( ^ω^)ブーンの願いが叶うようです
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209 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
:2007/12/05(水) 18:48:59.93 ID:TMRpg6px0
- 杉浦ロマネスクは僕にとってのヒーローだった。
彼は僕が中学生になり、野球部に入部した年にプロ野球選手となった。
僕が球拾いと雑用に明け暮れていた年、
彼は2軍で18歳の体をいじめぬいていたらしい。
僕がようやくベンチに入るようになった年、
ロマネスクは1軍に上がり、初登板を果たした。
4回表、8-2と負けている場面だった。
彼は得意のスライダーを速球と織り交ぜてその回を0点に抑え、
その後3イニングスを5奪三振の無失点で切り抜けた。
僕をはじめ、数少ないニュー速ヴィッパーズファンは歓喜した。
これはすごい選手が現れたぞ、と思ったものだった。
僕が中学3年生になった年、つまりその翌年、
ロマネスクは中継ぎ投手として1シーズンをフル稼働することとなった。
若い彼は46試合に登板し、
防御率2.35 5勝2敗3セーブという好成績を残した。
そして彼は新人王のタイトルを獲得した。
その年に飛びぬけた成績を残した若手が他にいなかったことも
原因のひとつではあるけれど、
それまでに中継ぎ投手が新人王のタイトルを獲得した記憶は僕にはない。
僕はその年、中学野球でエースとして県大会に優勝した。
おそらく僕は、彼の活躍を自分と重ねて見ていたのだろう。
僕はロマネスクの熱狂的ファンとなった。
-
211 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
:2007/12/05(水) 18:50:16.86 ID:TMRpg6px0
- その翌シーズン、
ロマネスクは先発ローテーションの一角を任されることとなる。
僕がその予想を知ったのは、
高校受験が無事合格に終わった日の夜に見たスポーツニュースでのことだった。
コメンテーターの話によると、監督がインタビューで
ロマネスクの起用法についての質問を受けた際に、
そのことを示唆したとのことだった。
僕はそれを自分のことのように喜んだ。
自分はロマネスクはどこか見えないところで繋がっている、と
僕は勝手に思い込んでいた。
ロマネスクはこの後もすごい選手に成長していくだろうと思われた。
彼には類まれな速球と、
その若さにして『やつの他には投げることができない』と形容されるほどの
スライダーをもっている。
マウンド度胸も十分であり、コントロールも悪くない。
そして、その成長と共に、僕もどこまでもいけるような気がしていた。
僕の前には無限の可能性が広がっていると思っていたのだ。
僕が高校1年生となり硬球をはじめて握った年、
僕は再びその確信を強めることとなった。
僕はロマネスクとどこか見えないところで繋がっている。
僕は1年生の実力を測るための練習試合に先発登板した。
ロマネスクばりの速球を投げようと力を込めた肩に激痛が走り、
僕はそれきり痛みなしにボールを投げられなくなったのだ。
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212 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
:2007/12/05(水) 18:51:23.32 ID:TMRpg6px0
- ロマネスクの初登板は、予想通り先発でのものとなった。
僕が肩を壊した練習試合の2週間後のことだった。
僕は、その試合をテレビの前で見守っていた。
ロマネスクはさほど緊張している様子も見せず、
まだ綺麗なままのマウンドに丁寧に足場を作っている。
( ・∀・)「さあ今季初登板となる杉浦ロマネスク、先発での登場です」
実況のモララーがマイクに向かってそう言った。
杉浦のピッチングはどうなるでしょう、と解説の渋沢に話を振る。
この世界、1つ武器があれば生きていける、と渋沢は言った。
_、_
( ,_ノ` )「2つあれば一流選手だ。
杉浦にはどこに出しても恥ずかしくないストレート、
そして彼にしか投げられないスライダーがある」
( ・∀・)「杉浦は一流選手ということでしょうか?」
使いようによってはな、と渋沢が答える。
ロマネスクは大きく振りかぶり、第1球を投げた。
-
214 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
:2007/12/05(水) 18:52:30.34 ID:TMRpg6px0
- ロマネスクの右腕から放たれたストレートは
一直線にキャッチャーミットへ吸い込まれていった。
左打席に入っている先頭打者は、何もできずにそれを見送った。
ストライク、と主審が宣言する。
球場は不思議な静けさに包まれていた。
それはロマネスクのまとう空気に他ならない。
いつもは数少ないながらもそれを感じさせない活発さで
鳴り物を鳴らし応援歌を叫ぶヴィッパーズファンたちも、
キャッチャーから投げ返されたボールをロマネスクが受け取り
揉むようにして手に馴染ませているのを静かに見守っていた。
すべてがロマネスクの支配下にある。
僕はテレビの前でそれを見つめ、
なんとかコップの中身をこぼさずにテーブルに置くのが精一杯だった。
続く第2球、ロマネスクは再び大きく振りかぶり、
矢のような速球をキャッチャーミットへ投げ込んだ。
148キロ、とテレビ画面に表示される。
ロマネスクの放つ球は、そんな数字では表しきれない何かを持っていた。
-
216 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
:2007/12/05(水) 18:53:33.85 ID:TMRpg6px0
- ( ・∀・)「ツーナッシングと追い込みました、
昨年新人王のロマネスク。
ここは3球勝負に出るでしょうか?」
モララーが話を振るけれど、渋沢はそれに答えない。
モララーのフォローが入るより先に、
ロマネスクは大きく振りかぶっていた。
ストレートだな、と渋沢が呟くのが聞こえた。
先頭打者がバッドも振れずに見送ったものは
はたして150キロのストレートであり、
主審はストライク、と宣言した。
三振である。
三振した先頭打者は、
しかしその場にしばらく立ちすくんでいた。
すぐに立ち去るよう主審に促されるのが普通であるけれど、
誰も口を挟めない。
ロマネスクは帽子を被りなおし、静かにボールを両手で揉んでいた。
-
218 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
:2007/12/05(水) 18:54:16.64 ID:TMRpg6px0
- ( ・∀・)「杉浦ロマネスクの立ち上がり。
渋沢さん、いかがでしょう?」
いいねぇ、と渋沢が答える。
_、_
( ,_ノ` )「引退しなければ良かった、とおれは今考えている」
こんなことははじめてだ、と彼は言った。
渋沢は一昨年引退した名バッターだった。
ホームラン王を2回、打点王を3回取っている。
彼は32歳の若さで引退した。
そして、引退の理由を誰にも明かさなかった。
故障説、監督との不仲説など諸説乱れ飛んだが、
渋沢はそのいずれに対しても同意することも否定することもなかった。
現在34歳。
現役復帰を決心すれば、決して不可能な年齢ではない。
( ・∀・)「それは現役復帰を考えているということでしょうか?」
それはない、と渋沢はやんわりと否定した。
_、_
( ,_ノ` )「おれはもうバットは持たないよ。
ただ、惜しいな、と少し思ったんだ」
ロマネスクは5球を使い、2番打者を三振に討ち取った。
-
221 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
:2007/12/05(水) 18:56:02.84 ID:TMRpg6px0
- ロマネスクはその大きなつり目を一杯に広げ、
キャッチャーの出すサインを覗き込んでいる。
やがて、キャッチャーに頷いて見せた。
大きくひとつ息を吐き、小さな体をいっぱいに使って振りかぶり、
3番打者へとボールを放つ。
ストレートのつもりで振ったのであろう彼のバットを
潜り抜け、ボールはキャッチャーミットへと吸い込まれた。
スライダー、と画面に表示される。
( ・∀・)「初球はスライダー。
本日はじめてのスライダーは、
やはり杉浦特有のキレを持っていました」
そう言われて僕は、ロマネスクがこれまで
ストレートしか投げていなかったことに気がついた。
ロマネスクは、キャッチャーのサインに首を振ることなく
淡々とボールを投げていく。
1球をファールにしただけで、
ボールを前に飛ばすことなく3番打者は討ち取られた。
-
222 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
:2007/12/05(水) 18:57:22.44 ID:TMRpg6px0
- ロマネスクは3イニングスを完璧に抑えた。
彼は9人のバッターに対して42球を放り、
4つの三振を奪い取っている。
誰一人としてファーストベースを踏めたものはいない。
ロマネスクの成功は約束されたものであるかのように思われた。
僕の肩は故障しているけれど、じきに治るに違いない。
ロマネスクの好投がそれを示唆しているのである。
4回表、ロマネスクは1番打者と本日2度目の対面を果たした。
そして、あっさりとセンター前へヒットを打たれた。
ロマネスクのストレートがバットに当たった音が聞こえた瞬間、
僕は小さく息を呑んだ。
それは、僕にとって予想外の事態だったのだ。
僕の口は何かを言おうとした形のままで固まった。
喉がカラカラに渇いていた。
帽子を被り直したロマネスクが2番打者に投げたボールは、
ストライクと宣告されなかった。
嘘だろ、と僕は呟き、2週間前に壊れた右肩を無意識にさすった。
鋭い痛みが僕の肩を走り、2番打者はライト前へボールを運んだ。
-
225 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
:2007/12/05(水) 18:58:13.05 ID:TMRpg6px0
- もう二度と君が全力投球をできることはないだろう、と
僕は主治医に宣告された。
そうして僕が絶望の中に突き落とされたとき、
ロマネスクもまた絶望の中に突き落とされていた。
彼はそれまでに3試合に先発登板していた。
1試合目は4回1/3を投げ、6失点。
2試合目は3回2/3を投げ、4失点。
そして3試合目に至っては初回から打ち込まれ、
彼はそれ以降先発の座を奪われた。
僕は野球部を辞めた。
野球の中継も見なくなった。
もちろん球場に足を運ぶこともなくなったし、
ロマネスクの近況を調べることもしなくなった。
僕はそれまで、ニュー速ヴィッパーズは弱いなりに
熱狂的なファンに支えられていると思っていた。
しかし、それは僕の勘違いに過ぎなかったらしい。
野球を遠ざけた生活を送り出した僕の耳には、
ほとんどニュー速ヴィッパーズの情報が入らなくなっていた。
-
229 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
:2007/12/05(水) 19:05:44.15 ID:TMRpg6px0
- 野球をやめた僕は、勉強せざるを得なくなった。
幸いにも僕は浪人することなくそれなりの大学に進学できた。
大学では何人かの友達ができ、特に1人と仲良くなった。
彼の名前はジョルジュといった。
_
( ゚∀゚)『今から行くから』
ジャージ姿でだらりとしていると、ジョルジュからメールが届いた。
彼はいつも僕の予定を訊くことなどせず、
『今から行く』と連絡してくる。
それは僕の小心にはできない行動なので、
僕は迷惑がりながらもそこにシビれ、憧れていたりした。
僕の部屋に上がり込んだジョルジュは
途中で買ってきたという大量のチーズバーガーを
食卓代わりのコタツに積み上げた。
多いだろ、と僕は呆れて呟いた。
_
( ゚∀゚)「お前さ、そんなちまちま食っててどうすんだよ。
たくさんあった方がおっぱいだろーが」
続いてフライドポテトを展開させ、ジョルジュは僕にそう言った。
僕は苦笑いを浮かべ、冷蔵庫からビールを取り出した。
-
230 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
:2007/12/05(水) 19:07:25.99 ID:TMRpg6px0
- 僕たちはジャンクな夕食をむさぼりながら、
テレビを眺め、放送内容に関する勝手な意見を投げ合っていた。
CMが流れはじめたのを機にチャンネルを回していると、
不意に野球番組が流れだした。
すぐにチャンネルを変えようと思ったが、それは僕にはできなかった。
野球番組では選手にインタビューが行われており、
受け答えをしているのは杉浦ロマネスクだったのだ。
(*゚ー゚)「昨シーズンから抑え投手として使われだし、
目覚しい活躍をされていますよね。
何か秘訣があるのですか?」
インタビュアーはそう訊いていた。
抑え投手? 目覚しい活躍?
僕はリモコンをコタツに置き、食い入るように画面を見つめた。
別にない、とロマネスクは答えた。
( ФωФ)「ストレートを投げ、スライダーを曲げる。
そして相手を押さえ込む。
我輩がやるのはこれだけである」
-
233 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
:2007/12/05(水) 19:09:10.19 ID:TMRpg6px0
- 生まれつき野球にまったく興味がないジョルジュは退屈そうに欠伸をした。
_
( ゚∀゚)「なんだよ。チャンネル変えねーのか?」
僕は彼に構わなかった。
ジョルジュは小さく舌打ちし、足を投げ出してその場に寝転んだ。
テレビではインタビューが続けられている。
ロマネスクは僕が知っているロマネスクとほとんど変わっていないようで、
しかし、彼は再び自信に溢れていた。
(*゚ー゚)「昨シーズンは30試合に登板し、28セーブを挙げられました。
これは素晴らしい数字だと思います。
しかし、セーブ王のタイトルに手が届くには、
8セーブポイントも足りません」
その辺りをどうお考えですか、と彼女は訊いた。
かなり突っ込んだ質問だ。
ニュー速ヴィッパーズはまだ弱小なのか、と僕は思った。
( ФωФ)「それは、強い球団に移籍しないのか、という意味の質問か?」
(*゚ー゚)「専門家の中には、弱小チームの抑え投手には
存在価値がないとおっしゃる方もおられます」
くだらんな、とロマネスクは言った。
( ФωФ)「我輩はストレートを投げ、スライダーを曲げ、相手を押さえ込む。
そしてヴィッパーズファンは我輩に声援を送ってくれる。
これ以上に何を望むというのであろう」
-
235 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
:2007/12/05(水) 19:11:49.92 ID:TMRpg6px0
- インタビュアーはにっこりと微笑んだ。
その後のインタビューは穏やかな質問へと変わり、
僕は冷めたフライドポテトを時折つまみながらそれを眺めた。
(*゚ー゚)「では最後にお聞きします。
何かファンの皆様に望まれることはおありですか?」
彼女は締めくくりにそう訊いた。
ロマネスクは少し考え込み、やがて小さく微笑んだ。
( ФωФ)「ヴィッパーズファンには満足している。
熱い応援をしてくれるし、彼らの愛が感じられる。
ただ、絶対数が少ないな。
ラウンジなぞの同期にファンレターの数を自慢され、
くやしくなることがなくもない」
(*゚ー゚)「ですって。
ファンの皆様、この放送を見られましたら、
是非杉浦選手にファンレターを!」
それでは時間となりました、とインタビューが終わりを告げた。
僕はチャンネルを再び回し、
しかし頭の中ではロマネスクへの興味が再燃している。
_
( ゚∀゚)「だってよ。お前、ファンの皆様か?」
隠れファンか、とジョルジュは寝転がったままで僕に訊いた。
-
239 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
:2007/12/05(水) 19:14:33.36 ID:TMRpg6px0
- そうだ、と僕は頷いた。
渇いた喉をビールで癒し、
僕はロマネスクファンなんだ、とジョルジュに言った。
_
( ゚∀゚)「じゃあファンレターだな。出してやれよ」
嬉しいもんだぜ、とジョルジュは言った。
彼はとてもサッカーが上手いので、
ファンレターの1通でももらったことがあるのかもしれない。
僕はなかった。
そうだな、と僕は頷くと、パソコンを起動させようと
パソコンデスクに移動した。
_
( ゚∀゚)「おい、何してんだよ」
しかし、ジョルジュは僕を止めた。
なんだよ、と彼の方を向くと、
お前何もわかってねーのな、と彼はわざとらしくため息をつく。
_
( ゚∀゚)「メールじゃだめだよ。手紙書け。
相手に気持ちを伝えるなら、手書きの文字が一番だろ」
年賀状を印字で送り、
女の子への告白をメールで行うにもかかわらず、
驚くほど堂々とジョルジュは僕に言った。
-
241 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
:2007/12/05(水) 19:17:09.44 ID:TMRpg6px0
- 翌日僕は学校帰りに文房具屋に行き、封筒と便箋を購入した。
ファンレターを書くためだ。
ここ数日、僕はインターネットを通じてロマネスクの情報を仕入れ、
空白の期間をなんとか補完しようとしていた。
ロマネスクは、僕がボールを握らなくなった後も
黙々とボールを投げつづけていた。
彼の課題は緩急のなさである、と渋沢のコラムが載っていた。
ロマネスクのストレートはとても速い。
そしてスライダーはそれとほとんど変わらない速さでグイと曲がってくる。
しかし、その他の球を持っていないのだ。
そのため打者が2巡3巡とすると捕らえられる。
渋沢はそう分析していた。
しかし、と彼はロマネスクに関するコラムを締めくくる。
_、_
( ,_ノ` )『しかし、おれは彼に
緩急を使った賢いピッチングなど覚えて欲しくはない。
ふたつだけを武器にして、問答無用でねじ伏せる。
効率は悪いのだろうが、おれはそこにロマンを感じるのだ』
使いようによっては一流、との評価を僕は思い出していた。
そして、ロマネスクは昨シーズンから使いどころを改められ、
能力をいかんなく発揮するわけである。
僕は机に向かい、ロマネスクへのファンレターを書き始めた。
-
242 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
:2007/12/05(水) 19:19:30.23 ID:TMRpg6px0
- 結論から言おう。
僕は机に向かいはじめて2時間が経った今、
まったく書き進められていなかった。
まず、何を書いて良いのかわからないのである。
『はじめまして、杉浦選手。
僕はあなたの大ファンです』
小学生じゃねーんだから、と僕は便箋を破り捨ててしまう。
ゴミ箱は途中まで書いてはグシャグシャにされた便箋であふれていた。
だめだ、と僕は思った。
どうやら僕は、ファンレターを書くようにデザインされていないらしい。
気分転換を図ろうとテレビをつけると、野球の試合が行われていた。
ニュー速ヴィッパーズ対801ガチムチーズだ。
僕は食卓代わりのコタツを掃除し、その上に便箋を広げた。
ペンを持ち、テレビを見つめる。
ヴィッパーズの試合を見ながら徒然なるままに書いてやろう、と思ったのだ。
-
244 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
:2007/12/05(水) 19:20:43.19 ID:TMRpg6px0
- 後攻のニュー速ヴィッパーズは、
しかしながら7回の攻撃を終えて2点のビハインドを負っていた。
( ・∀・)「厳しくなってまいりました、2点ビハインドのヴィッパーズ。
この試合に負けると、今シーズン、
ガチムチーズに対しての負け越しが決定してしまいます」
実況のモララーがそう言った。
どうでしょうショボンさん、と解説に話を振る。
ショボンは引退したのか、と僕は時の流れを感じた。
(´・ω・`)「難しいですね。これは僕がガチムチーズ出身だから
言うわけではありませんが、
ガチムチーズの投手陣は充実しています。
それに対してヴィッパーズは打線に迫力がありません」
( ・∀・)「8回からマウンドに上がっているのは抑えの阿部、
ショボンさんは一昨年まで彼の球を受けていたわけですが、
今日の調子はどのようですか?」
(´・ω・`)「投球練習を見た限り、悪くはありませんね。
厚い胸板がたまりません。
ただ、絶好調というわけではなさそうですね。
尻の張りが十分なようには見えないのです」
先頭打者を討ち取られるかどうかですね、とショボンは言った。
-
245 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
:2007/12/05(水) 19:23:30.92 ID:TMRpg6px0
- 安部は豪快なトルネード投法から第1球を放った。
ストレートだ。
審判がストライクを宣告し、クソミソスタジアムは大いに沸いた。
(*´・ω・`)「見ましたか?
ポイントは、トルネード投法で完全に打者に背を向けた瞬間です。
阿部が絶好調の場合、そこで尻がプルンと張ります。
今日はそれほどではないので、プリリという感じでしたね」
( ・∀・)「……はあ。私には違いがわかりませんが」
(*´・ω・`)「続いて第2球です。
阿部はストレートでグイグイ突っ込んでいくタイプですから、
次も強気攻めでいくでしょう」
阿部は大きく振りかぶり、トルネード投法からストレートを投げた。
先頭打者のバットがかすり、1塁線へのファールとなる。
(*´・ω・`)「ほら、プルンと張ってはいなかったでしょう?」
( ;・∀・)「……はい、そ、そうですね。
阿部は尻の張りが十分ではないように思われます。
えー、8回からの登板となりましたが、
この調子で2イニングスを抑えることはできるのでしょうか」
(*´・ω・`)「だから、ポイントは先頭打者ですね。
これを討ち取って波に乗れば、
後はズッコンバッコンと抑えられる筈です」
-
247 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
:2007/12/05(水) 19:24:49.67 ID:TMRpg6px0
- 先頭打者は安部の放った第3球目を、ライト前へ打ち返した。
(;´・ω・`)「アッー!」
( ・∀・)「おっと、打者、打ちました。ライト前への綺麗なヒット。
安部は納得のいかない球だったのか、しきりに首を捻ります」
(´・ω・`)「まずいですよ。これはまずい。
ヴィッパーズは貧打ではありますが、
4番の引田は今調子が上向いている若い強打者で、
5番の毒尾はベテランらしい勝負強さをもっています」
( ・∀・)「打席に入るのは3番――」
モララーの発言をかき消すように、携帯電話が鳴っていた。
なんだよ、邪魔するなよ、と僕が睨みつけると、
電話を鳴らしているのはジョルジュだった。
僕が携帯電話の通話ボタンを押すと、
ジョルジュの必要以上に大きな声が雪崩のように耳に飛び込んできた。
_
( ゚∀゚)「おい、ところでさ、お前見てるか」
ひとしきりわめきちらした後、ジョルジュは僕にそう訊いた。
何を、と僕がとぼけようとしたところで、ジョルジュはそれを遮った。
_
( ゚∀゚)「逆転するぜ。見てろ」
画面では、3番打者が左中間に向かって大きな弧を描いていた。
-
250 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
:2007/12/05(水) 19:31:41.21 ID:TMRpg6px0
- 4番の引田が打席に入る。
彼はその巨大な体躯に似合わない童顔にヘルメットを被せ、
何かを確かめるように2度3度と素振りを行った。
素振りからの一連の流れでバットをピタリとトップに掲げる。
こいつは打つ、と僕は思った。
僕が投手をやっていた頃、
しばしば打たれることを予感し、そのまま打たれることがあった。
それを予感していながらも、何かの力が働いているかのように
その勝負を避けることができないのだ。
僕はマウンドに立ってはいないけれど、
引田の体から発せられる何かがブラウン管を通して伝わっていた。
阿部は逃げるのだろうか。逃げられるのだろうか。
モララーやショボンが何かを言っているが、僕はそれに構わない。
阿部の放った初球に引田のバットが襲いかかり、
僕は思い出したようにペンを握った。
-
252 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
:2007/12/05(水) 19:33:23.10 ID:TMRpg6px0
- 『僕は』
そう書き出したところで、引田の打球がスタンドに飛び込んだ。
スリーランホームランだ。
モララーが興奮した口調でヴィッパーズの逆転を告げる。
(*´・ω・`)「たまりませんね。たまりませんね。
僕は自分の愛する投手が打ち込まれたとき、
最も喜びを感じるタチなんですね。
ええ、これは、たまりません」
ショボンも、興奮のあまり、自分の性癖を暴露している。
僕はかじりつくように便箋に向かった。
興奮の中震えそうになる文字をなんとか抑え、溢れる感情を書き殴る。
『僕はあなたのファンです。
しかし、これはファンレターと呼べる内容にはならないかもしれません』
僕は冒頭にそう書いた。
これはロマネスクに宛てた手紙ではあるけれど、僕のために書く文章なのだ。
僕はその内容、論理、文の流れなどおかまいなしに、
気持ちの向くまま筆を進めた。
-
254 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
:2007/12/05(水) 19:36:04.71 ID:TMRpg6px0
- ヴィッパーズの後続打者は確率変動が終わったパチンコ台のように
大人しく討ち取られ、テレビではコマーシャルが流れはじめた。
僕の右手は止まらない。
ロマネスクに憧れ、スライダーを練習したときもそうだった。
少し曲がると嬉しくて、
僕は誰かに止められるまでひたすらボールを投げつづけたものだった。
誰かに止められても、僕はなかなかやめなかった。
もっと速いストレートを投げたかった。
もっと曲がるスライダーを投げたかった。
僕は、ロマネスクになりたかった。
ロマネスクは、僕にとってのヒーローだったのだ。
携帯電話が鳴っている。着信元はジョルジュだった。
僕はそれを取ることができない。
もうすぐコマーシャルが終わってしまうからだ。
そうすると、僕のヒーローが登場してしまう。
それまでに僕は手紙を書き上げたかった。
-
256 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
:2007/12/05(水) 19:40:02.84 ID:TMRpg6px0
- やがて、ジョルジュは諦めたのか、携帯電話は大人しくなった。
それと同時にコマーシャルが終わり、
テレビは再びクソミソスタジアムの様子を映しはじめた。
まだだ、と僕は思った。
僕の思いはまだ尽きない。
ロマネスクがマウンドに上がる。
ぐるりと首を大きく回し、肩をほぐすように数回ゆする。
投球練習が終わったロマネスクは、ロージンバックを手に躍らせた。
その大きなつり目をいっぱいに広げ、キャッチャーのサインを覗き込む。
まだ投げるな、と僕は思った。
僕にはもっと伝えたいことがあるのだ。
それはロマネスクに伝えたいことであり、
自分自身に伝えたいことだった。
僕の右手は止まらないが、視線が、意識がロマネスクに引きつけられていく。
ロマネスクはその小さな体をいっぱいに使って振りかぶり、
第1球を、投げた。
おしまい
-
261 :樹海 ◆U9DzAk.Ppg
:2007/12/05(水) 19:44:46.20 ID:8aywJEyhO
- またさるったので携帯から。
長々と失礼しました。
引き続き、新人合作をお楽しみください
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