【第13話:元気無いね】
(*゚ー゚)「くるっとまわって一回転、くるっとまわって一回転。
ひっくりかえってワッハッハー!」
しぃは軽やかにその身を動かし、歌と踊りを奏でていく。
スカートがふわりと浮かび、髪の毛も暴れまわっていた。
そこは、一人の少女が作り出す小さな舞台になっていた。
唯一人の観客である内藤は、賛美の言葉を考えながら拍手を送るのだった。
(*゚ー゚)「あー、恥ずかしかった!」
( ^ω^)「その割には、楽しそうだったお」
(*゚ー゚)「わかるー?なんか楽しくなってきちゃってさぁ!」
そう言いながら、しぃは腰を振る。
少しだけ好色な顔をしてしまった内藤は、そんな自分に後ろめたさを感じた。
同時に、二人以外には、誰もいない事に安堵を覚えた。
( ^ω^)「罰ゲームなんて、普通は蔑ろにしちゃうもんだお」
(*゚ー゚)「私が今やっておけば、いつかブーン君にさせることが出来るじゃない」
( ^ω^)「逃げ場を失くさせるつもりかお」
手渡されたタオルで汗を拭きながら、しぃはにやりと不敵な笑みを浮かべた。
内藤もまた、苦笑いを浮かべて、彼女が提案する罰ゲームとはなんだろうと思いを馳せる。
そして、行き過ぎた妄想に体を震わせた。
( ^ω^)「そういえば、僕の友達が面白いことになってるだお」
話を急転換させたのは、そんな恐怖を消し去る為。
しかしながら、元々、話題に出そうと考えていた事でもあった。
(*゚ー゚)「また?ブーン君の友達は色々とありすぎじゃないかな?」
( ^ω^)「・・・・・確かに最近は、よく話してる気がするお」
『いい加減、うんざりしている?』と内藤が尋ねれば、
しぃは軽く息を零し、否定の言葉を連ねていくのだった。
(*゚ー゚)「ブーン君の事を聞くのは楽しいもん」
( ^ω^)「でも、僕というより、僕の友達が中心になるんじゃないかお?」
(*゚ー゚)「周囲の人間の事を聞けば、中心の人物の事もおのずと分かるものなの!」
不可解に思いながらも、自分の事を良く知ろうとしている少女に内藤は僅かな照れをみせる。
それを見て、しぃはここぞとばかりに攻め込むのだ。
(*゚ー゚)「それに、世界を広めるのは楽しいんだよ。
自分の知らない事が分かっていくのは凄く楽しいし」
( ^ω^)「なんだか、随分と大げさな表現になってないかお?」
(*゚ー゚)「変な言葉しか言えなくて悪かったね!」
不貞腐れて背を向ける少女の背中が、小刻みに震える。
それが演技だという事も分からずに、内藤は愚かにもうろたえた。
(;^ω^)「ご、ごめ・・・・・・」
(*゚ー゚)「冗談だよ、話聞きたいだけだった」
けたけたと笑うしぃに、またかと内藤は肩を落とした。
自らの鈍さのことは重々理解してはいるが、人をからかう癖のあるであろう少女の事を、
流石に勘弁だと思い、そしてまた、どこか憎めないでいる自分に落胆したのだ。
( ^ω^)「小悪魔・・・・・・」
(*゚ー゚)「何か言った?」
( ^ω^)「いや別に・・・・・ただそれも、可愛いなと」
(*゚ー゚)「よく分かんない?」
遠くで犬が鳴いているようだった。
それが公園に駆けてこない事を、目に入った遊具を神に見立てて祈っていた。
(*゚ー゚)「・・・・・・でー、何があったの?」
( ^ω^)「おー、僕の幼馴染の事を好きになって人がいて―――」
内藤はモララーの恋路を面白可笑しく、滑るように口から零していった。
自分の事はともかく、人のそういった話をするのは面白いらしい。
多くの人なら分かるであろう感覚だが、内藤もまた同じように楽しんでいた。
(*゚ー゚)「それで!それで!!」
また、少女も同じく。
ここぞとばかりに目を輝かせ、身を乗り出して話を聞こうとしていた。
しかし、彼女の場合は恋愛慕情を聞く事が面白いのであろう。
思春期の女子にはよくあることで、何よりも話題になりやすい事というのが第一なのだから。
( ^ω^)「――という訳で、今もデート中だと思うお」
(*゚ー゚)「ふーん・・・・・いいねぇ、青春だねぇ」
しみじみとしている少女は外見がともなり、実に滑稽に思えた。
また、しぃは唐突に何かを思いつき、あ、と軽く声を漏らした。
(*゚ー゚)「私達のこれはデートになるの?」
放たれた言葉は、内藤の心を貫いた。
これ以上ないまでに取り乱し、声にならない言葉を吐いた。
酷く赤面したその顔は、限界を見せずに更に更にと赤くなっていった。
少女は、そんな様子をみて満足気に、もう一度頷いた。
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・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
('、`*川「いやぁモララー、今日という日を楽しみにしていたよ」
( ・∀・)「誘ったの今日じゃんか・・・・・・」
軽く手を挙げて挨拶を交わすと、早速のジャブがモララーに突き刺さる。
のっけから、こうもボケられると、流石のモララーも雲行きを心配するばかりであった。
('、`*川「んで、今日は私をどこに連れ込む魂胆なんだ?」
( ・∀・)「なんか、人聞きの悪い言い方するのは止めてよ!
場所は一応決まってるから、とりあえず行こうか・・・・・・」
モララーが時間を確認すると、時刻は4時を過ぎていた。
夏の恩恵を考えても、そろそろ日は暮れ始め、夕方と呼べる時間帯になるだろう。
学校の終わりと迎えた後なので、仕方ないと言えばそうである。
しかしながら、やはりどこか焦りは生まれるもので、やや早足になるのは抑えられなかった。
('、`*川「ここで、モララーのデートテクニックが試される訳なんだがな。
・・・・・果たして、どうなることやら」
( ・∀・)「不安になるような事は言わないでよ!
・・・・・えと、もう少しで着くと思うんだけどな・・・・・・」
ある程度の不安もあるものの、モララーは軽い安堵感を持っていた。
頼れる生徒会長からお勧めされたデートスポットに、間違いは無いと確信していたからだ。
( ・∀・)「えーと・・・・・あ、ここだね!」
('、`*川「ここか・・・・・?」
( ・∀・)「うん、ここ!!・・・・・ここ・・・・・?」
('、`*川「・・・・・何故、お前がうろたえている」
そして、即座に考えを改めさせられるのだ。
頼る事は出来ても、こういった出来事については、二度と相談しないと。
『寄生虫館』と禍々しく掲げられた看板。
それに、そんな誓いを立てた。
( ・∀・)「えと・・・その・・・どうでしょう?」
('、`*川「どうでしょうって・・・・・お前がここに連れてきたんじゃないか。
お勧めの場所なんだろ?」
( ・∀・)「いやぁ、なんていうか、アハハハハ!!」
笑って誤魔化す他なかった。
無論、ペニサスがそれで納得する訳はないと理解して上で、だ。
('、`*川「まぁ、いい。とりあえず入るか」
( ・∀・)「え、マジ?」
('、`*川「折角来たんだし、行かない訳にはいかないだろ。
さーて、どんな物が見れるのかなー!」
モララーは重たい足を引きずり、ペニサスの背中を追いかけた。
館内に入った瞬間、薬品の強い匂いを感じて、後悔の思いは膨らんでいった。
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・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・
('、`*川「・・・・・・・・」
( ・∀・)「・・・・・・・・」
('、`*川「もう、パスタとか食べられないかもしれない」
(;・∀・)「僕は、麺類全般アウトかな・・・・・・」
行きとは別人に思えるほど、暗い顔の二人が現れた。
格好さえ整えれば、通夜の帰りと言っても何ら疑問を感じないだろう。
('、`*川「ここまで私をへこませるとはね・・・・・。
モララーも成長したじゃないか・・・・・」
( ・∀・)「そんなつもりは毛頭なかったんだけど・・・・・」
('、`*川「だとしたら、あんたのセンスはミジンコ以下・・・・・・」
モララーのクーへの恨みは増すばかりであったが、
言ってしまえば、それは自業自得以外の何物でもなかった。
空の暗がりは増していくばかりで、既に太陽は落ちかけている。
また、日が落ちる事より、分厚い雲の層が光を遮る一番の要因になっていた。
( ・∀・)「・・・・・・あ」
('、`*川「・・・・・・最悪、じゃん」
そして更に悪い事には、一つ、また一つと線が空間に現れていく。
それが数多にも重ねられていき、路上には黒のまだら模様が描かれた。
雨は、二人の体を濡らしていた。
('、`*川「やっぱ降ってきたかー、よしずみが言ってたもんなぁ」
( ・∀・)「天気予報士は皆、よしずみって名前じゃないんだよ」
('、`*川「そうなのか!?やべぇ、また一つ賢くなっちゃったよ・・・・・・」
圧倒的に常識が足りない、とは言えなかった。
( ・∀・)「とりあえず、どこかで雨宿りしないと・・・・・・」
('、`*川「寄生虫館には戻りたくないぞ」
( ・∀・)「それには全面的に同意だよ・・・・・・。
あ、あそこの木の下なら濡れなくて済みそうだよ」
モララーが指差した方向には、一本の大きな木が構えている。
都合の良さを感じる程に、この町中で妙な存在感を放っている。
二人はそれに駆け寄り、しばしの時を過ごす事にした。
('、`*川「すぐ止む・・・・・・と良いんだけどね」
( ・∀・)「うーん、雨が少し弱くなったら、どこかで傘買って帰ろうよ」
('、`*川「だな、暗くなってきそうだ」
木の下は、影もともなり闇の中のようだった。
互いの表情が薄っすらと確認出来る程度で、雨音だけが嫌に響いていた。
( ・∀・)「・・・・・なんか、ゴメンね。
こんなことになるなんて、思わなくって」
('、`*川「別に良いさ、それなりに楽しかった」
( ・∀・)「嘘?」
('、`*川「いや、何も考えずにいられたしな」
地面に当たった雫が飛び散り、足元にまで飛んできた。
モララーはそれを確認すると、ペニサスとの距離を少しだけ縮めた。
僅かに見えた横顔は、どこか憂いを帯びていた。
( ・∀・)「最近さ、何かあったの?」
('、`*川「・・・・・急に変な事を聞くじゃないか」
( ・∀・)「急って言う訳でもなくて、ちょっと前から思ってたんだけどね」
いつしか、二人の視線は平行に並んでいた。
交わる事もなく、ただただ、真っ直ぐに。
('、`*川「私は、どこか変だったか?」
( ・∀・)「うん、ちょっとだけ元気が無かった感じ。
ブーンとかは気付いてなかったから、僕にだけそう見えてたのかも知れないけど・・・・・」
('、`*川「そうか、アイツは気付いてなかったか・・・・・・」
( ・∀・)「それでね、今日は元気付けようと思ったんだ。
・・・そうしたかったんだけどね・・・・・・」
いくらペニサスが弁解しようと、失敗は間違いなく事実だった。
モララーは頼りにならない自分に成長を与えるため、この失敗は甘んじて受けようとしていた。
('、`*川「・・・・・しかしまぁ、お前には隠し事は出来ないみたいだな」
( ・∀・)「そりゃあ、いつもペニサスちゃんの事を見てるから・・・・・」
('、`*川「あ、何だって?」
( ・∀・)「いやいや、なんでもないよ!うん!」
('、`*川「元気が無いか・・・・・・」
その言葉自体にも、覇気を感じられなかった。
天真爛漫をそのまま表しているような彼女だったが、今はまるで面影が無い。
( ・∀・)「何かあったならさ、僕に教えてくれないかな。
一人で悩むよりかは、何倍も良いことだと思うよ」
('、`*川「・・・・・・まぁ、お前になら教えてもいいかな」
モララーは心中で喜びを感じた。
自分だけ特別扱いを受けた事に、優越感を得たのだ。
('、`*川「あんまり、こういう事を人に言うのは柄じゃないんだがな。
何だか、自分だけで抱えてるのも疲れるし、何より辛い」
( ・∀・)「そんなに大変な事なの?」
('、`*川「さぁ、人によっては軽いことなんじゃないかな」
少しだけ間を置いて、ペニサスは再び口を開いた。
('、`*川「私、内藤の事好きだったんだよね」
雨は衰えるどころか、激しさを増すばかりだった。
モララーの心をそのまま映し出すかのように。
【第13話:おしまい】
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