( ^ω^)猛暑のようです
  【第16話:ああ、夏休み】




( ^ω^)「夏休み!」

('A`)「夏休み!」

( ゚∀゚)「夏休み!」

( ^ω^) ('A`) ( ゚∀゚)「「「イエー!!」」」


( ゚д゚ )「馬鹿か、貴様らは」

高く振り上げた手に向けられたのは、ミルナの容赦無い突っ込みだった。
終業式を終え、人の姿が段々と無くなっていく校舎の中。
この4人の若さ溢れる声だけは、止む事が無かった。


( ゚∀゚)「そんな事言って、ミルナも夏休み嬉しいだろ?」

( ゚д゚ )「俺は部活と生徒会で、休みなどあって無いようなものだ」

( ^ω^)「生徒会室で、ミルナさんが夏休みの楽しさについて語っていたという情報が・・・・・・」

(; ゚д゚ )「な、止め、どこでそれを知った!!」

情報提供者はモララーである。
うんざりするほど、夏休みについての話を聞かせられたらしい。


( ゚∀゚)「いやはや、夏休み何しましょうかねぇ」

('A`)「プール、海、アイスを食べながらの雑談・・・・・・」

( ^ω^)「あえて、クーラーをガンガンにして涼むってのも良いと思うお」

( ゚д゚ )「馬鹿が・・・・・花火を忘れるとは何事か」

ミルナが、ぼそりと呟いた。
他の三人は、つい本音を漏らしてしまった彼を囲み、ニヤニヤと笑みを浮かべていた。


( ;゚д゚ )「と、とにかくだな!
     勉強だけではなく、夏休みの宿題も忘れるのではないぞ!」

( ゚∀゚)「うえ、メンドクサイこと言うんじゃねぇよ」

( ゚д゚ )「ふん、生徒会として勉強をさぼる生徒を見逃すことは出来んな」

( ^ω^)「・・・・・・クーが、ミルナさんは勉強出来なさ過ぎてうける、とか何とか」

ミルナの顔は益々赤みを帯びていき、季節外れの紅葉のようである。
無遅刻無欠席、提出物は完璧、にも関わらず彼の成績に4から上の数字がつく事は一度も無かった。
テストの点数で5をとる事はあるのだが。


('A`)「それにしても夏休みか・・・・・楽しみだ」

( ^ω^)「今年はちゃんと外に出るんだお・・・・・・」

中学3年の夏休みの登校日の出来事である。
内藤が日焼けして真っ黒な肌を自慢していたところに、ドクオがやってきた。

その肌は雪のように白く、幽霊と見間違える程であった。
季節に相応しいと言えなくも無いが、あまりにも現実味が足りない。
聞けば、その理由も納得。

『夏休み開始から、登校日の今まで外には出なかった』


('A`)「いや去年はネトゲが忙しくて・・・・・・」

( ^ω^)「それは忙しいとは言わないんだお・・・・・・」

( ゚∀゚)「まぁ、今年は俺が連日のように連れ出すから覚悟しろよー!」

( ゚д゚ )「貴様には俺と同じく、補習授業が待っているがな・・・・・・!!」

学年は違えど、成績不良者に待っている罰というものである。
ジョルジュもまた、留年者として流石と思える通知表を掲げていた。


( ゚∀゚)「フハハハハ、この俺が補習授業なんかに参加すると思ったか・・・・・?」

( ;゚д゚ )「くっ・・・・・貴様、まさかサボるつもりだな・・・・・・?」

('A`)「なんという外道・・・・・・!!」

( ^ω^)「いや、流石に普通に参加しろお」

だらだらと雑談を続けていると、次第に教室に熱さが篭ってきたのを内藤は感じた。

ふと時計に目をやると、時計の短針は12の数字を指し示している。
HRが終わり、此処に全員が集合したのは10時半である。昼を迎えていた事にようやく気付いた。
そう認識すると、腹も空いているような気がしてきた。


( ^ω^)「そろそろ、帰るかお?」

( ゚∀゚)「ん〜?・・・・お、もうこんな時間なのか?」

( ゚д゚ )「楽しい時間は早く過ぎるというやつだな」

( ゚∀゚)「楽しい時間っておま・・・・・・それは恋人に対して使う言葉だと思うんだが」

ミルナは照れたようにしていたが、ドクオは心の中で否定していた。
時間の流れを忘れるほど、今という時が楽しかったのを彼は感じていたからだ。

もちろん、からかわれるのは目に見えているので口には出さない。


('A`)「ていうか、コンビニで何か買って此処で食えばよくね?」

だから、こういう言い回しを使って、この時間を引き延ばそうと目論んだのだ。

焼けるような日差しが差込み、カーテンの存在を意味なきものにしている。
男4人という状況のせいか、サウナ風呂と化した教室は更に蒸し暑く感じさせる。
クーラーは起動しない。本来なら、この時間に生徒がいることは有り得ないので、そう設定されていた。

それでも、ドクオはこの場にいる事を望む。
快適な環境より、友といる時間に重きを置く。

中学時代には考えられない進歩である。

しかし、それに気付くものはいない。
彼自体も、ほぼ無意識下の行動だったので、その心境の変化には気付いていなかった


( ゚д゚ )「いや、しかしだな。
     母上が昼飯を作って待っているような気がするのだ・・・・・・」

( ゚∀゚)「マザコン乙」

( ゚д゚ )「黙れ!男は皆、生涯マザコンという言葉を知らんのか!」

否定はしないようである。


('A`)「携帯でメールでも送っておけば、良くね?」

ξ゚听)ξ「そうね、それに親は、子供が友達と一緒に過ごす事を望んでいるものよ。
   ・・・・・・ちょっとの寂しさを感じつつ、ね」

('A`)「そうそう、親離れってのは悲しいけど嬉しいものだと思ってるんだよな。
    なんて、親になった訳でもないのに偉そうに語るなってか」

笑いあっているドクオと少女。
そして、ぽかんと口を明けて眺めている者が一人。


(;^ω^)えと・・・・・・どちらさまだお?」

('A`)「え?」

(;^ω^)いや、隣の金髪の方は・・・・・・」

ξ゚听)ξ「誰って、ツンだけど」


('A`)

(;'A`)「・・・・・・いや、誰だよ!!」

先程までの友好的なムードから一転、後退るドクオ。
猛烈な突込みをかましつつ、体は予期していない出来事にも関わらず円滑に動く。

その動き様は、台所にいる小さくて丸くて、黒光りする生物に酷似していた。



( ゚∀゚)「・・・・・・何の用だよ、お前」

ξ゚听)ξ「アンタの母さんから、飯食いに早く帰ってこいと伝えろってメールがきた。
      用があって学校にいたから、直接来てやったっていう訳」

( ゚∀゚)「あ?わざわざ直接来るこたぁねぇだろ」

ξ゚听)ξ「・・・・・・お母さんが私にメールしたってことは、どういうことか分かるでしょ?」

ジョルジュがまさかと思い携帯を見ると、電源が切れていた。
慌てて電源を点け直し、iモード問い合わせを行う。

すると驚愕。
送られてきていたメールの数は優に30を超えていた。
しかも、その大半は本文の無い空白のもので、迷惑メールと見間違う程である。


(;゚∀゚)「こいつは・・・・・・」

ξ゚听)ξ「アンタの母さん怖いからねぇ、その調子じゃ今から帰ってどんな目に会うことやら」

ケラケラと笑う女と、頭を抱える男と。
美男美女ではあるが、いかんせん素行が悪く見える外見をした二人である。
笑い声はいやらしく聞こえるし、悩んでいる様子は悪行を企んでいるようにも見えた。


( ゚д゚ )「という事だしな、お開きにするか」

('A`)「そうか・・・・・・まぁ、しょうがないかな」

酷く気落ちしてはいるものの、ドクオがそれを表面に出す事は無い。
自分のわがままで皆を困らせる様な、身勝手な行動は取らんと決めたのだ。
遠慮というものが、体に染み付いていた。


( ゚∀゚)「んじゃ、俺は先に帰るぞ。
      自転車を最高速で吹っ飛ばして帰らないと、殺されちまいかねん」

ξ゚听)ξ「あ、待って、自転車なら私も後ろ乗っけてってよ!」

仕方ねぇと、その頼みを承諾し、ジョルジュは皆に別れを告げた。


( ^ω^)「おー、ばいばいだおー!」

('A`)「また明日・・・・・・な!」

( ゚д゚ )(はて?アイツは自転車で通学では無かったような気がしたんだが)

そんな疑問を浮かべながらも、ミルナも手を振り挨拶に応えた。


廊下に出ると、教室よりかは涼しさを感じられた。
特有の無機質な冷たさというやつである。同時に、爽やかな風が体を撫ぜる。

( ゚∀゚)「でもあちぃー」

ジョルジュのシャツのボタンは僅か二つしか留められておらず、上半身は裸同然の格好である。
普通の女子なら、その格好を見て若干の恥ずかしさを見せるはずだが、ツンにはそれが無い。長年の慣れというのが生じていた。
彼女が履いている、これでもかと言わんばかりに丈の短いスカートも、関係しているだろう。
ようするに、この二人は似たもの同士なのであった。


ξ゚听)ξ「・・・・・・楽しそうだったじゃん」

( ゚∀゚)「あ?まぁ、楽しいんだからそりゃそうだろ」

ξ゚听)ξ「今回は、前みたいな夏休みにはならない・・・・・・よね」

( ゚∀゚)「・・・・・・ああ、ようやく吹っ切れたとこだよ」

いつになく真面目な顔を見せるジョルジュ。
声のトーンも若干落とし、一文字一文字を噛み締めるかのように発していた。

人気の無い校舎の、人気の無い廊下。
二人の間に起きた沈黙は、やけに重く感じられた。


( ゚∀゚)「そういや、二年生は楽しいか?」

唐突な質問だった。

つまりジョルジュは空気に耐え切れ無かったのである。
態度の変わりように、ツンは一瞬戸惑ったが、彼の心中を察しいつも通りの自分で答えることにした。

ξ゚听)ξ「楽しいんだけど、何か微妙なのよね。
      最後の何か一欠けらが足りないっていうか・・・・・・」

( ゚∀゚)「俺がいないせいか!」

ξ#゚听)ξ「そんな訳ないでしょうが!!」

パンと心地よい音がジョルジュの頭から響く。
また、同時に廊下には二人の笑い声も響いていた。
痛みを伴うことにはなったが、ジョルジュはこういった雰囲気が得られた事に満足した。


ξ゚听)ξ「むしろ、アンタがない方が安心出来て、逆に良いわよ」

( ゚∀゚)「ツンデレ、ツンデレ」

ツンもまた同様。



だらだらと会話を続け、駐輪場へと足を運ぶ。
自転車は既に数少なくなっており、生徒用の場所には指で数えられる程しか置かれていなかった。
ジョルジュは真っ赤に染められた自転車に、迷うことなく向かう。

ξ゚听)ξ「これが、ジョルジュの?」

( ゚∀゚)「いや、これはミルナのだ」

ξ゚听)ξ「・・・・・・へ?」

ジョルジュが何かの作業を行うと、カチリとロックの解除される音が鳴る。
手には鍵ではない、何か銀色の小さな物が握られていた。


( ゚∀゚)「ほら、後ろ乗れよ」

ξ゚听)ξ「でもこれ、ミルナのやつじゃ・・・・・・」

( ゚∀゚)「アイツの物は、俺の物だ」

ツンは納得せざるを得なかった。


後、ミルナが駐輪場の中心で怒りを叫ぶことは、この二人には関係の無い事である。


.
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・

('A`)「じゃあなー!」

( ^ω^)「バイバイだお!」

ミルナと別れ、そして今ドクオとも別れたので内藤は一人になった。
昼食を摂る為に家へ帰ろうとしたところで、ある考えが浮かぶ。


( ^ω^)(もしかして、しぃちゃんいるかもしれないお!)

ここから美府公園へと向かうには、少々の時間と体力を労する事になる。
それにも関わらず、内藤は迷うことなく、あの場所へ行くことを選んだ。

それは夏休み開始なので時間があるということもある。
この晴れた空の下で食う飯は、きっと普通余よりも美味いのだと思ったということもある。
しかし何よりも、しぃに会いたいという気持ちが彼の足を動かしていた。


( ^ω^)「あっちぃお・・・・・・」

歩けば、この文句を垂れてばかりである。
アスファルトで焼肉が出来るのではないかと、奇妙な妄想を彼は抱いていた。


流れ出る汗が体を伝わって、地面に垂れ落ち始めた頃。
ようやく、いつものコンビニに辿りつくことが出来た。

小気味良いBGMを開かせながら、自動ドアは開く。
同時にひんやりとして空気が彼を包み、内藤は恍惚とした表情を浮かべる。
効きすぎた冷房と、汗で濡れたシャツがともなり、ようやく火照った体を冷ます事が出来た。

( ^ω^)「弁当・・・・・ありゃ、全然無いじゃないかお」

昼飯時を過ぎたせいか、弁当コーナーは空白が目立っていた。
蕎麦やそうめんなど、暑さを緩和するに適した食べ物に至っては、ほぼ無いに等しい。


( ^ω^)「・・・・・・やっぱ、暑い時にはこれしかないお」

内藤が手にしたものには『ビーフカレー(辛口)』と書かれていた。
この時間帯にも関わらず、山盛りに残されていたものである。恐らく、彼が取らなければ廃棄にされていた事だろう。
よく見ればカレーが喜んでいるようにも見えたが、それは間違いなく錯覚である。

( ^ω^)「それと・・・・・・」

サンドイッチも買っておく。これは彼が食べるものではない。


( ^ω^)「アイスも買う〜♪・・・・・って、アイスも少ないお」

普段は山盛りに設置されている冷蔵庫の中。今は底の方に僅かに残っているだけである。
内藤は舌打ちをする心を押さえ、下の方にあるアイスからいくつかを選び、手に取った。
全てがバニラ味であった。


( ^ω^)「これくださいお!」

店員「いらっしゃいませ!」

内藤にとって、既に馴染みの顔に思える店員は、テキパキとレジをこなしていく。
この短期間の間に成長するものだなと、彼女の頑張りに一人、感動していた。


店員「温めますか?」

( ^ω^)「はい、熱々でお願いしますお」

店員「かしこまりました」

レンジにカレーを入れて加熱を行う。その動作も実に素早いものであった。
袋の仕分けも完璧である、温かいものと冷たいものは別々の袋。
完璧だ、文句のつけようが無い。

そんな風に、内藤は退屈な時間を、店員観察を行う事で潰していた。


店員「大変お待たせ致しました
   ・・・・・こんな暑い日に、熱々のカレーなんて凄いですね」

( ^ω^)「店員さんも毎日のように頑張っていて、凄いですお」

店員「いえいえ、お客様も毎日のように、大量のアイスのご購入ありがとうございます」

( ^ω^)「おっおっ、このコンビニご贔屓にさせて貰ってますお」

店員の笑顔は、接客業に適しているものだ。実に快く感じられる。
それに今の彼女の笑顔は、恐らく愛想やそういうのを抜きにした心からのものだと内藤は感じていた。


店員「ありがとうございました、またお越しくださいませ」

( ^ω^)「おせわさまだおー!」

内藤がドアを抜けると、ぶわと蒸し暑い空気が再び彼を出迎える。
一度だけ振り返ってみると、彼女は未だ笑顔を浮かべたままで、内藤の事を見送っているようにも見える。
手を振ってみれば、彼女も振り返したので、それは確信に至った。

( ^ω^)(顔を覚えてもらうなんて、良いこともあるもんだお〜)

胸に溢れる温かい気持ち。彼女の笑顔が伝染するかのようだった。


いくつかの路地を越えると、人通りの少ない道に出る。
その中の更に人気を感じさせない廃れた場所が、美府公園である。

何故こんなにも寂しい場所になっているのか、内藤は常々疑問に思っていた。
確かに古びた遊具ではあるし、その数自体も少ないのだが、普通に遊べる程度の公園には違いない。
だというのに、まるでここだけが別世界のように人はいない。灰色である。

更に不思議なのは、そこに内藤が求める相手がいるということか。


( ^ω^)「しぃちゃん、今日もいるお」

灰色の世界に色鮮やかに描かれた少女がそこにいる。

いつものように本を眺め、捲り、そして髪を掻き揚げる。
内藤がここに来る時は、予定調和のようにこの光景をぼんやりと眺めることが多かった。
見惚れているのである。何度見ても新鮮で、美しい。

( ^ω^)「・・・・・・しぃちゃん、ここ以外で遊ばないのかお」

会いに来たのではあるが、いないのではという心配もしていた。
杞憂に終わったことに喜びを感じる。

そして同時に『いつもいる』ということには疑問を浮かべる他なかった。


( ^ω^)「お昼はもう食べたかお?」

(;゚ー゚)「わっ!」

よほど本に集中していたのか、内藤が話しかけるとしぃは感嘆の声を上げた。
胸に手を当てて、一度二度と深呼吸をして、心臓の高鳴りを抑え込ませる。

(*゚ー゚)「びっくりしたー、話しかけないでよ!」

(;^ω^)「それはちょっと酷い気がするお」


(*゚ー゚)「冗談冗談、いらっしゃいませ!
    お客さん、こういうお店は始めてですか?」

( ^ω^)「そういう歓迎の仕方も勘弁して欲しいお・・・・・・」

何か良いことでもあったのだろうか。今日のしぃはやたらと機嫌が良い。
よく滑る口から、内藤はそのように思った。


( ^ω^)「良い事でもあったのかお?」

(*゚ー゚)「別にー、そうだなぁ、強いて言うならブーン君がこんなに早く来てくれたからかな」

冗談にしろ、これは少しばかり胸がキュンとする。


( ^ω^)「今日から夏休みなんだお」

(*゚ー゚)「そっかぁ、夏休みか・・・・・・暑いもんねぇ」

しぃは内藤の袋の中を漁り、アイスを取り出しながら言った。
カレーがあるのも発見し、怪訝そうな顔を見せる。

( ^ω^)「でも、しぃちゃんも夏休みだお?
       こんなに早くから、ここにいるんだから」

(*゚ー゚)「・・・・・まぁそうなんだけどさぁ、どうにも実感湧かないというか」

今度は内藤が別の袋を漁り、ビーフカレーを取り出す。
まるで熱さを損なっていないそれの熱は、見るだけで汗が噴出してくる。
美味しそうにカレーを頬張る内藤を見て、しぃは『うげ』と苦い悲鳴を上げた。


( ^ω^)「夏休みらしいことをすれば、気分も変わるんじゃないかお?」

(*゚ー゚)「夏休みらしいって、どんなことさ?」

もごもごと口を動かしながら、内藤は頭を回転させる。
すると、とんでもないことに気付いた。


(;^ω^)「ああ!!」

(;゚ー゚)「な、何!?」

(;^ω^)「飲み物買うのを忘れた・・・・・・」

しぃは食べていたバニラアイスをカレーの中に突っ込んだ。
内藤の悲鳴が蝉の声を掻き消し、カレーの熱さと色も緩和されてしまった。


(;^ω^)「これは酷い・・・・・」

(*゚ー゚)「夏休みらしいって何だろ・・・・絵日記とか?」

(;^ω^)「宿題が夏休みで一番に浮かぶことなのかお?」

まるで気にしない様子でしぃは話を続ける。
仕方なしと、内藤も白いカレーをスプーンですくいながら応えるのだった。


( ^ω^)「そうだ、海でも行くかお?」

(*゚ー゚)「・・・・・海?」

( ^ω^)「どこか遊びに行けば、何だか夏休みって感じするじゃないかお。
       プールでも良いけど、遠出をすれば、もっと普段には出来ない事っていうのが高まるし」

それに水着が見たいし、とは続けなかった。


( ^ω^)「山でも良いし、花火でもいいお。
       とにかく、遊びまくって思い出を作れば、夏休みって感じするお!」

(*゚ー゚)「思い出作りか・・・・・・」

ちょっとしてデートの誘いの意味も込めているのだが、あえて口には出さなかった。
気恥ずかしさと、何より今は彼女の悩みを解決するのを第一としていたからである。

(*゚ー゚)「じゃあ、私はどこにも行かない!」

(;^ω^)「おおっ!?」

故に、内藤がしぃの返答に落胆するのは仕方のない事だった。
自分の秘めた想いも、提案も全否定されてしまったのだから。
思わず、白いカレーを美味に感じてしまう程である。それとは関係の無いことだが。


(*゚ー゚)「あ、でも、別に海とかに行きたくない訳じゃないんだけどね」

( ^ω^)「じゃあ、何でなんだお?」

(*゚ー゚)「思い出作りなら、どこだって出来るじゃない?」

しぃが新たなアイスを取り出すのを、内藤は黙って見つめていた。。



(*゚ー゚)「私はこの公園が大好き。
    この木陰に置かれたベンチは落ち着いて本が読めるし、この場所にいるだけで満足。
    人は少ないけど、目を瞑ると子供達の笑い声が聞こえるような気がするんだ」

内藤は目を閉じては見たものの、聞こえるのはざわめく木々と、蝉の鳴き声だけである。
しぃの感じているものは彼女だけのものらしく、羨ましいとさえ思った。


(*゚ー゚)「ここには、ここでしか感じられないものがあると思うんだ。
    それに飽きは来ないし、ずっとずっと感じていたい」
  
( ^ω^)「だから、しぃちゃんはいつもここに来るのかお?」

(*゚ー゚)「・・・・・・そうだね、それに何よりさ」


『君が、いるから』


冗談なのか、本気なのかの区別はつかなかった。
見えていたのは横顔だけだったので、表情を正確に読み取る事が出来なかった。

ただ、内藤の胸の中には自身では説明のし難い感情が流れている。
一度、クーに想いを告げる直前に味わった感情だが、彼にはそれが何なのか分かっていなかった。


(*゚ー゚)「だからさ、どこにも行かなくたって良いんだ!
    私はここでブーン君がアイスを運んできてさえすれば生きていける!」

( ^ω^)「それはそれは・・・・・・でも、お腹空かないかお?」

(*゚ー゚)「サンドイッチあざーす!」

( ^ω^)「ああ、もう見つけてたのかお・・・・・・」

その答えを見出すのも嫌だった。
話の方向転換を行ったのはそれが主な理由となっている。


(*゚ー゚)「でも、サンドイッチ買うくらいならハーゲンダッツ買ってこいって話だよね」

( ^ω^)「たまには感謝してくれても良いと思うんだお」

(*゚ー゚)「アリガトウゴザイマス」

( ^ω^)「・・・・・・なんという棒読み」

しかし、悪い気はしていなかった。
彼女が自分に悪い感情を持っていないことだけは理解できたのだ。
だからこそ、こんな冗談にも笑って対応出来る。
というより、こうしないと本気で怒るかもしれないということらしいのだが。



( ^ω^)「夏休み、ここでいっぱい遊ぶお」

(*゚ー゚)「うん、たくさん思い出作ろうね!」


これから暑さは更に増していくのだろうか。
とてもその様には思えないが、季節を考えればそうなるのだろう。
照りつける太陽が灼熱に姿を変えていくことには酷く嘆かわしい。

しかし、それもまた僅かな憂いにすぎないのかもしれない。
積み重ねられていく夏の日の思い出に優るものなど、有りはしないのだから。



猛暑は、続く。



【第16話:おしまい】

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