( ^ω^)猛暑のようです
  【第14話:孤独】





( ^ω^)「おいすーモララー!」

( ・∀・)「あ、おはよう、ブーン」

朝の教室は、授業が始まる前の楽しみにと、多くの生徒が話に花を咲かせていた。
内藤も適当に鞄を置いて整え、周囲の者と同じように口を滑らす。

( ^ω^)「んで、昨日はどうだったんだお?」

( ・∀・)「昨日って・・・・・・デートの事?」

( ^ω^)「そりゃもう当然のように。
     メールで聞こうかと思ったんだけど、何か申し訳なくて・・・・・・」

曰く、モララーの興奮を冷ましてしまうのではないかと思ったらしい。
無駄なお節介だと思いつつ、モララーは内藤の顔を改めて眺めてみた。

純粋で、真っ白で、穢れの無い子供のようだと思った。


( ^ω^)「・・・・・・な、なんだお、あんまり見るなお」

( ・∀・)「いや、ブーンの顔を見ると元気が出ると思ってね」

( ^ω^)「馬鹿にしてるのかお?」

( ・∀・)「そうじゃなくって、唯、単にそう思っただけなんだよ」

内藤の頭に疑問は浮かべど、モララーはそれを解消させてくれそうにはなかった。
言葉を自分の心の中に押し込んで、もう一度先ほどと同じ問いを投げかけた。


( ・∀・)「デート、デートか・・・・・・失敗だったんじゃないかな」

(;^ω^)「え、マジかお?」

( ・∀・)「うん、デートに選んだ場所は大不評。
      おまけに雨が降ってきたりで、正直、散々な一日にさせちゃったかも」

( ^ω^)「うーん、でもそれなりに楽しんでくれてたりはしなかったのかお?」

ペニサスは確かに、そう言ってはくれた。
しかし、それが同情の言葉だったのかもしれないと思ったので、無理に否定はしなかった。


( ・∀・)「それにさ・・・・・・ペニサスちゃん、好きな人いるんだって」

(;^ω^)「うえぇ!?」

( ・∀・)「相談までされちゃってさ、拷問かと思ったよ。
      好きな人が、好きな人の事を語るとか・・・・・笑い話にもならないよね」


( ^ω^)「いやいや、別に付き合ってる訳でもないんだお?」

( ・∀・)「うん、片思いだって言ってた」

( ^ω^)「それなら、熱烈なアプローチをかけて惚れさせてやればいいお!」

内藤はどん、と胸を叩いて勇気を出せと渇を入れた。
モララーが応えようとしたところで、今度は首を傾げて呟くのだ。


( ^ω^)「アイツに熱烈なアプローチとか・・・・・・まるで意味が無い気がするお」

( ・∀・)「何で?」

( ^ω^)「気持ちよりも、物品にこだわる気がするんだお。
      『私に交際を申し込むなら、まずは食べ放題に連れて行け』・・・・・とか」

そんな悪意に満ち溢れたイメージにも関わらず、同意の言葉を唱えた。



( ・∀・)「まぁ、いいんだ、付き合いたいとかそういう訳じゃなかったからさ。
      僕はペニサスちゃんが幸せならそれでもいいかなーって」

( ^ω^)「でも、元気が無いように見えるなら幸せじゃないんだお?
       モララーが何とかしてやるのがいいお」

( ・∀・)「簡単に言うね」

( ^ω^)「人事だからだお」

立場が逆だったら自分は真剣に相談に乗るのに、
と思いつつも、内藤の能天気さは重々承知してることだったので良しとした。


( ・∀・)「・・・・・・はぁ、ブーンには絶対に敵わない気がするよ」

( ^ω^)「別に僕に勝つ必要なんか無いからいいんだお。
       ペニサスをたらしこんだ奴に勝てばいいんだお」

( ・∀・)「たらしこんだって・・・・・何か違う気がするけど」

内藤の顔に、悪意などまるで見られない。
それでもモララーにだけは、悪戯めいた顔に見えていた。



先生が教室に入るのと、始業のベルが鳴るのは、ほぼ同じタイミングだった。
遅れた生徒達が駆け込むように教室に入ると、ざわめきが大きくなり、話も通り辛くなった。
二人は話を中断し、自分達の席に戻っていく。

その間際、最後に内藤が一言だけモララーに告げた。


( ^ω^)「何があっても、僕はモララー応援派だから安心するお!」

( ・∀・)「・・・・・・本当にブーンは良い人だね」


当然だと言い残し、他の生徒との会話を始めた内藤。
モララーは席に着いた後、一度だけ彼を見直し、また視線を前へと戻した。

良い人、だからこそ困るのだ。
内藤に勝てないからこそ、問題なのだ。

・・・・・・ペニサスの思い人は、他でもない内藤その人なのだから。

表情は崩さないし、変わった仕草を行う訳でもない。
今のモララーが圧迫感に襲われているのを知る者など、誰一人としていなかった。




        *         *         *

(;・∀・)「え、あ、ブーン・・・・・・?」

('、`*川「意外か、まぁそりゃそうだよなぁ」

モララーの声は雨音で掻き消されてしまうほど、か細かった。
二人の距離は肩が触れてしまうかと言うほどで、でなければ会話にはならなかっただろう。
モララーは高鳴る心臓の音を煩いながらも、それに続く言葉を探していた。


('、`*川「普段は喧嘩ばっかしてるように見えるもんな、誰も気付かないよね。
     というより、私が恋とかそういうのを意識してるってのがまず、無いか」

それも間に合わず、先にペニサスが言葉を紡いでいった。
髪を掻き揚げると、暗がりに僅かな表情を確認する事が出来た。

今までに見たことの無い表情で、それは、艶やかさを感じ取れた。


( ・∀・)「・・・・・・いつから?」

('、`*川「いつだろ・・・・・・いつの間にかなんだよね。
     ずっと昔から一緒だったからな・・・・・もしかしたらずっと前かもしれない」

内藤とペニサスは、小学校の頃からの付き合いだったという。
モララーの知らない過去が二人にはあった。


('、`*川「アイツの事を見てるとさ、元気になれるんだよな。
     馬鹿で、どん臭くて、鈍くて、それでも明るさだけは人一倍で。
     こっちまで楽しくなってくるっていうかさ」

気恥ずかしいのか、ペニサスの言葉選びは慎重だった。
それにも関わらず、モララーが口を挟むことはなかった。
無粋だと思うところもあったし、何よりも言うべき言葉など見つからなかったのだ。


('、`*川「好きとか良く分かんないけど、アイツ見てると心が温かいっていうかさ。
     本能的で悪いんだけど・・・・・・多分、これが好きって気持ちなのかなって最近思ったんだ」

しとしとと降る雨の中、大きな木の下。
通行人の姿もなく、女性の声と雨の音は終わりを見せない。
静かだった。無音ではないものの、動きのない静寂の空間だった。


( ・∀・)「最近、元気が無かったのはブーンが関係するの?」

('、`*川「関係するって言えば、するのかな。
     どちらかと言えば、自分自身に対してが大きいんだけどな」

モララーが無言で頷き、ペニサスは続けた。


('、`*川「最近さ、内藤の事を好きだって言う女の子いたじゃない。
     あの生徒会長のクーっていう子、モララーも当然知ってるよな」

そこでクーの名が出たのを驚きつつも、モララーは応えた。

('、`*川「自分の気持ちを伝えて、相手に正面からぶつかっていって。
     普通はそう簡単に出来たもんじゃない事を、あんなに簡単にやるんだよ?
     ・・・・・・本心を素直に人にぶつけるなんて、怖くて出来ない」

確かに、それは容易い事ではなかった。
相手の反応がどんなものかなど、まるで予想がつかないのだから。

そう分かっていながらも、モララーはその言葉を聞くのが辛かった。
憧れていた女性が弱音を吐き、自分と同じように悩んでいたのは嬉しくもあった。

だけども、同じだからこそ、悲しかったのだ。


('、`*川「それでね、気付いちゃったんだ。
     好きだって言わないのは付き合いたいとか思って無かったからじゃないって。
     ただ単に、拒否されるのが怖いから口に出さなかっただけなんだって」

それも同じだ。怖かった、だから言わないのだ。


('、`*川「そしたら、自己嫌悪みたいになって、少し落ち込んでたんだよな。
     上手く隠してるつもりだったんだけど・・・・・・モララーには、ばれたかぁ」

明るい口調で、悲壮感を帯びているのようにも思えて。
モララーは涙ぐみそうになりそうになり、それを堪えるのに必死だった。

('、`*川「今では、元気貰えるはずの内藤の顔を見るのも少し辛いね。
     恋する乙女なんて柄じゃないけど、そんな感じになってるかも。
     ・・・・・・嫉妬とか、自分でも身の毛がよだつ程、気持ち悪いよ」

勝手な幻想を抱いて、強く気高く美しい、自分の理想像のような女性だと思っていた。

しかし現実は違った。
彼女もまた、自分と同じように悩み苦しみ、誰かに支えられて生きていたいと考えていた。

それが、こんなにも非力な自分であってもだ。
うじうじして、男らしく無くて、人に元気を与える事なんて出来ないのに。

・・・・・・それぐらい彼女は誰かに助けを求めている。
それぐらい、苦しんでいるのに、それなのに。


『僕には、何を言えば良いのか分からない』


いや、今のモララーには捧げるべき言葉が見つかろうとも、口に出す事は無いのだろう。

その恋が成就するようにと願うことなんて、出来ない。
利己的だと言われようとも、相手は自分が想っている人に他ならないから。



('、`*川「今日はさ、寄生虫やら雨やらで色々あったけどさ。
     ここに来て良かったと心の底から思えたから、気にするなよ。
     ・・・・・・誰かに悩みを話せるっていうのは、何よりも気が楽になる」

それは嬉しい事で、だけども悲しい事で。
信頼されている喜びと、悩みの内容で打ち砕かれる恋心と。

地面は雨で濡れて泥になっている。
狭間で揺れる思いも同じく、濁り、淀んだ色に成り果てていた。


('、`*川「何か、雨が止みそうに無いな。
     ・・・・・・しょうがないし、走って帰るしかないかな」

ペニサスはモララーの返事も待たず、柔軟を始める。
精一杯の強がりがそこにはあって、モララーもそれに気付いていた。

しかし、それでも口を開く事は無かった。
心中での葛藤は続き、真っ直ぐに向いた視線は、俯いたものに変わっている。

二人の視線が交錯する可能性は、零へと向かっていた。


('、`*川「ほら、モララー行くよ!
     全力で走らないと、置いていくからな!」

ぽん、と肩に置かれた手にモララーは我に返った。
目の前にいる意中の人は、髪の毛をゴムで束ねていた。

それはペニサスが部活動を行う時にする格好である。
モララーが意味に気付き、声をかけようとする時には少し遅かった。


('、`*川「ついてこいよ!!」

言い残し、彼女は走り去っていく。
日々運動に精を出しているペニサスの脚力は相当なものであった。
男と女の差はあれど、運動を苦手とするモララーの足では到底、追いつけるものではない。

雨の中、靴の中までぐっしょりと濡れていて、走るたびにビチャビチャと音が鳴る。
火照った体が雨で冷やされても、高鳴った心臓を押さえつけてくれる訳ではなく、辛い。
モララーは走る。手を伸ばしたら掴める距離にあると信じ、彼女の背中を追いかける。

届かない。遠ざかっていく。

届かない。その手は空を掴むだけ。

届かない。どこまでも自分は無力だ。


届かない、届かない、トドカナイ―――




        *         *         *


(;・∀・)「行かないで!!」

喉が張り裂けんばかりの声を出し、モララーは叫んだ。
その瞳は薄っすらと赤く染まり、心臓はどくどくと脈打っている。

乱れた呼吸を直し、改めて視界を鮮明にすると、信じられない光景が彼を待っていた。


教師「天才は、授業中に寝てても学年1位とれるからな。
   ・・・・・・だがなぁ、そんな大げさに寝言を言われたら俺だって叱らざるを得ないだろう?」

軽く頭を叩かれたモララーは、思わず「いたっ」と漏らした。
ジョーク交じりの先生のお叱りに、ぽつりぽつりと笑い声が湧いていた。


( ・∀・)「あれ・・・・・・?」

教師「どうした」

( ・∀・)「今は、何の時間ですか?」

もう一度、拳が振るわれる。
今度は教室中に笑いの渦が起こった。

モララーそこでようやく今の状況に気付き、赤面した。


教師「今なら、顔を洗ってくるのを許可してやるが?」

( ・∀・)「えぇと、トイレに行くのもありですか?」

教師「お前は・・・・・好きにしろ」

礼をして、モララーは教室を後にした。
こういった傍若無人な振る舞いには、何故かヒーロー扱いが待っているものである。
拍手で送り出され、彼もまた腕を挙げてそれに応えていた。


授業中の廊下というのは、静かなものである。
普段は雑談をする者が溜まり、五月蝿く感じる程であるが、今はそんな事は無い。

各教室から授業の音が僅かに聞こえはするが、他には足音が響くだけである。
一人だけ別世界にいるような感覚をモララーは楽しみ、そして少しだけ恐れた。

( ・∀・)「孤独は、絶対的な恐怖だよね」

ペニサスの悩みを言えて良かったという言葉を思い出し、モララーは呟いた。


手洗い所の鏡で顔を見ると、モララーは自分が酷い顔をしている事に気付いた。
白く美しい肌には跡が残り、自信なさげな表情が映し出されている。

昨日の出来事を夢で思い出したことで、精神的にまいっていたのだ。
そう理解してはいるものの、自分の弱さというものに彼は酷く落胆した。



強く、なりたい。

他人に元気を与えられような。

でも、こんな顔をした人間にそんな事が出来るのか?




モララーは鏡に水をかける。
水滴が残り、その場所に映し出されるはずだったものは見えなくなっていた。



【第14話:おしまい】

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