【第4話:本当の親友】





内藤は、行く当ても無く歩いていた。
眠りに就くことが出来ずに、早朝から外をふらついていた。
そんな時間が流れ、気付いた時には朝霧が消え、太陽が活発に地面を照らし始めていた。


( ^ω^)「今日も、暑くなりそうだお」

真っ青な空を見上げて呟く。


『あそこへ飛び込めたらどんなに気持ちの良いことだろう。
 きっと、悩みなど吹き飛んでしまうに違いない』

そんな途方の無い願いだけを空に浮かべていた。

しかし、内藤の体は悲鳴を上げている。
不眠の上、何時間も歩き続けたせいだろう。


( ^ω^)「・・・・・・お?」

気付くと、そこは美府公園の付近であった。
今日は祝日の為、時間には何も案ずる事は無かった。


( ^ω^)「無意識の内に、ここに来るなんて思わなかったお」

相変わらず、殺風景な場所だった。
子供の笑い声の無い、その場所は、公園と呼んで良いか迷う程だった。
錆びれた遊具だけが、そう呼んで良いと主張していた。


( ^ω^)「初めて来た時を思い出すお」

あの時も、何も考えないまま偶然、辿り着いただけだった。
そして、休もうとベンチへ目を向けると、あの少女がいたのだ。


(;^ω^)「ええぇっ!?」

今と全く同じような状態で、である。

内藤は困惑した。
休日の早朝から、しぃがこの場所にいるとは考えなかったのだ。
悠然と本を眺める姿は、なんら普段と変わりなかった。

だからこそ、内藤は安堵感を覚えたのかもしれない。
『いつも通り』というのが、今は凄く貴重なものに思えたのだ。


そよめく風に、彼女は髪をかきあげる。
呼吸のリズムに合わせ、小さな唇が揺れ動く。
そんな仕草を内藤は、美術品を見ているかのようにみとれていた。


(*゚ー゚)「で、君はいつまでそこでボーッと見てるつもりなのかな?」

(;^ω^)うひぃ!?」

突如、かけられた言葉に、内藤は奇声をあげた。
みとれている事を、ばれたかもしれないという恥ずかしさもあったのだ。


(*゚ー゚)「ほら、ここ座って座って!」

( ^ω^)んでは、失礼して」

言われるがままに内藤はベンチへと座った。
木陰にあったせいか、お尻にひんやりとした感触が伝わってくる。

若干、火照った体には心地の良いものだと彼は思った。


吹き抜ける風に、木々が揺らめく。
その音は自然が奏でる癒しの音楽のようだった。
そして、風の感触を内藤もまた味わい、爽やかな涼しさを感じていた。

( ^ω^)(気持ちいいおー)

彼が快い時間を過ごしていると、しぃが口を開いた。


(*゚ー゚)「珍しいね、君がこんな時間にここに来るなんて」

( ^ω^)「僕は、しぃちゃんがいるのにもっと驚いたお」


(*゚ー゚)「私はここが好きだからね・・・・・・ところで、さ」

( ^ω^)「お?」



(*゚ー゚)「何が、あったの?」

しぃは、真剣な眼差しをしていた。
敵意を向けている訳ではなく、真面目に悩みを聞こうという態度だった。


( ^ω^)「ええと・・・・・・」

しかし、内藤はそんな態度が嫌だった。
彼女には、いつも笑みを浮かべていて欲しかったのだ。

( ^ω^)(でも・・・・・・)

気付いていた。
彼女にそんな表情をさせたのは紛れも無く自分自身だと。
半ば、自暴自棄になっていた点もあったが、彼は言葉を紡ぐ。


彼はここ最近の出来事を全て話した。

自らの情けない行動も、包み隠さず伝えた。
これで、嫌われても良いとすら思っていたのだ。

ただ、誰かにこの悩みを打ち合けてしまいたかった。
相手はどんな人だって構わないし、見知らぬ人でも言ってしまったかもしれない。
こうすることで、束縛から解放される想いを得れると考えたのだ。


( ^ω^)「とまぁ、こんな感じだお」

(*゚ー゚)「そっか・・・・・・それで?」

( ^ω^)「なんだお?」


(*゚ー゚)「何で、君はここにいるの?」

しぃは、本当に理解が出来ないといった様子だった。


( ^ω^)「何でって・・・・・動いてないと、なんかおかしくなっちゃいそうで」

(*゚ー゚)「そうじゃなくってさ、今日もそのドクオ君は色々されちゃうんでしょ?
    なのに、なんで君は助けにいかないの?後悔したんでしょ?」

(;^ω^)「それは・・・・・・」

畳み掛けるような彼女の質問。
それに対し、内藤は口を濁らせる他なかった。


(*゚ー゚)「同じ間違いをもう一度するなんて、よくないよ。
     ブーン君は、2,3発殴られた方が良いんじゃないかな?」

(;^ω^)「ちょっと、それは酷くないかお?」


(*゚ー゚)「む・・・・・・でも、きっと心に負う傷よりもマシだよ」

( ^ω^)「くっさい台詞だお」


軽口を零しながら、笑顔を振りまきながら。
そうしながらも、内藤の心の中には妙な爽快感が満ちていく。
まるで、しぃの言葉で呪縛の鎖が解き放たれていくようだった。


( ^ω^)「でも、僕は裏切り者なんだお?」

あの時、内藤に絶望感を与えたその言葉。
それすらも彼女の前では、ちっぽけにすら感じた。

そう、そして―――



(*゚ー゚)「裏切り者でも、『親友』には変わりないんでしょ?」



その言葉は、彼の迷いを断ち切るには充分だった。


『あははははははははははは!』

内藤は、笑った。
腹の底から、大声を出して、胸に溢れる温かい気持ちに、身も心も託した。

陰鬱とした気分など、吹き飛んだ。
最後まで残ったそれすらも、この笑い声と共に吹き飛んでしまうようだった。

今まで悩んでいた自分が、馬鹿らしいとすら感じたのだ。


( ^ω^)「そうだお、その通りだお!
       こんなに苦しい思いをするなら、殴られた方が100倍マシだお!」

(*゚ー゚)「何なら、私が殴ってあげよっか?」

( ^ω^)「それは断る!」

(*゚ー゚)「残念だ!」

しぃの笑顔もまた、より美しく感じられた。


(*゚ー゚)「スッキリしたんなら、行って来な!」

( ^ω^)「ありがとう!しぃちゃんのおかげで助かったお!」


(*゚ー゚)「お礼はもちろん?」

( ^ω^)「ハーゲンダッツで!」

(*゚ー゚)b「GJ!」

しぃが指を立てながら言ったそれが、別れの挨拶になった。
両者とも、満面の笑みを浮かべて、実に気持ちの良い別れであった。


内藤は走り出した。

今度はこの前とは違い、『親友』の事をずっと思い浮かべながら。
吹き出る汗にも不快感は覚えず、むしろ気持ちよいとすら感じていた。


夏の太陽が照りつける中、内藤は駆ける。

風を纏うようにして、人の間をすり抜けていく。
神も味方するかのように、赤信号に捕まる事は無かった。


⊂二二二( ^ω^)二⊃   ブーン!!


両手を広げ、大空へと羽ばたくかのように、彼は駆ける。

疲労を感じても尚、彼の足が止まる事は無い。
むしろ、走るごとに速度は上昇していった。


猛暑を感じる気候の中、内藤は駆ける。

親友を助けたいという、一途な願い。
それだけを、確かな現実へと変えるため。


学校に着くと、そこにドクオの姿は無かった。
しかし、内藤は止まらない。

( `ω´)(きっと、校舎裏だお!
       不良のセオリーと言えば、校舎裏でフルボッコだお!)

そんな、どこから仕入れたかも分からない理論を基に、走る。
校舎の壁に沿うように、足を動かしていく。

すると、そこに4つの影。


( `ω´)「見つけたあああああああああ!!」

咆哮と共に、全速力でその場所へ。
その4人がこちらを振り向くのと、内藤が空に浮かぶのは全くの同時だった。

右足を前に突き出し、全体重をそこに集中させた。


「ぐげっはぁ!」

勢いに身を任せた内藤の跳び蹴りに、男が反応出来るわけもなかった。
接触、その刹那に吹き飛ばされていく。
上手い具合に、壁に激突した男が立ち上がる事は無かった。


(;'A`)「ブ、ブーン!?何でお前がここに・・・・・・」

( `ω´)「ドクオがどう思うかとか、関係なかったんだお!」

勢い冷め止まない様子の内藤が、吼える。
周りは突然の出来事に唖然とするばかりだった。


( `ω´)「僕がそうしたいと思ったから、そうするんだお!
       裏切り者と言われても、僕はドクオが大事なんだお!
       嫌われたとしても、僕はドクオが好きなんだから関係ないんだお!」

( `ω´)「だって―――」


( `ω´)「ドクオは、僕の親友なんだお!!」

空まで届くかのような、大声で叫んだ。

内藤は、ドクオをまっすぐに見つめる。
その瞳に、以前のような罪悪感や悲しみといった類のものはない。
ただ、本心を伝える事のみを必要とした、純粋なものであった。


('A`)「・・・・・俺はお前を裏切り者と言ったぞ?」

( ^ω^)「僕の思いを消すには、全然足らないお?」


('A`)「お前のこと、勝手に本気で恨んでたんだぞ?」

( ^ω^)「なーに、かえって免疫力がつくお!」


しばしの沈黙。

―――そして、穏やかな風が流れた。


('A`)「お前・・・ホントに馬鹿だよな!」

( ^ω^)「頭の固い奴らより、全然マシだお!」

自然と頬がゆるむようだった。
弾むように、笑い声が溢れ出していた。
今の状況を、楽しめる余裕すら二人にはあった。


('A`)「でも、やることがあるよな?」

( ^ω^)「もちろん、忘れてるわけないお!」

('A`)「んじゃ―――」

( ^ω^)「さてと―――」


『かかってこいやぁあああああああ!!』

二人は声を張り上げて叫ぶ。
互いの事を考えると、不思議と恐怖など消えていった。


「ちょ、ちょっとジョルジュさん・・・・・・こいつら可笑しいっすよ?」

そんな状況を見かねた男がジョルジュに尋ねる。
だが、だ。


( ゚∀゚)「くくく・・・・・・本当に変な奴らだよな・・・・・・」

彼もまた、笑っていた。
獰猛な顔つきの面影すら消して、笑みを溢していた。
それは、小さな子供のようだった。


「・・・・・・ええー」

取り巻きの男は困惑する。
まるで自分だけが取り残されたような、そんな感覚。

そして、とりあえず、普段のように振舞うしかないなと考えた。


「フゥハハハーハァー!!やっちまうぞコラぁああああ!!」


(#^ω^)「上等だおおおおおおおおお!!」



(#゚∀゚)「覚悟は出来てるだろうなぁあああああああ!?」


(#'A`)「それはこっちの台詞だぁああああああああああ!!」




茹だる様な暑さの中。

まるで緊迫感の無い喧嘩が始まった。


・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・

幾らかの時が過ぎた頃。
校舎裏には二人の男が大の字で寝そべっていた。

( ^ω^)「・・・・・・・・」

('A`)「・・・・・・・」

二人は体中、傷だらけのボロボロな状態だった。
服も、所々が擦り切れて無残にも穴が開いている。
それでも、どこか満足気な表情だった。


( ^ω^)「痛い・・・・・」

('A`)「滅茶苦茶な・・・・・」

内藤が呟くと、ドクオもそれに同意した。
体一つ、動かす気はないようだった。


( ^ω^)「やっぱジョルジュは強いお・・・・・」

('A`)「流石、伝説の不良は伊達じゃないよな・・・・・・」

( ^ω^)「でも、何発かくらわしてやったお」

('A`)「ああ、爽快だったな・・・・・」

ジョルジュを殴ったときに感じた、拳に伝わった衝撃に、二人は思いを馳せる。
生まれて初めてまともに喧嘩した相手が、ジョルジュだったという『偉業』に二人は気付いていない。


( ^ω^)「なんていうか、興奮したお・・・・・」

('A`)「ゲームなんて目じゃないよな・・・・・」

( ^ω^)「怖くなんてなかったお・・・・・・」

('A`)「俺も。お前がいたから怖くなかった・・・・・・」


( ^ω^)「・・・・・・・・・」

ドクオ「・・・・・・・・・」


『ぷっ、あははははははははははははは!!」

二人の笑い声が広がっていく。
大空に吸い込まれていくように、遠く、遠く。

大地に抱擁されながら、二人が笑う。
共に感じた友情に、最高の喜びを感じて。


( ^ω^)「ドクオ」

('A`)「ん」

ようやく立ち上がった二人。
片手を突き出しながら、向き合う。


太陽の輝きが暑さを加速させる。




それを背景に、二人の拳がコツリとぶつかる。




あるはずの無い、二人が『本当に親友になった瞬間』だった。




【第四話 おしまい】

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