【第11話:メモリー】




ドクオは風呂上りにプリンを食べていた。
火照った体に冷たく染み渡り、自然と恍惚の表情が浮かぶ。
そして、容器の底に残ったカラメルを指ですくって舐める、そんな時だった。

(*'A`)「・・・・・・おお!!」

マナーモードにした携帯電話が机の上で暴れまわる。
チカチカと光りながら、メールの着信を表示させていた。

(*'A`)(滅多に活動しない俺の携帯が・・・・・・!!
    業者のメールさえ来ない俺の携帯が・・・・・・!!)

ドクオはベッドに飛び込んで頭を何度も叩きつけた。
しばしの時を過ぎると、今度はベッドの上で飛び跳ねた。
下の階にいる母親からの怒鳴り声を受け、しゅんと落ち込んだ。

それでも、にやけた顔を元に戻すことなんか出来なかった。


('A`)「どれどれ・・・・・・」

カチと音を鳴らして、携帯を開く。
何度も練習している、新規メールを見る作業を順調に行った。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

【From:ミルナ】

夜分遅くに申し訳ない

ジョルジュが友達を欲しているというのは誠か?

不偏不党ではない意見を求めている

故、君の誠実な態度を信用し、この文を送る

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

映し出された文章は、一般人のそれとは若干異なっていた。
しかし、脳内がほんわりしている今のドクオは何の違和感も感じない。

慣れない手つきで返信のメールを作成する。

・・・・・・と思ったが、その指の速さ雷鳴の如し。
何故なら、2、3通の受信箱に対し、保存箱には膨大な量のメールが存在するからだ。
もちろん、宛先のないドクオの書きかけメールが。


.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

【To:ミルナ】

マジマジだよぉ(≧▼≦)

昼に言ったとぉり、照れ屋な寂しがりやちゃんだから(*/ω\*)

でもでもぉ☆何でそんな事を聞くのぉ??

ドクオ、すっごぃ不思議だなぁ(゚_゚)(。_。)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(*'A`)「・・・・・・よし!」

満足気な表情を浮かべ、ドクオは送信ボタンを押した。
ここに第三者がいたのなら、彼の愚行を止める事が出来たのだろうか。
否、面白そうだと達観するものばかりだろうと安易に推測出来る。

(*'A`)「・・・・・・・・・」

そして正座をしながら、じっと携帯を見つめているドクオ。

返信を待ちわびているのだろう。
その目は、思春期の男子が想い人を見つめる様子に酷似していた。


('A`)「・・・・・・きた!」

マナーモードの振動も待たずに、携帯を開く。

送ってから、5分も経たずの返信のメールだった。
ミルナもまた、携帯を扱う術に長けているらしい。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

【From:ミルナ】

うむ、迅速な返信、感謝致す

更に、ジョルジュについても把握した

これで明日の行動にも、固い決心がつくというもの

君に相談したのは間違いでは無かった

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



(*'A`)「ほおおおおお!!」

メールが行き来したという事に、ドクオは感動して叫ぶ。
母親に『俺は今幸せだ!』と、自分の想いを伝えに言った。
殴られた。

ただ惜しむべきは、ミルナがドクオのメールに突っ込まなかったことだ。




(*'A`)「えーと、『褒め殺しぃ??(笑)(笑)』っと―――」

その後、ミルナが眠りに就くまでメールは続いた。
ドクオの幸せゲージが満タンになった事は言うまでも無い。


・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・

(;^ω^)「あっちぃお・・・・・」

('A`)「全くだよな・・・・・・とろけてしまうがな」

翌日、全校集会が体育館で行われた。

あまり広いとは言えない場所に、全校生徒がすし詰めにされているのだ。
生徒同士の間隔はあまりにも短く、蒸されてしまうのではないかと思うほどである。

ハンカチで汗を拭く者、手で扇ぐ者、制服のボタンを多めに開ける者。
焼け石に水としか些細な抵抗ではあったが、その場にいる者は皆それらを行っていた。


(;^ω^)「てか、教頭の話のつまらなさが異常だお」

('A`)「先生達の話って、何でこうもつまらないし、長いんだろうな。
   『もうすぐ夏休み』って言葉が無かったら暴動を起こしてもいいぜ」

(;^ω^)「でも教頭暑そうだお・・・・・何故か日光を浴びちゃってるし」

('A`)「だな・・・・・カーテン閉めてやればいいのに。
    ハゲ頭に光が反射して眩しいんだよって誰か言ってやれよ」


内藤が『それはさすがに酷い』と言おうとしたところでカーテンが閉じられた。
同時に、教頭の話もネタを尽きてしまったようである。
この間の悪さが、如何にも教頭という立場らしかった。

( ^ω^)「うひょ、これで帰れる・・・・・?」

('A`)「待て、誰か壇上に上がってきたぞ・・・・・?」


集会の続行に誰もが落胆する中、男が悠々と舞台に立った。
生徒一人一人の顔を凝視するかのように、その目を見開いている。

ビシッと気を付けの姿勢から礼をして、再び背筋を天を突くかのようにのばす。
現役の軍人ではないのかと、誰もが疑うほどの精悍さ。
そしてマイクを握り、凛とした声を発する。


( ゚д゚ )「皆のもの、生徒会副会長ミルナである。
     貴重な時間をこの私めの為に裂いて貰ってもよろしいだろうか」

いいとも、とはとてもでは無いが言えなかった。


『ちょっと、ちょっとミルナ君
 あんまり勝手なことをしてくれるのは困る―――』

川 ゚ -゚)「男の一世一代の大勝負だ。
     それに口を出そうとは言語道断、横断歩道。
     邪魔をしようものなら、生徒会会長、この素直クーが相手いたそう」

ミルナを止めようとした先生を、更にクーが止める。
荒ぶる鷹のポーズをとり、ここは通さんと先生達を威嚇。
舞台に上がる為の階段の下では、このような戦闘が行われている。

ミルナは心中でクーに礼をした。


('A`)「ゲリラ集会ってどんだけー」

( ^ω^)「まぁ、教頭の話よりはマシだお・・・・・・」

こういう時に得するのは、内藤のように即座に諦める者である。
人生、何事もゆとりが必要だという事が彼らに浸透することを願う。


( ゚д゚ )「まずは、今回こんな強行に出た理由ですね。 
     私めの知り合いが、困った事になっているのです」

( ゚д゚ )「あいやぁ!私情と馬鹿にしてはなりんせん。
     これはうぬら全員に関係することではありんす」


( ゚д゚ )「我輩一人ではどうすることも出来ない問題である。
     貴様ら全員、耳を指でほじくったのなら、聞き逃さないようにするのだぞ」

ミルナはてんぱっていた。

次々と口調が変わるのは他でもない。
ミルナはてんぱっている、唯それだけなのだ。


元々、大勢の人間の前に立つのはクーの仕事だった。
彼は裏から彼女を支える、縁の下の力持ち的存在。

しかし、そんな羞恥心を振り切り、彼は立ち上がったのだ。

無論、自らの為ではなく他者の為に。


( ゚д゚ )「ジョルジュ、という生徒を知っているだろうか」

生徒達がざわめきたった。
彼の事を知らぬ者などいないし、自ら話題に出すものもいないからである。
ミルナの行動は言わば、ハリーポッターでヴォルデモートを口に出す事、とはあまり関係が無い。

そして珍しく集会に参加していたジョルジュは、開けた口が塞がらないようだった。
こんな大衆の前で自分の話題を出されたのだから、致し方ない事かも知れない。


( ゚д゚ )「ふむ、その様子ではご存知のようだな。
    極悪非道の大悪党、無く子も黙る超外道。
    道を歩けばモーゼのように人が避けていく事はあまりにも有名だろう」

( ゚д゚ )「また、知らぬ者も多いだろうが足も臭い。
     意外と寂しがりやだし、泣き虫で照れ屋だったりするから性質が悪い。
     アイドルのポスターにチッスをしてから眠るという噂も耳に入っている」

クスクスと、笑い声が漏れ始めた。
しかし、ジョルジュの周囲だけは極寒のように冷たい空気が流れていた。


('A`)「・・・・・・やべ」

( ^ω^)「どうしたんだお?」

(;'A`)「え、あ、いや、何でもないよ」

ドクオはどうしても言えなかった。
メールの楽しさに浮かれてしまった事を。
それ故に、ミルナに有る事無い事、面白おかしく伝えてしまった事を。


( ゚д゚ )「更に、妄想癖もあるらしく脳内彼女がいるらしい。
     厨ニ病というものも発祥しているらしく、包帯が欠かせない。
     極めつけに、『ジョルジュ伝説』という本を書いているとのことだ」 

当然、ミルナはそれが嘘とも知らずに、話し続ける。
生徒達は噴出してしまうのを堪え、先ほどよりも多く汗を流している。

そして、ジョルジュが怒りの咆哮を放つ。
・・・・・・寸前の事だった。


( ゚д゚ )「―――しかし、だな」


( ゚д゚ )「あやつはな、あれでなかなか良いところもあるんだ。
    それこそ、他人には中々見せないようなことなんだがな」

川 ゚ -゚)「はい!具体的にお願いします!」

( ゚д゚ )「うむ、質問に答えよう。
     そうだな・・・・・・俺が最近見たものだと、年寄りに席を譲っていたな。
     コンビニの前で迷惑にたむろする学生を撃退することもあったな」


( ゚∀゚)「・・・・・!!」

ジョルジュはその言葉に愕然とした。

何に驚くって、彼がそれらの行為をした時、周りにミルナの姿は無かったからだ。
つまりは姿が無くとも、いつも見られているという事。

( ゚∀゚)(・・・・・・普通に怖いんですけど)


( ゚д゚ )「それに、元々良いやつだというのも俺は知っている。
     奴が留年する前は同じクラスだったからな
     ・・・・・とある理由があってな。それで心に闇を抱えてしまったのかも知れん」

若干、俯いたミルナの顔に影が出来る。
何かに想いを馳せて悲しみを受けているのだろうか。
しかし、顔を上げなおし、再び生徒達の姿を見据えた。


( ゚д゚ )「それでだな・・・・・・うん。
     俺が言いたいのは唯一つなんだ・・・・・・」

生徒達は皆、例外なく息を飲む。
ミルナの一挙一動を見逃さんと言わんばかりの集中である。

ミルナもまた、口を閉ざしてその視線に応える。
沈黙の重みがその場を包み、緊迫した時が訪れる。

背中に垂れ流される汗は、既に暑さのものだけではなくなっていた。


(;^ω^)(一体、何だって言うんだお・・・・・!!)


そして、その渦中のミルナ。

(;゚д゚ )(・・・まずいぞ、考えていた台詞を忘れてしまった
      とりあえず、意図的に黙っていると思わせるしかないな・・・・・・)

この有様であった。
冷静な表情の裏では、こんな思考が張り巡らされていた。

(;゚д゚ )(こんなことなら、カンペを作っておけば良かった。
      ああ、やはり会長、あなたは偉大であります・・・・・!!)

威風堂々としたクーの姿を浮かべ、改めて尊敬の念を抱く。
今はそんな事をしている場合ではないのだが、かといって対処法も見つからない。


(;゚д゚ )(うう・・・・・・!!)

待望の目を向ける生徒達。
餌を待つ雛鳥のようだと、ミルナは考えていた。

それならば、ミルナは荒地に曝された親鳥。
姿を見せない獲物を捜し求め、滑稽に飛び回る哀れな道化。

届かない思考の先に、彼の導き出す答えとはいかに。


(;゚д゚ )「そ、それでだな・・・・・・」

生徒達が同時に喉をゴクリと鳴らした。
ミルナは観念するかのように口を開いた。


( ゚д゚ )「ジョルジュはな、友達募集中らしいぞ!」

( ゚∀゚)「・・・・・・は?」


( ゚д゚ )「なかなか周りが寄りつかなくて困ってるらしいんだ!
      それで、生徒会の俺の立場を使って友達募集の広告をな!
      先ほども言った通り、寂しがりやだからな、困ったものだ!!」

一度嘘をつくと、加速するだけで止まりはしない。
唯一、静止できるのは諦めるだけなのだが、プライドがそれを邪魔する。
昨晩のドクオと酷似した状況にミルナは陥っていた。


( ゚д゚ )「『不良の俺は恥ずかくて素直になれない』だそうだ。 
      ふは、ふははははは!!可愛い奴だと思わんか?」

そして、こういう時ほど人は耳を傾けるものである。
生徒達にはジョルジュが照れ屋という情報が、確実にインプットされていった。


(*゚д゚ )「話しかけても、初めは辛く当たってくるかもしれない。
      しかし、噛み付きやすい猫だと思えば、悪い事も無いだろう!
      後々には猫なで声でニャーンニャーンだ!!ふははははは!!」

(;゚д゚ )(俺は何を言っているんだ・・・・・・!?)

既に、此処から逃げ出したい思いで一杯のミルナはやけくそだった。
しかし、案外追い詰められてからの言葉の方が本音なのかもしれない。


(*゚д゚ )「そろそろ、俺の話も終わろうと思う。
     それではみんなージョルジュの友達になってくれるかなー?」

生徒達「いいともー!」

(*゚д゚ )「よーし、これにて終幕!!
    今日からジョルジュも友達一杯!夢一杯だ!!」

最後にそう捨て台詞を吐いて、ミルナはその場を後にした。

階段を降り終わった所で、クーが親指を立てていた。
後悔の想いも、それによって全て消え去っていった。


・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・

(#゚∀゚)「・・・・・んで、どうしてくれるんだ?」

(;゚д゚ )「す、すまん・・・・・」

放課後、ジョルジュに呼び出されたミルナは素直に謝罪した。
正座をして、土下座をして、切腹すると言っても許しては貰えなかった。


(;゚д゚ )「俺は良かれと思ってだな・・・・・・!!
     お前が最近、改心したことを皆に伝えようとだな・・・・・!!」

(#゚∀゚)「・・・・・大の男が、猫じゃらしを向けられる気持ちが分かるか?
    『脅えなくていいんだよー』とか言われる気持ちが分かるのか?」

ミルナに、そんな気持ちが分かるはずも無かった。
ただ出来る事は、その場面を想像して噴出す事だけだった。


(#゚∀゚)「殺す・・・・・・!!」

('A`)(豪鬼みたいだ・・・・・・)


('A`)「まぁまぁ、落ち着けよジョルジュ。
    何だかんだで、周りから怖がられることは無くなったじゃねぇか」

( ゚∀゚)「む・・・・!」

('A`)「それに、ミルナさんだって悪気があった訳じゃないんだ。
    むしろお前の為を思ってやってくれたんだぜ?」

ジョルジュはちら、とミルナに視線を向ける。
許しを請う姿からは、とてもではないがそんな姿勢が見られなかった。

( ゚∀゚)「生徒会なんてやる奴にはホントにろくなやつがいねぇよな・・・・・・」



( ゚д゚ )「別に生徒会を否定するつもりは無いが、これだけは言わして貰おう。
    今回、俺がやった事は生徒会としてではなく、お前の友としてだ。
    友人の事を心配するくらい、させて貰っても良かろう?」

真っ直ぐな瞳がジョルジュを捉えていた。

同時に、初めてミルナがジョルジュを友と呼んだ瞬間だった。
生徒会としてではなく、一個人として向かい合った瞬間だった。


(;゚∀゚)「んぐぐ・・・・・!!」

( ゚д゚ )「非礼は詫びよう。
     本当に済まなかった」

拳を地面に突き立てたままの土下座。
今は亡き、侍の姿を確かにそこに見た。


( ゚∀゚)「・・・・・分かったよ、その代わりあんまり付き纏うなよ」

( ゚д゚ )「それは承諾しかねる」

(;゚∀゚)「なんでだよ!!」


('A`)(この二人、なんだかんだで仲良いよね)


『自分もその輪に入っていいのかな?』

と、少しだけ戸惑うドクオだった。


その日、ジョルジュの携帯に新たに追加されるデータがあった。





電話帳に載ったそれを見て、ジョルジュは少しだけ笑みを零す。





登録名は『熱血バカ』





【第11話:おしまい】

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