【第15話:強いって何さ】
昼休み、生徒達は仲の良い者同士で固まり、輪を作っていく。
そして集まりから外れている者が、ぽつりぽつりと浮かび上がり哀愁を漂わせていた。
たった一言で、その一人ぼっちの世界を終わらせることが出来る。
しかし恥ずかしさと恐怖と、ほんのちっぽけなプライドがそれを邪魔していた。
それは孤独を感じている者に限った事ではない。
集団の中の一人が、声をかけようと迷っていることも少なからずあるのだ。
彼らもまた、同じような理由でそれを躊躇い、心にわだかまりを抱いてしまう。
互いが互いの存在を望んでいるにも関わらず、交わりあうことは無い。
孤独とは、そうして出来上がったいく。
ほんの少しのすれ違いと、僅かに足りない勇気と。
素直になり切れない、自分自身への嘆きは募るばかりだ。
( ・∀・)(人間、一人では生きていけない、かぁ)
臭いドラマの台詞でそんな言葉があった。今は唯それを痛感する。
どんなに強く見える人間でも脆い部分があると、最近になってようやく知ったのだ。
ペニサスのような人間でも、心に闇を抱えることはあるのだ。
ペニサスに好意を持った理由は、自分にない強さを持っているからだった。
格好良いと心の底から思い、崇め、いつしかそれは愛という気持ちに変わっていた。
しかし、今その根底は崩れた。
彼女の強さは、弱さの上に塗り固められた強がりが表面上に現れていただけなのだ。
自分と同じ弱さを持っていて、それを上手く隠すことが出来ていただけなのだ。
普通の、どこにでもいる女性の一人に過ぎないのだ。
ならば、この想いは無かったことになってしまうのか?
( ^ω^)「なーに、難しい顔してるんだお?」
(;・∀・)「うわぁ!」
モララーが深い思考から目覚めると、内藤の顔がすぐ傍にあった。
生暖かい息が吹きかかり、勘弁してくれと心の底から思う。
( ^ω^)「ひょっとして、ペニサスがいるからかお?」
( ・∀・)「そういう訳じゃな・・・・・・くもないんだけどね」
潜めた声は、二人以外に通ることはないだろう。
('、`*川「男同士で、そんなにくっつくとは・・・・・・気持ち悪い」
( ^ω^)「なら、ペニサスにやってあげようかお?」
('、`*川「お前の眉間に、このフォークをぶっ刺してやろうか?」
ペニサスが右手に掲げたフォークがキラリと光る。
怖い怖いと内藤は後ずさり、モララーは苦笑いを浮かべた。
終業式が近づき、部活動が一時お休みとなっている。
ペニサスはこれでもかと言わんばかりに喜び、満を期して遊びに耽っていた。
しかし、モララーと内藤は知っている。
休暇にも関わらず、自主練習に励んでいる事。
何だかんだ言ってはいるが、ペニサスが部活動を誰よりも愛している事を。
('、`*川「いやぁ、教室は涼しくていいねぇ。
体育館にも冷房つけば良いのに・・・・・・冷蔵庫くらいにしてさ」
( ・∀・)「多分、運動し辛いと思うんだけど・・・・・」
( ^ω^)「てか、どんだけ贅沢する気だお・・・・・・」
( ・∀・)「今日も、ブーンは屋上行かないんだね。
最近、行く回数がもの凄く減った気がするんだけど」
( ^ω^)「あの場所、今は立ち入り禁止だお」
( ・∀・)「え、何で?」
( ^ω^)「・・・・・ある馬鹿が、ある馬鹿のお弁当をぶん投げたんだお。
それがある馬鹿の頭に当たって、怒り心頭で弁当を投げ返して。
んで、屋上から校庭に向かって・・・・・・」
('、`*川「屋上から物を落としたのか!?」
( ^ω^)「当然のように、立ち入り禁止の令が勃発だお。
自業自得、ざまぁみろって感じだお」
ミルナの独断により、その令は行われていた。
自分は被害者であるとの一点ばりで、頭のたんこぶをさすっていた。
( ・∀・)「ていうか、みんな馬鹿じゃよく分からないんだけど」
( ^ω^)「これ以上に適した表現は無いと思うお」
( ^ω^)「良いから、弁当を食べるお!
あんな阿呆どもの話をしてたら、飯が腐っちゃうお!」
('、`*川「お前に阿呆とか馬鹿とか言われるのは凄くかわいそうなんだが・・・・・・」
( ・∀・)「まぁまぁ、早く食べないと昼休みも終わっちゃうじゃない」
並べられた弁当箱は3つ。
ペニサスの分と、モララーの分と、ペニサスの分だ。
( ・∀・)「・・・・・・あれ?ブーンのお弁当は?」
(;^ω^)「・・・・・・・・・・・・」
('、`*川「忘れたのか」
(;^ω^)「「腐る暇も無かったお・・・・・・」
ペニサスは一つ溜め息をつき、モララーはその意味を理解した。
弁当は3つある。ここで行われるべき行動は唯一つであろう。
モララーは若干芽生えた嫉妬の心を抑えつけ、見守ることにした。
ペニサスの手が弁当に伸びる。内藤は俯いていた。
ペニサスの口が開かれようとしている。それよりも早く、他の声が聞こえた。
川 ゚ -゚)「お困りのようだな、内藤」
モララーは思わず、口に含んだ茶を噴出しそうになった。
掃除用具入れの中から現れたクーは意気揚々とこちらに向かってきた。
(;・∀・)「か、会長、いつからそこに!?」
川 ゚ -゚)「いつから、という訳ではない。
この学校には、生徒会長のみが知る道がいくつも存在するのだよ」
そんな馬鹿な、と誰もが心の中で呟いた。
( ^ω^)「・・・・・で、僕に何の用だお?」
川 ゚ -゚)「おお、そうだ、これを見るんだ内藤」
勢いよく突き出された右手には、可愛らしい包みが握られていた。
( ^ω^)「お弁当、かお?」
川 ゚ -゚)「うむ、クラスの女子に聞いたところ、このアプローチが良しと言われてな。
早速と意気込んだところ、都合よく弁当を忘れているとは・・・・・・運命か」
( ^ω^)「呪いに近いような気がするお・・・・・」
内藤とクーの会話は、傍から見れば微笑ましいものだった。
仲の良い男女の、心温まる風景。
だが、ダメなのだ。
今ここにある全ての感情を知ったモララーには、心苦しいものに他ならないのだ。
ペニサスのお弁当に伸びた手が、再び自分の元へと戻るのを見るのは・・・・・・悲しかった。
開きかけた口に飲み込まれた言葉は、彼女の心を傷つけるだけなのだから。
('、`*川「・・・・・・貰ってやれよ、好都合な事この上ないじゃないか」
そんな強がりを言っているのを見るのが、心苦しかった。
( ^ω^)「うん、じゃあ素直に貰うとするかお。
・・・・・・ちなみに、味の方がどんな感じなんだお?」
川 ゚ -゚)「保障しない。味見は皆無だ」
(;^ω^)「・・・・・・・・・・・・」
彼女の二人の掛け合いを見る目が、歪んで見えた。
それはモララーにしか分からないもので、本人にすら気付かないもので。
('、`*川「まぁ食べてみないと分からないだろ?」
川 ゚ -゚)「その通り、それに愛という調味料は全てを凌駕するさ」
( ^ω^)「・・・・・・何か、最近絶好調って感じじゃないかお」
ペニサスの手が強く握られていて、震えていた。
・・・・・・。
耐える事が出来なかったのは、ペニサスではなくモララーだった。
( ・∀・)「僕はペニサスちゃんが好きだ!!」
('、`*川「・・・・・・へ?」
(; ゚ω゚)「ぶふぉ!!」
川 ゚ -゚)「おお」
夢の最後に放った言葉よりも大きく、あらん限りの声を出して言い放った。
思い切り立ち上がった拍子に、椅子を蹴飛ばしてしまった。
教室中の視線が彼に注がれる。それどころか、外部から野次馬がすら訪れ始めた。
しかし、モララーがそれらを気にする事はなかった。
( ・∀・)「強いとか弱いとか、色々考えてたけど止めた!
めんどくさい事はいらない、僕はペニサスちゃんが好きなんだから!」
('、`*川「・・・・・ど、どうした急に」
( ・∀・)「わかんない!でも、何か急に叫びたくなった!
というか、今言わないと僕はずっと駄目になる気がするんだ!
ここが、僕が漢になるチャンスなんだ!」
沸騰した頭に、余計な考えは浮かばなかった。
本能の赴くまま、というのが正しいだろう。
( ・∀・)「僕がペニサスちゃんを好きっていうのは変わらないし、それは良いんだ。
だけど・・・・・・落ち込んでいる所よりも、元気一杯のペニサスちゃんが見たい。
いつも楽しそうで、カッコイイペニサスちゃんのほうが、僕は好きなんだ」
('、`*川「・・・・・そう、か」
( ・∀・)「あの人の顔を見ると辛くなってしまうなら、
元気を与えてくれる人がいないっていうなら、
僕が、その元気を与える人間になれるように頑張るから、だから笑っていてよ!」
川 ゚ -゚)「なんという臭いせりh」
(;^ω^)「今は黙ってるんだお!」
もがもがと口を動かすクーを内藤は必死で抑えつけた。
外野ではこんな馬鹿げた騒動も起きているが、モララーの耳には入らない。
今のモララーの瞳は彼女を見る為だけにある。
今のモララーの耳は彼女の声を聞く為だけにある。
今のモララーは、彼女の為だけにこの場所にいるのだ
('、`*川「お前が好きと言っても、私は応えられないぞ」
( ・∀・)「僕はペニサスちゃんが元気なら、それでいいよ」
('、`*川「本当に?」
(;・∀・)「うう・・・・・じゃあ、言い直すよ。
僕は、ペニサスちゃんが好きって言ってくれるまで諦めない」
自分でも変な話だとは気付いていた。
でも、これが本心なので良しとした。
川 ゚ -゚)「諦めの悪いやつだ・・・・・・」
( ^ω^)(あれ?クーと同じじゃないかお?)
('、`*川「お前は・・・・・・全く・・・・・・」
ペニサスは、笑った。
今まで溜めていたものを全て洗い流すかのように。
いつしかそれは嗚咽のようにもなったが、誤魔化すように笑い続けた。
( ・∀・)「だ、大丈夫?」
('、`*川「大丈夫だよ・・・・・・ああ、お前も馬鹿だとは思ってたけどここまでとはな・・・・・・」
『・・・・・・昔の内藤を見ているような気分だよ』
とペニサスは続けた。
モララーはそれの意味を理解し、礼を返した。
そして馬鹿げた事をしたと思い、集まった群衆の収集をどうつけるのか苦悩した。
だが大した問題だとは思わない。
今はそれ以上に、嬉しいという感情で心が満たされていた。
『人を元気付けられる強い人間』に一歩近づけたのだから。
.
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・
放課後、自転車が颯爽と坂道を下る。
二人分の重みは感じさせない。風がびゅうと駆け抜ける。
後ろに座ったペニサスの髪がそれに乱れるも、同時に快さを感じていた。
('、`*川「お前さー、もう少し男らしくしたらどうよ?」
( ・∀・)「例えばどんなー?」
風に邪魔されるので、少し声のボリュームを大きくして答えた。
夕焼けに目が眩み、ハンドル操作に乱れが生じる。
('、`*川「とりあえず、ペニサス『ちゃん』っていうのは止めろよ。
あと、『僕』じゃなくて、『俺』の方が良いと思うぞ」
( ・∀・)「そっかー!」
周りに人がいない事を確認し、大きく息を吸い込んだ。
『俺はペニサスが大好きだー!!』
『恥ずかしい事言うなよ!!』
自転車は駆ける。
二人を乗せて。
【第15話:おしまい】
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