【第22話:楽園=マイワールド】
ξ゚听)ξ「という訳で、やってきました」
('A`)「何がという訳でなのか、理解に苦しむが・・・・・。
まぁ、適当にあがってくれぃ」
ツンは、自分の望みを叶えるためにドクオの家におしかけた。
ドクオの家に女の子が来るということは、奇跡であり異常であり、在り得ないことなのだ。
それを指し示すかの様に、この光景を見た彼の母親は失神しかけた。
ξ゚听)ξ「予想通り普通の一軒家なのね・・・・・・」
('A`)「俺が凡人だって言いたいんですね、わかります。
ていうか、俺の両親が汗水流して建てた家に、ケチつけるなよ?」
ドクオの部屋は二階である。
道中の階段は、一段上がるごとに、ギシギシと鈍い音を立てていた。
('A`)「そして、ここが俺の世界だ」
導かれるままに、ツンはドクオの部屋に踏み入れる。
一瞬、もわっとした空気が漂っていたので、顔をしかめた。
ξ;゚听)ξ「うわぁ・・・・・・」
思わず、口から嫌悪の溜息が漏れた。
それもそのはず、部屋の中は、とてもじゃないが女性が足を踏み入れていいものではない。
締め切ったカーテンのせいで昼間だというのに、真っ暗なので電気を点けざるを得ないのだ。
床にはスナック菓子の袋がそこら中に散らばっているし、食べかすが落ちていることもある。
おまけに窓が開いていないので、男特有の臭いが充満し、ツンは鼻を覆った。
ξ゚听)ξ「・・・・・・窓とカーテン、開けるわよ?」
('A`)「ええー、しょうがねぇなぁ」
ツンは切れなかった。
ほんの少しだけではあるが、成長を遂げているのだ。
('A`)「さてと・・・・・・」
ツンがゴミをゴミ箱に送っている最中、ドクオは呑気にゲームのセッティングを始めていた。
床に散乱している物を、手馴れた様子で掻き分け、腰掛ける。
('A`)「人生と、文学のどっちが良いと思う?」
ξ゚听)ξ「・・・・・・良くわかんないんだけど、人生で良いんじゃない?」
('A`)「オッケー、オッケー、おいでませ俺の渚たん」
そう、それは、まさしくギャルゲーである。
彼は客がいるというのに、当たり前のように一人で楽しもうとしているのだ。
この振る舞いに、ツンの理性の壁にひびが入る。
しかし、彼女は無理矢理に、それをテープで修復していた。
まだ、限界は訪れていないようである。
ξ゚听)ξ「ええと・・・・・それは面白いの?」
('A`)「面白いとかそういう問題じゃなくて、これは俺の人生だから。
俺にとって、これはやらないと生きていると確信できない訳。
言わば、俺がこれをやることは必然であり、運命であり、生まれついての使命なんだよ」
ξ;゚听)ξ「そ、そうなんだ・・・・・・」
言っていることは微妙にカッコイイのだが、彼がやっているのは萌え系のゲームなのだ。
ドクオは画面に現れた、二次元の、美少女に対してハァハァと荒い息を零している。
いや、ある意味、人前でここまで自分を解放できる彼のそれは、才能と呼んでも良いのかもしれない。
(*'A`)「ほらー、めちゃくちゃ可愛くない!?
こんな女の子が目の前に居たら、俺、絶対に告白するんだけどなー」
ξ゚听)ξ「へぇー」
アンタの目の前には、アンタに告白して振られた女の子がいますよ。
と、ツンは言いかけて止めたのであった。
ξ;゚听)ξ「て、ていうかさ、せっかく私、遊びに来てるんだからさ!
もっと、二人で遊べることしようよ・・・・・ゲームでもいいからさ!」
('A`)「でも、ブーンとかが家に来たときは、いつもこんな感じだぜ?
暇なら、そこにある漫画でも読めば良いんじゃない?」
彼が指差す方向には、表紙からして、美少女の登場するであろう漫画が山積みで置かれている。
それは間違いなく一般人の読むような代物ではなく、秋葉原系統のものであった。
ξ゚听)ξ「・・・・・あ!じゃあ、この中のオススメとかあるの?」
('A`)「漫画は、人に勧めてもらうのではなく、自分で選んで見つけるものだ。
考えるな感じろ、さすればおのずと見るべき漫画を体が選ぶだろう」
ツンが、話の種を撒いたのに、ドクオは見事に焼き払った。
空気を読むどころか、破壊していることに、彼自身は全く気付いていない。
何故なら今までの会話を、彼はゲームに釘付けになりながら行っているのだ。
ツンを背後に置いた状態なので、表情を伺うことなど一切ないのだ。
ξ゚听)ξ「そ、そうだなぁ・・・・・じゃあ、この『WORKING!!』っていうのを読んでみようかな。
丁度、山のてっぺんにあるしね!!」
返事は訪れなかった。
聞こえなかったのかもしれないと、ツンはもう一度声をかける。
ξ゚听)ξ「それとも、こっちの『B型H系』っていうのなんて良い?
あ、でも二つとも四コママンガなんだねー」
声を大きくしてみたものの、やはり返答はこない。
しかし、ドクオの口が動いていることに、ツンは気付いた。
少しばかり近づいて、何と言っているのか耳を澄ます。
聞こえてきたのは『・・・そうだね・・・うん・・・・お弁当は二人っきりで・・・フヒヒ・・・・』という言葉。
そこでようやく、ツンは全てを理解した。
ドクオは、ゲーム内のキャラと会話をしていたのだ。
半ば自暴自棄になった彼女は、バタリと倒れこむように床に伏せる。
何故、こんな目に遭わなければならないのか。
何故、この男はここまで私を蔑ろにするのだろうか。
そもそも、なんで私はこの場所にいるんだろうか。
様々な疑問が、シャボン玉の様に浮かんでは消えていく。
強固な意志を持ってこの場所に来たはずが、ドクオは簡単にその意志を打ち砕いてしまった。
最早、ほんの一押しするだけで、ツンの心のダムは決壊するだろう。
そんな彼女の思いを露知らず、ドクオは急に声をかけてきた。
('A`)「すまん・・・・ちょっと大事な用事が出来たから席を外してくれないかな?」
ξ;゚听)ξ「えっ・・・!?大事な用事ってどんな・・・・・!?」
(*'A`)「激しい男のソロ活動かな」
言葉の意味を理解出来ずに、ツンはドクオの挙動を見守っていた。
すると、彼の右手は輪を作ったような形で、何度も上下に振られている。
つまりは、そういうことである。
欲求を満たすために、ツンに帰れと、彼はそう言いたいのである。
一押しどころか、ダイナマイトの爆撃を受け、ツンの理性は崩壊した。
ξ#゚听)ξ「もっきゃああああああああああ!!」
(;'A`)「きゃあああああああああああああ!!」
ツンの唐突の叫びに、ドクオも思わず悲鳴を上げた。
心臓が飛び出そうだったのか、口と胸の辺りを抑え付けている。
ξ#゚听)ξ「てんめぇえええええええ!!
私が下手に出てれば調子に乗りやがってぇええええ!!
ぶぶぶぶ、ぶっ殺してやるぅうううううううう!!」
(;'A`)「ひぃいいいいいいいい!」
ツンは周りにあった、あらゆるものをドクオに投げつけた。
一階でドクオの母が、何事かと心配していることなど、二人は知らないのだ。
(;'A`)「ちょ、おま、俺の事をメロメロにするとか言ってたじゃねぇか!!」
ξ#゚听)ξ「どの口がそんな事をほざくかぁああ!!」
荒れ狂う暴風雨、もちろん飛び交うのはドクオの私物である。
ξ;凵G)ξ「私の魅力を分からせようなんて、無理な話だったんだ!
だって、アンタは既に現実を把握できない、社会不適合者者だったんだもん!」
(;'A`)「俺が悪いんじゃない!悪いのは社会なんだ!」
ξ;凵G)ξ「ほら、やっぱり、ダメダメじゃない!
アンタなんて・・・アンタなんて・・・・・・二次元の世界に入り込んじゃえばいいんだあああああああ!!」
(;'A`)「それはむしろ、望むところ!
・・・・・・って、ツンさん?ツンさぁああああああああああああん!!」
ツンは窓を飛び出し、ドクオの部屋から消え去った。
屋根を伝っていったので、怪我の心配は無いようである。
残されたドクオは、その場に立ちすくむ。
しかし、1分ほど呆けた後、ゲームの続きを始めた。
何処までいっても、この男は屑のようである。
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
ξ;凵G)ξ「うぇ・・・・・ひぐっ・・・・・こんな目に遭うなんて・・・・・・。
私は、絵で描かれた女以下なのか・・・・・・」
人通りの少ない道路の暗がりに、一人、女のすすり泣く声が聞こえる。
張り切った化粧や、服装も、涙でぐしゃぐしゃになっては台無しである。
ξ;凵G)ξ「畜生、畜生、死ね死ね死ね死ね死ね・・・・・・・。
もう絶対にアイツには関わりたくない・・・・・」
彼女のバベルの塔の如くそびえていたプライドは、もはやズタボロ。
がっくりと、うな垂れた肩は、なかなか元に戻りそうも無かった。
ξ;凵G)ξ「ひぇあっ!」
涙で歪んだ視界のせいで、注意が疎かになっていたのだろう。
盛大に転んでしまい、体を道路に打ち付けた。
ξ;凵G)ξ「惨めだ・・・・・・」
思わず、自分の現状に本音が出た。
本来なら、気にも留めない様な男に、自分を認めさせようと必死になっている。
それも相手にされず、挙句の果てには絵と比較され、負けてしまったのだ。
ツンは、自分が世界一馬鹿で、愚かな人間だとすら思えてきた。
ちょっとした後、やっぱりドクオの方が馬鹿だという真理に行きつき、少し元気が出た。
そんな時であった。
<ヽ`∀´> 「よぉ、姉ちゃん・・・・・・随分と悲しそうニダ?」
ξ;凵G)ξ「うん、アンタみたいなやつの顔見たから・・・・・・」
<;`∀´> 「ず、随分と粋な、返しじゃないかニダ。
気の強い女は、そこまで嫌いじゃねぇニダ」
ツンを取り囲むかのように、いやらしそうな男と、数人の男達が現れたのだ。
人を呼ぶにしても、こんな場所では、助けが来るのは遅れてしまうだろう。
ξ゚听)ξ「ナンパなら、お断りよ」
<ヽ`∀´> 「ホルホルホル、ナンパするのはお前じゃないニダ」
ξ゚听)ξ「それってどういう・・・・・・」
<ヽ`∀´> 「・・・・・アンタの名前はツン、だニダ?」
『何で、私の名前を知っている?』
そう、ツンが言い返そうとしたところに、男のボディブローが突き刺さる。
激痛に苦しむのも束の間、彼女の意識は闇に閉ざされてしまった。
それを見て、不気味にほくそ笑む男達。
彼らの内の一人がツンを背負い、そして男達はその場から姿を消した。
僅かな時間の出来事で、後には、静けさだけが残された。
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・
一方、その頃、ドクオの家に何人かの男が集結していた。
もちろん、ツンに襲い掛かった男達とは無関係の者である。
('A`)「・・・・・・と言う訳で、ツンさんはその窓から帰っていってしまった。
やはり、選択肢の無い女子との会話は、意味が分からんことばかりだ」
( ^ω^)「よく分からないけど、ドクオが悪いことだけは確かだお」
( ゚∀゚)「ツンが可哀想だな」
( ゚д゚ )「うむ、心底、同情する」
行われているのは、男だけの恋愛相談教室である。
今日の客はドクオであり、議題は『突然、窓から消えた女の子』であった。
( ゚∀゚)「あのなぁ、男と遊ぶ時と女と遊ぶ時。
よっぽど親しいならともかく、少しは気のかけ様を変えようとは思わんのか?」
('∀`)「全く、思いませんなぁ!!」
とりあえず、ジョルジュはドクオを一発ぶん殴った。
妥当な判断である。
( ^ω^)「ドクオは彼女欲しいんじゃないのかお?
二度と訪れるか分からないチャンスを、どうして棒に振ろうとするんだお?」
('A`)「なんていうか・・・・・ツンさんは、見た目からしてリア充じゃん。
引け目を感じて、恋愛対象と見れないというか、怖いというか。
好きとか恋人とかという言葉に、現実味を感じられないんだよね」
( ゚д゚ )「ふむふむ、しかし、ドクオ君だってリア充?とかいうヤツじゃないのか?
何故なら、俺達と言う友がいるのだから!!」
('∀`)「心の友よ!!」
二人は力強く抱き合った。
甘やかすなと、ミルナはジョルジュに叱られた。
( ^ω^)「とにかく、ツンさんに謝ったほうが良いと思うお。
短期間に二回も泣かすなんて、正直、尋常じゃないお」
('A`)「意外と泣き虫だよな、ギャップ萌えの計算?」
( ゚∀゚)「いや、アイツは昔から・・・・・っと?」
ぶるる、と携帯のバイブの音が部屋中に響き渡る。
ジョルジュの携帯に、何らかの着信が訪れた模様だ。
( ゚∀゚)「ツンからか、珍しいな」
見れば、ツンからの添付メールであった。
ドクオのことで泣きついてくるのかと、含み笑いを浮かべてメールを開く。
しかし、ジョルジュは愕然とし、携帯をその手から零れ落とした。
内藤、ミルナ、ドクオは何事かとジョルジュに詰め寄る。
床に落とされた携帯電話。
そのディスプレイには、簡略に書かれた文と、一枚の写真が映し出されている。
メールの内容は『女は預かった』。そして、添付されていたのは、腕を縄で縛られたツンの画像だった。
【弟22話:おしまい】
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