( ^ω^)ブーンは覚悟するようです
1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
:2007/12/09(日) 19:57:18.66 ID:rWcAHK7I0
まとめサイト
http://boooonbouquet.web.fc2.com/desire/mokuji.html
http://boonneet.web.fc2.com/gassaku.htm
http://hoku6363.sakura.ne.jp/sinjin-gasaku.html
本日が最終日です!
ハンカチの用意はいいか!!!!!
イヤッフウウウウ!!!!
-
6 :浮浪 ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 20:06:33.11 ID:dZAK2gFnO
- 「そこまでだお!」
風が吹きすさぶビルの屋上。
日が沈み、月明かりだけが照らすその場所に、人影と男が対峙していた。
「極悪非道な人の皮を被った悪魔め。
お前は僕が成敗してくれる!」
人影がビルの隅に追いやられた、長いロングコートを羽織り、黒いサングラスを掛けた男を指差して言った。
「貴様なんぞにやられてたまるか……!」
男は、胸元を探って拳銃を取り出す。
「死ねぇ!!」
引き金が引かれ、銃声と共に銃弾が回転しながら発射された。
「フンッ!!」
しかし、狙われた人影はそれを手の甲で弾き飛ばす。
「な、何ぃ!?」
「そんな物で、僕を倒せると思ったのかお?」
信じられない、と言った表情を、サングラスの下からでもありありと分かるほどに顔に出した男とは対照的に、
人影は余裕を見せて言い放つ。
-
9 :浮浪 ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 20:08:43.61 ID:dZAK2gFnO
- 「畜生!」
男が立て続けに発砲する拳銃の銃弾を、立て続けに弾き返し、人影は男に迫った。
「ま、待て!待ってくれ!!」
敵わないと悟ったのか、男はゆっくりと後退りながら、両手を前に突き出して懇願した。
「今更何を……。
自分の罪の重さを、身を持って思い知るがいいお!」
しかし人影は聞かず、握り締めた拳を振りかぶった。
「必殺!b ジリリリリリリリリリリリリリリリリリ!!!
(;^ω^)「ぬわッ!?」
ガタン!
(;^ω^)「あでっ!」
突如響き渡ったベルの音に、ブーンは驚いてベットから転がり落ちた。
-
10 :浮浪 ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 20:10:41.44 ID:dZAK2gFnO
- ジリリリリリリリリリリリリリリリr (#^ω^)「うるさいお!!」
ベットの脇でけたたましく鳴る目覚まし時計を上から叩いて黙らせ、ブーンは溜め息をついた。
(;^ω^)「はぁ……せっかく良い所だったのに……」
ついさっきまで浸っていた夢の世界を思い出し、少しでもその余韻を感じようとする。
しかし、現実は非情だった。
(;^ω^)「! な、なんでこんな時間なんだお!?」
目覚まし時計がブーンを叩き起こしたのは予定よりも一時間遅れだったのだ。
(;^ω^)「こうしちゃいられないお!」
ブーンは最低限の身なりを整え、自らの住む集合住宅の一室を飛び出した。
-
12 :浮浪 ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 20:11:46.60 ID:dZAK2gFnO
- 朝日が射す空の下。
幾何学的な高層ビルの立ち並ぶ都市の街路のあちこちで、人の形を模ったロボットがせわしなく動き回っている。
その間を縫うように、ブーンは全速力で駆け抜ける。
(;^ω^)「ゴメンだお!」
車から降りてきた、宅配物を持ったロボットの背中を手で押しよけて、ブーンはひたすらに走る。
その後も何度か人やロボットとぶつかりそうに……あるいはぶつかって多少の被害を生み出しながら、
ブーンは都市の外れ、この一帯にしてはかなり年季の入った貸しビルに到着した。
入口から、地下へと続く階段に歩を進める。
階段を下りきると、「戯古」と達筆な字が書かれた木の看板が掲げられたドアの前に到着した。
(;^ω^)「おはようございまー……(#゚Д゚)「今何時だと思ってんだこの馬鹿野郎!!」
ドアを恐る恐る開けた瞬間に、耳をつんざく怒声が響き渡り、ブーンは反射的に身を竦めた。
-
14 :浮浪 ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 20:13:08.96 ID:dZAK2gFnO
- (;^ω^)「す、すいませんお!」
ブーンはドアの向こう、こぢんまりとした和風のカウンター式料亭のカウンターの奥に立つ、強面の男性に頭を下げて謝った。
( #゚Д゚)「頭下げてる暇あったら早く支度して手伝え!」
強面の男は手を動かしながら怒声を飛ばす。
ブーンは今度は答えず、そそくさと店の奥にある倉庫兼従業員用スペース……従業員はブーンと男だけなのだが……に続くドアに向かった。
(;^ω^)「ヤバかったお……ギコさんの事だから、もう少し遅かったら包丁が飛んで来たかもしれないお……」
この小さな居酒屋「戯古」の主人である強面の男、ギコの怒りに冷や汗をかきつつ、ブーンはロッカーの前で白い割烹着に着替える。
大急ぎで着替えを終えて、ロッカーに荷物を放り込んで閉め、ブーンはカウンターに入った。
( ,,゚Д゚)「割り箸と爪楊枝が切れそうだから買ってこい。
開店まで時間はねぇぞ!」
( ^ω^)「はい!」
入るや否や買い出しを命令され、ブーンは再び大急ぎで店を出た。
-
15 :浮浪 ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 20:14:48.38 ID:dZAK2gFnO
- (;^ω^)「買い付け頼むなら着替える前に言ってくれれば良いのに……人使いの荒さは天下一品だおね……」
ギコが買い付けを言い付けた、質の良い割り箸は、お世辞にも近くにあるとは言い難い量販店にしか売っていない。
ブーンは息を切らしながらその量販店へと急いだ。
(;^ω^)「割り箸と爪楊枝も積もれば重いお……」
帰り道。
ギコにまた怒鳴られる位なら、買い溜めをしてしまおうとしたのが祟って、
ブーンはかなり重い荷物を持って帰路を急がねばならなくなった。
( ^ω^)「……」
ふと、ブーンの頭に状況を打開する案が浮かぶ。
( ^ω^)「……ダメだお」
その考えを自ら却下し、掻き消すように頭を横に振って、ブーンが出来る限り速く歩こうとした、その時。
「火事だーっ!」
( ^ω^)「!」
声のする方に振り向いたブーンは、高層ビルの一角から煙が立ち上っているのを捉えた。
-
18 :浮浪 ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 20:16:07.90 ID:dZAK2gFnO
- 走って辿り着いたビルの真下には野次馬が集まり、ガヤガヤと騒いでいた。
「助けてぇー!」
煙に包まれつつあるビルの上層の窓から、一人の女性が苦しそうに咳き込みながら身を乗りだし、
眼下の人々に助けを求めている。
が、野次馬は騒ぐ声のボリュームを上げこそすれ、誰ひとりとして彼女やその他の逃げ遅れた人々を助けようとビルの中に入ろうとはしない。
( ^ω^)「……」
他の誰かの助けが必要だ。
ブーンは身体が疼くのを感じた。
腕に力が入る。
( ^ω^)「……!」
気付いた時には、ビニール袋を地面に放り出してビルに向かって歩きだしていた。
-
20 :浮浪 ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 20:19:46.13 ID:dZAK2gFnO
- 歩幅を大きくし、歩く速度を速めつつ、ブーンは割烹着を脱ぎ捨てようと服の裾を掴む。
しかし。
(°°)「危険デス」
(;^ω^)「!」
彼は突然横から押さえ付けられ、そうすることは出来なかった。
(°°)「危険デス。下ガッテクダサイ」
ブーンを押さえ付けたのは、世界でも機械産業で他の追随を許さない不動のトップ企業、ワロスロボティクス社製のロボット、通称SLEDだった。
簡素化された純白の人型のボディは、普通体型の成人男性とほぼ同じ大きさで、四肢が直線的な円柱で構成され、
肘と膝、肩に当たる部分には間接の役割を果たす球体がはめ込まれている。
頭部は人のソレの形状を真似て鼻や目や唇が付いているが、それは飾りで、
その半透明の表面の下では個別にほぼ360°可動出来る二つのカメラアイや各感知センサーが、
内部から外部への透過性は極めて高い装甲を通じて回りの状況を捉えているはずだ。
側頭部と肩、背中に排熱ファンがあり、手には指があるが足には無い。
-
22 :浮浪 ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 20:22:19.05 ID:dZAK2gFnO
- (°°)「ビルカラ離レテクダサイ」
極めて凡用性が高く、あらゆる分野で利用されている、ワロスロボティクス社の傑作は、
ブーンをその両手でガッチリと掴み、飾りの赤いランプアイで見つめ、警告した。
ブーンが気を取られている内に、数体のSLEDが何処からともなく現れていた。
彼等は完璧なチームワークで素早く野次馬を安全地帯に追い払いつつ、ビルの中に入り込む。
摂氏数千度まで耐えられる耐熱加工を施された体をもってして、
突入していった彼等はすぐに、先程助けを求めていた女性を抱えて再びビルの入口から脱出した。
やがてビルから立ち上る煙が、ビル内からの消火活動により勢いを失い、やがて完全に消えた。
巻き起こる拍手喝采。
( ω )「……」
もう危険は無いと判断したSLEDに解放されたブーンは暫くそれを眺めていたが、
やがて踵を返し、置いておいたビニール袋を再び両手に持ってその場を去った。
-
24 :浮浪 ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 20:24:12.73 ID:dZAK2gFnO
- ( ω )「……」
いつだったろう。サイボーグヒーローとしての自分を諦めたのは。
どんな状況においても、人より格段に正確かつ迅速に活動出来るSLEDの開発は、
瀕死の重傷を追い、サイボーグとして復活し、かつては沢山の人を救って来たヒーローの活躍の場を奪い、
もはや過去の人物として、人々の記憶の片隅に追いやってしまったのだ。
今やこうやって街中を歩いていても、自分がそのヒーローだった男だと気付くものは誰ひとりいない。
( ω )「……」
自分の心に、受け入れなければならないことなのだと何度言い聞かせても、
その強靭な肉体にリミッターを掛け、持て余す力を押さえ付けても、
ブーンはどうしてもあの頃の自分を忘れることが出来なかった。
-
28 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 20:26:43.64 ID:dZAK2gFnO
- (;^ω^)「ただ今戻りましt パカーン!! (;^ω×)「うあ」
覇気の無い声と共に再び戯古へと戻って来たブーンの顔に、ギコの投げた割り箸入れがしたたかに命中し、
小気味よい音がしてブーンはひっくり返った。
( #゚Д゚)「遅ぇよこのノロマ!開店まで時間が無いって言ったろうが!」
(;^ω^)「あうあう……すいませんお……」
ひっくり返った拍子にいくつかビニール袋から零れ落ちて閉まった割り箸の束を、ブーンはしょんぼりと拾い集めた。
-
29 :浮浪 ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 20:28:27.51 ID:dZAK2gFnO
- ( ,,゚Д゚)「……また何か考え込んでんな」
そんなブーンの様子を見て、ギコは手元の包丁を動かす手を止めて呟いた。
( ,,゚Д゚)「気持ちは分からんでもないがな、しかしそうやって凹んでいたって解決しないだろう?」
ブーンの事情を唯一知りながら、自分の店で働かせている彼は、
時たまに買い出しからこうやって凹んで帰ってくるブーンにいつもそう言う。
割り箸を拾い終えたブーンは、ギコの励ましに無言の頷きで答えた。
( ,,゚Д゚)「言っとくがな、お客さんの前でもそんな顔してやがったら承知しねぇぞ」
( ^ω^)「……分かりましたお」
三度目にしてようやく返事をしたブーンは、何とか笑顔を取り戻してカウンターに立ったのだった。
-
32 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 20:31:44.99 ID:dZAK2gFnO
- 「親父、熱燗くれや」
( ,,゚Д゚)「あいよ!熱燗一本!」
日が暮れた頃に戯古は暖簾を出し、お世辞にも若いとは言えない客が入って来る。
ギコが反復した注文に従い、ブーンは徳利をお湯の張った鍋から取り出し、お猪口と一緒にお盆に沿え、注文したお客のところへ運んだ。
( ^ω^)「どうぞですお」
「ああ、ありがとう。
まだ相変わらずギコさんに怒鳴られてるのかい?」
ブーンよりも長くこの店に通っている常連であるこの男性客は、少し酔った調子でブーンに聞いた。
-
33 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 20:33:14.53 ID:dZAK2gFnO
- ( ^ω^)「怒鳴るどころか、物を投げ付けられてますお」
「ハハハ!そりゃおやっさんらしい」
( ,,゚Д゚)「ソイツの物覚えの悪さとノロマさにゃ呆れてるよ」
手を止めることなくギコが言う。
「まぁそう言ってやるなよ、おやっさん。
今時アンタに弟子に取って貰おうなんていう珍しい心意気のヤツなんだから」
同じく常連の男性が窘める。
「そうそう。こんなボロい居酒屋やってる親父に付いていこうなんて言ってくれる輩は中々いないぜ?」
酒が二人を饒舌にして、会話は続く。
-
37 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 20:35:18.69 ID:dZAK2gFnO
- 「そもそも、この時代にロボット一体も置いてないって言うのはスゲェよなぁ。
ワロスロボティクス社から格安レンタルできるのに」
「おやっさん、大のロボット嫌いだからな」
( ,,゚Д゚)「あんなモン使ってたらまともな料理なんかだせるもんかい。
ワロスボロナントカか何か知らないが、余計なモノを作ってくれたもんだ」
ギコは憤慨しつつ、男性が注文していた料理を彼の前に出した。
「確かに。
おやっさんの料理はロボットには真似出来ねぇかもなw」
料理を箸でつまみ、口の中に放り込みながら客が笑う。
( ,,゚Д゚)「アレに真似出来ちまう程に腕が落ちたら、俺は包丁を置くよ」
鋭く切り替えして、ギコは断言した。
-
38 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 20:36:52.80 ID:dZAK2gFnO
- 「ご馳走さん。また来るよ」
閉店間際。
最後の客が暖簾を潜り、店を後にした。
( ^ω^)「ありがとうございましたおー」
レジに立つブーンは頭を下げた。
( ,,゚Д゚)「さて、暖簾を下げてくれ」
( ^ω^)「分かりましたお」
店の前に掛かる暖簾を下げ、ブーンは店内を綺麗に清掃する。
-
40 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 20:40:02.74 ID:dZAK2gFnO
- ( ,,゚Д゚)「おい」
最後の床掃除を終え、私服に着替えてロッカールームから出て来たブーンに、カウンターの清掃を終えたギコが話しかけて来た。
( ^ω^)「何ですかお?」
( ,,゚Д゚)「その……何だ」
ギコが珍しく言葉を濁す。
( ,,゚Д゚)「……この店についてなんだが」
( ^ω^)「?」
彼の言いたいことが分からずに、ブーンは怪訝そうな顔をした。
-
42 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 20:40:55.86 ID:dZAK2gFnO
- ( ,,゚Д゚)「昼間にあんな事言っといて何だがな……。
もしお前が良ければ、俺ァこの店お前に譲ろうと思ってるんだ」
(;^ω^)「え!?」
唐突な内容に、ブーンは驚きの声を上げた。
( ,,゚Д゚)「いや、勿論、お前がやりたいと言えばの話だし、今すぐにって訳でもねぇ。
俺だってまだまだやれるし、お前は店を任すにはまだ未熟者だしな。
……ただ、選択肢の一つとして頭の片隅に置いといてくれっつー……そういう事だ」
そう言って、ギコはいじくっていた手ぬぐいを軽くまな板に軽く叩きつける。
( ,,゚Д゚)「返事はゆっくり考えてくれれば良い。
……お疲れさん」
( ^ω^)「お疲れ様ですおー……」
-
44 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 20:42:22.31 ID:dZAK2gFnO
- 戯古の定休日である次の日。
ブーンは自身に足りなくなった日用品を買い足しに街に出ていた。
片手で事足りる量の買い物を済ませたブーンは、ふと帰り道の近くにある公園を通ろうと思った。
公園はかなりの広さを持っていて、高層ビルの立ち並ぶ街の中で唯一木々の生い茂る場所でもある。
ブーンが立ち寄る気になったのも、その清々しい空気を吸ってみたいとふと思ったからだった。
( ^ω^)「気持ちいいおねー」
青々とした葉を風がザワザワと揺らして、陽の光によって形取られる影もそれに合わせて踊っている。
林に敷かれた道を、そんな景色を満喫しながら歩いていたブーンは、
ふと自分の進行方向に立ち尽くしている二つの人影を見た。
-
46 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 20:45:00.87 ID:dZAK2gFnO
- それはまだ幼い子供と、SLEDだった。
二人、正確には一人と一体が見る先は同じで、それにブーンも視線を合わせる。
そこには、木の枝に紐が引っ掛かっている一つの風船があった。
どうやら持ち主は幼い少女らしい。
少女が心配そうに見つめるその先で、SLEDが風船の紐をつかみ取った。
(° ° )「ドウゾ」
*(‘‘)*「ありがとう!」
SLEDが腰を落として渡した風船を受け取って、少女は屈託の無い笑顔で笑った。
-
47 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 20:49:04.75 ID:dZAK2gFnO
- ( ^ω^)「……」
気が付けば、ブーンは足を止めてその光景を眺めていた。
胸の中で妬け付くような感情が渦巻くのを感じる。
もし、SLEDがいなければ……。
あの風船をあの少女に渡し、あの屈託の無い笑顔でお礼を言われていたのは自分ではなかったか。
……違う。
自分が言われる筈だったのではない。
そんなこと有り得ない。
そんな考えは妬みからくる妄想だ。
自分が言われたかった、という、全くもって自分本位な。
しかし、自分が望む場所に立っているのはSLEDだった。
そもそもたかが木に引っ掛かった風船を誰が取ってあげるかなど小さな問題だろう。
そんな小さな問題にすら固執している自分に、猛烈な嫌気がさした。
そこまで考えたブーンの肩に、ポツリと微かな感触がした。
やがてそれは回数を増し、ブーンの全身を打ち始める。
( ω )「雨……かお」
ブーンはそこで二人から視線を反らし、歩き始めた。
-
48 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 20:50:33.80 ID:dZAK2gFnO
- ブーンは帰宅を再開したものの、家に着く前に雨は本格的になってしまった。
雨宿りすることにしたブーンは、とりあえず近くの雨を防げる屋根のある場所に逃げ込む。
(;^ω^)「酷い雨だお……」
服に付いている雨の雫を払い落として、もう数メートル先の光景が靄かがって見えないほど激しく振る雨を眺めたブーンは、
デジャヴを覚えてその元を辿った。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
( ,,゚Д゚)「あんな所で何してた?」
酷い土砂降りだったある日の戯古店内。
カウンターに座る男に、ギコは湯気の立つ茶を出して尋ねた。
( −ω−)「……」
無言の男は全身がずぶ濡れで、雨水を吸った髪の毛から時折雫が落ちて床を濡らしている。
( ,,゚Д゚)「答えなきゃ何も始まらんと思うんだがな」
ギコは怒るでも強要するでもなく、淡々とした口調で言った。
-
53 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 20:53:10.64 ID:dZAK2gFnO
- ( −ω−)「……生き甲斐が、無くなっちゃったんですお」
依然俯きつつも、男性の口がようやく開いた。
( ,,゚Д゚)「生き甲斐か。そりゃ大事なモンを無くしたもんだな」
( −ω−)「……正確には、僕の生き甲斐が世の中に必要とされなくなったんですお」
重い口調のまま、男性は続けた。
( −ω−)「SLEDって、知ってますかお」
( ,,゚Д゚)「ああ、あのロボットか」
( −ω−)「アレが、僕の役目を丸ごと持って行っちゃって……」
( ,,゚Д゚)「そうかい」
ボソボソと喋る男に、ギコは適当な相槌を打った。
あくまで聞き役に徹する。
( −ω−)「……気が付いたらアソコでボーッとしてましたお」
( ,,゚Д゚)「土砂降りの下の歩道橋の真ん中で傘もささずに立ち尽くされてりゃ、
誰だって何か良からぬ事でもするんじゃないかと思っちまうぜ?」
( −ω−)「……すいませんでしたお」
( ,,゚Д゚)「まぁその気が無かったなら良いさ」
-
54 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 20:54:23.34 ID:dZAK2gFnO
- 再び沈黙する空間。
先に口を開いたのはギコだった。
( ,,゚Д゚)「余計なお世話かもしれんが、そんなにふさぎ込む程ならいっそ吐き出しちまったらどうだ」
男は黙ったままだ。
( ,,゚Д゚)「こんな職業なモンでな、愚痴は聞き慣れてる。
……嫌なら言わなくてもいい。好きにしな」
それっきり、ギコは椅子に座り、腕を組んで黙った。
( −ω−)「……ちょっと前、「謎のヒーロー」が時々ニュースやら新聞やらに出てたの、覚えてますかお」
( ,,゚Д゚)「ああ。引ったくり捕まえたり、火事の中から人助けて去って行くっていうアイツか」
( −ω−)「……アレ、僕なんですお」
-
55 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 20:55:30.88 ID:dZAK2gFnO
- それから、ギコは男……後に名を聞くとブーンと名乗った……がポツポツと話始めた内容を静かに聞いていた。
ブーンはとある事故から機械の身体を手に入れたサイボーグであり、
その代償に得た常人離れの運動能力で、自らの正体を隠し、時間の自由が利くように定職にも就かず、人助けをしてきたこと。
しかし、ワロスロボティクス社が開発したSLEDの爆発的な普及によって、ブーンの活躍の場はあっという間に無くなったこと。
突然自分の生き甲斐を失った彼は、途方に暮れるしかなかったこと。
そして、そんな茫然自失としていたブーンを見かけ、自らの店に招き入れたのがギコだったのだ。
彼はブーンの話を最後まで黙って聞き、そして唐突にこう言った。
( ,,゚Д゚)「お前、ウチで働くか」
-
56 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 20:57:02.84 ID:dZAK2gFnO
- (;^ω^)「え……?」
顔を上げたブーンに、ギコは続けて言う。
( ,,゚Д゚)「要するに何をしていけば良いのか分からないんだろう?
……実を言うとな、俺は今この店の従業員を一人募集しようかと思っていたんだ
聞いた話、定職には就いていないようだしな。
……今のまま途方に暮れていても良い事なんて無いと思うんだが」
ブーンは半ば強引にも見えるその勧誘に、しばし返答に迷った。
彼の願望が少しばかり見え隠れはしているが、しかし彼の言い分に間違いは無い。
( ^ω^)「……お試し期間って、ありですかお?」
ブーンの質問に、ギコは一瞬呆けた表情をした後、思わず吹き出した。
( ,,^Д^)「ギコハハハ!好きなだけ試していけ!」
そして、今もなおブーンは彼の店で怒鳴られつつ働いているのだった。
-
58 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 20:58:31.98 ID:dZAK2gFnO
- −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
気が付くと、雨は上がっていた。
どうやら通り雨だったようだ。
( ^ω^)「……」
今の生活に文句は無い筈なのだ。
厳しいながらも気遣ってくれるギコの下で板前の技術を学ぶこともまんざらでもないし、客との会話を楽しんでもいる。
言わば普通の人が暮らす日常を過ごしていけているのに、
自らの中に蟠る未練は、時々ブーンを悩ませてやまなかった。
そんな自分に嫌気が射す。
ブーンはそんな煙の様に自分を取り巻く思いを振り切るように、軒下から歩き出した。
-
62 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 21:00:27.48 ID:dZAK2gFnO
- それは唐突だった。
ブーンは、その瞬間を戯古店内の天井の片隅に吊されるテレビを通じて見ていた。
爪'ー`)「皆さん。この度、我がワロスロボティクス社は世界を変える画期的な開発を成し遂げました」
テレビに映るのはワロスロボティクス社社長、FOXだ。
教壇に立ち、愛想の言い微笑を浮かべ、彼は続ける。
爪'ー`)「我が社が既に開発、運用し、社会に貢献している人型ロボット、SLEDの統括ネットワークがこの度完成したのです。
これにより、全てのSLEDのあらゆるデータをこのネットワークを通じて、ネットワーク中枢「TSUBO」に集積する事が可能となりました」
(;^ω^)「何だって……!?」
FOXが淡々と述べた内容に、ブーンは目を剥いた。
-
63 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 21:02:36.54 ID:dZAK2gFnO
- ( ,,゚Д゚)「何だ、またロボット様が便利になったのか」
ギコがうんざりしたような呆れるような口調で問う。
(;^ω^)「それどころじゃありませんお!」
テレビを一瞥しながら手元を動かすギコに、ブーンは声のボリュームを上げて答えた。
(;^ω^)「今、SLEDはそれぞれの個体が色んな企業に色んな用途で使われて、各自がデータを蓄積して学習していますお。
今の発表によれば、それが、全てのSLEDの間でそのデータが共有されることになるんですお」
(;-Д-)「あー……もっと分かりやすく説明してくれ。さっぱりだ」
しかめっ面をしてかみ砕いた説明を頼んだギコに向き直って、ブーンは言う。
(;^ω^)「全てのSLEDの挙動がワロスロボティクス社の監視下に置かれるってことですお。
企業に利用されているSLEDを例に上げれば、SLEDが担当している作業工程の効率や、精度はワロスロボティクス社の思いのまま……。
つまり、SLEDを利用している企業がワロスロボティクス社の思いのままになるんですお」
-
65 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 21:04:00.77 ID:dZAK2gFnO
- ブーンの語った内容を少しは理解したらしく、ギコの顔に微かな不安の色が浮かんだ。
( ,,゚Д゚)「つまりワロスロボティクス社が他の企業の色んな部分を好き勝手出来る訳か……?」
(;^ω^)「そうですお」
つまるところ、ワロスロボティクス社は今まで本領を意図的に発揮していなかったということになる。
(;^ω^)「まさかこんな事を企んでいたなんて……」
先のFOXの発言を言い換えれば、世界に対する占領宣言に等しい。
SLEDはもはや現代社会において切り離せ無い存在であり、それを掌握するのだから。
-
70 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 21:05:26.91 ID:dZAK2gFnO
- 爪'ー`)「我がワロスロボティクス社は更なる発展を遂げるでしょう。
これは皆々様の我が社製品のご利用のお陰であります。
これからも何とぞ、我が社製品のを御愛顧下さいますよう、お願い申しあげます」
そういった事情を踏まえて聞くと皮肉たっぷりに言っているとしか思えない挨拶を最後に、
FOXを映していたテレビ画面は真っ暗になった。
( ,,゚Д゚)「だからあんなモンに頼ってりゃいつか痛い目に遭うぞと言ったんだ」
( ^ω^)「ギコさん……痛い目に遭うのはSLEDを利用していた人だけじゃ無いですお……」
ほら見ろ、と憤慨して言い放ったギコに、ブーンは何故か申し訳なさそうに言った。
しかし、その口調と裏腹に、ブーンの心は静かに、しかし確実に高鳴っていた。
SLEDを統率するワロスロボティクス社の発表は、言わば世界を自らの物にするという宣言に等しい。
SLEDが人々に敵対する。
人々の重要な支えが無くなる。
その代わりを務めるのは?
ブーンは拳を握り締めた。
否定しながらも待ち侘びていた瞬間が、目の前に迫りつつある。
( ^ω^)「多分……世界はとんでもない事になりますお……」
そして、そのブーンの予感は的中したのだった。
-
72 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 21:07:40.42 ID:dZAK2gFnO
- ワロスロボティクス社の発表に警鐘を鳴らしたのは当然のようにブーンだけではなかった。
世界中の人々がそのネットワークの普及に反対し、世界政府がワロスロボティクス社に対して即刻ネットワークの廃止を命じた。
しかしワロスロボティクス社はそれを鼻で笑うかのように無視。
結果として、世界政府が武力による制圧を決定した。
そこまで事態がとんとん拍子に進んでしまうほど、ワロスロボティクス社の開発したネットワークは、深刻な危機以外の何物でも無かった。
そして、その危機はもはや手の施しようがないほどに進んでいた。
世界政府が武力制圧を開始した三日後。
政府は制圧する側から制圧される側に見事としか言いようの無い転身を遂げていた。
ワロスロボティクス社は武装したSLEDによって構成した軍隊で、政府軍を簡単に退けてしまったのだ。
なおもワロスロボティクス社に異議を唱えるものはことごとく鎮圧され、
もはやワロスロボティクス社を止められるものはいなかった。
たった一人、しがない料理店に弟子入りしている男を除いて。
-
75 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 21:10:03.91 ID:dZAK2gFnO
- 「来たぞ!!」
大通り。
本来ならば平日のこの時間には沢山の人が行き来する、都市交通の中心とも言えるこの場所に、
今やそんな活気は無く、代わりに乾いた銃声がしきりに響いていた。
そんな場所に立っている男の握るサブマシンガンが、立て続けに弾丸を連射するその先には、
隊列を組んで行進してくるSLEDの姿があった。
「畜生!!」
男はサブマシンガンを乱射しながら悔しそうに叫ぶ。
キリが無いとは正にこのことだろう。
政府軍を退けたSLED達は、今度は民衆の弾圧を行い始めた。
民衆を武力で脅し、住居に押し込め、監視する。
太刀打ち出来ずに大半の地域が監視下に置かれていく中、
ここ一帯の地区は未だに抵抗を続けていた。
しかし、生身の人間と機械の軍隊では話にならず、ささやかな抵抗も虚しく制圧されるのも時間の問題だった。
-
79 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 21:11:37.46 ID:dZAK2gFnO
- (° ° )「抵抗ハ止メテ指示二従ッテ下サイ。
私達ハ危害ヲ加エ二来タ訳デハアリマセン」
体内に内蔵された拡声スピーカーを通してSLEDの機械音声が響き渡る。
(° ° )「私達ハ皆サンノ平和ノ為ニ行動シテイマス。
銃器ヲ捨テテクダサイ」
「ふざけるな!!監禁して監視することが俺達の為になるものか!!」
男は怒声と無数の弾丸で返事を返す。
弾丸は隊列の先頭を歩いていたSLEDを蜂の巣にして、SLEDは火花を散らし崩折れたが、
それを後ろのSLEDが踏み越えて迫ってくる。
(° ° )「……説得不可能。武力行使ニ移行」
今度は拡声スピーカーを通さず呟くように、SLEDが静かに言った。
瞬間、SLEDが高く跳躍して男の面前に着地した。
「クソッ!」
咄嗟に向けられた銃口を右手で払い、男の手からサブマシンガンを弾き飛ばして、
SLEDは男性の首を左手で掴んで身体を空中に持ち上げた。
-
80 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 21:13:49.05 ID:dZAK2gFnO
- 「ぐっ……がっ……!」
苦しそうにもがく男を、無機質な顔の下に潜む無感情なカメラアイで捉える。
少し左手の力を増やせば、男の頸動脈はたちまち絞められて男はすぐに気を失うだろう。
そしてSLEDが実際にそうしようとした瞬間だった。
一陣の風が上からたたき付けるように吹いたかと思うと、SLEDの左腕が肘の部分で身体と分離した。
鋭利な刃物で切断されたかのようだったが、実際は人の手によってブッた切られたのだ。
そう。
男性とSLEDの間に着地した、一人の男の手によって。
その男は素早く体勢を立て直し、SLEDの右腕を引っ張った。
SLEDは掴まれた部分を支点に半回転、
投げ飛ばされて大通り脇の建物の一階、ガラス張りのショーウインドーに激突、ガラスを粉砕してビル内に消えた。
-
82 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 21:15:54.86 ID:dZAK2gFnO
- 首の圧迫による呼吸困難から解放された男が落下して、苦しそうにむせた。
( ^ω^)「大丈夫ですかお?」
その男に、SLEDを投げ飛ばした張本人、ブーンが手を差し延べた。
「あ、ああ。ありがとう」
男は困惑しながらもその手を握って起き上がる。
ブーンはSLEDの隊列を一瞥した。
どうやら今ので全SLEDが武力行使を決定してしまったらしい。
タイミングさえあれば今すぐ飛び掛かってきそうだ。
「アンタ、一体……」
( ^ω^)「ここは危険ですお。
一刻も早く退避してくださいお」
男の質問に聞こえないフリをして、ブーンは退避を促した。
-
83 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 21:17:28.66 ID:dZAK2gFnO
- 「は、反対側からも奴らが来てるんだ。
あっちにはまだ逃げ遅れた人が……!」
( ^ω^)「……分かりましたお。
とにかく貴方は避難してくださいお」
「わ、分かった!」
( ^ω^)「……さて、行くかお……!」
男が慌てて立ち去るのを見届けたブーンは、陸上走種目を軽く総なめ出来そうな速さで走り出す。
その顔は笑っていた。
心を踊らせて。
-
86 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 21:19:23.68 ID:dZAK2gFnO
- 大通りの反対側は、かなりの混乱を巻き起こしていた。
逃げ遅れた民衆とSLEDが半ば入り乱れるようになっている。
ブーンは到着するなりSLEDの排除に乗り出した。
人々を確保するために人々に襲い掛からんとするSLEDを、その拳でガラクタに変える。
彼を危険分子と見なし、襲い掛かってくるSLEDにも容赦無い一撃を叩き込んだ。
(;^ω^)(一体何体いるんだお……)
終わりの見えない攻防に、ブーンは無駄な逡巡をした。
こんな大社会にあのSLEDが何体いるかなど考えるだけ馬鹿馬鹿しい。
自分は戦うだけだ。
人々を守るヒーローとして。
自分はかつての自分を取り戻すのだ。
そう思った。
-
88 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 21:20:17.85 ID:dZAK2gFnO
- しかし。
「やめて!」
(;^ω^)「!?」
その一声にSLEDの胴体を打ち据えんと振りかぶられたブーンの手が止まった。
そしてその一瞬の隙に、SLEDがブーンの腕を掴んで投げ飛ばした。
(;^ω^)「!」
数秒空を舞って地面に落下、転がったブーンは、声にならないほど小さな呻きを上げながらも、素早く起き上がる。
ブーンを投げ飛ばしたSLEDは、先の声の主……ウサギのヌイグルミを持った小さな少女に迫っていた。
ブーンはその少女に見覚えがあった。
あの公園で見かけた少女だった。
-
90 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 21:24:49.54 ID:dZAK2gFnO
- *(‘‘)*「ロボットさん!何でこんなことするの!?」
少女は今にも泣き出しそうな目でSLEDを見つめながら言った。
*(‘‘)*「またこの前みたいに優しくしてくれないの?
どうして皆をいじめるの?
どうして……?」
少女の目から涙が零れ落ちる。
*( ; ;)*「風船取ってくれたじゃない!
「はい」、って私に渡してくれたじゃない!
いつだって、皆の役に立つ事がロボットさんのお仕事なんでしょ!?」
*( ; ;)*「皆ロボットさんのおかげで喜んでたのに!
ロボットさんが優しくなくなったら皆困っちゃうよ!
私も悲しいよ!?」
少女は塞きを切ったように泣き出した。
(° ° )「貴方ノ為デス」
SLEDはあらゆる意味で機械的な回答をして、そんな少女に手を伸ばした。
その機械の手を、素早く肉薄したブーンが掴んだ。
-
95 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 21:27:56.71 ID:dZAK2gFnO
- SLEDがその手を振りほどこうと抵抗したが、びくともしない。
ならば、とばかりにブーンの側頭部に目掛けてもう片方の腕を振るうが、
それもブーンがそれを上回る力で迎え撃って、
SLEDの腕はまるでまだ完全に固まっていない飴細工のようにぐにゃりと曲がった。
間髪入れずにブーンの腕がSLEDの首を掴む。
視界の端で、少女が涙ぐみ、唇を噛み締めながらこちらを見ているのを見る。
( ω )「……ゴメンだお」
SLEDの首を持つ腕に、力を込めた。
中を通る回線が傷つき、シャフトが軋み、SLEDの頭部、飾りで点いている二つのランプアイが光を失った。
SLEDはマリオネットのように機能を停止する。
*( ; ;)*「どうして……?」
(; ω )「……」
何故ロボットは変わったのか。
何故ロボットを破壊するのか。
二つの疑問を込めて、少女はその言葉を繰り返して泣きじゃくった。
そしてその姿を、ブーンは自らが破壊した何体ものSLEDが火花を散らして倒れている中、答えることも出来ず、呆然と眺めるしかなかった。
-
98 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 21:29:20.07 ID:dZAK2gFnO
- ( ^ω^)「……」
ブーンは戯古の扉を開けた。
店内のカウンターに立っていたギコは、ブーンの姿を目にして一瞬驚いたような顔をしたが、
すぐにいつもの顔に戻ってブーンに尋ねた。
( ,,゚Д゚)「何しに戻って来た」
あの日から、ブーンはヒーローとして再び立つ事を選び、
都市の地下に建設されていたシェルターに避難するようにブーンに勧められたギコは、しかしそれを拒んだ。
( ,,゚Д゚)「この店を手放す気はねぇよ。
誰が何をしようがな」
そう言って、彼はあの日からもいつもと変わらない生活を送っている。
幸い郊外に近い位置にあるこの店は、辛うじてまだSLEDの侵攻の手が伸びていなかった。
( ,,゚Д゚)「まだ奴らはワンサカいるんだろう?
ヒーローがこんなところでのんびりしてる暇なんてあるのか」
( ω )「……僕はヒーローなんかじゃないですお」
入口に立ち尽くしたまま、ブーンは呟いた。
-
100 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 21:30:54.42 ID:dZAK2gFnO
- ( ω )「さっき、小さい女の子に「何でSLEDを壊すの?」って聞かれて、ようやく気付いたんですお。
僕はSLEDを壊すことに何の躊躇も持っていなかったんだって。
今のこの世界で、SLEDを壊すことは、人々の生活を壊すことに繋がりますお。
僕は……実際に壊して、誰かを傷つけて初めて気付きましたお」
( ω )「僕は……人々を守りたいんじゃなくて、人々を守ってるカッコイイヒーローになりたかっただけなんですお。
だから、人々の生活のことなんか考えもせずに、ヒーローらしくみえる行動をすることばかり考えてましたお。
こんなの、あのFOXと同類ですお」
( ω )「結局僕は、僕の願いを叶えたいだけで、人の迷惑なんて省みもしない、最低な人間なんですお……」
-
103 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 21:35:45.97 ID:dZAK2gFnO
- ( ,,゚Д゚)「別に良いじゃねぇか」
( ^ω^)「え……?」
ギコの心外な発言に、ブーンは驚いた。
( ,,゚Д゚)「ヒーローだって人間だ。
自分の願いが叶うことを望んだって問題無いだろ」
あっけらかんとした口調でギコは続ける。
( ,,゚Д゚)「そもそもな、人間の行動の原動力なんざ利己的な欲求だろうが。
自己犠牲の精神だってそうやって「自分は自分を犠牲にして人々を救っているんだ」っていう自己陶酔の精神の裏返しだ。
100%完全な自己犠牲の心なんて、世界中のどんな奴でも持てないんだよ。
例え神様だろうがヒーローだろうが何だろうが、俺は絶対にそうだと思うね」
-
104 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 21:36:53.17 ID:dZAK2gFnO
- ( ,,゚Д゚)「問題なのは、自分勝手かどうかじゃなく、願いを叶える為に何かを背負う覚悟があるかどうかだ。
願いっていうのはな、その中身がどうあれ、ただ指くわえて待ってれば叶うわけじゃない。
自分から行動して初めて叶うかどうかの分かれ道にやっと立てるんだ。
あの社長もそういう意味じゃ、お前の遥か先を行っているだろうよ」
( ,,゚Д゚)「そして、その過程には色んな事がある。それは努力だったり、苦痛だったり、犠牲だったりする。
日常を生きていく中で、どんな形であれ、何かしらそういったモンを背負う覚悟が無い奴に、
本当に望む願いが叶うチャンスなんて絶対に来ないと俺は断言する」
( ,,゚Д゚)「人々はそれを忘れたから、ロボットに頼って願いを叶えようとして、そして今の有様だ。
小さな願いすら任せっきりなんだから当然の結果ともいえる……ああ、もう、回りくどいな」
珍しく饒舌に語っていたギコはまどろっこしくなったらしく、言った。
-
106 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 21:37:32.78 ID:dZAK2gFnO
- ( ,,゚Д゚)「お前がへたれな奴らどもに願いはどうやって叶えるものか見せてやれば良いじゃねぇか。
その女の子には辛い話かもしれない。
でも、逆にこのまま奴らをのさばらせたら、それこそ奴らの思うがままだ」
( ,,゚Д゚)「後は、お前が背負わなければならないものを背負えるかどうかだ。
人々の生活を壊すことになってもなお、人々を本当に守るヒーローでありたいと思うのなら、迷うことなんかない。
あの社長とかその他諸ともぶっ飛ばして来いよ。
お前なら楽勝だろ、そんなモン。違うか?」
-
108 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 21:38:52.64 ID:dZAK2gFnO
- ( ^ω^)「……ふふ」
ブーンが、下を向きながら笑った。
( ^ω^)「ギコさん、意外に語るタイプだったんですおね」
( ,,゚Д゚)「ああ? 語らせたのは何処のどいつだってんだ」
ブーンはまた笑う。
( ^ω^)「ありがとうございましたお。
もう少し……やってみる気になりましたお」
( ,,゚Д゚)「おお。 さっさと行けや。
……帰ってこいよ」
( ^ω^)「把握ですお!」
擬古の扉を勢い良く開け放って、ブーンは駆け出した。
-
109 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 21:40:05.59 ID:dZAK2gFnO
- 所変わって。
ワロスロボティクス本社周辺は、大量のSLEDによる鉄壁とも言える警備体制が敷かれていた。
爪'ー`)「フフフ……」
そんなワロスロボティクス本社の最上階、社長室の豪華な椅子に腰掛けて笑う男性こそが、
若きカリスマ、ワロスロボティクス社社長、FOXだった。
爪'ー`)「実に愉快だな」
椅子を回転させ、正方形の部屋のガラス張りになっている一辺から、沈黙した街を見下ろしてFOXは呟く。
爪'ー`)「しかし思えば長かった……。
SLEDが普及するまで苦労したよ」
先代からこの大企業を受け継いだとき、彼は既に明確な野望を抱いていた。
世界を、掌握する。
その為に、彼は今までその才能を遺憾無く発揮し、社会を大きく変えた。
そして今、社会は彼の手中に収まりつつある。
彼の野望はもうすぐ成就しようとしているのだ。
その事実を噛み締め、口の端を吊り上げた、その時だった。
-
110 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 21:40:58.41 ID:dZAK2gFnO
- 「第一本社防衛ラインに侵入者。
本社に向け進攻しています」
爪'ー`)「何……?」
爪'ー`)「……SLEDを退けているのか……」
部屋に音声として流れた情報に、FOXは一瞬顔をしかめたが、しかしすぐにまた微笑した。
爪'ー`)「ちょうど良い。
アレを試すチャンスだ……」
-
111 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 21:41:53.00 ID:dZAK2gFnO
- ワロスロボティクス社から数キロ離れた位置。
(#^ω^)「オオオオオオオオ!!」
ブーンは両手を広げたポーズで街を駆け抜けていた。
既にワロスロボティクス社が敷いた警備の網に入り込んだことは、目の前に立ち塞がるSLEDの数からして明らかだ。
何体ものSLEDがブーンを阻止しようと立ち塞がり、立ち向かってくる。
しかし、ブーンはそのSLED達をものともしない。
飛び付く者は振り払われ、攻撃してくる者には最低限の一撃でその機能を停止させる。
視線の先にそびえ立つワロスロボティクス社だけを見据えて、ブーンは疾走した。
-
113 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 21:43:26.09 ID:dZAK2gFnO
- かなりの距離を走った後、コーナーを減速を最小限に抑えて曲がり、
ブーンはとうとうワロスロボティクス社の正面に通じる大通りに辿り着く。
しかしそこには、先とは比べ物にならないほどのSLEDの隊列がひしめいていた。
(° ° )「侵入者発見。排除」
先頭に立つSLED達が、ブーンに一斉に指先を向ける。
( ^ω^)「!」
次の瞬間、その指先から閃光ともに無数の弾丸が放たれた。
完全に武力行使のみに特化したSLED達からの容赦無い銃撃だ。
( ^ω^)「……なら、こっちも容赦は不要だおね」
ブーンは意を決し、極端な蛇行で弾丸の狙いを逸らしつつも、隊列目掛けて突撃した。
-
114 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 21:44:33.00 ID:dZAK2gFnO
- 頬を弾丸が掠めて、赤い筋が走る。
SLED達の目前まで加速を続けながら接近し、
弾丸を回避する為の時間的な余裕が極限まで無くなったところで、ブーンは跳躍した。
道路の上方に設置されているアーチ状の電光掲示板に飛び付いて、一瞬力を抜く。
身体がくるりと反転して、電光掲示板の底に逆さまで屈んでいるかのような体勢になる。
と同時に、全てのSLEDが凶器と化した指先をブーンに向けた。
-
116 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 21:46:07.31 ID:dZAK2gFnO
- 銃声。
しかしブーンには当たらない。
そこにブーンはいない。
既に足を蹴り出してSLED達の隊列ど真ん中へ急激な速度で落下している。
轟音。
衝撃。
無数のSLEDと地面が砕けた瓦礫が衝撃波の拡がりに合わせて次々と舞い上がる。
そして次々と落下する。
無機質な音が立て続けに響く。
舞い上がる土煙の中、立ち上がったのはブーンだけだった。
-
117 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 21:47:29.74 ID:dZAK2gFnO
- (;^ω^)「……」
乱雑した道路を見渡して、ブーンは大きく呼吸した。
ブーンはあくまでもサイボーグだ。機械と生身の融合した身体は、疲労や痛みと無縁なわけではない。
しかしだからといって立ち止まっている暇も無かった。
ワロスロボティクス社に突撃すべく体勢を整えたブーンは、
しかしそのワロスロボティクス社の入口前の地面が、ゆっくりと口を開けていくのを見た。
-
124 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 22:02:56.83 ID:dZAK2gFnO
- 面前で開かれたハッチから現れたのは巨大な人型ロボットだった。
爪'ー`)「ようこそ。ワロスロボティクス社へ」
スリムなSLEDとは正反対な、重厚な装甲を備えたそのロボットから、FOXの声が聞こえた。
爪'ー`)「誰かと思えば、昔世間を騒がせたヒーロー気取り君じゃないか。
一体何の用かな?」
嘲笑うかのような口調のFOXの声が響く。
( ^ω^)「言わずとも分かっているはずだお、FOX。
お前の野望を成就させるわけにはいかないお」
爪'ー`)「なるほど。だが、せっかく来てもらって申し訳ないが、今我が社は立て込んでいてね……お引き取り願おうか」
( ^ω^)「それは出来ない相談だお」
ロボットの巨体に臆することなく、ブーンは即答した。
爪'ー`)「ふむ。確かに……敵前逃亡するヒーローなど聞いた事がないな」
FOXは納得するように呟く。
爪'ー`)「仕方ない。お引き取り願えないのなら……」
そして、巨大ロボットの持つガドリングガンの銃口がブーンに向けられた。
爪'ー`)「実力行使だ」
-
127 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 22:05:06.72 ID:dZAK2gFnO
- その六つの銃口が付いた銃身が回転を始めて、銃弾を吐き出した。
( ^ω^)「ッ!」
ブーンは素早く前斜めに跳躍、大通りに面したビルに張り付いて、そのまま重力を無視するように疾走する。
ガドリングガンの弾丸がその軌道を追うようにビルに銃痕の線を引いて、穿たれたビルの破片が舞った。
ブーンはビルを蹴って巨大ロボットの頭上を舞い、その背後に着地。
爪'ー`)「む」
( ^ω^)「貰った!」
機械の身体が、筋肉のバネを最大まで縮めた後、巨大ロボットに向けて突撃する。
鉄板を思いきり殴るような音が響いた。
-
129 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 22:07:52.41 ID:dZAK2gFnO
- ブーンの放った拳は巨大ロボットの強固な装甲に凹みを造った。
しかし、ただそれだけだ。
巨大ロボットが何か大きな損傷を負った様子は微塵も無い。
(;^ω^)「硬っ……!」
爪'ー`)「まだ改良の余地があるな」
実際に搭乗していないためか余裕を失わないFOXの声と共に、巨大ロボットが腕を振るい、ブーンを跳ね退けた。
空中に放り出されたブーンは体勢を回転して立て直して着地する。
(#^ω^)「まだまだッ!!」
爪'ー`)「フハハ!来たまえ!」
再び地を蹴って突進。
その拳はまたも腕に阻まれたが、今度は吹き飛ばされなかった。
爪'ー`)「!」
(;^ω^)「クッ……!」
身体が軋むのを感じつつ、ブーンは巨大ロボットとの力比べに挑む。
-
132 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 22:08:29.20 ID:dZAK2gFnO
- 爪'ー`)「今更姿を現して何のつもりかね?
君の役目はSLEDが受け継いだはずだが?」
巨大ロボットの力を緩めることなくFOXが問う。
(#^ω^)「武力の下に抑圧することを計画しておいて……「人助け」とは笑わせてくれるお……!」
爪'ー`)「抑圧されてしまうまで気付かない愚かな民衆が悪いのさ。
それに彼等にはSLEDと我々が責任を持って安全な生活を提供する」
(#^ω^)「そんな偽りの平和……!
クソ食らえだおッ!!」
ブーンは耐え切って、腕を思い切り押し返した。
爪'ー`)「!」
押し返され勢いがついた自身の腕に引っ張られるように巨大ロボットの身体が揺らぐ。
(#^ω^)「たああッ!!」
ブーンはすぐさまその懐に潜り込み、強烈な一撃を見舞った。
巨大ロボットが完全にバランスを崩して後ろに傾き、重い音と共に転倒した。
-
133 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 22:10:05.07 ID:dZAK2gFnO
- 爪'ー`)「ふむ……」
仰向けの巨大ロボットから聞こえるFOXの声は、何かに納得したかのような呟きだった。
爪'ー`)「伊達にヒーローは名乗ってはいないな。
こちらもそれなりの対応をせねばならないということか」
突然、巨大ロボットの身体が手足を使わずに起き上がった。
理由はすぐに分かった。
巨大ロボットの背部装甲が剥がれ落ち、収納されていた四基のブースターが展開、
莫大な推力を持つそれらを噴射して巨体を浮き上がらせたのだ。
爪'ー`)「君に敬意を払って、コイツの真価をお見せしよう」
完全に宙に浮いた巨大ロボットが、その頭部のモノアイでブーンを見据えた。
瞬間。
更に出力を上げたブーストにより、噴射音と共に巨大ロボットが滞空しつつブーンに肉薄した。
-
135 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 22:11:52.51 ID:dZAK2gFnO
- (;^ω^)「!」
ブーンを押し潰さんと上から打ち下ろされた鉄拳を、ブーンは辛うじてバックステップを踏んで避けた。
地面に無数のヒビとクレーターのような凹みが出来上がる。
(;^ω^)「なんつー威力だお……」
アレを受ければブーンといえども命の保証すらないだろう。
しかし脅える暇も無い。
着地したブーンはベクトルを浮遊する巨大ロボットに向けて再び突撃した。
強靭な足腰のバネを活かし、幅のあるサイドステップを交えて巨大ロボットが構えるガトリングガンの狙いを翻弄しながら接近。
巨大ロボットはブースターを真正面に向けて噴射、ブーンと距離を取ろうとしたが、ブーンの方がスピードで勝っていた。
屈み込むような体勢から跳躍、巨大ロボットの胸板に飛び付く。
(#^ω^)(貰ったおッ!)
そのまま頭部に拳を叩き込むつもりだった。
-
136 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 22:12:57.12 ID:dZAK2gFnO
- しかしブーンは瞬間、巨大ロボットの頭部、モノアイの脇が開き、小型のバルカン砲の銃口が顔を覗かせるのを見た。
(;^ω^)「なっ!?」
ブーンは反射的に巨大ロボットの胸部を蹴りバック転。
しかし一瞬間に合わず、火を噴いたバルカン砲の弾がブーンの右肩を掠めた。
(;^ω^)「うぐっ!」
ブーンは苦悶の声を上げながら、それでも体勢は整えて宙を舞う。
爪'ー`)「甘いな」
次の瞬間、巨大ロボットの両肩のハッチが開き、
そこにあったミサイルハッチから大量のミサイルが一斉に発射されて、
ミサイルは煙で軌道を描きながらブーンに向かった。
(;^ω^)「!!」
空中でそれを見たブーンは、回避行動を取れないことを察し、両腕を面前に構えた。
立て続けに響き渡る爆音。
ミサイルはブーンに収束するように飛んで、彼の辺り一帯を爆炎で包み込んだ。
-
139 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 22:15:36.63 ID:dZAK2gFnO
- 爪'ー`)「おしまいかね」
一瞬の静寂。
聞こえるのはミサイルの着弾を確認しながら高度を上げた巨大ロボットのブースター噴射音だけ。
それを破ったのは巻き起こった土煙から飛び出したブーンだった。
(#^ω^)「だあああっ!」
所々人工皮膚が溶けて中のマニピュレーターが垣間見える身体で、巨大ロボットに迫る。
爪'ー`)「君はよく頑張ったよ」
しかし彼は薙ぎ払うように振るわれた巨大ロボットの腕部に弾き飛ばされた。
-
143 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 22:20:19.31 ID:dZAK2gFnO
- 身体をくの字に曲げ、自由落下以上のスピードで地に向かっていき、轟音と共に地面に叩きつけられる。
(; ω )「ぐふうっ!」
爪'ー`)「お陰で良いデータが取れた。
これからの我社の発展に活かさせてもらう」
それでも立ち上がるブーンの面前に、既に巨大ロボットが急降下してくる。
爪'ー`)「もう用無しだよ」
(; ω )「ガッ……!」
一撃。
防御も満足に出来ない体勢のブーンに直撃した巨大ロボットの拳は、彼の身体をビルに向けて吹き飛ばし、
ブーンはビルを破壊しながらその内部に吸い込まれるように消えた。
爪'ー`)「幕引きだ」
巨大ロボットを地上にゆっくりと着地させながら、FOXが嘲け笑った。
-
145 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 22:21:40.99 ID:dZAK2gFnO
- 爪'ー`)「やれやれ……今後はヒーローもこれきりで引退してほしいものだ」
これからは我々の時代なのだよ、とFOXは笑う。
「……それはお前の目論みを失敗に終わらせてからさせてもらうお……」
その笑みが、瓦礫の中から聞こえた声に掻き消されるようにFOXの顔から消えた。
爪'ー`)「……何だと」
ガラリ、と瓦礫の崩れる音がして、FOXはビルの内部に立ち上がるブーンの背中を見た。
爪'ー`)「……何故だ」
FOXの声のトーンが落ちる。
爪;'ー`)「何故!そこまでする!?
貴様が助けようとした民衆は君を捨てSLEDを取った!
貴様を見捨てた奴らを何故助けようとする!?」
全く理解出来ない、とFOXは毒づいた。
-
147 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 22:22:24.42 ID:dZAK2gFnO
- ( ω )「民衆が今、僕の事をどう思ってようがそんなこと関係ないお」
ブーンは片膝をついて呟くように言った。
( ω )「僕は僕の願いを叶える為に戦うんだお。
僕は僕が今この瞬間、皆を守るヒーローである為に、皆が自分自身で願いを叶えてゆく日常を取り戻せるヒーローである為に、戦うんだお」
左腕を失った身体でよろり、と立ち上がる。
( ω )「その為に僕にのしかかるモノを背負う覚悟もあるお。
犠牲も、代償も、全部。
……だから」
目線を巨大ロボットに……そのモノアイからの情報を傍受している社長室のモニターを観ているFOXに、突き刺す。
-
151 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 22:24:04.50 ID:dZAK2gFnO
- (#゚ω゚)「僕は今!
僕自身の為に!!
命を賭けて!!!
お前の野望を!!!!
打ち砕くお!!!!!
FOXッ!!!!!!」
ブーンの身体が……傷付き、ボロボロになり、しかしそれでも力尽きない機械の身体が、立ち上がった。
-
152 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 22:25:25.72 ID:dZAK2gFnO
- (#゚ω゚)「リミッタァァァオォォォォォフ!!!」
覚悟を、言葉にする。
鼓動がビートを刻む。
機械の身体が限界を超えて唸りを上げる。
空気が震える。
(#゚ω゚)「オオオオオオオオオオオンッ!!!」
湧き出る力を余すところ無く身体中に伝達して、ブーンは吠えた。
爪#'ー`)「クソがッ!!貴様などに!!」
FOXは巨大ロボットを構えさせ、ブーンに向け突撃させる。
爪#'ー`)「私の野望を食い止められてなるものかッ!!」
ブーンはそれに真っ向から立ち向かった。
地面をその勢いで陥没させながら跳躍し、右手に全てを込めて振りかぶる。
爪#'ー`)「果てろ!!俗物!!」
(#゚ω゚)「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」
ブーンと、巨大ロボットの拳が、激突した。
-
154 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 22:26:35.04 ID:dZAK2gFnO
- 響き渡る轟音。
その中心でせめぎ合う二つの力。意志。全て。
人々を押さえ込み、自らの思い通りにしようとした男の野望の具現化した存在とも言える機械の巨体の、
その凶悪とも言える腕部に亀裂が生じる。
相対する一人のヒーローの力に負けて。
何故勝てない。
男は考える。
お前は勝てない。
ヒーローは確信する。
そして、男の野望は砕け散った。
-
155 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 22:27:30.23 ID:dZAK2gFnO
- 巨大ロボットの腕を木っ端微塵に破壊してもなお止まらないブーンの渾身の拳は、巨大ロボットの胴体を豪快に殴った。
巨体が目を疑うほどのスピードでブッ飛び、そのまま……
ワロスロボティクス本社に激突する。
-
157 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 22:28:43.25 ID:dZAK2gFnO
- ( −ω−)「……お」
ブーンは真っ暗な空間に意識を取り戻した。
自分は生きているのか。
目の前が真っ暗なのは目を閉じているからだと気付くのに数秒を要した後、ブーンは目を開けた。
(° °)「オ目覚メデスカ」
( ^ω^)「……」
(;゚ω゚)「うおわぁぁぁ!!」
面前で自分を見つめているのがSLEDであることに気付いたブーンは、慌てて病院の個室のベッドに横になっていた自分の身体を跳ね起こした。
「安心しろ。ソイツは無害だ」
SLEDの中性的な声とは別の男性の声がして、ブーンは病室の隅に座って笑っている男を見つけた。
( ^ω^)「ギコさん……!」
( ,,゚Д゚)「よう。やりやがったな」
ギコの満足そうな笑みを見たブーンは、どうして自分がこんな状況にあるのか回想した。
-
160 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 22:30:07.48 ID:dZAK2gFnO
- 光。爆発。音を立てて崩れる巨大複合企業の本社ビル。
ブーンは身体を蝕む疲労と苦痛に膝をつく。
所々が機械部分の酷使による痙攣を起こしていた。
(;^ω^)「……」
疲労困憊した身体に鞭打って立ち上がる。
しかしブーンは右肩から衝撃を感じてバランスを崩した。
地面に倒れ込んだ後に肩を見ると、モクモクと黒煙を上げていて、ほとんど動かせなくなっていた。
( ω )「……」
立ち上がれない。
ブーンはそれを悟って力の入らない拳を握り締めた。
まだやらねばならないことはあるのだ。
ネットワークを破壊せねばSLED達は止まらない。
しかし、ブーンの身体はその意志に答えることは出来なかった。
ここまでか。
薄れゆく意識の中、そう思ったブーンの耳に……
「急げ!ヘリを降ろせ!」
突如、無数の足音とヘリコプターのフロペラ音が聞こえた。
-
162 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 22:31:10.24 ID:dZAK2gFnO
- 「大丈夫ですか!」
ヘリから飛び降り、自分に駆け寄って来た迷彩服の男性が声をかけてきた。
政府のマークが胸に刺繍されている。
ああ、来てくれたのか。
ブーンは安堵感が込み上げてくるのと同時に、自分を辛うじて意識のある状態にしていた細い糸のようなモノが、プツン、と音を立てて切れるのを感じた。
( ω )「……」
ブーンは男性に返答をすることが出来ず、そのまま意識を手放した。
……そう、手放したのだった。
-
167 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 22:44:21.86 ID:dZAK2gFnO
- ( ,,゚Д゚)「頭がハッキリしてきたか?」
( ^ω^)「大体は思い出しましたお」
( ,,゚Д゚)「そうか。
……ワロスロボティクス社は制圧されたそうだ」
ブーンのベッドの脇に寄って、ギコは彼が一週間眠っていたことと、その間に起きた出来事を教えてくれた。
( ,,゚Д゚)「ネットワークは政府の管理下に置かれて、各地のSLEDはすぐに活動を一旦停止したらしい。
で、よくわからんが政府がそのネットワークを上手く使って、SLEDを元に戻して、出来る限り元の生活を送れるように奮闘中らしい。
……それから、ワロスロボティクス社の社長は逮捕されたよ。
社長室で茫然自失としていたそうだ」
( ^ω^)「……そうですかお」
( ,,゚Д゚)「まぁ、これで皆も思い知ったろう。
人任せならぬロボット任せはろくな事にならんとな。
……ああ、それから、お前をこの病院に連れて来て、お前を治した連中がお前に会いたいってよ」
( ^ω^)「……あ、左腕ついてるお」
( ,,゚Д゚)「気付くの遅ェなw」
それを皮切りに、ブーンとギコはひとしきり笑った。
-
168 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 22:45:36.71 ID:dZAK2gFnO
その時、ドアが開いた。
(´・ω・`)「やぁ、意識を取り戻したようで何よりだ」
二人の笑い終わるタイミングを見計らったかのように、スーツ姿の男とその両脇の黒スーツの男達が病室に入って来た。
( ^ω^)「あの……どなたですか?」
( ,,゚Д゚)「お前な……ショボン大統領を知らんのか!」
( ^ω^)「……ああ」
(´・ω・`)「ショボーン」
-
171 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 22:47:38.28 ID:dZAK2gFnO
(´・ω・`)「まずお礼を言わせてくれ。ありがとう」
ショボン大統領は、そう言ってブーンの手を握った。
( ^ω^)「どうも……」
(´・ω・`)「君の活躍が無ければ、世界はFOXの思うがままになっていただろう。
本当に何度感謝しともしたりないほどだ」
( ^ω^)「はぁ……」
(´・ω・`)「君のお陰で世界は再び元の姿を取り戻しつつある。
ワロスロボティクス社の遺物は我々が責任を持って管理するよ」
( ^ω^)「……」
(´・ω・`)「そこでだね、私達は君を再構築される新政府の役職に( ^ω^)「だが断る」
(´・ω・`)
-
175 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 22:49:55.92 ID:dZAK2gFnO
- ( ,,゚Д゚)「いいのか」
邪魔者を追い出し、再び二人きりになった病室。
ギコはブーンに尋ねた。
( ,,゚Д゚)「願いが叶うチャンスだったじゃないか」
そう言われて、ブーンは笑って言った。
( ^ω^)「別にそうしなければ願いが叶わないわけじゃありませんお。
それはギコさんが僕に教えてくれた事ですお。
……それに、僕の願いは一つじゃないですお。
ギコさんのお店、僕しか受け継ぐ人いないでしょ?」
その言葉を聞いたギコの目が目一杯開いた。
( ,,゚Д゚)「……こんな出来の悪い奴に俺の店を任せるしかないなんて泣けてくるな!」
しかしすぐに彼らしい答が返ってくる。
(;^ω^)「まぁそれは気長に待ってもらうしか……」
( ,,゚Д゚)「待てるか阿呆。逃げ出したくなるくらい扱いてやる」
(;^ω^)「あぅあぅ……」
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176 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 22:51:05.05 ID:dZAK2gFnO
病室の窓。
その先に広がる空は、何処までも澄み渡る青空だ。
その綺麗な空を眺めながら、ブーンは思った。
そう思うことが出来る自分がいることに、気付いた。
……この空の下、この日常の中、僕は生きて行こう、と。
-
181 : ◆L66fmP/Ue6
:2007/12/09(日) 22:55:40.59 ID:dZAK2gFnO
- っしゃああ終わったあああってタイトル付け忘れたあああああ
以上で、( ^ω^)ブーンは覚悟するようです はおしまいです。
ロボット書いてみたかったりリミッタァァァァァオォォォォフ!!と言わせたいだけた゛ったり没になったお題をちょこっと使ったりして暴走しましたガ、
支援してくださった皆さんありがとうございました!!
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