('A`)は星に願うようです
-
101 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/11/30(金) 22:18:24.53 ID:E9DBHSGP0
- マリーが僕の前に姿を見せなくなって1ヶ月ほどが経とうとしている。
僕には日々の出来事を日付と関連付けて記憶する習慣がないため、
正確にはわからないけれど、おそらくそのくらいの筈だ。
その間、僕は彼女が庭にやってくる時間帯になると
決まって窓の外に視線をやり、しばらく彼女が来るのを待っていた。
今日もそうだった。
青かった空がオレンジ色を経て黒くなろうとしているにもかかわらず、
彼女は依然として来なかった。
('A`)「マリーはもうここには来ないのだろうか」
僕はそう呟いた。
僕の呟きを聞きつけたのか、クーが僕に近寄ってきた。
僕を背後から抱きしめる。
彼女の豊満な乳房が僕の背中に押し付けられ、
なんともいえない温かさが快感となって僕の体を包み込む。
クーは、僕の首筋にキスをした。
『('A`)は星に願うようです』
-
107 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/11/30(金) 22:20:15.48 ID:E9DBHSGP0
- 僕は自分の体にからみつくクーの両腕からすり抜けると、
立ち去り際に彼女の横顔にキスをした。
どうやら睡眠の世界に行きかけていたようで、
クーはくすぐったそうに僕がキスしたところをさすっている。
('A`)「クーはどう思う? マリーはもう来ないのかな」
僕がクーにそう問いかけると、
そんなこと知らない、といった様子で
彼女は再び僕を抱きかかえようと手を伸ばす。
僕がその動きに捕まることはなく、
横たわるクーから離れると、僕は大きく背伸びをした。
クーというのは僕が同棲している女の子の名前で、
マリーというのは僕がクーの家に転がり込んできたころに
姿を見せはじめた黒猫の名前である。
僕はクーを愛している。そして、マリーのことが好きだった。
-
113 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/11/30(金) 22:22:25.99 ID:E9DBHSGP0
- 川 ゚ -゚)「シッポサキマルマリだ」
クーは、マリーを一目見るなりそう言った。
何それ、と僕は彼女に訊き返す。
いったいどこからそんな名前が出てきたのだろう。
川 ゚ -゚)「シッポサキマルマリというのは
わたしの好きな小説に出てくる猫の名前だよ。
その猫は黒くて毛並みが良く、
尻尾の先が折れている」
ちょうどあのように、とクーはマリーの尻尾を指さした。
確かにマリーは毛並みの良い黒猫で、
その尻尾の先は骨折の経験があるのか折れていた。
('A`)「じゃあマリーで良いよ。僕はそう呼ぶ」
川 ゚ -゚)「ホーリーナイトというのも良いな。
いつかわたしが病床に伏すときがきたら役に立ってくれそうだ」
でもわたしは絵が下手だからどうかな、とクーはひとり唸っている。
僕はクーを放って庭に出ると、マリーと少しだけ戯れた。
-
117 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/11/30(金) 22:24:21.10 ID:E9DBHSGP0
- マリーは野良猫らしい気まぐれさで姿を現した。
それは毎日続くこともあったし、2・3日間隔が空いた後
唐突に訪れることもあった。
僕はマリーのことを気に入っていて、
僕の自惚れでなければ、マリーも僕のことを気に入っていた。
マリーの訪問の際には庭で会うのが常だった。
クーは決してマリーを自分の部屋に上げようとはしなかった。
それは野良猫に対する彼女なりのけじめのつけ方だったのかもしれないし、
ひょっとしたら、時にクーよりマリーの方に愛情を向けてしまう
僕に嫉妬してのことだったのかもしれない。
川 ゚ -゚)「君たちは仲が良いな」
クーはマリーと戯れる僕を眺めながらそう言った。
彼女はいつも、僕に対して思ったことをそのまま口に出す。
川 ゚ -゚)「わたしは時々、シッポサキマルマリに嫉妬するよ」
猫に嫉妬してもしょうがないのにな。
同じベッドに横になる僕の頬に指を這わせ、時に彼女はそういった。
('A`)「それは僕も同じだよ」
そう言ってやりたかったが、
僕は誰よりもそれが詮無いことだとわかっているので、
あえて口に出しはしなかった。
クーにはジョルジュという元彼氏の現友人がいるのだ。
-
123 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/11/30(金) 22:26:09.34 ID:E9DBHSGP0
- 僕がクーの家に転がり込んだのは、
彼女がジョルジュと別れた直後のことだった。
そうでなければ僕がクーとこのような関係になることは
なかったかもしれない。
クーは寂しさを紛らわすために僕を求め、僕はそれに従った。
傍から見れば、
僕が彼女の家に転がり込むことになった経緯はそう映るのだろう。
実際僕は、それまでに付き合いのあった
数少ない友達のいくらかに縁を切られることになった。
あるものは「知ってるか、それはヒモって言うんだぜ」と唾を吐き、
またあるものは「お前は飼われているだけだ」と僕に嫌悪の表情を向けた。
今思えば、彼らは友達と呼べるような存在ではなかったのかもしれない。
そして僕は、経済的にクーに頼ることになった。
僕はそれを当たり前のことのように思っているし、
彼女もまたそれを当たり前のことのように思っている。
たまに気が向いて簡単な家事を手伝ったりもするけれど、
僕の現在この場所における存在意義は、
その大半がクーと寝ることにあると言って良い。
僕はクーを愛しているし、彼女と寝るのはとても気持ち良いことなので、
そのことに対する不満は僕にはなかった。
-
129 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/11/30(金) 22:28:31.26 ID:E9DBHSGP0
- クーはジョルジュと別れた直後、よく泣いていた。
そんなとき、僕が彼女にできることは
せいぜい彼女が泣き止むまでそばにいてあげることくらいで、
彼女もそれ以上を僕に求めたりはしなかった。
クーは泣き始めると決まって僕の頭を胸に抱き、
そのまま涙が涸れるのを待つのだった。
そうすると、彼女は僕に泣き顔を見られずに済むのだ。
クーは、自分の感情をコントロールできない状態をひどく恐れていた。
('A`)「愛してるよ。僕はずっとここにいる」
死なない限りはね。
僕はクーの胸に包まれながら、何度も彼女にそう言い聞かせたものだった。
僕は自分にそんな資格はないと思っているし、
ひょっとしたら僕は彼に感謝すべき立場なのかもしれないけれど、
僕はジョルジュに嫉妬している。
僕は今、誰よりもクーのそばにいる。
だからこそ、僕は、クーがいまだにジョルジュのことが好きであると知っている。
それは僕には決して立ち入ることのできない領域の話であって、
水が低いところへ流れるのを止められないように
僕にはどうしようもないことだった。
僕には僕の歴史があるように、クーにはクーの歴史がある。
僕たちがお互い立ち入られる範囲はひどく限られているのだ。
-
134 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/11/30(金) 22:30:55.70 ID:E9DBHSGP0
- クーとジョルジュの関係が恋人から友人へと変化したきっかけは、
ジョルジュの女癖の悪さにあった。
ジョルジュは不思議なほどに異性を惹きつける何かをもっていて、
また彼はその能力をいかんなく発揮しようと考える種類の人間だった。
彼の行動原理はいかに効率よくペニスを勃起させるかであり、
そして、その勃起させたペニスをいかに有効利用するかである。
クーはジョルジュの度重なる浮気が許せず別れを告げ、
二人は恋人ではなくなった。
これはジョルジュにとってよくあることだった。
しかし二人は友人となり、
これはジョルジュにとってかなり珍しいことだった。
_
( ゚∀゚)「ひょっとしたら、ドクオ、お前のおかげなのかもな」
クーの家に転がり込んだ僕にはじめて会ったとき、
ジョルジュは僕にそう言った。
('A`)「だったら僕は、こんなところに居ない方が良かったよ」
僕がそう言いそっぽを向くと、
そうかもな、とジョルジュは僕の肩に気安く手を置く。
僕はその手を嫌って移動した。
_
( ゚∀゚)「ま、ありがとよ」
彼に礼を言われる筋合いはなかった。
-
140 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/11/30(金) 22:33:21.46 ID:E9DBHSGP0
- ジョルジュはたまに手土産を持ってクーの家を訪ねると、
2・3時間話して帰っていく。
僕への土産も忘れないところは彼の長所の1つだった。
ジョルジュが訪問すると、僕はしばらくクーのそばを離れない。
川 ゚ -゚)「そんなに見張っていなくても、
わたしはもうジョルジュに騙されはしないよ」
するとクーはそう言い、僕にキスしてくれるのだ。
ジョルジュの前でキスをするまでクーの傍を離れないことによって
僕を選ばせているような気になれて、
僕はそうすることが多かった。
_
( ゚∀゚)「ね、俺にもキスしてよ」
川 ゚ -゚)「死ねば良いのに」
僕を選ばせた後であれば、彼らのそんなやりとりも、
僕は欠伸まじりに眺めていられるのだ。
-
145 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/11/30(金) 22:36:09.26 ID:E9DBHSGP0
- 雨が2日ほど続いた翌日、
久しぶりに太陽がその豊満な裸体を披露した。
僕はその光を全身に浴びながら、ひとりハンモックに揺られている。
クーの部屋にはハンモックが吊るされている。
彼女が買ったのだ。
川 ゚ -゚)「見ろ、ハンモックを買ってきたぞ。
窓際で日の光を浴び
ハンモックで揺られながら読書三昧に耽るなんて、
とてもステキなことだと思わないか?」
ある日、クーは巨大な荷物を持って帰宅した。
本を読む趣味が僕にはないため、
半端な反応しか返せなかったことを覚えている。
クーは、ほとんどはじめての大工作業に汗をかきながらも、
なんとか部屋にハンモックを吊るすことに成功した。
その手つきが危なっかしくて
僕は途中何度か手伝おうかとも思ったのだけれど、
あるいはそういう悪戦苦闘が楽しいのかな、と思い直した。
ハンモックを吊るし終わったクーは床に座り、
とても満足そうに大きくひとつ息を吐いた。
僕はクーに歩み寄ると、功をねぎらうため彼女にキスをする。
僕のキスを頬に受けたクーは、そのまま僕の体に腕を回し、
一緒になってフロアリングの床に倒れ込んだ。
クーもまた、僕と寝るのが好きなのだ。
-
153 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/11/30(金) 22:38:30.99 ID:E9DBHSGP0
- 結局のところ、クーがハンモックに登ったのは一度きりのことだった。
それ以来、そのハンモックは、僕専用の昼寝場所となっている。
川 ゚ -゚)「これは、意外と怖いな」
最初で最後にハンモックに登ったとき、
クーは身を強張らせてそう言った。
彼女の体重を受け、ハンモックはゆらゆらと揺れていた。
('A`)「そんなに緊張しているからだめなんだ。
リラックスして、もっと面に体重をかけるようにすれば
ハンモックはきっと揺れなくなるよ」
重心的なポイントを外れているから揺れるんだ、と僕は言った。
クーに僕の言う通りにする余裕はなかった。
彼女はおっかなびっくりハンモックから這い出ると、
手のひらにかいた汗を丁寧に拭った。
川 ゚ -゚)「下がフロアリングだからかな。
落ちたらどうなるだろうかと気が気じゃない。
ベッドの上にくるように備え付けるべきだった」
クーはそう反省していたけれど、
ハンモックの位置を移動させる気はないようだった。
きっと単純に怖いのだ。
いつも素直なのにもかかわらず、こういう変なところで
妙な言い訳をするのが彼女のかわいいところである。
-
158 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/11/30(金) 22:40:38.51 ID:E9DBHSGP0
- おそらく悔しいのだろう。
僕がなんら恐怖を感じずにハンモックに揺られていると、
クーは時々僕をそこから降ろそうとする。
川 ゚ -゚)「ほら、ドクオ、危ないから降りるんだ。
落ちたらどうする」
('A`)「落ちないよ」
川 ゚ -゚)「君は身軽さに自信があるのかもしれないが、
このハンモックの網目になっているところに
足を挟んだりして捻ってしまうかもしれないだろ」
良い子だから降りるんだ、とクーは強引な理屈で僕の体に手を伸ばす。
そんなとき、僕は従順なふりをして、彼女の言うままに降りてやる。
川 ゚ -゚)「良い子だ。わたしは良い子は好きだよ」
クーが満足そうに僕を抱きしめようとしたところで僕は、
その腕を掻い潜って逃げるのだ。
そしてソファにでも座り、ゆったりと彼女のことを眺めやる。
するとクーは苦笑いを浮かべ、悪い子だ、と肩をすくめる。
クーのその表情は僕のお気に入りだった。
-
162 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/11/30(金) 22:42:39.97 ID:E9DBHSGP0
- どうやら眠っていたらしい。
庭に生える植物の落とす影の形が、
世界が朝から昼になろうとしていることを告げている。
大きく欠伸をひとつして、僕は部屋の中を改めて見回した。
僕の好きなクーの部屋だ。
僕はクーが好きだし、クーの部屋も好きだった。
食卓代わりのコタツでクーが遅めの朝食をとっていた。
いつもと変わらぬシリアルだ。
僕はどちらかというとちゃんと食事っぽいものを食べたい方で、
あまり乾いた種類の食べ物は好きではない。
僕はクーに経済的に依存しているので文句は言わないが、
たまに朝食が焼き魚になったりしたときの僕のがっつきようは
彼女を驚かせるほどである。
僕は特にかにかまが大好きで、クーがかにかまを買ってきた日は
どうにか食べようと彼女に媚びたおす。
今日は乾いた種類の食べ物のようだった。
川 ゚ -゚)「ん。君も朝食か?」
というよりブランチだな。
僕が見つめているのに気がつくと、クーはそう言い手招いた。
僕はするりとハンモックから抜け出、彼女の傍に歩き寄る。
クーはいつもと変わらぬシリアルを、僕のためによそってくれた。
-
166 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/11/30(金) 22:44:52.63 ID:E9DBHSGP0
- 僕たちは昼下がりまでテレビを見たりシャワーを浴びたり、
寝たり起きたりして過ごしていた。
川 ゚ -゚)「君は実にチャーミングだ。愛しているよ」
('A`)「僕もだよ。クーのことを愛してる」
僕たちはベッドの上で愛を語る。
幸福な日常である。
そして、そんなささやかな幸福は、簡単に崩れてしまうものだった。
クーの携帯電話が音楽を奏でているのだ。
それに構うためクーはベッドから抜け出すと、
裸のままコタツまで歩いていった。
僕は彼女が歩くたびわずかに形状を変える小尻を
ベッドの上から眺め続けた。
川 ゚ -゚)「げ」
携帯電話を見つめながら、クーが小さくうめき声をあげる。
('A`)「どうしたの?」
僕がベッドから出てクーの表情を伺うと、
ジョルジュが来る、と彼女は呟いた。
-
169 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/11/30(金) 22:47:08.02 ID:E9DBHSGP0
- _
( ゚∀゚)「おひさ。相変わらずおっぱいだね」
ジョルジュはチャイムを鳴らし、入室してきた。
ジョルジュは女の人のおっぱいが大好きで、好きすぎるあまり
彼の中で『おっぱい』はひとつの抽象名詞、あるいは形容詞と化している。
晴れ渡る空を見ては、
今日はおっぱいな日になりそうだな、と呟くのだ。
_
( ゚∀゚)「良いな、この猫は。おっぱいだ」
ジョルジュはマリーとはじめて会ったときも、
その毛並みの良い背中を撫でながらそう言った。
マリーは不思議そうな目でジョルジュを眺めていた。
_
( ゚∀゚)「なんだよドクオ、相変わらず貧相だな」
ちゃんと飯食ってんのかよ、とジョルジュは僕に挨拶した。
土産だよ、と肩にかけるトートバッグから牛乳瓶を2本取り出す。
_
( ゚∀゚)「クーの分と、ドクオの分な」
川 ゚ -゚)「なんだこれは。ただの牛乳か?」
_
( ゚∀゚)「ただの牛乳だが、そんじょそこらの牛乳じゃないぜ」
ファーザー牧場行って絞って来たんだ、とジョルジュは言った。
-
173 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/11/30(金) 22:49:19.02 ID:E9DBHSGP0
- _
( ゚∀゚)「1本な。
で、2本1000円とかいうボッタクリミルクが売ってたから
買ってみたんだよ。そしたらさ、超うめーの。
おっぱいだよ、ファーザー牧場牛乳は。
で、絞ったのと、1000円牛乳の片割れを持ってきたってわけ」
やっぱり俺がはじめて絞った牛乳はお前に飲んで欲しいからな、と
ジョルジュはクーの目を見つめて言葉を並べた。
川 ゚ -゚)「なるほど。どちらがジョルジュ絞りなのかな」
_
( ゚∀゚)「こっちだ。愛が染みてるぜ」
川 ゚ -゚)「ありがとう」
クーはそう言いジョルジュ絞りを手にとると、細工がなされてないか
注意深く確かめてから蓋を開け、僕用のコップに注ぎこんだ。
_
( ゚∀゚)「アッー! 何すんだよ!」
川 ゚ -゚)「こちらがドクオ用だな。わたしは1000円牛乳をいただこう」
_
( ゚∀゚)「てめぇ……」
川 ゚ -゚)「帰るか?」
_
( ゚∀゚)「ああ帰るさ!」
そのうちな。ジョルジュはそう言い、座布団の上に腰を降ろした。
-
176 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/11/30(金) 22:51:35.53 ID:E9DBHSGP0
- クーが簡単な食べ物を用意して、
コタツを囲んでしばらく話すことになった。
('A`)「これはうまい」
舌が牛乳に触れるや、僕はそう呟いた。
ジョルジュはそれを聞きつけ、満足そうに2度3度と頷いている。
_
( ゚∀゚)「だろー。ドクオはおっぱいだな。良くわかってやがる。
愛が溢れてるだろ? 勃起するよな?」
('A`)「するわけないだろ」
川 ゚ -゚)「とても不愉快だ」
なんだか他のものに見えてきた、とクーは言い、
コップを持ってキッチンへと消えた。
しばらく機械音が響いた後、マグカップ一杯のコーヒーと共に現れる。
川 ゚ -゚)「ジョルジュ絞りなどと名づけるべきではなかったな」
クーがそう呟くと、
_
( ゚∀゚)「ね。それってどういう意味? どういう意味?」
ジョルジュは僕を人間不信に陥れてしまいかねない笑みを浮かべていた。
-
180 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/11/30(金) 22:53:47.19 ID:E9DBHSGP0
- 窓から差し込む日の光がオレンジ色を帯びてきた。
マリーが訪れ得る時間帯が過ぎようとしている。
ジョルジュとクーのやりとりへの関心もほどほどに、
僕はひとり窓越しに庭へと視線を向けていた。
_
( ゚∀゚)「何見てんだ?」
何かの拍子に興味を持ったのだろう。
ジョルジュがそう訊いてきた。
川 ゚ -゚)「ああ、夕方か。
ドクオは最近、いつもこの時間帯になると庭を見るんだ」
_
( ゚∀゚)「なんで? って、クーにはわかんねーか」
川 ゚ -゚)「そんなことはない」
おそらく猫が来るのを待っているのだろう、とクーは言った。
川 ゚ -゚)「ほら、あの黒猫だ。ジョルジュも会ったことがあるだろう」
_
( ゚∀゚)「あーあれか。鉤尻尾の。名前つけてたよな、なんだっけ」
川 ゚ -゚)「シッポサキマルマリだ」
-
184 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/11/30(金) 22:56:08.93 ID:E9DBHSGP0
- _
( ゚∀゚)「そーそー、それ。来ねーんだ?」
川 ゚ -゚)「もう5・6週間になるかな。
シッポサキマルマリは姿を見せない」
_
( ゚∀゚)「こりゃ、あれだな。ペット殺しに捕まったに違いない」
僕はジョルジュの言葉に反応し、彼の方に首を曲げた。
('A`)「ペット殺しって?」
川 ゚ -゚)「そんなやつらがいるのか?」
_
( ゚∀゚)「ああ、いるんだよ。ヤバいぜ」
川 ゚ -゚)「そんなに残虐なのか?」
_
( ゚∀゚)「いや、そういうヤバさじゃない。
映画化までされたんだ。超おもしれーよ」
おっぱいだよあの本は。
ジョルジュは腕を振ってそう力説した。
-
187 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/11/30(金) 22:58:09.79 ID:E9DBHSGP0
- 川 ゚ -゚)「確認して良いかな」
_
( ゚∀゚)「なんだよ。異論は認めねーぞ」
川 ゚ -゚)「そうではない。実際あの小説は面白い。
ただ、あれをジョルジュに貸したのはわたしだな?」
_
( ゚∀゚)「そーだっけ」
川 ゚ -゚)「そうだ。どうしてジョルジュはそれを、
さも自分が発見したものであるかのように語るのかな」
ジョルジュが返答に困っていると、
クーはマグカップの中身を飲み干し、とても深くため息をついた。
('A`)「きっと世界中に自分の失望を知らしめたいと思ったとき、
人はこういうため息をつくんだろうな」
僕はそう思った。
川 ゚ -゚)「しかもだ。
あの小説を読んで、しかも人に勧めるようなことを言いながら、
いったいどうしてシッポサキマルマリの名を忘れられるのだ」
マリーの名の由来がある小説の話なのか、と僕はひとり頷いた。
-
191 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/11/30(金) 23:00:12.98 ID:E9DBHSGP0
- _
( ゚∀゚)「えーと、あの本に出てきたんだっけ。その……」
川 ゚ -゚)「シッポサキマルマリだ」
_
( ゚∀゚)「そうそう。マリーは」
川 ゚ -゚)「そうだ。ジョルジュはいつも適当なことばかりだな」
_
( ゚∀゚)「んなこたねーよ。俺のクーへの愛は不変だぜ!」
僕が大きく欠伸をすると、こちらに視線をよこしたクーと目が合った。
川 ゚ -゚)「ドクオ、こんなことを言われているぞ。危機だ」
キキダ。僕はなんとなくその音を気に入った。
_
( ゚∀゚)「いーや、ドクオは俺たちを応援してくれるね」
('A`)「しないよ。眉毛整えて出直して来い」
_
( ゚∀゚)「ズレてる?」
ジョルジュはクーの手鏡を借り、入念に眉毛の様子を確かめている。
絶好調じゃねーか、と僕を睨みつけた。
川 ゚ -゚)「何をしているんだ。馬鹿なのか」
クーは手鏡を返してもらいながらそう言った。
-
194 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/11/30(金) 23:02:56.16 ID:E9DBHSGP0
- まあいいや、とジョルジュは座布団の上に座りなおした。
_
( ゚∀゚)「それよりさ、俺見たぜ。あの黒猫」
('A`)「mjd!?」
僕はジョルジュの言葉に食いついた。
落ち着け、とクーが僕の背中をさする。
川 ゚ -゚)「ジョルジュの吐く言葉を信用すると痛い目にあう」
_
( ゚∀゚)「本当だって! あの鉤尻尾は間違いねーよ」
川 ゚ -゚)「オオカミ少年は、オオカミが来ないときも
間違いないと言っていた」
_
( ゚∀゚)「なんだよ。俺が嘘つきみたいじゃねーか」
川 ゚ -゚)「そのような言い方だと
ジョルジュが実際には嘘つきではないように聞こえるから、
それは適切な表現ではない」
ジョルジュが困って僕に目をやると、
依然として食いついている僕と目が合った。
_
( ゚∀゚)「ドクオは信じてるみてーだぜ」
川 ゚ -゚)「それは、まだ騙されてないからだ」
明日は信じないさ、とクーは言った。
-
198 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/11/30(金) 23:05:26.20 ID:E9DBHSGP0
- _
( ゚∀゚)「なんだよー。俺はちゃんと『ピエロ』も読んだぜ?」
川 ゚ -゚)「わたしは『ラッシュライフ』を読んでから『ピエロ』を読めと言った。
ジョルジュはそれに頷いた」
『ラッシュライフ』は読んでないだろ、とクーはジョルジュを睨みつけた。
彼らの暗号トークが何を意味しているのか、
僕にはサッパリわからない。
_
( ゚∀゚)「だからさ、俺も暇じゃないんだって」
川 ゚ -゚)「それなら読まなければ良い。
最低『ラッシュライフ』は読んでいないと、
『ピエロ』の面白さは半減するんだ」
_
( ゚∀゚)「でもさ、しょーがねーじゃんか。
『ピエロ』読んでるやつの半分以上は『ラッシュライフ』読んでないぜ」
川 ゚ -゚)「知らずにやるのと知っててやるのでは受ける印象がだいぶ違う。
そもそも、動機が不純なのがいけないんだ」
_
( ゚∀゚)「どこがだよ。すげー純粋じゃねぇかよ」
川 ゚ -゚)「話題になってる本を読んで、
文学少女の尻を追いかけまわそうとするのがか?」
_
(#゚∀゚)「俺は尻なんか追いかけまわしてねー!」
俺が求めてんのはおっぱいだ、とジョルジュは腕を振った。
-
200 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/11/30(金) 23:07:47.90 ID:E9DBHSGP0
- それよりさ、と僕は言った。
('A`)「ジョルジュはどこでマリーを見たんだ?」
_
( ゚∀゚)「あれはどこだったっけなー。
今日じゃないから不確かなんだ。
たぶんここからそう遠くはない、というか結構近いと思うんだけどな。
じゃないと鉤尻尾の黒猫見たからってそんなに印象づかねーし」
よし、とジョルジュは目を輝かせた。
_
( ゚∀゚)「行くか!」
('A`)「行くか?」
川 ゚ -゚)「どこへだ」
_
( ゚∀゚)「わかってないなー。マリー探すんだろ?
冒険だよ、冒険。アドベンチャーだ。レッツゴー!」
川 ゚ -゚)「行かないよ。いったいどこを探すというのだ」
_
( ゚∀゚)「だからさ、このへんだよ。剣と魔法で冒険するんだ」
川 ゚ -゚)「このへんはただの住宅街だ。ファンタジーの要素はない」
わたしはごめんだな、とクーは言った。
川 ゚ -゚)「ジョルジュの何股目かの女に刺されそうになるのはもうコリゴリだ」
-
203 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/11/30(金) 23:10:11.09 ID:E9DBHSGP0
- _
( ゚∀゚)「大丈夫だって! あの娘は今オーストリアに住んでんだから。
妹はこのへんにいるらしいけどな」
川 ゚ -゚)「オーストリア? オーストラリア?」
_
( ゚∀゚)「コアラとキューウェルの国じゃあない方だ」
川 ゚ -゚)「キューウェルは古いだろ」
常識的に考えて、とクーは言う。
キューウェルというのはサッカー選手だな、と僕は思った。
僕にもその程度の知識はある。
クーの言い草にジョルジュはひとしきり憤慨していたが、
その程度の知識しかない僕にはどうでも良い話題だった。
_
( ゚∀゚)「まあいいや。クーは行かねーんだな?」
川 ゚ -゚)「二言はない」
_
( ゚∀゚)「ドクオは?」
('A`)「行くよ」
_
( ゚∀゚)「行くってよ。二言はないんだな?」
川 ゚ -゚)「……もちろんだ」
クーの視線が突き刺さっていたけれど、僕は目を合わせようとしなかった。
-
207 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/11/30(金) 23:13:13.79 ID:E9DBHSGP0
- こうして僕は、ジョルジュと夕暮れの住宅街を歩くことになった。
川 ゚ -゚)「君は帰ってくるんだろうな?」
クーが寂しげにそう訊いたのが印象的で、僕は少しだけ後悔した。
_
( ゚∀゚)「大丈夫だって。俺がついてるんだからさ」
飯用意して待ってろよ、とジョルジュは言った。
川 ゚ -゚)「ジョルジュも食べるつもりなのか」
_
( ゚∀゚)「当たり前だろ。飯は4人分な。
マリーも連れて帰るからよ」
川 ゚ -゚)「それは多いだろ。猫はそんなに食べられないよ」
_
( ゚∀゚)「まかせろって。食うから作っとけ。
2人前や3人前、俺がペロリ食っちまうからよ」
川 ゚ -゚)「ジョルジュもそんなには食べられないさ」
_
( ゚∀゚)「はたしてそうかな。
お前がおかずなら、俺は丼で50杯は軽くご飯おかわりできるぜ?」
ジョルジュがそう言うと、クーは楽しそうに笑った。
川 ゚ -゚)「じゃあやってみてとかって言いだしたら困るくせに」
行ってこい、とクーは左手を振った。
-
211 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/11/30(金) 23:16:47.44 ID:E9DBHSGP0
- 夕日が世界をオレンジ色に染めている。
それで、と僕は切りだした。
('A`)「どこへ向かえば良いのかな」
_
( ゚∀゚)「え。知らねーよ」
こっちが訊きたいくらいだ、とジョルジュは僕を見つめた。
ジョルジュの態度は驚くほどに堂々としていて、
僕はしばらくどう反応して良いのかわからなかった。
('A`)「ジョルジュはどこを探すつもりだったんだ?」
_
( ゚∀゚)「このへんだよ、このへん一帯。
別にどことかはねーよ。
つーかさ、黒猫に会いたいのはお前だろ。
鼻とか効かねーのかよ」
('A`)「効かないよ。犬じゃないんだからさ」
_
( ゚∀゚)「まったく当てはないのか?」
('A`)「ないなー。僕はマリーの生活については詳しくないんだ」
_
( ゚∀゚)「なんだよ、頼りにならねーな」
じゃ、とりあえずぶらつくか。
ジョルジュは僕にそう言うと、口笛を吹きながら歩きだした。
どうやらまったく考えなしに出発したらしい。
ジョルジュの背中を追いかけながら、僕はまた少し後悔した。
-
216 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/11/30(金) 23:19:47.21 ID:E9DBHSGP0
- いくら友達が少ないとはいえ、僕にはそれなりの歴史があり、
それに伴ってそれなりの数の知り合いがいる。
それはジョルジュも同じことで、僕たちはすれ違うそれぞれの知り合いに
挨拶をしたり軽く言葉を交わしたりしながら歩を進めていた。
僕は短い間ではあるけれど、
ジョルジュとはそれなりに付き合いがある方だと思っていた。
それほど深いわけではないが、彼の人となりやキャラクターのようなものは
把握できていると思っていたのだ。
('A`)「一応訊くけど、あんたらは別に知り合いじゃあないよな?」
_
( ゚∀゚)「モチロン。初対面だ、たぶん」
おそらくはじめて会うのであろう僕の友達にも、
ジョルジュは気さくに声をかけるのだ。
それも「こんにちは」とか
「はじめまして、ジョルジュです」とかいった可愛げのあるものではない。
_
( ゚∀゚)「よー、元気? 今日は晴れてて、おっぱいな夕日だよな」
このように、誰に対しても自分のおっぱい好きが
世界の常識であるかのようにジョルジュは振舞う。
気さく、というより異常に馴れ馴れしい。
('A`)「なんなんだこいつは……」
飄々と歩くジョルジュの背中を、僕は驚愕の眼差しで見守った。
-
219 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/11/30(金) 23:22:20.52 ID:E9DBHSGP0
- _
( ゚∀゚)「よー、元気? お前はあれだな、毛並みがおっぱいだな」
ジョルジュはパン屋の前に繋がれた犬にも話しかける。
その犬は僕にはワンワン、
あるいはバウバウとしか聞き取れない音声で答え、
ジョルジュはその音声に対応して会話する。
僕はジョルジュが動物と会話できることを知っているので
それほど驚きはしないと思っていたのだが、
いざ目の前で犬と話されたりすると、やはり驚いてしまうのだった。
ジョルジュが犬と会話するのを見るのははじめてだ。
('A`)「すげーな。本当に話せるんだ」
_
( ゚∀゚)「知ってたろ? 見ての通りだ」
('A`)「いや、知ってるけどさ。実際見たら驚くって。
犬と話すなんて、僕には無理だな。想像もつかない」
それって何でもイケるの、と僕は訊いてみた。
_
( ゚∀゚)「そうだなー。ま、今んとこだめな動物はないかな。
つっても犬とか猫とか、あとは牛かな。牧場で話した。
あ、でも昆虫はだめだな。トカゲとかも無理だった」
哺乳類限定なのかもな、とジョルジュは言った。
-
224 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/11/30(金) 23:24:48.10 ID:E9DBHSGP0
- ('A`)「どんな感じに聞こえてんの?」
_
( ゚∀゚)「俺は逆にお前たちがどう聞こえてるか知りたいくらいだけど、
そうだなー。猫は英語っぽいかな。犬はドイツ語だな。
牛はよくわかんねーけど、
なんとなく言ってることはわかるって感じだった」
('A`)「ふーん」
そうなんだ。自分で話を広げさせてなんだけど、
僕からそれ以上の感想は生まれてこなかった。
ジョルジュは犬に、尻尾の折れた黒猫を知らないかと訊いていた。
犬は知らなかったようで、
僕たちは飼い主がパン屋から現れ犬泥棒の嫌疑をかけられてしまう前に
退散することにした。
('A`)「思ったんだけど、マリーは黒猫なんだからさ、猫に訊けば良いんだよ」
誰かに聞き込みをするという発想が
それまでまるでなかった僕はそう言った。
_
( ゚∀゚)「あのな。俺はさ、猫より犬の方が好きなんだよ」
('A`)「それで?」
_
( ゚∀゚)「それだけだよ。おっぱい、犬、猫の順だな」
あ、こいつはあまり本気で探す気がないな、と僕は思った。
-
227 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/11/30(金) 23:27:52.34 ID:E9DBHSGP0
- オレンジ色の絵の具に黒の絵の具を混ぜると、
少量であってもすぐに真っ黒になってしまうことを僕は知っている。
それと同様に、オレンジ色の空が黒に染まり始めると、すぐに夜が訪れる。
これは宇宙の真理である。
('A`)「一番星だ」
僕は夜空になりかかっている空を見上げ、そう呟いた。
_
( ゚∀゚)「あっちにもあるだろ。一番星じゃねーよ、それは」
ジョルジュが不思議な負けず嫌いさで対抗してくる。
こっちが一番だ、いやあっちだと、僕たちは一通り主張しあった。
議論が落ち着くと、僕たちの間にしばしの静寂が訪れる。
僕はぽつりと呟いた。
('A`)「マリーは本当に見つかるのかな」
_
( ゚∀゚)「なんだよ。見つからねーと思ってんのかよ」
そういうわけじゃないけどさ、と僕は小さく息を吐く。
僕がマリーに会うのは決まって空が青からオレンジ色に
変わろうとしている時間帯で、
星空の下彼女に会うという状況が僕には想像つかないのだった。
-
230 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/11/30(金) 23:30:50.22 ID:E9DBHSGP0
- ('A`)「ひょっとしたら、マリーは夜そのものなのかもしれない」
僕はそう呟いた。
オレンジ色の空にマリーの黒が溶け込んで、
世界は夜に染められていくのかもしれない。
だとすると、僕はもうすでにマリーに会っているも同然だ。
_
( ゚∀゚)「お前、見かけによらずロマンチストなんだな」
冷やかすように、ジョルジュは僕にそう言った。
僕がちょっぴりスネて歩を速めると、ジョルジュが後から声をかけてくる。
_
( ゚∀゚)「お前さ、七夕に願い事した?」
('A`)「してないよ」
_
( ゚∀゚)「じゃあさ、七夕って何の日か知ってる?」
('A`)「え。あれだろ。織姫と彦星が会う日だろ」
_
( ゚∀゚)「だよな。実は、俺は最近まで間違って覚えてた」
やつらが俺たちの願い事を叶えてくれる日だと思ってたんだ。
ジョルジュは笑ってそう言った。
-
237 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/11/30(金) 23:33:30.55 ID:E9DBHSGP0
- _
( ゚∀゚)「だってさ、俺たち願い事すんじゃん。
この誤解は致し方ないよな?」
('A`)「そうだね。イタシカタナイんじゃないかな」
イタシカタナイ。僕はこの音を気に入った。
_
( ゚∀゚)「でさ、なんで俺たちが願い事するか調べてみたんだ」
('A`)「おっぱい以外に情熱が向くこともあるんだ?」
_
( ゚∀゚)「俺は情熱の塊だぜ。何にでも向くっつーの。
昼飯買うのも命がけだよ」
('A`)「で、なんでだったの?」
_
( ゚∀゚)「あーそうそう。
なんかな、俺たちが七夕の日に願い事をするのは
別に間違ってないらしい」
星が俺たちの願い事を叶えてくれるんだ、とジョルジュは言った。
('A`)「星が?」
_
( ゚∀゚)「そうそう。星に願えば、って言うじゃん。
どうも年イチで叶えてくれるらしいぜ」
-
240 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/11/30(金) 23:36:01.13 ID:E9DBHSGP0
- ('A`)「へー。じゃあ、別に七夕じゃなくて良いんだ」
_
( ゚∀゚)「そうだよ。日を設けてないと忘れちまうからじゃねーの?
貧乏くさいな、先人たちは」
だからさ、とジョルジュは腕を振る。
_
( ゚∀゚)「自分らが星のくせにちゃっかり願い事叶えてもらってる、
織姫彦星の方が間違ってんだよ。
世の中! 狂ってんだ! 狂ってんだ!」
ジョルジュはひとりで興奮している。
僕が空を見上げると、すっかり満天の星空になっていた。
_
( ゚∀゚)「だからさ、星に願えば良いんだよ。
そうすりゃマリーにも会えるだろうさ」
('A`)「星に願えば」
穏やかな風の吹く星空の下、僕はそう呟いた。
でもさ、と僕は言う。
('A`)「年に一度しか叶えられない願い事をするってことは、
その一年間は他の願い事はすべて叶わなくても
構わないって宣言するってことだよね」
-
244 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/11/30(金) 23:38:43.00 ID:E9DBHSGP0
- それは嫌だな、と僕は言う。
お前は変わった考え方をするんだな、と
ジョルジュは感心しているようだった。
_
( ゚∀゚)「でも、そのくせ欲張りなのな」
('A`)「そうだね。僕は欲張りなんだ。
だからそんな願い事はできそうにない」
しゃべりながらも歩きつづけていた僕たちは、
公園で少し休憩することにした。
ジョルジュがブランコをこぎたいと言い出したのだ。
ジョルジュがブランコをこぐ度に、
あまり新しくない鉄の鎖が擦れあう音が静かに響く。
僕は月の光を全身に浴びながら、
滑り台の頂上から辺りを見渡していた。
閑静な住宅街ということになるのだろう。
それほど車の往来も激しくなく、また駅や空港も近くにない町並みは、
夜の闇をまとって独特の雰囲気をかもしだしていた。
('A`)「このどこかにマリーはいるのか?」
僕は町並みに向かってそう呟く。
不安定なリズムで鳴るあまり新しくない鉄の鎖が擦れあう音の他に、
僕に返事をくれるものはいなかった。
-
248 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/11/30(金) 23:41:18.27 ID:E9DBHSGP0
- ブランコをこぐのに飽きてしまったジョルジュが放物線を描いて着陸し、
僕たちは探検を進めることにした。
_
( ゚∀゚)「今日はおっぱいな星空だな」
夜空を見上げるのなんて久しぶりだ、とジョルジュは言った。
言われてみると、僕も夜空を見上げるのは久しぶりなのかもしれない。
星のひとつひとつに睨みつけられている気がした。
('A`)「なんだかマリーに試されてるような気がするよ。
おいドクオ、あんたはどれくらい私に会いたいんだ、って」
_
( ゚∀゚)「それはやましいところがあるからだろ。
星に願えない程度だからだ」
僕たちは話し合うことなしにクーの家に向かって歩いていた。
探検が打ち切りになったのか、
それとも方向を変えているだけなのかはまだ定かではない。
('A`)「0と1の差は、1と100より大きいと思うんだ」
僕は夜空に言い訳するように呟いた。
ジョルジュに聞かせるつもりではなかったが、彼はしっかり聞いていた。
_
( ゚∀゚)「お前哲学者かよ。どういう意味だ、それは」
-
251 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/11/30(金) 23:43:45.34 ID:E9DBHSGP0
- ('A`)「だからさ、『あり得る』ってことが大事なんだよ」
僕はそう答えた。
僕はたぶん、現金よりも宝くじの方が欲しいタイプなのだ。
_
( ゚∀゚)「この場でおっぱい揉めるより、
10%の確率でおっぱい揉める機会が
10回ある方が良いってことか?」
('A`)「そのたとえは良くわからないけど、
たぶんそういうことじゃないかな」
期待値が一定ならば確率は分散されてるべきなんだ、と僕は言った。
('A`)「そうすれば、たくさん胸躍らせられるだろ」
_
( ゚∀゚)「ふーん。そんな小難しく考えなくても、
願って叶って、また願って叶えられなかったら
『おい星! どういうことだよ!』で良いじゃんか」
('A`)「僕にはそれは無理だな。
僕はきっと、ルールを知れば縛られる」
空を飛べるとしたら、それはきっとジョルジュの方だ。
僕はジョルジュにそう言った。
-
255 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/11/30(金) 23:46:32.92 ID:E9DBHSGP0
- 猫に会うことがあったらマリーのことを訊こうと思っていたのだけれど、
僕たちがクーの家に辿りついてしまうまでに猫に会うことはできなかった。
_
( ゚∀゚)「じゃ、ちょっくら向こうにも歩くか」
さほど落胆した様子も見せずにそう言うジョルジュの後に、
僕は少しだけ肩を落としてついていく。
('A`)「マリーに会いたい」
僕はそう思った。
夜空の黒さはマリーの肢体を僕に思い起こさせる。
星の輝きは、彼女の大きな瞳を連想させる。
_
( ゚∀゚)「実際さ、お前はどのくらい会いたいんだ?」
僕の考えていることを見透かしたように、
ジョルジュはそう訊いてきた。
('A`)「わからない。でも会いたい。
今なら僕のかにかまをジョルジュに食べられても構わない」
_
( ゚∀゚)「かにかまって、なんでだよ。好きなのか?」
('A`)「大好物なんだ」
_
( ゚∀゚)「かにかまが。へー、なんか意外だな」
それじゃ、もうちょいがんばるか。
ジョルジュはそう言い、近くにいる犬のところへ歩いていった。
-
260 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/11/30(金) 23:49:09.17 ID:E9DBHSGP0
- あいにく、僕には犬の言葉なんかサッパリわからない。
僕は犬と会話するジョルジュを遠くから見守ることにした。
しばらく手持ち無沙汰に辺りを見渡していると、
僕は景色の中に何かひっかかりのようなものを感じた。
('A`)「何だ……?」
僕は意識して深く呼吸し、空気の流れを肌で感じ取る。
長らく眠りついた野生を働かせるには、集中力が必要なのだ。
街灯が不規則に点滅している。
電球を取り替えた方が良いな、と僕は脳の一部分で考えた。
僕は全身に神経を張り巡らせながら、
それでも頭の中は徒然なるままに働かせる。
それが僕のやり方だった。
僕は五感を働かせ、そこから第六感を掴み取る。
犬との対話を済ませたジョルジュが帰ってきたが、
僕はそれに構わなかった。
_
( ゚∀゚)「あの犬も知らないってさ。
やっぱり猫に訊かないとだめかなー」
ちょっとだまってろ、と僕は思う。
なおもジョルジュは言葉を並べるが、僕はその一切を気にとめない。
やがて、僕はひっかかりの正体を突き止めた。
('A`)「マリーだ。彼女は、あそこにいる」
-
263 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/11/30(金) 23:52:09.25 ID:E9DBHSGP0
- 僕は走った。
ジョルジュが泡を食ってついてくる。
_
( ゚∀゚)「なんだよ、待てよ!」
お前意外とはえーんだな、とジョルジュの上げる声に構わず、
僕はアスファルトの上を滑るように駆けていく。
細い路地に入り込み、抜ける。
僕の眼前には2階建てのアパートがそびえている。
('A`)「この2階だ。マリーはここにいる」
僕は確信のようなものをもっていた。
ふと路地の方に目をやると、
ジョルジュがカニのようになって進んでいた。
_
( ゚∀゚)「お前さ、こんなの人が通るところじゃねーっての」
あっちに道あんじゃねーか、と服の汚れを払っている。
ジョルジュの言う通り、確かに少し行ったところには
そこそこ広い道が走っていた。
_
( ゚∀゚)「で、何なんだよここは」
('A`)「ここにマリーがいるんだ」
_
( ゚∀゚)「ほんとかよ。何も見えねーぞ」
-
267 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/11/30(金) 23:54:43.53 ID:E9DBHSGP0
- 僕はジョルジュの目を見た。
('A`)「いるんだ。僕にはわかる」
ジョルジュは大きくひとつ息を吐く。
_
( ゚∀゚)「オーケー、わかった。認めるよ。
マリーはここにいるんだろうな。
ってことはさ、飼われてんじゃねーのか?」
どうするんだ、とジョルジュは僕の顔を覗き込んだ。
マリーは誰かの飼い猫になっている。
僕はその可能性についてまるで思い当たっていなかった。
('A`)「そうか。そうなのかもしれない」
それならクーの家に訪れないことも説明がつく。
どうしよう、と僕はジョルジュの顔を覗き返した。
_
( ゚∀゚)「俺が決めることじゃねーだろ。
お前が考えろよ」
あれか、略奪愛か、とジョルジュは僕を冷やかした。
-
271 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/11/30(金) 23:57:45.96 ID:E9DBHSGP0
- 改めてアパートの2階を見上げると、
僕にはマリーの気配のようなものが確かに感じられた。
('A`)「さっきはたぶん、月の明りか何かが
マリーの目に反射したのが見えたんだ」
僕はジョルジュにそう言った。
一瞬だけだったが、僕にはそれで十分だった。
_
( ゚∀゚)「なんだよそれ。愛の力ってやつかよ」
ジョルジュの口調には依然として冷やかしが含まれているが、
その横顔は真剣みを帯びていた。
_
( ゚∀゚)「で、どうすんだ。会うのか?」
('A`)「会うさ。ここまで来たんだ」
_
( ゚∀゚)「そうか。それならそうしよう」
そう言うと、ジョルジュは大股でアパートへ歩いていった。
意表を突かれた僕は3歩遅れてそれについていく。
('A`)「待てよ。何するつもりなんだ」
_
( ゚∀゚)「お前は知らないのか?
この世には、
押せば人を呼び出すドアチャイムという発明品が存在する」
どの部屋だ、とジョルジュは訊いた。
-
277 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/12/01(土) 00:00:49.78 ID:yyGar8kT0
- 僕が部屋の位置を伝えると、
ジョルジュは躊躇せずにその部屋の前に立った。
ジョルジュの指がドアチャイムを押すとピンと鳴り、
離すとポーンとやや間の抜けた音が部屋に響くのが感じられる。
ドアチャイムに応答はなく、
僕たちはしばらく待った後何度かドアチャイムを
鳴らしてみたけれど、得られたものは数度の間の抜けた音だけだった。
('A`)「いないのかな」
_
( ゚∀゚)「だろうな。電気メーターも回ってねーし」
表札の上に浮かぶヘンテコな機器を眺めながら、
ジョルジュは笑みを浮かべてそう言った。
_
( ゚∀゚)「出直すか。とりあえず降りよーぜ」
人ん家の前ってのは居心地が悪いもんだな、とジョルジュは言った。
-
280 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/12/01(土) 00:03:26.94 ID:yyGar8kT0
- 僕たちはアパートの脇に走っているそこそこ広い道に出て、
そのベランダが見える植え込みに腰掛けた。
_
( ゚∀゚)「ほらな。この道から来るのが正着だったんだ」
服が汚れたのがまだ気に食わないのか、
ジョルジュは恨めしそうにそう言った。
そこそこ広い道はクーの家の裏を通っていて、
マリーのいるアパートはなるほど近場といえる位置にある。
('A`)「ジョルジュがマリーを見たのもこのへんなんじゃないのか?」
_
( ゚∀゚)「あー、そうかもな。
あの塀のあたりで見た気がする」
ジョルジュはそう言いブロック塀を指さした。
僕の記憶によると、そのブロック塀の向こうは靴屋の筈だ。
腕の良い靴職人がマイペースでやっている店らしく、
確かジョルジュもそこでオーダーメイドした靴を履いている。
ジョルジュの靴に目をやると、
よく手入れのなされた革製のスニーカーはいかにも歩きやすそうだった。
-
285 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/12/01(土) 00:06:12.61 ID:yyGar8kT0
- 穏やかな風の中に歌声が溶け込んでいるのに気がついた。
アパートのベランダをぼんやりと眺めている僕の耳に届くそれは
あまりに心地良い音色をしていて、
僕はしばらく歌と認識できていなかったのだ。
僕が視線を横にやると、歌を口ずさんでいるのはジョルジュだった。
僕はしばらくその歌声に耳を傾けた。
僕は自分で歌うことはしないが、歌を聴くのは大好きである。
僕はクーがコンポに歌わせるCDを聴き、
クーが料理をしながら口ずさむ鼻歌を聴く。
ジョルジュの歌声を聴くのははじめてのことだった。
彼はとても歌が上手かった。
僕に歌の知識はないけれど、その良し悪し、あるいは好悪は判断できる。
ジョルジュの歌は良かった。
そして、僕はジョルジュの歌を好きになった。
やがてジョルジュは一曲を歌い終えると、僕に白い歯を見せてきた。
('A`)「どうしたんだ?」
僕はジョルジュにそう訊いた。
_
( ゚∀゚)「知らないのか? 俺は今、歌を歌ったんだ」
ジョルジュは僕にそう言った。
『歌を歌う』は重複表現にあたらないのかな、と僕は思った。
-
290 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/12/01(土) 00:09:00.14 ID:yyGar8kT0
- ('A`)「わかってるよ。そのことに何か意味があるのか訊いてるんだ」
あるさ、とジョルジュは答えた。
_
( ゚∀゚)「俺の歌に聞きほれて、マリーが出てくるかもしれないだろ?」
そんなわけないじゃないか。
僕はそう思ったけれど、ジョルジュの自信満々な様子を見、
その歌声を聴いてしまった今、僕は何も言い返せなかった。
_
( ゚∀゚)「お前もさ、何かしろよ。
テレパシー送るとかさ。
星に願う覚悟もなく、何もしないんじゃ、
願い事なんか叶うわけねーぜ」
ジョルジュはそう言い、僕の肩に手を乗せた。
僕はそれを振り払った。姿勢を正し、声を出す。
こんなところで声を出しても意味などないに違いないと
頭では冷静に考えられるのに、僕はそうせずにはいられなかった。
('A`)「マリー」
僕の呼びかけが空気の中に溶け込んでいく。
その声は僕の内側にある何かを刺激した。
そんな声が届くと思うのか?
僕はそう問いかけられている。
僕は大きく息を吸った。
-
294 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/12/01(土) 00:11:27.44 ID:yyGar8kT0
- ('A`)「マリー!」
僕の声が穏やかな風の中に溶け込んでいく。
風に吹かれる木々のざわめきが、もっともっとと僕を煽っている。
('A`)「マリー!」
僕の声が風となって巻き起こる。
ジョルジュの視線が僕を煽っているのがわかる。
もっとだ。ジョルジュはそう言っている。
_
( ゚∀゚)「もっとだよ。お前の肺に挑むんだ」
('A`)「マリー!」
僕は全身の毛を逆立てて、吠えるように声を上げた。
こんな声を出したのは生まれてはじめてのことかもしれない。
僕の心臓は声を上げるためだけに脈を打ち、
僕はマリーの名を呼ぶためにのみ存在する。
僕は幾度となくその名を呼んだ。
_
( ゚∀゚)「ドクオは欲張りだからさ、
ま、今回だけは俺が願いを叶えてやるよ」
貸しだな、と言ったジョルジュの声で僕は我に返る。
彼の視線の先には、女の人が立っていた。
-
298 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/12/01(土) 00:14:11.99 ID:yyGar8kT0
- _
( ゚∀゚)「こんばんは」
ジョルジュは女の人に声をかけた。
こんばんは、と彼女も挨拶を返す
ζ(゚ー゚*ζ「何してるんですか?」
_
( ゚∀゚)「こいつの恋人探しをちょっとね」
ジョルジュはそう言い、僕の方に親指を向ける。
女の人は、なんともいえない表情で小首を傾げた。
_
( ゚∀゚)「ま、つっても猫なんだけどね。
恋猫っていうのかな?」
ζ(゚ー゚*ζ「愛猫とか?」
そういうのって素敵、と彼女は微笑んだ。
_
( ゚∀゚)「アイビョウ。そうだね、愛猫。
愛猫探ししてるんだけどさ、心当たりない?」
黒猫なんだ、とジョルジュは言った。
-
304 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/12/01(土) 00:17:09.73 ID:yyGar8kT0
- ζ(゚ー゚*ζ「この辺にいるんですか?」
_
( ゚∀゚)「そうなんだ。5・6週間前かな、こいつ、逃げられて。
失恋に枕を濡らしていたところを俺が、
愛猫探しの旅に連れ出したってわけ」
5・6週間、と女の子は呟いた。
ζ(゚ー゚*ζ「それ、マルちゃんのことかも。
私、先月猫拾ったんですよ。黒猫」
尻尾の先が折れてて素敵なの、と彼女は言った。
_
( ゚∀゚)「マルちゃん。それ、その猫の名前?」
ζ(゚ー゚*ζ「そう。本当は、シッポサキマルマリっていうの。
長すぎるから、通称マルちゃん」
おっぱいだね、とジョルジュが微笑む。
_
( ゚∀゚)「その猫は、君に当たりくじを運んでくれた?」
彼女は驚いたような表情を一瞬見せたが、すぐにニッコリと微笑んだ。
ζ(゚ー゚*ζ「だめだった。私の隣にはブータン人が住んでいないもの」
あ、これはあれだな、と僕は思った。
間違いなく、彼らの間で暗号トークがはじまっている。
-
310 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/12/01(土) 00:20:03.36 ID:yyGar8kT0
- _
( ゚∀゚)「俺はジョルジュ。名前訊いても良い?」
私はデレ、と女の人は言った。
_
( ゚∀゚)「デレ。おっぱいな名前だね。
いきなりで悪いけどさ、もしよかったら、
こいつを愛猫に会わせてやってくれない?」
えー、とデレは満更でもない様子で僕を見る。
ジョルジュと会った女の人はほとんどがこのようになる。
誘われると否定的な言葉を並べはするけれど、
その実、誘いに乗るためのきっかけを欲しがっているだけなのだ。
ジョルジュのなすべきことはただ1つ、
彼女にきっかけを与えてやりさえすれば良い。
ζ(゚ー゚*ζ「最近は、こういうナンパが流行ってるの?」
_
( ゚∀゚)「ナンパ? とんでもない。
俺はおっぱいが好きなだけの硬派な男だよ」
ζ(゚ー゚*ζ「それは硬派って言わないと思うけど」
_
( ゚∀゚)「そんなことはないよ。俺はおっぱい一筋なんだ。
そこには一点の曇りもない。
これが硬派じゃないんだったら、
この世から硬派なんて言葉はなくなっちゃうって」
-
315 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/12/01(土) 00:23:25.30 ID:yyGar8kT0
- ジョルジュの強引な理屈が気に入ったのか、
デレはくるくると笑っている。
ζ(゚ー゚*ζ「ジョルジュは面白いね。
好きなのはおっぱいだけ?」
デレは笑いながらそう訊いた。
ここがポイントだな、と僕は思った。
ここでジョルジュがどう答えるかによって、
僕の願いが叶うかどうかが決まるような気がする。
そして、僕のこの手の予感は、今まで外れたことがない。
僕はジョルジュの返答を見守った。
おっぱいだけっていうのは語弊があるな、とジョルジュは言った。
_
( ゚∀゚)「『重力ピエロ』はすげー好き。それに、
『ラッシュライフ』を読んでいると、その面白さは倍増するよな」
ζ(゚ー゚*ζ「そうね。『オーデュボン』も読んでたら、もっと素敵になるけれど」
私は『アヒルと鴨』が好きだな、とデレが微笑む。
彼らの暗号トークの意味するところは僕にはまるでわからないけれど、
どうやらジョルジュはデレにきっかけを与えられたらしい。
ジョルジュは一度振り向くと、僕に向かってウインクした。
読んでないくせに、と僕は心の中で彼に毒づく。
僕たちは、アパートの2階へと上がっていった。
-
318 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/12/01(土) 00:26:04.98 ID:yyGar8kT0
- デレの部屋はこじんまりとしていた。
必要なだけの空間に、必要なだけの家具がある。
こんな部屋も悪くはないな、と僕は思った。
('A`)「何よりここにはマリーがいる」
はたしてマリーはその部屋にいた。
黒の短毛は艶やかで毛並みが良く、
上向いた尻尾は骨折の経験があるのか先がポキリと折れている。
('A`)「久しぶり」
僕がマリーに挨拶すると、
「久しぶり?」と彼女は薄目に微笑んだ。
_
( ゚∀゚)「ま、つもる話もあるだろーしさ、
ベランダ行きな。夜空がきれーだぜ」
デレに出された茶を啜ってそう言うと、
ジョルジュは僕たちをベランダに追い出した。
('A`)「なんだよ。セックスか」
僕がジョルジュに小声で訊くと、
そうだよ、見たくねーだろ、と彼は頷く。
確かに見たくないな、と僕は思った。
-
325 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/12/01(土) 00:28:47.26 ID:yyGar8kT0
- 穏やかな風の吹く夜空の下、
僕とマリーはベランダにふたり並んで立っていた。
、∧∧
(*゚ー゚)「あなたは久しぶりかもしれないけれど、
私はそうでもないわ」
マリーは僕にそう言った。
僕は首をひねってマリーの方に向く。
('A`)「それは、別に僕に会いたいわけじゃなかったって意味なのかな」
違うわ、と彼女は首を振る。
、∧∧
(*゚ー゚)「ここからあなたの家って、すごく近いと思わない?」
そう言うと、マリーはベランダの外へと目をやった。
それにつられて視線を移すと、夜の町並みが僕を向かえている。
、∧∧
(*゚ー゚)「ほら、あそこ」
マリーが示したところには、クーの家が建っていた。
庭の向こうに窓があり、ハンモックがわずかに見えている。
カーテンを閉めた方が良いのかもしれないな、と僕は思った。
-
329 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/12/01(土) 00:31:15.58 ID:yyGar8kT0
- 、∧∧
(*゚ー゚)「私はここから、毎晩のようにあなたを見ていたわ」
あなた、決まって夕暮れ時になると窓際に来るんだもの。
マリーは僕にそう言った。
('A`)「見られてたんだ?」
、∧∧
(*゚ー゚)「どうやらね。あれって、私を待ってたの?」
そうだよ、と僕は言った。
('A`)「僕はマリーに会いたかったんだ」
私もよ、とマリーは微笑んだ。
、∧∧
(*゚ー゚)「私もドクオと話したかった」
星に願ったの、とマリーが天を仰ぐ。
それに倣って見上げると、
満天の星空は静かに僕たちを見守っていた。
-
335 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/12/01(土) 00:34:02.20 ID:yyGar8kT0
- ('A`)「叶ったんだ?」
僕はマリーにそう訊いた。
どうやらね、と彼女は頷く。
、∧∧
(*゚ー゚)「これで一年間はおあずけね」
何をなのかは知らないけれど、と彼女は笑った。
自分が願い事をしなかったことが恥ずかしくなり、
僕は目を瞑って大きくひとつ息を吐いた。
('A`)「会いに来てくれれば良かったのに」
僕がそう呟くと、
違うの、とマリーは微笑んだ。
、∧∧
(*゚ー゚)「私は、私を探して会いに来たドクオに
会いたかったのよ」
('A`)「欲張りだな」
、∧∧
(*゚ー゚)「忘れたの?」
私、猫なのよ、とマリーは言った。
欲張りに決まってるじゃない、と。
-
340 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/12/01(土) 00:36:42.85 ID:yyGar8kT0
- ('A`)「これからは会いに来てくれるのかな」
僕はマリーにそう訊いた。
どうかしら、と彼女はいたずらっぽく笑う。
、∧∧
(*゚ー゚)「私はもう野良猫ってわけじゃないんだから、
そうそう会いに行ける筈がないと思わない?」
そうだね、と僕は言った。
('A`)「でも、僕はマリーに会いたいんだ」
、∧∧
(*゚ー゚)「欲張りね」
('A`)「うん。僕は欲張りなんだ」
じゃあこうしましょう、とマリーが言う。
、∧∧
(*゚ー゚)「ジャンでケンでポンで、
勝った方が会いに行くことにすれば良いんだわ」
川渡ってね、とマリーは楽しそうに笑った。
-
344 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/12/01(土) 00:39:38.44 ID:yyGar8kT0
- 僕が窓越しに中の様子を伺うと、
ちょうどジョルジュがデレから引き上げ射精したところだった。
('A`)「うげ。見たくなかったな」
僕は舌を出してそう呟いた。
まったく、彼のセックスに関する能力には信じ難いものがある。
おそらく僕たちがベランダに追いやられてから
1時間ほどしか経っていない筈なのだ。
僕が冷ややかな視線を送っていると、
それに気づいたジョルジュが部屋の中にに入れてくれた。
_
( ゚∀゚)「おう。もういいのか?」
股間を拭いながらジョルジュが言う。
デレはベッドの上にぐったりと横になっていて、
彼女の胸はやや控えめな大きさで上下していた。
('A`)「これで、よくクーに会っていられるな」
_
( ゚∀゚)「え。なんで?」
こいつは本気でそう訊いているのか。
僕はそう思わずにはいられなかった。
-
348 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/12/01(土) 00:42:42.57 ID:yyGar8kT0
- ジョルジュはデレの体に飛び散った精液を丁寧に拭きとると、
依然として横になっている彼女をよそに服を着た。
_
( ゚∀゚)「じゃ、俺帰るから」
ζ(゚ー゚*ζ「えー。泊まっていけば良いのに」
デレがベッドの上から甘い声を投げかける。
そうはいかないんだ、とジョルジュは言った。
ζ(゚ー゚*ζ「また会ってくれる?」
_
( ゚∀゚)「モチロン」
おっぱいは大好きだしな、とジョルジュは言った。
ζ(゚ー゚*ζ「あら。私、巨乳じゃないけどいいの?」
_
( ゚∀゚)「馬鹿だな、デレは。
あらゆるおっぱいに貴賎はねーよ」
じゃーまたな。
ジョルジュはそう言い靴を履く。
僕たちはデレのアパートを後にした。
-
353 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/12/01(土) 00:45:33.40 ID:yyGar8kT0
- 僕の好きなクーの部屋では、
クーが眉間に皺を寄せて待っていた。
_, ,_
川 ゚ -゚)「遅いよ。今何時だと思ってるんだ」
_
( ゚∀゚)「申し訳ない」
川 ゚ -゚)「おまけに、シッポサキマルマリも
見つけられていないじゃないか」
_
( ゚∀゚)「それについては、申し訳なくない」
な、とジョルジュは僕を見る。
僕は大きく欠伸をした。
_
(;゚∀゚)「いや、ここは同意しろよ」
マリーは飼い猫になってたんだ、とジョルジュは言った。
_
( ゚∀゚)「それもさ、誰のだと思う?」
川 ゚ -゚)「さあな。検討もつかない」
ミステリ的に面白いのは
ジョルジュの飼い猫だった場合だな、とクーは言った。
-
357 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/12/01(土) 00:48:38.44 ID:yyGar8kT0
- ('A`)「それは良い。自作自演だったわけだ」
川 ゚ -゚)「しかし、その場合、
ジョルジュは三枚に下ろされることを
覚悟していなければならない」
_
( ゚∀゚)「お前は、本当にしそうだから怖い」
川 ゚ -゚)「そのような言い方だと
そう言いつつも実行はしないように聞こえるから、
それは適切な表現ではない」
_
( ゚∀゚)「あ、本気なんだ」
割とな、とクーは表情に何も浮かべず頷いた。
川 ゚ -゚)「で、誰だったんだ?」
驚くなよ、とジョルジュは断る。
_
( ゚∀゚)「デレちゃんだよ」
川 ゚ -゚)「あの?」
あの、とジョルジュが頷いた。
-
360 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/12/01(土) 00:51:17.63 ID:yyGar8kT0
- 川 ゚ -゚)「それは意外だな」
_
( ゚∀゚)「だろ。このへんに住んでるのは知ってたんだけどな。
表札見たときビビったぜ」
偶然ってあるもんだな、とジョルジュは笑った。
川 ゚ -゚)「文学少女の姉は元気だって?」
_
( ゚∀゚)「いや、それは訊いてないな」
まったくの他人を装ったからな、とジョルジュは言う。
川 ゚ -゚)「うまくいったのか?」
_
( ゚∀゚)「俺をナメんなよ。
俺は今までうまくいかなかったことなんか、
何ひとつとしてないんだよ」
ほう、とクーは射抜くような視線をジョルジュに向けた。
ジョルジュがじわりと汗をかく。
川 ゚ -゚)「じゃ、セックスしたんだ」
-
366 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/12/01(土) 00:54:03.24 ID:yyGar8kT0
- _
(;゚∀゚)「な、なんでそうなるんだよ」
川 ゚ -゚)「愚問だな。その答えは自分の胸に訊いた方が良い」
クーはそう言い、とても深くため息をついた。
('A`)「きっと世界中に自分の失望を知らしめたいと思ったとき、
人はこういうため息をつくんだろうな」
僕は再びそう思った。本日二度目だ。
川 ゚ -゚)「しかもあいつの妹だと。
ジョルジュは私を殺したいのか?」
あいつがオーストラリアから帰ってきたらどうするんだ、と
クーはジョルジュを問いつめる。
_
(;゚∀゚)「ちょっと待った! そいつは違うぜ」
川 ゚ -゚)「ほう。何が違うのだ?」
あの娘がいるのはオーストリアだ、とジョルジュは言った。
_
( ゚∀゚)「コアラとキューウェルの国じゃあない方だ」
-
371 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/12/01(土) 00:57:26.63 ID:yyGar8kT0
- だ、か、ら、とクーは低く呟いた。
川 ゚ -゚)「キューウェルは古いと言ってるだろうが」
そう言い残してキッチンへ入ると、クーは出刃包丁を持って姿を現した。
_
( ゚∀゚)「あ。本気だったんだ?」
川 ゚ -゚)「割とな」
三枚に下ろしてやる。
そんなクーの意思が、部屋の空気に溶け込んでいる。
彼らがこの程度のやり取りをするのは、それほど珍しいことではない。
だから、僕は気にせず窓から外を眺めやる。
クーの部屋からは、マリーの住むアパートが見えている。
('A`)「僕は欲張りなんだろうな」
僕は星空に向かって呟いた。
僕がひとつしか叶わない願い事をするならば、
それは、僕にとって奇跡のような価値を持つこの日常を、
できるだけ長く続けさせて欲しいということになるのだろう。
僕はおそらくクーより先に死ぬ。
長生きしたいな、と、
窓ガラスに映る自分の尻尾を揺らして遊びながら僕は思った。
おしまい
-
373 : ◆U9DzAk.Ppg
:2007/12/01(土) 00:58:27.33 ID:yyGar8kT0
- 俺の投下は以上です。
皆様お疲れ様でした。
引き続き黒猫グループの投下をお楽しみください
TOP 目次へ 黒猫グループ・共通部分へ ( ^ω^)ねがいじぞうとくろねこのようです(ΦωΦ )へ