軟弱な頭脳をも手に入れた。


( ゚д゚ )「今日という今日は成敗してくれるわ!」

( ゚∀゚)「上等だ、返り討ちにしてやんよ」

熱い火花が飛び散る。
今にも、容赦なき鉄拳が振るわれようとしている。


一方。

('A`)「あ、なんか本当にごめんな」

( ^ω^)いえいえ、こちらこそ取り乱してしまったお」

('A`)「教室へ帰りますか」

( ^ω^)「それがいいですお」

内藤とドクオは爽やかな笑顔を浮かべ、片付けを進める。
その見限るという選択は当然であり、最善のものであっただろう。

二人が、以心伝心の間柄にあるからこその芸当だ。
友情とは斯くも素晴らしいものである。


(#゚∀゚)「ボッコボコにしてやんよぉおおお!!」

(#゚д゚ )「貴様を更生させてくれるわぁあああああ!!」

二人が同時に大地を荒々しく蹴りだすと、その間合いが零となる。
そして、加速した勢いに身を任し、両者の右腕が大きな弧を描きながら互いの頬を貫かんと放たれる。
空気との摩擦で火を起こすかのようであった。


それを見て、内藤。

( ^ω^)(頑張れ、二人とも!)

そう心の中で呟いて、その場を後にする。
拳に力を込め、固い握りこぶしが掲げられた。
しかしながら、ぱたんと静かな音を立てて閉まる扉は、彼の心情を表している。

今日も色んな意味で暑い。


・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・

('A`)「そういや、あのミルナって人も生徒会だったなぁ」

( ^ω^)「そうなのかお?」

('A`)「だとすると・・・・・・変な人ばっかだなぁ」

(;^ω^)「・・・・・・だお」

ミルナは生徒会の副会長を務めている。
ついこの間までは会長を目指し、日々選挙活動に明け暮れていた。
しかし、その努力空しく、成績不良という理由で会長の座はクーに委ねられた。


( ^ω^)「変わり者がやる方が面白くなるってもんだお」

('A`)「そうかぁ?」

( ^ω^)「VIP高校は面白いが正義、と校長は語るお」

教室への道中、そんな問答が続く。
廊下には昼休みを満喫する生徒の姿が多数見られた。


( ^ω^)「でも、うちのクラスには普通の生徒会委員もいるお?」

('A`)「変人ばかりって訳でもないんだな」

川 ゚ -゚)「ふん、変人で悪かったな」


(;'A`)「んのわぁあ!!」

突如、二人の目前にクーが現れた。

スカート裾をひるがえし、颯爽と髪を掻きあげていた。
どうやら、風の入りこんでいる、傍らの窓から飛び込んできたようだ。


(;^ω^)「こ、ここは2階だお!?」

川 ゚ -゚)「木にボールを引っ掛けた者がいるらしくてな。
     生徒会長として、それを救わない訳にもいかないだろう」

(;^ω^)「いやいや、もう少し女の子としての自覚をですね・・・・・・」

川 ゚ -゚)「むぅ、自らの使命を果たそうと思ったのだが・・・・・・」

怪訝な表情を浮かべ、クーは腕を組む。
一方、ドクオは腰を抜かして、地べたに座り込んでいた。


川 ゚ -゚)「おや、大丈夫かい?」

(;'A`)「え、あ、はい大丈夫です」

川 ゚ -゚)「どれ、手を貸そうじゃないか」

(;'A`)「あ、ああありがとうございます」

クーの手をとり、ドクオが立ち上がる。
噛み噛みの口調がいかにも、まどろこしい。


川 ゚ -゚)「それじゃあ、私はこの後も仕事があるのでな」

( ^ω^)「お、頑張るんだお!」

川 ゚ -゚)「うむ。ではまた」

別れの挨拶に平手を掲げて、彼女は去っていく。
威風堂々とした面持ちは、さすが生徒会長といったところか。

もっとも、先日の公開告白のせいで後ろ指をさされることも少なくは無い。
だが、彼女の実力がそれを緩和させていた。

・・・・・・というよりかは、関わりたくないという想いが強いのだろう。


そんな中、ドクオは恍惚の表情を浮かべていた。
自分の手をうっとりとした様子で見つめ、にたにたとした笑みを顔に貼り付けている。

( ^ω^)「どうしたんだお?」

(*'A`)「・・・・・・小学校の遠足以来に、女の子の手を触った気がする」

(;^ω^)「・・・・・・フォークダンスとかは?」

(*'A`)「中学の宿泊行事は全部、風邪やらで休んだ・・・・・。
    柔らかかったなぁ、マシュマロみたいだった・・・・・・」

頬に手を擦り付け、匂いを嗅ぎ、嘗め回す。
周囲から浴びせられる、汚物を見るときのような視線。
もちろん、内藤もその中の一人に混じっていた。


(*'A`)「良い香りもした・・・・・綺麗だったなぁ・・・・・・。
    なんかもう、PCの画面から飛び出してきたような・・・・・・」

( ^ω^)(きめぇ)


('A`)「あれ?そういえば、お前よかったのか?」

( ^ω^)「何がだお?」


('A`)「あの人の事、ふったって言ってたじゃんか。
   普通、滅茶苦茶気まずいもんなんじゃないのか?」

( ^ω^)「・・・・・・うーん、クーが普通に振舞うなら僕もそうしようかなって」


('A`)「そうかぁ、へぇ」

言葉と矛盾して、ドクオは困惑した様子だった。
だが内藤も自分の心境に説明がつけられないのは同じだったので補足はしなかった。


その後、二人は別れ、各々の教室へと戻っていった。


・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・

( ・∀・)「あ、会長!これどこに置いときますか?」

川 ゚ -゚)「その机の上でいいだろう」

二人は生徒会の責務を果たす為、資材を運んでいた。
もっとも力仕事は男というモララーの持論で、クーは指示を出すだけだった。


川 ゚ -゚)(正直言って、肉体を持て余す)

(*・∀・)「いやぁ、僕だってやる時はやりますでしょう!?」

川 ゚ -゚)「そうだな。感謝するぞモララー」

自分の貧相な腕を使い、ポーズをとるモララー。
そんな嬉しそうな表情を浮かべる彼に、クーは本来の気持ちを偽った。


川 ゚ -゚)(これは素直に気持ちを伝えない方が良い場面なんだよな、うん)

( ・∀・)「どうかしましたか?」

川 ゚ -゚)「いや、なんでもないぞ」

成長である。


( ・∀・)「そういえば会長、良い事でもあったんですか?」

川 ゚ -゚)「いきなりどうしたんだ?」

( ・∀・)「いえ、ちょっと元気が有り余っているというか」

本人ですら気付かない些細な変化であった。
外見にはまるで普段との違いは見られない。
それでも、モララーは確かにそれを感じていた。


川 ゚ -゚)「そうだな、君が言うならあったのかもしれんな」

モララーは時折、他人の心情を上手く把握する。
人を気遣う事を第一に考える、温厚な心の持ち主であるからだろう。

さっきもそうしてくれればな、などと想いながらクーは返答した。


( ・∀・)「じゃあ、何があったんですか?」

川 ゚ -゚)「ふむ、そうだな・・・・・・」


川 ゚ ー゚)「私は諦めないぞ、と決意したからかな!」



(*・∀・)(・・・・・・良い笑顔だなぁ!)






他の誰が知る由もない、埃っぽい倉庫での出来事だった。





【第9話:おしまい】

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