【第24話:写真】<




内藤ホライゾンは緊張していた。
それこそ、足は震え、冷や汗を垂れ流し、挙動不審になる程に。

(*゚ー゚)「どうしたの?調子悪いのかな?」

(;^ω^)「いや……その、えーとですね……」

(*゚ー゚)「んー?」

下から覗きこむような目線。
それは図らずも上目遣いになるので、内藤の心音は加速する。


(;^ω^)(やっぱり、改めて僕は思う、『圧倒的可愛さ』……!!)

(*゚ー゚)「んー!?何だよぉー、黙るなよぉー!!」

ぷくりと頬を膨らませれば、さぁ大変。
内藤は溢れ出そうになる鼻血を気合いで押し戻した。




(*゚ー゚)「で、どうしたのさ?」

( ^ω^)「えーと、それは―――」

思い返すのは、つい先日のドクオとツンのこと。

二人の仲は進展していた。
凸凹なコンビではあるが、仲の良さが容易に伺える。
思わず男共が、嫉妬という名の殺意を覚える程である。

そして、内藤もそれに触発される。
自分も、しぃとの関係を一歩進めたいと考えたのだ。

(;^ω^)「――し、しぃちゃんはものすんごく可愛いお!」

(;*゚ー゚)「ふぇっ!?」





想定外の一言にむせ返った。
だが、捲くし立てるように内藤の言葉は続く。

(;^ω^)「それにちょっと意地悪なとこもあるけど、本当は優しいことは分かってるお。
   話も面白いし、本を読んでるときは綺麗だし……」

(;*゚ー゚)「ちょっ、ちょっと待って!
      それ以上はなんか、その、えと……と、とにかくダメなの!」

積み重なる賞美の言葉は、少女の心のリミットを超えていた。
顔は赤くなるし、妙なむずかゆさも出てくるし、内藤の顔がまともに見られないし。
もし、言葉の雨が治まらなかったのなら、一刻も早く逃げ出していたことだろう。

(;*゚ー゚)「どうしたの!?何か、今日おかしいよ?」

(;^ω^)「うう……ごめんなさいだお」

(;*゚ー゚)「謝る事は無いけどさ……。
      そりゃ、ブーン君にそういう事言われるのは……嬉しいし」






石を投げつけたくなるほどの、甘酸っぱい空気が流れていた。

両者とも、動けず、赤面するしか出来ない。
二人はリンゴに成り果てていた。

しかし、今日こそ、今日こそはという想いが内藤を突き動かす。

自らの頬をバチンと叩き、闘魂注入。
驚くしぃの肩を逃がさんとばかりに、その手で捕らえた。


(;^ω^)「し、しぃちゃん!大事なお話があるんですお!!」

(;*゚ー゚)「は、はい」

(;^ω^)「とってもとっても大事なお話なので、聞き逃さないで欲しいんですお!」

(;*゚ー゚)「……が、頑張ります!」




(;^ω^)「僕は……えと、いつからか、いや、違うな……その……」

決心はしたものの、言葉が上手く綴れない。
伝えたい言葉は山ほどあるのに、そこから選抜する事が出来ない。

しかし恐らく、しぃも内藤の言わんとしようとしている事がおぼろげに理解出来ているのだろう。
だからこそ、何も言わず見守るように、その場でじっと構えていた。


( ^ω^)「そうだ、僕は―――」

思い返すのは、今までのしぃと触れ合った時の記憶。
そして、その時に感じてきた沢山の気持ちたちだった。

楽しかった、しぃが笑えば、自分も幸せな気持ちになれた。
彼女といる時は、どんな喜びよりにも勝る至福の時だった。

一体、どうしてそんな気持ちになれたのだろうか。



( ^ω^)「思えば、きっと、初めて会った時から――」

いや、そんな事は分かっりきっている。
答え何て、とうに自分の中で見つけ出していた。

それは、きっと初めて会った時から。
あの初夏の日、このベンチで君を見つけた時からだった。
想いは膨らみ続け、今もなお、廃れることもなく輝きを増していく。

言葉にするのは簡単で、でも口に出すには難しい言葉。
今なら言える、いや、今日こそ伝えてみせる。


( ^ω^)「――僕は君が好きだったんだお」


内藤ホライゾンは、しぃを愛していだのだから。



(*゚ー゚)「…………」

( ^ω^)「…………」

(;*゚ー゚)「…………っあ」

( ^ω^)「……?」


(*////)「わっ!!あわわわわっ!!
     ひあっ、なんっ、ばばばばばばばかっ!!」

(;^ω^)「ちょっ、痛っ!!落ち着いてくれおっ!!」

ぽかぽかという擬音の聞こえそうな打撃の連打。
かと思えば、その勢いは増していき、風切り音が唸りだし、拳に炎が宿り、

(; ゚ω゚)「おぶしっ!!」

左右に体を振りだす、その技の名前はデンプシーロール。
内藤の骨身が軋み、空中に浮き上がり、それでも剛腕の嵐からは逃れられない……ッ!!



(;*゚ー゚)「はぁ……はぁ……」

(  ω )「…………」

(;*゚ー゚)「はぁ……はぁ……んっ……」

(  ω )「…………」

(;*゚ー゚)「ごめん……恥ずかしくてって、つい……」

(  ω )「つい、かお……ははは、そうかお……」

内藤は燃え尽きていた。真っ白な灰と化していた。
しかし、それはやり遂げた漢の姿に限りなく近かった。

(*゚ー゚)「でも、そっか、ブーン君が私の事を好きと……」

( ^ω^)「ん……そういうことだお」



(*゚ー゚)「えへへ、どうしよう、にやけちゃう」

その笑顔には、結果を聞くまでもない喜びが溢れだしていた。
当然、内藤の心にも安堵が芽生えていく。

( ^ω^)「ということは……?」

(*゚ー゚)「そりゃあ、もちろん―――」


しぃの言葉を遮ったのは、内藤の携帯電話の奏でる着信メロディーだった。
その曲の名は『ALI PROJECT』の『人生美味礼讃 』
空気をぶち壊すには十分過ぎた。

(;^ω^)「……あうあう」

(;*゚ー゚)「……出ていいって」



申し訳ないと連呼しながら携帯を確認した。
大凡の予想はついていたが、映し出されたジョルジュという文字に、内藤は舌打ちという形で感情を露わにする。
とはいえ、鳴り続ける音楽を無視する訳にもいかず、着信ボタンを押した。

『ぐおらぁ!!遅いんじゃボケェ!!』

思わず耳から電話を突き放してしまう程の罵声。
渋柿を食べた様な顔を浮かべながら、それに対応する。


( ^ω^)】「正直すまんかった。もうすぐ行くから待ってて欲しいお」

『お前のせいで、ドクオがさっきから俺達のストレスの捌け口になってるぞ……』

(;^ω^)】「絶対僕には関係ないことだお」

その後、他愛のない会話を終えて、電話での会話を終える。
今すぐにでも、ジョルジュの家に向かわなければならないようだ。



(;^ω^)「ごめんだお、友達と遊ぶ約束をしてて……」

(*゚ー゚)「いいよ、いいよ、私はいつでもここにいるしさー」

( ^ω^)「……返事は、また今度ゆっくり聞かせて貰うお」

(*゚ー゚)「あはは、じゃあ楽しみにしておいてね?」

内藤は大きく首を縦に振り、肯定した。
満足げな表情を浮かべたしぃを見て、顔も綻ぶ。


( ^ω^)「じゃあ、ばいばいだおー!」

(*゚ー゚)「うん、またねー!!」

別れを済ませ、内藤は駆け出した。
これだけ暑ければ、ジョルジュの家に着く頃には汗だくだな、なんて思いながら。





(*゚ー゚)(今のって……まさか、ね)


だから、気づかなかったのかもしれない。


しぃが憂いを帯びた瞳で、去っていく内藤の事を見つめていたことを。




・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・

(;^ω^)「……なんだお、この状況」

内藤がジョルジュの家、そして部屋に踏み入ると、中には組み合った二人の男の姿。
関節を上手く決められているのか、まるで動けないといった状況だった。

( ゚д゚ )「いや、何、ははは、たまにはじゃれ合うのも良いかなとな」

(;゚∀゚)「ちっげーんだよ、聞いてくれよ!!
      コイツ、ゲームに負けただけで悔しがって、とうとうリアルファイトに……痛てててててっ!!」

( ゚д゚ )「初心者相手に手加減もしないお前が悪い」

TV画面には対戦ゲームの戦績が映し出されている。



( ゚д゚ )「お前、体硬いな、そんなだからサブミッションに弱いんだ」

(;゚∀゚)「知るか、ていうかブーン!! これ外してくれよ!!」




( ^ω^)「…………」

(;゚∀゚)「ん?」

( ^ω^)b

(;゚∀゚)「グッ!じゃねーから!! つか、折れる折れる! うああああああああ!!」

ミシミシと骨が軋み始めた所で、ようやく技が解かれる。
ぐったりとその場に伏せるジョルジュに与えられたのはミルナの嘲笑だった。


( ゚д゚ )「情けない男だ……といった所で、再戦と行こうじゃないか」

(  ∀ )「いや無理……コントローラー握れないもん……」

(; ゚д゚ )「なにっ!? それじゃあ俺がゲーム出来ないじゃないか!!」

(  ∀ )「知るか……ストーリーモードでもやってろ……」

(; ゚д゚ )「ぐぐぐ……!!」




( ^ω^)「ミルナさんはゲーム好きなのかお?」

( ゚д゚ )「む……というより、俺は今までゲームをやった事がなかったんだ」

( ^ω^)「で、今日やってみたら見事に嵌ったと」

(; ゚д゚ )「ま、まぁそういう事になるか」

今時ゲームをやったこともない人間がいるものか。
という疑問は『ミルナだから』という理由で消え去った。
慣れというものは心底恐ろしい。

( ^ω^)「あれ、そういえば、ドクオはどうしたんだお?」

( ゚∀゚)「あー買い出しだよ、ブーンの奢りで」

(;^ω^)「ちょっ、なんで僕が……!!」

( ゚∀゚)「ちーこーく!! 40分!!」

どんな弁明をしようとも、時間とは決して戻せないもの。
幸せの代償だと、内藤は溜息をつくも諦めた。




( ゚д゚ )「しかし、ドクオが買い出しに行ったのも40分前だぞ?
     いい加減、遅すぎはしないか?」

( ^ω^)「あーそれなら、別に心配はいらないお」

( ゚∀゚)「なんで?」

( ^ω^)「多分、コンビニで立ち読みしてるお。
       もしくは暑くて外に出れなくなったか……」

( ゚∀゚)「んな訳ね―――」

と言った所で、ジョルジュの携帯の着信音が響く。
恐る恐る画面を確認すると、案の定ドクオからのメールだった。


(;゚∀゚)「…………」

( ^ω^)「確認してみると良いお」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

【From ドクオ】

暑いよぉ〜〜。゚(゚*ω⊂ グスン

もう外になんて出れないワラ

暫くしてからそっちに戻るね〜。

どれくらいって??

うぅーん☆ 2時間くらいかな(o´・∀・`o)ニコッ♪

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(#゚∀゚)「よし殺そう、今すぐアイツを殺しに行こう」

(;^ω^)「落ち着くお、それがドクオっていう男なんだお」

( ゚д゚ )「むぅ……やはりオレが行くべきだったか……」

( ゚∀゚)( ^ω^) 「「いや、それは勘弁」」

以前、ミルナが買い出しをした時には、袋一杯のウイダーinゼリーを抱えて帰ってきた。
『暑い日にもピッタリ』等と言われたからには、殴らない訳にはいかなかった。




( ゚∀゚)「しょーがねー、おらミルナ、もう一回コテンパンにしてやんよ」

( ゚д゚ )「良いんだな? その後に何があるか分かってるんだろうな?」

(;゚∀゚)「おまっ……遊びで八百長して何が楽しいんだよ」

( ゚д゚ )「何にせよ、お前が負けてる姿を見るのはとても愉快だからな」

暴走寸前の二人を、内藤は阿呆くせぇと吐き捨てる。
彼らを横目に置きながら、ジョルジュの部屋を探索していた。

ジョルジュの家は至って平凡な一軒家である。
当然、この部屋自体もあまり大きなものではなく、男四人も入れば窮屈に感じてしまうだろう。
整理整頓が成されているのがせめてもの救いだった。




( ^ω^)「意外と、片付いてるお」

( ゚∀゚)「『意外と』は余計だなぁ」

カチカチとゲームのボタンを弾きながらジョルジュが答える。
その目は一心にテレビ画面に向けられていた。

( ^ω^)「エロ本が散乱してたりとか……僕はそういうのを期待してたんだけど」

( ゚∀゚)「俺のイメージって一体……うおっ、何で今の技が当たらねぇんだよ」

( ゚д゚ )「ふははは、ビギナーズラックというやつだな」

画面内では、力士とやたら体の伸びるヨガの人が戦っていた。
内藤自身もゲームを頻繁にやる訳ではないが、圧倒的に力士が勝っているという事は理解できる。
滑空する肉塊がなんともシュールだった。



( ^ω^)「綺麗好きなのかお?」

( ゚∀゚)「いや別に……確かに、昔は部屋汚かったしなぁ」

( ^ω^)「ふぅん、じゃあ何で今は片付ける様にしてるんだお?」

( ゚∀゚)「片付けてくれる奴がいなくなったから……かな」

( ^ω^)「片付けてくれる奴? 誰だお?」

ふと口にした言葉が、暫しの沈黙を作り上げた。
ゲームの効果音だけが室内に淡々と響き続けている。


(; ゚д゚ )「……あっ、あー、また負けてしまったか、ははは!!」

( ゚∀゚)「……別に良いよミルナ、ブーンなら別にな」

ミルナの不器用な笑いを遮ったのは、他ならぬジョルジュだった。
視線が動く事はなかったが、内藤は蛇に睨まれたカエルの状態を、これでもかと実感していた。




( ゚∀゚)「俺によー、妹がいるって話はしたよなぁ」

( ^ω^)「う、うん、今日は家にいないのかお?」

( ゚∀゚)「帰って来ねぇんだよ、交通事故に巻き込まれたからな」

(;^ω^)「え、あ、えと……」

( ゚∀゚)「もう、あの事故が起きてから一年が経つってのに、ホント何でだろうなぁ……。
     これくらいで何が起きるって訳じゃないんだけどな。
     アイツにいつも言われてた通り、部屋を綺麗にする様にしちゃうんだよなぁ」
  
ジョルジュの扱うキャラクターの動きが鈍くなっていた。
連打するかの如く響いていたボタンの音も、今では時計の針の進む音の様である。


(;^ω^)「まさか、荒れてたのも……」

( ゚д゚ )「……そういうことだな、こいつにも色々とあったという訳だ。
     だから……な、責めないでやって欲しい」

(;^ω^)「……うん」




( ゚∀゚)「へっ、何か湿っぽくなっちゃったな。
     折角の夏休みなんだしよ、もっと盛り上がんなきゃよぉ」

( ゚д゚ )「そうだな、青春は思っている以上に短いぞ」

( ^ω^)「何をじじ臭い事を言ってるんだお……」

( ゚∀゚)「何なら、妹の写真でも見てみるか?
     可愛いぞー、一目惚れとかしちゃうかもな」

( ^ω^)「それは無いと思うお」

(#゚∀゚)「ああん!? これを見てもそんな事が言えるのか!?」

内藤が否定したのは、しぃの存在が故だった。
彼女の事を愛していたから、他の女性に現を抜かすことなど無いと確信していた。
だから、ジョルジュの差し出した彼の妹の写真を見ても、取りみだすこと等、有り得ない。

―――はずだった。



( ^ω^)「―――え?」

( ゚∀゚)「ふふん、どうだよ、可愛いだろ」

( ^ω^)「え、でも何で……この人がジョルジュの妹……なのかお?」

( ゚∀゚)「似てないとでも言いたいのかよ、まぁ気持ちは分からんでもないけどな」

そんな事が言いたいんじゃなかった。
そんなちっぽけ事で、内藤が取り乱す筈がなかった。

内藤の頭に真っ先に訪れたのは混乱で、その次に訪れたのは恐怖だった。
明るく照らされた未来に影が差し、次第に漆黒に染まっていく感覚。
幻想が入り混じったかの様な現実と、それを認めたくない心は葛藤し、そして先に折れたのは内藤の心だった。




( ^ω^)「しぃ……ちゃん?」

( ゚∀゚)「あ、何でお前が俺の妹の名前を知ってるんだ?」

ジョルジュの何気ない一言で、人違いという最後の希望も失われた。
美府公園でいつも内藤と話を交わしていた少女の姿が、その写真に納められていた。
ジョルジュの妹として、事故に遭い今もこの場に帰らぬ少女として―――

写真を手中から落とすと、ジョルジュが慌ててそれを拾った。
内藤に罵倒を浴びせ、大切そうに写真を元の場所へと仕舞いなおした。

内藤にその言葉は届いていない。 他者の行動など眼中にはない。
理解しきれない現実と対峙し、それでも理解しようと足掻いている。

手中から落としたのは写真と、そして幸福と―――


【第24話:おしまい】

前のページへ] 戻る [次のページへ