【第3話:夕立】




( ^ω^)「モララー、そのソーセージ頂戴だお」

(;・∀・)「ええ、僕ソーセージ大好きなのに!」

( ^ω^)「ウインナーを貰うから大丈夫だお」

(;・∀・)「なら・・・・・って、同じじゃんか!」

ひょいと摘み上げて、口に入れる。
モララーが何を言おうと、気にはしないという態度だった。


( ^ω^)「うめぇ!モララーのカーチャン天才だお!」

( ・∀・)「そ、そんなに美味しいの?」

( ^ω^)「もちろんだお!羨ましいお!」

(*・∀・)「嬉しいなぁ!」


( ^ω^)(ちょろいお)


('、`*川「・・・またくらいたいのね?」

(; ゚ω゚)「ぶふぉぉ!」

内藤は盛大に米粒を噴出した。
声を聞いただけで、背筋が凍りつく感覚を受けた。
真っ赤なジャージに身を包んだペニサスは、男よりも漢らしかった。


( ・∀・)「あれー?今日は昼練習しないの?」

('、`*川「体育館が使えないみたいでね・・・・・・戻ってきたらこれよ」

( ^ω^)「仲良くお弁当を食べてただけじゃないかお!」

('、`*川「へぇ〜じゃあ、私も内藤のご飯食べちゃおうかな!」

カチカチと歯を鳴らせるペニサス。
ガチガチと体全体で震える内藤。


(;^ω^)「ふ、太るお」

('、`*川「アンタにだけは言われたくないわね。
     それに、このプロポーションを見てもそんな事が言える?」

ペニサスはジャージのチャックを下ろし、半袖の体操着を露にした。

すると、膨らんだ胸部が第一に飛び込んでくる。
次に括れたウエスト、細長い手足。
服の上からでも、程よくついた筋肉が、体を引き締めているのが把握できた。


(*・∀・)「ペニサスちゃん、綺麗だなぁ!」

('、`*川「褒めて!私をもっと褒め称えて!」

彼女はそう言いながら、艶めいたポーズをとる。

クラス中から巻き上がる歓声、熱の篭った視線。
ノリの良さにだけは定評のあるクラスだった。


しばらくの間、ペニサスのショーは続く。
脱げコールを送ったものには、跳び蹴りをプレゼントしていた。
反して、美しいと叫んだものには投げキッスを。


そんな中、内藤は溜め息をつく。
この状況に対してでは無く、親友の事を想って。


( ^ω^)(ドクオは、今どうしてるんだお?)

今日、まだドクオの姿を見かけていない。

屋上には来なかった。
メールも、返ってはこなかった。

悲しみも、当然の見返りかもしれないとは思った。
見殺しにしたようなものなのだから。

しかし、心配であることには変わらなかった。


( ・∀・)「どうしたの?」

( ^ω^)「おお?」

内藤が俯き下げていた視線にも関わらず、モララーと目線が合う。
覗き込むような形で、彼の二つの目が内藤を捉えている。

悪意など知らないような、純粋な瞳。
それはあまりにも、まっすぐで、耐え難いものだった。


( ^ω^)「なんでもないお、あんまり寝てないんだお」

視線を逸らしてから、適当な返事をする。
対峙している状態では、嘘をつくなど出来なかったのだ。


( ・∀・)「本当、本当に?」

( ^ω^)「本当だお、心配かけてゴメンだお」

( ・∀・)「・・・・・嘘だよ」

モララーは食い下がらなかった。
なよなよとした外見に反して、芯はしっかりとした性格なのだ。


( ^ω^)「・・・・・・嘘、だお」

( ・∀・)「でも、やっぱり言えないんだね?」

( ^ω^)「理解してくれて助かるお」


( ・∀・)「うん・・・・・もし、僕でも役に立ちそうだったなら、その時は」

( ^ω^)「うん、助けが欲しくなった、その時は」

結局、内藤は悩みを打ち明けなかった。
自分の弱みを曝け出すのが嫌だったのだ。

ドクオを見捨てて逃げた事。
それを言ってしまったら、彼らにも嫌われてしまいそうで。

つまり、内藤は『また逃げた』のだ。

友を信じず、自己保身の選択に身を投じたのだ。


彼自身はそんな自分の過ちに気付いてはいない。
これが最善だと信じて、悩みを己の内に秘めた。

それが、罪を隠す事と同義だとは理解せずに。


('、`*川「何、コソコソしてんのよ!男らしくない!」

( ・∀・)「ペニサスちゃんは、むしろ女らしくない!」

('、`*川「言ったな?
     脱げ!その貧弱な体を人前に晒すが良い!!」

(;・∀・)「嫌ぁ!寒いって言うか、恥ずかしいんだよぉ!」


内藤はじゃれ合う二人を見ながら思う。
こんな平穏な日常が自分の世界だと。


ドクオの事は、徐々に脳内から薄れていった。


・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・

(*゚ー゚)「元気、ないね?」

( ^ω^)「お?」

しぃに内藤が挨拶してから、すぐの出来事だった。

いつも通りにコンビニでアイスを買う。
いつも通りにしぃのいる『美府公園』へ向かう。

なんら普段と変わらない要素しか無かった為、彼は疑問しか浮かばなかった。


( ^ω^)「全然、ぴんぴんしてるお?」

(*゚ー゚)「なんていうか・・・そういう事じゃなくてさ・・・」

しぃは腕を組んで、うーんと唸る。
そんな仕草を、内藤は物珍しそうに見つめるだけだった。


(*゚ー゚)「よくわかんないけど・・・・・・なんだろうなぁ」

( ^ω^)「まず、疑問に思った根拠はなんだお?」

(*゚ー゚)「女の勘だよ!」

内藤は、ぽかんと口を開けたまま彼女を見つめた。
その目には、哀れみの念すら込められていた。


(;゚ー゚)「ちっ、ちがっ、半分は冗談みたいなものだよ!?」

そんな彼の異変に気付いたのか、彼女が慌てて取り繕う。
しかし、間違いなく本心であった事は誰が見ても明らかだった。

顔を真っ赤にした彼女を見て、内藤はどこか満足気だった。


( ^ω^)「でも、意外と女の勘は当たるもんだお」

(*゚ー゚)「そうだよー、私みたいなレディなら尚更ね!」


平たい胸、年よりも若く見える顔、小さな体。
少女、という呼称が最も適した外見。

内藤はそれを見て、ふっと笑みを零した。


(;゚ー゚)「ば、バカにしたね!?」

( ^ω^)「してな・・・・・くもないお」

(*;ー;)「うわーん・・・・・ハーゲンダッツのバニラ味。
     もしくは、ハロハロが無いと、この涙が枯れることは無いよ・・・・・・うわーん」

(;^ω^)「なんで、妙に早口に喋るんだお!」


内藤の心は晴れ晴れとしていた。

しぃとの会話は、彼の心の曇りを打ち消すには充分すぎる程だった。


( ^ω^)(楽しいお・・・・・・)

ふっと空を見上げると、相変わらずの快晴であった。
だが、内藤は空気に漂う雨の匂いを感じた。


( ^ω^)(しばらくしたら、一雨来るお)

せめて、それまではここにいよう。
しぃと共に、快い時間を過ごそう。

そんな考えを頭に浮かべた時。
右ポケットからの振動が、体全体に伝わる。

携帯のバイブレーションだ。
その震える時間の短さから、メールであると分かる。
内藤は、何も考えないまま、反射的に携帯を開いて確認した。


そして、驚愕する。
悪い夢から覚めたかのように、内藤は飛び上がった。

(;゚ー゚)「な、何?ビックリしたー」

(;^ω^)「ごめん、僕ちょっと用事が出来たから行ってくるお!」

(;゚ー゚)「え、ちょっと、何!?」

内藤はしぃの静止の声に耳も傾けなかった。

何かを考えたりする素振りも見せず、走るだけだった。

公園を飛び出し、路上を駆け抜ける。
横断歩道の信号を無視し、歩行人にぶつかろうとも、動きを休めはしない。
彼の足は止まることなく回り続けた。

シャツが汗で体にひっつく。
それが気持ち悪いとだけ、考えていた。


不思議と、普段は気にしない些細な事以外は何も考えられなかった。

目の前にあるものは障害物としか思えなかった。

走りを妨害するものの苛立ちだけが募る。
故に、疲労を感じる自分すら煩わしかった。

たった一通のメール。
淡白な、感情のこもっていない言葉。


『送信者:ドクオ』

「今すぐ学校に来てくれ」


それを見た瞬間。
内藤の心は制御を失った。


・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・

荒げた息の音が、蝉の鳴き声に飲み込まれていく。
既に太陽は傾きかけ、真っ赤な夕焼けが辺りをオレンジ色に染め上げている。
それによって伸びた影が、二つ、対峙していた。


(;^ω^)「ドクオ・・・・・・遅くなってすまんお」

('A`)「メール送って30分か、確かに時間かかったな。
    でも、その汗を見ればお前がどんだけ頑張ったか分かるからいいよ」

そんなドクオを内藤は直視出来なかった。

見られる限りの場所に張られた絆創膏、晴れ上がった顔。
彼がどんなに酷い目にあったのかを、有りのままに語っていたからだ。

今、内藤の背中に流れる汗は、暑さによるものだけでは無かった。
冷たく、気持ちの悪い、罪悪感から流れ出るものだった。


( ^ω^)「・・・何で、呼び出したんだお?」

('A`)「もともと、お前が俺にメール送ったんじゃねぇか?」


(;^ω^)「それはそうだけど・・・」

('∀`)「それに、理由もなくなんて事はよくあっただろ?つれねぇなぁ」


ドクオは、にんまりとした笑顔を浮かべた。
口を広げたせいか、傷口が開き、血が流れ出ていた。

その赤は太陽よりも、尚、赤い。
鮮やかな色であり、どす黒く濁っているようにも見える。
内藤は、背筋に悪寒が走るのを確かに感じた。


沈黙の時が過ぎる。

内藤は、何を言って良いのかが分からなくて口を閉ざしていた。
謝罪の言葉をかけようと思ったが、それが軽口のように感じたのだ。

一方、ドクオは内藤をじっと見据えていた。
包帯や絆創膏で隠れた顔のせい等ではなく、表情がわからない。
笑顔とも、涙を流さずに泣いているようにも見えるのだ。


(;^ω^)「あ、あの後はどうなったんだお!?」

そんな静寂を破ったのは内藤だった。
だが、苦し紛れに出た、後先を考えない発言であった。


('A`)「・・・・・・ああ、あの後はすぐに解放されたよ」

(;^ω^)「じゃ、じゃあ―ー―」


('∀`)「『たまーにサンドバッグになってくれるんなら』っていう、約束付きでな」

場の空気が、一瞬にして変わった。

存在するだけで押しつぶされるような圧迫感。
五月蝿かった筈の蝉は、いつの間にかに、その鳴き声を轟かせる事はなくなっていた。


('∀`)「俺を殴るとスッキリするんだってよ。
   『お前は良質のサンドバッグ』とか・・・・・・笑っちまうよな!」

笑っていた。自虐的な笑みだった。

そこには絶望が篭っていた。
同時に、深い恨みを纏っていた。


('A`)「明日は、その約束の日なんだ。
・・・あの時、誰かが手を差し伸べてくれれば、こんな事にはならなかったかもしれないな」

堪え切れなかった苦しみを誰かに、ぶつけたかった。
そして、その対象を内藤に定めたのだ。


(;^ω^)「ぼ、僕はこんな事になるとは思わなくて――」



('A`)「黙れよ、『裏切り者』」



ドクオはそれだけ言い残して去っていく。
振り返りもせず、機械的に足を動かしている。

内藤は、そんなドクオを見つめる事しか出来なかった。
小さくなっていく背中に対し、言葉にならない、擦れた息を吐くだけだった。
行き場を失った感情は、彼の今にも潰れてしまいそうな心に留まるだけだった。

頭の中に響き続ける『裏切り者』という言葉。

それが体中の細胞を壊していくように、駆け巡っていた。


内藤の予想は不本意にも当たり、雨が降り始める。
濡れるのを避けようと、人々は雨宿りの場所を探して走り回る。




そんな中、内藤は一人、立ちすくんでいた。



夕立がその猛威を振るおうとも、動く事は無かった。





【第3話:おしまい】

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