(´・ω・`)サトリのショボンのようです

119 ◆Cs058I7w36 :2007/12/02(日) 22:23:22.73 ID:9o0CqC+nO
「サトリ(覚)」
他人の心を読むという妖怪。


「先祖返り」
何世代も前の先祖の形質を隔世的に受け継ぐこと。



遠い昔、サトリの力を元に財を成した者がいた。
彼の子にはその力こそ受け継がれなかったが、
代わりに手先が器用だったため、刀鍛治として一世を風靡することとなる。


それから数百年。
サトリの存在が忘れ去られたころに、彼の遠い子孫として一人の男が生を受けた。
数奇な運命を、その双肩に背負いながら……。





(´・ω・`)サトリのショボンのようです

 
120 ◆Cs058I7w36 :2007/12/02(日) 22:24:33.27 ID:9o0CqC+nO
時は明歴元年、一月十六日。
朝の江戸城下町に一際元気のいい声が鳴り響く。

ノパ听)「それじゃ、薬草摘みに行ってくるからぁぁぁぁぁ!!!!」

そう叫びつつ、引き戸を開けて長屋から外に飛び出した一人の少女。
赤紫の着物と頭に挿した玉の簪、背中に背負った籠などが特徴的である。
彼女の名は素直ヒート、シャキンという町医者の一人娘だ。

(`・ω・´)「おうっ、気ぃつけんだぞ!」

シャキンは薬を煎じる作業を一旦止め、娘に向けて手を振った。
父子家庭なためか、この家ではこういった挨拶を欠かさない。

ノパ听)「酉の刻までには帰ってくる!!!」

片手を上げつつ、ヒートは人波の中へと消えていった。

(`・ω・´)「ったく、戸ぐらいちゃんと閉めていけよな」

不満げに毒づきながらも、のろのろと立ち上がって引き戸を閉めるシャキン。

(`・ω・´)「……しっかしまあ、元気な子に育ってくれたもんだ」

そう言う彼の表情は、どことなく嬉しそうだった。

 
125 ◆Cs058I7w36 :2007/12/02(日) 22:26:03.74 ID:9o0CqC+nO
この町の朝は早い。
まだ時刻は朝八時頃だというのに、町並みはかなりの賑わいを見せていた。

「なんてったってうちの蕎麦はコシが違う!
 熱いダシ汁に七味をかけてズズズっ、いや、たまんねえな!」

「鰻はどうだい!? 思わず涎でもう一つ江戸湾をこさえちまうぐれぇの旨さだ!」

立ち並ぶ種々様々な屋台からは、すべからく威勢のいい声が鳴り響いていた。

ノパ听)「お江戸ーお江戸ー、おっひざもとー!!!!」

ヒートは客引きの声には耳を貸さず、器用に人ごみを掻き分けて走り続けていた。
どうやら郊外へと向かっているようである。

 
127 ◆Cs058I7w36 :2007/12/02(日) 22:27:18.33 ID:9o0CqC+nO
人気のない草原。
ヒートは一時間ほど走ってたどり着いたそこで、ようやくその足を止めた。

ノハ;゚听)「疲れたあぁぁぁぁぁっ!!!」

背負った籠を取り外し、勢いよく草の絨毯に倒れ込む。
かと思うと、彼女はそのままの姿勢でゴロゴロと転がり始めた。

ノハ*゚听)「うー、蕎麦殻の布団より俄然気持ちいい!!
  どうしてこんなにいい物を敷布団に詰めないんだろう!!?」

*(‘‘)*「それはきっと、すぐに萎れちゃうからです」

ノパ听)「むー、確かにカサカサになっちゃ意味が……って、あれ!?」

言葉を止め、声がした方に目をやる。

*(‘‘)*「いい天気ですね」

ヒートから数歩離れた場所には、髪を二つに結わえた少女がいた。

ノハ//)「私が寝転ぶのを見ていたのかっ!!!?」

元気印といえど、ヒートはれっきとした女の子。
はしたない姿を見られたことによる恥ずかしさからか、彼女の顔は赤く染まったのだった。

 
130 ◆Cs058I7w36 :2007/12/02(日) 22:28:36.53 ID:9o0CqC+nO
*(‘‘)*「恥ずかしがることないですよ。
  実は私も好きなんですよね、こういうの!」

そう言うや否や、二つ結びの少女はヒートの横に寝転んだ。
少女達は草を枕に、ただただぼーっと青天井を見上げる。

*(‘‘)*「私、ヘリカル沢近といいます」

ヘリカルは視線を上にしたままそう名乗った。

ノパ听)「私は素直ヒート、ヒートって呼び捨てにしてくれて構わないぞ!!!」

*(‘‘)*「はい、それなら私のことも呼び捨てにしてくださいな」

少しの沈黙。
お互い相手のことをよく知らないため、どこか遠慮している部分があるのだろう。

ノパ听)「苗字があるってことは、武士か医者の家の子か!!?」

彼女が時間をかけて捻り出した質問は、至極単純な物であった。

*(‘‘)*「いいえ、私は神社に住んでるんです」

ノパ听)「神社か……」

そう呟くと、身体を起こしてヘリカルの方に向き直った。

 
133 ◆Cs058I7w36 :2007/12/02(日) 22:29:49.66 ID:9o0CqC+nO
ノパ听)「神社ってことは、お守りとかも売ってるのか!!?」

*(‘‘)*「いえ、うちはちょっと特殊なので」

ノパ听)「そうなのか」

ヒートは残念そうにそう言うと、また草の上に寝転んだ。

*(‘‘)*「お守り、欲しかったんですか?」

ノパ听)「少しな!!」

*(‘‘)*「……安易に神様に頼るのはよくないですよ」

ノパ听)「私もそうは思うが、最近ととの体調が心配でな」

*(‘‘)*「とと?」

ノハ//)「あっ、その……父!!! 父のことだぁぁぁ!!!!」

慌てて言い直すヒート。
どうやら"とと"という幼い響きの言葉を使うことを恥じているようである。

 
136 ◆Cs058I7w36 :2007/12/02(日) 22:31:00.21 ID:9o0CqC+nO
*( ^ ^)*「ぷっ……、あははははっ!」

ノハ;゚听)「そっ、そんなに可笑しいかっ!!?」

大笑いし始めたヘリカルを見、ヒートはムッとしたような表情をした。

*(‘‘)*「いえいえ、とても可愛いと思いまして」

ノハ;゚听)「なんか馬鹿にされているような……」

*(‘‘)*「さあ、どうでしょうね?」

ヘリカルは小首を傾げ、挑発するような笑みを浮かべた。
対するヒートは何かを思いついたのか、こちらも口元を緩ませた。

ノパー゚)「……仕返しだあぁぁぁぁっ!!!」

掛け声とともに、ヘリカルの脇に手をやる。
そしてそのまま指を動かし、こちょこちょと擽り始めた。

*(;‘‘)*「あっ、それは反則ですよっ!」

ノパー゚)「勝ちさえすれば将軍様ってな!!!」

*(‘‘)*「わっ、私も!!」

そう言ってがら空きになったヒートの脇に手を伸ばす。
こうして二人だけの擽り合戦が勃発したのだった。

 
140 ◆Cs058I7w36 :2007/12/02(日) 22:32:21.99 ID:9o0CqC+nO
半刻後、二人は大の字になって草の上に倒れ込んでいた。
お互い笑い疲れたのか、肩で息をしている。

ノハ;゚听)「ほんと、笑い死ぬかと思ったぞぉぉぉ!!!!」

*(;‘‘)*「それは私もですよ!
  でも、でも……」

*(*‘‘)*「少しは楽しかったかな、なんて」

ノハ*゚听)「私もだあぁぁぁっ!!!」

そう言ってお互い顔を見合わせる。
そのままの状態で一瞬たった後、どちらともなく空気に堪え切れずに吹き出した。

ノパー゚)「本当、何やってんだかな!!!」

*(‘‘)*「まだまだ私も子供なところがありますねえ。
  久々にはしゃいで、なんだかすっきりしました」

この場に流れる空気は、まるで秋風の如く穏やかな物と化していた。

利害関係無き子供であるがためか、
はたまたそんなことは関係なくただ単に馬が合ったからか。
とにもかくにも彼女達は、もはや竹馬の友と見間違うほどに親しくなっていた。

 
145 ◆Cs058I7w36 :2007/12/02(日) 22:33:19.09 ID:9o0CqC+nO
*(‘‘)*「それにしてもいい天気ですよね」

ノパ听)「うんうん、お天道様には感謝感謝!!!」

*(‘‘)*「あはは、私も感謝感謝です!」

真昼の太陽は心地よい陽気を発し続けていた。
日光の香ばしいような匂いと草の青い香りが、爽やかな一時を演出する。

「ぐうううぅ!」

*(////)*「あっ」

と、ヘリカルの腹の虫が鳴った。

ノパ听)「もうお昼時だもんなぁぁ!!」

*(‘‘)*「ヒートは一旦家に帰るんですか?」

ノパ听)「いや、ここで握飯を食べて、それから甘草やアカネなんかを摘むんだぞ!!」

*(‘‘)*「ヒートは薬草摘みのためにここにいたんですね」

ノパ听)「ああ、朝はのんびりして、昼から頑張るのが私の日課なんだ!!!」

 
147以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/02(日) 22:34:20.53 ID:9o0CqC+nO
ノパ听)「それじゃあ、そろそろ食べるかな!!」

そう話しつつ、籠から笹の葉で包まれた握飯と水の入った竹筒を取り出した。

ノパ听)「いっただきま……」

*(‘‘)*「……」

ノパ听)「……食べるか?」

*(;‘‘)*「えっ、いいんですか!?」

ノパ听)「元々2つあるからな、1つ分けるくらいなんてことないぞ!!」

*(*‘‘)*「あっ、ありがとうです!」

礼を言うや否や、差し出された塩おにぎりに噛り付く。
よほど空腹だったのか、彼女がそれを食べ終えるまでにはほとんど時間がかからなかった。

*(*‘‘)*「ああっ、やっぱりお米は最高です」

ノパ听)「本当にお腹が空いてたんだな!!」

*(‘‘)*「お恥ずかしながらうちの神社は廃れてしまい、
      満足に食べる余裕がないのです……」

そう話すヘリカルの顔は、どことなく寂しげだった。

 
151 ◆Cs058I7w36 :2007/12/02(日) 22:35:28.78 ID:9o0CqC+nO
ノパ听)「神社っていつも賑わってる印象があるんだが、色々と苦労もあるんだな」

*(‘‘)*「もしかしたらこれは、
      願いを叶えることを止めたせいなのかもしれませんね」

ノパ听)「願いを叶えるのを止めた?」

*(‘‘)*「……いえ、なんでもないです。
  っと、そうだ、これを受け取ってください!」

ヘリカルが取り出したのは、片手の掌に収まるぐらいのひらべったい布袋だった。

ノパ听)「これは……」

*(‘‘)*「特別なお守りです」

ノパ听)「お守りは扱ってないって言ってなかったか?」

*(‘‘)*「まあま、細かいことは気にしちゃ駄目です!
  御飯のお礼に貰ってくださいな!」

ヘリカルはそう言いながら、ヒートの手に無理矢理お守りを握らせた。

 
153 ◆Cs058I7w36 :2007/12/02(日) 22:36:35.64 ID:9o0CqC+nO
ノハ*゚听)「えへへ、お守りお守り!!
  ありがとな、早速ととにあげ……」

と、不意に強風が吹き付ける。
思わず目をつむるヒート。

ノハ;゚听)「あれっ!!?」

彼女が再び目を開けると、ヘリカルは忽然と姿を消していた。

ノパ听)「夢だった……訳じゃないようだしなあ」

狐につままれたような顔をしながらも、手の中に握ったお守りを確認する。

ノパ听)「んっ、裏に何か書かれた紙が張ってある!
  何々……」

学識ある父から教育を受けているため、
ヒートは若くして文字を読むことができる。
どうやらそれがこの場で活きたようだった。

ノパ听)「これが持つ役割はあなたの努力を助長することのみ、奇跡は日々の努力から。
  むむむっ、なんだか意味深長な響きだけど……正直よく分からないぞっ!!!」

そう叫ぶと、ヒートはお守りを着物の帯に挟み込んだ。

ノパ听)「さーて、薬草採りでもするかぁぁ!!!」

 
156 ◆Cs058I7w36 :2007/12/02(日) 22:37:45.44 ID:9o0CqC+nO
朱に染まった空。

時折飛んでいく烏の存在を除けば、どこまでも赤一色である。

ノハ;゚听)「ふいー、今日も大量大量!!!」

ヒートは額の汗を拭いながらひた歩いている。
背中に背負った籠は草で満杯になっていた。

ノハ*゚听)「えへへっ、とと喜んでくれるかなー!!!」

薬草とお守り、二つの土産を手にしたヒートは、とても上機嫌なようだった。

しかし彼女の表情は、街の入口が見えてきた瞬間さっと変わった。

ノハ;゚听)「……街が燃えてる!!?」

後に明歴の大火と呼ばれる大火事。

幾つもの火事が併発して起こったそれの発端となった火が、
今まさに江戸の街で猛威を奮っていたのだ。

 
158 ◆Cs058I7w36 :2007/12/02(日) 22:38:50.87 ID:9o0CqC+nO
明歴元年、一月二十日。



町外れの林に立てられた煙突付きの小屋。
その中からは金属を打ち付けるような、小気味よい音が鳴り響いていた。


と、金属音が止む。


(;´・ω・`)「ふうっ、やっと完成」

音が止んでから少しの間を置いて、一人の男が小屋の外に出てきた。
てぬぐいで額を拭ってはいるが、それでは拭い切れない程の汗が吹き出しているようだ。

(;´・ω・`)「生計を立てるためとはいえ、刀鍛冶も楽じゃないよ」

この男の名はショボン、苗字は無い。
人里離れた場所で刀鍛治をやっている。

 
159 ◆Cs058I7w36 :2007/12/02(日) 22:39:47.81 ID:9o0CqC+nO
(´・ω・`)「それにしても、久々に味わう外の空気の美味いことといったら」

ショボンは両手を組んだまま真上に伸ばし、んっと息を吸った。
と、一羽の小鳥がショボンの肩に止まる。

「ちゅん、ちゅちゅん」
『こんにちはショボン、今日は町に行くの?』

(´・ω・`)「ああ、刀を売りにね」

ショボンは小鳥の心の声に対して答を発した。

「ちゅちゅちゅん、ちゅん」
『気をつけなよ、町は今大変なことになっているから』

(´・ω・`)「大変なこと?」

「ちゅちゅん、ちゅちゅん」
『どうも大火事があったみたいでね、治安が著しく悪化しているんだ』

(´・ω・`)「大火事ねぇ……まあ、危険を察知したら無理せず逃げるさ。
        他人の心を読めるサトリの力も、こういう時には役に立つ」

 
161 ◆Cs058I7w36 :2007/12/02(日) 22:41:01.20 ID:9o0CqC+nO
「ちゅちゅん、ちゅちゅちゅちゅ」
『でも、相手が無言で襲ってくるかもしれないんだよ?
 相手が声を発してくれないと、ショボンは……』

(´・ω・`)「うん、確かに僕は肉声を発している人の心の声しか聞けない。
        それも意識の表面、つまり相手が今、
        一番強く思っていることだけしか分からない」

「ちゅちゅっ!」
『ならっ!』

(´・ω・`)「でも大丈夫、無言の追い剥ぎなんて、流石にいやしないよ」

『ちゅちゅん、ちゅちゅっちゅ』
「それもそうか……じゃあ、またね!」

小鳥は高い声で数度鳴き、空へと飛び立っていった。

(´・ω・`)「サトリの力、ねぇ……」

一人呟き、溜め息をつくショボン。

(´・ω・`)「とりあえず、早々に出発するか」

彼はそう言うと、身支度を整えに小屋の中へと戻っていった。

 
163 ◆Cs058I7w36 :2007/12/02(日) 22:42:04.68 ID:9o0CqC+nO
(´・ω・`)「こうなることも予想はしていたけど、さてどうしたもんか……」

無惨に焼け落ちた建物の前で、ショボンは一人立ち尽くしていた。
実はその建物こそ、彼が普段刀を売っている店だったのだ。

と、ショボンの背後から彼の肩へと手が置かれる。

(´・ω・`)「あっ、ドクオさん」

彼が振り向いた先にいたのは、焼け落ちた店の主人。
意外なことにその表情は暗くなく、寧ろ嬉々としているようである。

('A`)「よっ、あんたも無事だったのか」
   『よしよし、今日も安く買い叩こう』

(´・ω・`)「ええ、僕の家は町から離れた場所にあるので」

('A`)「そういえばそうだったな。
    おっと、そんなことより、今日も刀を売りにきたんだろ?」
    『変人で人を寄せ付けず、気心の知れないやつ。
     それでも刀鍛治としての腕は確かだから、いい金蔓だ』

揉み手をしつつ、下卑た笑いを浮かべるドクオ。
彼のそんな薄汚い内面を見ても、ショボンは眉一つ動かさなかった。

 
167 ◆Cs058I7w36 :2007/12/02(日) 22:43:14.09 ID:9o0CqC+nO
(´・ω・`)「買い取って頂けるのは有り難いんですが、
        この状況で大丈夫なんですか?」

('A`)「俺が金を支払うことができないだろう、と?」
   『ばーか、舐めんなよ、こちとら三つの支店を持ってんだ』

(´・ω・`)「いえ、気にしないで下さい」

火事の後、ドクオは近くの支店から金を持ってこさせていた。
物資が欠乏した状態で有利な商売を、狙いはそんなところなのだろう。

(´・ω・`)(まったく、商魂ここに極まれりだ)

心の中で嫌味を垂れ流すと、ショボンは刀の値段交渉に意識を移した。

 
169 ◆Cs058I7w36 :2007/12/02(日) 22:44:24.98 ID:9o0CqC+nO
町外れの林をとぼとぼ歩くショボン。
彼が手に持つ布袋には、売った刀の代金としては些か少な過ぎる額が入っている。

(´・ω・`)「どうにも人間は苦手だなあ」

心からそう思っているのだろう。
彼の常時しょんぼりしたように見える顔は、より一層辛気臭くなったようだった。

「カーカー、カカー!」
『大変だぜショボン、あんたの家に泥棒が入ってる!』

木の枝に止まったカラスがそんなことを言った。

(´・ω・`)「泥棒かぁ……やっぱり人間は苦手だよ……」

力無くそう言い、首をうなだれた。
彼の眉は心持ち、さらにしょんぼりと垂れ下がったようにも見える。

「カカッカカーカー!」
『まだ泥棒はお前の家にいる、急いだ方がいいぜ!』

(´・ω・`)「なら、言葉通りそうさせてもらうかな」

ショボンはカラスに向けて軽く手を振ると、自宅へと向かう足を早めた。

 
172 ◆Cs058I7w36 :2007/12/02(日) 22:45:40.98 ID:9o0CqC+nO
(;´・ω・`)「………」

ノハ*゚听)「むしゃむしゃ!!!」
  『ああ美味しい、三日ぶりのお米だぁぁぁ!!』

勝手にショボンの家に入り込み、
自分で炊いたであろう米を食べている少女、つまりはヒート。

彼女のあまりに幸せそうな表情を見、
ショボンは声をかけることも忘れてただただ茫然としていた。

ノハ*゚听)「ぷはー、ご馳走様でしたぁぁぁあ!!!」
  『お百姓さんには感謝感謝!』

手を合わせ、箸を机の上に丁寧に置く。
そしてそのままごろりと寝転んだ時、彼女とショボンの目線が合った。

ノハ;゚听)「あっ……」
  『まずい、これじゃ私盗人だぁぁ!』

(;´・ω・`)「……」

ノハ;゚听)「こっ、こんにちは!!!」
  『あああああっ、どうしたらいいんだあ!!』

(;´・ω・`)「はい、こんにちは」

これがヒートとショボンの出会いだった。

 
173 ◆Cs058I7w36 :2007/12/02(日) 22:47:25.59 ID:9o0CqC+nO
ノハ;゚听)「もっ、申し訳ありません!!!!」
  『ああっ、許してもらえ……ないよなぁ』

せめて少しでも誠意を見せようと、ヒートは土下座をした。

(;´・ω・`)「えーっと、とりあえず事情を話してくれるかな?」

ノパ听)「……はい」
  『何から話そう?』

頭を上げ、しゅんとした様子で返事をするヒート。
先までの元気そうな様子が嘘のようだ。

ノパ听)「城下町で大火事があったことは知ってますか?」
  『多分知ってる、この人はどこかに出かけていたようだったから』

(´・ω・`)「大変だったみたいだね」

ノパ听)「私はあの火事で家を失ってしまいました」
  『一人じゃどうしようもなかくて、それで……』

 
175 ◆Cs058I7w36 :2007/12/02(日) 22:48:42.12 ID:9o0CqC+nO
(´・ω・`)「……もう謝ることないよ」

ノハ;゚听)「えっ!?」
  『あわわわ、もしかしてそこに立て掛けられた刀でばっさりとかぁぁ!!?』

(´・ω・`)「お米は僕からのご馳走、そういうことにしとくよ」

ノパ听)「いいんですか!?」
  『この人、もしかしていい人か?』

(´・ω・`)「食料が無くて困っていたんだろう?
    なら、攻めはしないさ」

ノハ*゚听)「わあっ!!! 有難うございます!!!!」
  『うん、この人は優しい人……少しととに似てるし』

(´・ω・`)「とと?」

ノハ//)「あっ、父のことです!!!」
  『うあぁ、無意識に口走っちゃったのかぁぁぁ!?』

(´・ω・`)「ふふっ」

慌てふためく彼女の姿を、ショボンはとても微笑ましく感じた。
彼が人間との触れ合いで笑顔を得るのは、実に数年ぶりのことだった。

 
177 ◆Cs058I7w36 :2007/12/02(日) 22:49:53.94 ID:9o0CqC+nO
(´・ω・`)「ところで」

ノパ听)「何ですか?」
  『恩返しの要望ならいざ来たれぇぇぇ!』

(´・ω・`)「もしかして君って、本当は凄く元気な子なんじゃない?」

ノハ;゚听)「えっ、いや、その……おてんばとはよく言われてました」
  『あれっ、もしや言葉遣いに綻びがぁぁぁぁ!!?』

(´・ω・`)「ならさ、僕に遠慮なんてしないでいいよ」

ノパ听)「でもあなたは、私より年上の人ですし……」
  『儒学では、明らかに私より目上だ』

(´・ω・`)「それなら言葉遣いを変えてってお願いが、さっきのお米の料金ということで」

ノハ*゚听)「わっ、分かりま……じゃなくて、分かった!!!
      気をつけるなぁぁぁ!!!」

おや、とショボンは思った。
何故ならヒートの言葉と同時に、心の声が聞こえてこなかったからだ。

(´・ω・`)「……不思議な子だ」

ノハ;゚听)「えっ、何か変に思われること言っちゃったか!!?」

(´・ω・`)「気にしないで、悪い意味で言ったんじゃないから」

いつの間にかショボンの心は、ヒートに対する好奇心で埋め尽くされていた。

 
179 ◆Cs058I7w36 :2007/12/02(日) 22:51:23.44 ID:9o0CqC+nO
ノパ听)「そういえば自己紹介がまだだったな!!!
  私は素直ヒート、見習い医者だ!!!!」

(´・ω・`)「見習い医者?」

ノパ听)「うん、医者の父親の手伝いをしてるから見習い医者!!!
  見習いといっても簡単な薬ぐらいだったら作れるぞ!!!」

(´・ω・`)「凄いね、今度教えて欲しいな」

ノパ听)「それはつまり、私の弟子になるということなのか!!?」

(´・ω・`)「ははは……まあ、そういうことになるのかな?」

ノハ*゚听)「おおっ、これでようやく医者らしくなれた気がするぞぉぉぉぉ!!!」

心底嬉しそうに叫び、ヒートはぴょんぴょんと飛び跳ねた。

ノハ;゚听)「うおっ!!!!」

その際彼女は、自分の着物の裾を踏み付け、
思い切り転んでしまうというお約束もやらかした。

ノハ;゚ー゚)「あははは……、気をつけないと」

それでもどこか嬉しそうなのは、やはり彼女の心中の表れなのだろう。

 
180 ◆Cs058I7w36 :2007/12/02(日) 22:52:34.04 ID:9o0CqC+nO
(´・ω・`)「そうそう、一つ提案なんだけど」

ノパ听)「何だ?」

(´・ω・`)「今日からこの家で、僕と一緒に暮らさない?」

ノハ;゚听)「そそそそれはつまり、結婚の申し込みかぁぁぁ!!?」

(;´・ω・`)「いやいや、そうじゃなくて、えーと、ほら……」

ノパ听)「もしかして、行き場の無い私の身を案じてくれたのか!!?」

(´・ω・`)「そういうことになるのかな」

ノパ听)「むぅ、お前の気持ちは嬉しい、嬉しいのだが……。
  弟子に頼ることなど、私にはとてもできんっ!!!!」

父親の受け売りである。

 
183 ◆Cs058I7w36 :2007/12/02(日) 22:58:24.64 ID:9o0CqC+nO
その日の夜中、ショボンはふと目を醒ました。

(´―ω―`)(これじゃあ明日の朝が辛いな……)

そんなことを考えつつ、なんともなしにヒートが寝ている筈の布団の方を見やる。

(´・ω・`)「あれっ、いない……?」

かけ布団はぺたんと萎れており、そこに誰もいないことは明白であった。
と、その時、小屋の外から声らしきものが聞こえてくる。

(´・ω・`)「ん?」

ショボンはそっと戸に近付き、耳を澄ましてみた。
僅かな隙間から洩れてくる月光が、彼の顔を幽玄に照らす……。

 
187 ◆Cs058I7w36 :2007/12/02(日) 23:01:27.57 ID:9o0CqC+nO
「ぐすっ、ぐすっ……」
『とと、会いたいよ』

それはヒートの泣き声だった。

「ぐすっ、ぐすっ、ぐすっ……」
『医者としての弟子もできたんだ、今度会わせたいぞ』

(´・ω・`)「ヒート……」

「ぐすっ、ぐすっ……うううっ……」
『だからもう一度言ってよ、おかえり、今日はご苦労様って。
  そしたら私はととに抱き付いて、精一杯甘えて……』

ショボンは後悔していた。
安易にヒートの心を覗き続けてしまったことを。

(´・ω・`)「おやすみヒート」

そう呟きがちに、再び布団へと潜り込む。

(´―ω―`)「ごめんなさい」

小さくそう言うと、彼は次なるまどろみへと落ちていった。

 
190 ◆Cs058I7w36 :2007/12/02(日) 23:03:18.82 ID:9o0CqC+nO
明歴元年、一月二十一日。


木製の窓から柔らかな朝日が降り注ぐ。
時折聞こえてくる小鳥のさえずりは、まるで朝を告げる調べのよう。

ノハつ<)「ふぁぁぁぁ!!!」

あくびをしつつ、むくりと上半身を起こすヒート。
目を擦り、寝ぼけた頭で辺りをキョロキョロと見回した。

ノハ--)「あれ……?」

ノパ听)「ショボ、いないの?」

そう呟き、首を傾げつつ立ち上がる。
そしてショボンを探しに、他の部屋へと向かっていった。

 
191 ◆Cs058I7w36 :2007/12/02(日) 23:04:37.87 ID:9o0CqC+nO
ノパ听)「ショボぉぉぉ!!?」

叫びながら勢いよく障子を開ける。
しかしその先に、ショボンの姿はなかった。

ノハ;゚听)「ショボ、いないのか……?」

この家には釜戸や囲炉裏がある大部屋と、そこから障子で仕切られた寝室の二部屋しかない。
よって、彼はこの家の中にはいないということになる。

ノハ;゚听)「ショボぉぉぉ……」

彼女の声には、不安の音が多いに混じっていた。

 
192 ◆Cs058I7w36 :2007/12/02(日) 23:06:44.61 ID:9o0CqC+nO
一方その頃、小屋の外。
辺りの木をガサガサと揺らしている男が一人。

(´・ω・`)「うーん、中々キンカンが見つからない。
        冬の果物っていったら、あれが思い浮かぶんだけどなぁ」

ショボンはそう呟き、またキンカン探しの作業を続ける。
昨夜うっかりヒートの涙と心を見てしまったことに対する、彼なりの拭罪のつもりなのだろう。

「コンコン」
『よっ、ショボン』

不意に木の陰から現れた狐が、ショボンに向かってそう鳴いた。
嫌に目付きが悪く、加えて毛も黒ずんでいるようである。

(´・ω・`)「なんだ、嘘つきコン兵衛か」

「コココーン、コンコンコココン」
『酷い言いようだな、折角キンカンの木の在りかを教えてやろうと思ったのに』

(´・ω・`)「本当かい?」

「コン! ……コンコン」
『勿論! ……お代は油揚げ二枚で』

(´・ω・`)「しょうがないなぁ、今日の夜までに用意しとくよ」

「コーン!」
『毎度!』

 
195 ◆Cs058I7w36 :2007/12/02(日) 23:08:08.29 ID:9o0CqC+nO
(´・ω・`)「ふうっ」

両手にキンカンを抱えながら、ショボンは自宅へと向かっていた。

(´・ω・`)「嘘つきつねも、たまにはちゃんとした情報を教えてくれるんだな」

呟きつつ、玄関である引き戸の前に立つ。
それを引いて開けようとした時、ショボンはある問題に気がついた。

(´・ω・`)「両手が塞がってる……」

仕方なく足で戸を開けようと、木の板に下駄を当てる。
カンッ、木と木が触れる音がした。

(´・ω・`)「このまま擦らせて……」

と、彼が足を当てていた戸が、凄い勢いで開かれた。

(;´・ω・`)「なっ!?」

片足を当てていた場が動いため、ショボンはバランスを崩しかけた。

ノハ;;)「ショボぉぉぉぉぉぉ!!!!」

そこに家の中から出てきたヒートが飛び付く。
結果として、

(;´・ω・`)「うわあああああっ!!!」

彼は思い切り転ぶはめになったのだった。

 
197 ◆Cs058I7w36 :2007/12/02(日) 23:09:33.71 ID:9o0CqC+nO
(;´・ω・`)「いてて……」

ノハ;;)「心配したんだぞぉぉぉ!!!」

ショボンに抱き付いたまま、涙目でそう言うヒート。
腕に篭められた力は、少女のそれとは思えない程に強い。

(´・ω・`)「キンカンを採りに行ってたんだ」

ノハ;;)「えっ!!?」

(´・ω・`)「ほら、見てみてよ」

そう言いながら、周囲に散らばったキンカンを指差す。
それを見たヒートは、ゆっくりとショボンから身を離した。

ノパ听)「私を置いてどこかに行った訳じゃなかったのか」

(´・ω・`)「僕は黙っていなくなったりはしないよ」

ノパ听)「……よかったぁ!!」

ノハ*゚听)「ありがとな、ショボ!!!!」

(´・ω・`)「どう致しまして。
    それと、僕の名前はショボンだよ」

ノパ听)「だからショボだろぉぉぉ!!?」

(´・ω・`)「……まあいっか」

 
202 ◆Cs058I7w36 :2007/12/02(日) 23:12:37.85 ID:9o0CqC+nO
ノパ听)「キンカンを、食えばニコニコ、楽しいぞ」

(´・ω・`)「橙皮(だいだいひ)、守るは甘き、宝かな」

ノパ听)「ってことで」

(´・ω・`)ノパ听)「「いただきます!!」」

二人して笑顔でキンカンに噛り付く。
しかし彼等の表情は、一瞬にして凍りついた。

ノハ;゚听)「あっぐううぅぅぅい!!!!」

(;´・ω・`)「もしかしてキンカンって、生で食べるべきじゃなかった……?」

顔を歪め、キンカンの実をペッと地面に吐き捨てる。

ノハ;゚听)「あー、びっくりした!!!!」

(´・ω・`)「ふふふっ、本当だね」

ノハ;゚听)「笑うなんてどうしたんだショボ、あぐみでおかしくなったか!!?」

(´・ω・`)「いや、ヒートを見てたら、なんだか色々とどうでもよくなっちゃってね。
        一応キツネのために、油揚げ用意しとくか」

 
203 ◆Cs058I7w36 :2007/12/02(日) 23:14:06.98 ID:9o0CqC+nO
ノパ听)「キツネ?」

(´・ω・`)「ああ、キンカンの木の有りかはキツネに聞……」

ショボンは発しかけた言葉を途中で切った。



「あなた、こんな子気味が悪い」

「こうなったら追いやってしまうか」

「そうしましょう、物の怪の力を持つ子だなんて恐ろし過ぎるもの」



人や獣の心を読む力を持った彼を、回りの人々は――彼の両親でさえ――忌み嫌った。

ショボンの一族は刀鍛冶の名門であり、そのため資産は存分にあった。
その一部を使ってここに小屋を建てると、彼等はショボンをその小屋に追いやったのだ。
自活する手段を残したのは、せめてもの情けといったところだろうか。

そんな過去があったから、ショボンは他人がサトリの能力に気付くことを極度に恐れていたのだ。

 
207 ◆Cs058I7w36 :2007/12/02(日) 23:18:43.82 ID:9o0CqC+nO
だが、ヒートの反応は彼の予想とは違った。

ノハ*゚听)「すっごぉぉぉい!!!」

彼女は動物と話すことができるるショボンを気味悪がるどころか、
その不思議な能力に感嘆してみせたのだ。

ノハ*゚听)「ショボは動物と話せるのか!!!
  いいなぁ、羨ましいぞぉぉぉ!!!!」

(´・ω・`)「ヒートは僕の力を気味悪がったりしないの?」

ノハ*゚听)「あったり前じゃないかぁぁぁぁ!!!!
  なぁ、よかったら私の前で動物と話してくれないか!!?」

(*´・ω・`)「……うんっ!」

今まで大嫌いだったサトリの力を、ショボンは初めて誇らしく感じた。

 
208 ◆Cs058I7w36 :2007/12/02(日) 23:20:40.49 ID:9o0CqC+nO
森の中にある、広場のように開けた場所。
近くには澄んだ小川が通っている。

ショボンとヒートはそこにある倒木の上に座り、鳥達と話をしていた。

ノパ听)「こいつはそんなことを言っているのか!!!!」

ヒートは肩に止まった小鳥の頭を撫でる。
茶色い羽を生やしたその鳥は、気持ちよさそうに首をすぼめた。

(´・ω・`)「ありがとう、だってさ」

ノハ*゚听)「可愛いやつだなぁぁぁ!!!」

と、一羽のカワセミがショボンの傍に止まった。

「ちーちーちー」

(´・ω・`)「んっ……何々?」

ノパ听)「何て言ってるんだ?」

(´・ω・`)「魚捕り対決をしよう、だってさ」

 
209 ◆Cs058I7w36 :2007/12/02(日) 23:21:55.72 ID:9o0CqC+nO
ショボンとヒートは川岸に腰掛け、竹と麻で出来た釣り竿を水へと垂らしている。
彼等はカワセミの仕掛けた勝負に乗ることにしたのだ。

ノパ听)「釣れないなぁ」

(´・ω・`)「まだまだこれからだよ……んっ?」

「ちーちー!」

カワセミが小さめの魚をくわえて飛んできた。

ノハ;゚听)「やばっ!!」

(´・ω・`)「大丈夫、制限時間は太陽が真上にいくまでだ。
    これより大きな魚だって、きっと釣れるさ」

ノハ*゚听)「そうだよな!!!」

ノパ听)「おぉぉし、頑張るぞぉぉぉ!!!!」

(;´・ω・`)「大声出したら魚が逃げちゃうよ」

ノハ;゚听)「しまったぁぁぁ」

 
212 ◆Cs058I7w36 :2007/12/02(日) 23:23:34.79 ID:9o0CqC+nO
ノハ;--)「一向に釣れないぞ」

(´・ω・`)「うーん、ここまで調子悪いのは久々だなぁ」

彼等が釣りを開始してから既に二刻は経過した。
時間までは、あと一刻ほど。
ちなみにカワセミは三匹の小さな魚を捕まえてきた。

ノパ听)「よし、決めたっ!!!」

ヒートはそう言うと、着物の裾を捲くり上げ始めた。

(;´・ω・`)「何をするつもりなの?」

ショボンはどこか気恥ずかしいのか、ヒートから目を背けてそう尋ねた。

ノパー゚)「決まってるだろ」

彼女はニコリと笑い、川を覗き込む。

ノハ*゚听)「素手で捕るんだぁぁぁ!!!」

そう言いながら地を蹴り、川へと入っていった。
澄んだ水のしぶきが、キラキラと辺りに飛び散る……。

 
216 ◆Cs058I7w36 :2007/12/02(日) 23:24:51.67 ID:9o0CqC+nO
結論から言おう、ヒートは魚を捕ることができなかった。
勝負は結局カワセミの勝ちとなったのだった。

ノハ;><)「くしゅん!!!」

代わりにヒートは、要らない物を得てしまった。

ノハ;;)「風邪ひいたぞぉぉぉ!!!」

涙目でガタガタと震えるヒート。
腰程度の深さとはいえ川に入ったため、彼女は風邪を患ってしまったのだ。

(;´・ω・`)「まったく、もう」

ノハ;;)「面目ない……」

涙目を浮かべるヒートだったが、
一瞬おいてから突然、その顔を輝かせた。

ノハ*゚听)「そうだっ、こんな時こそショボに、
      薬の作り方を実演して見せればいいじゃないか!!!」

 
217 ◆Cs058I7w36 :2007/12/02(日) 23:26:15.99 ID:9o0CqC+nO
(´・ω・`)「で、材料になる草なんかは?」

ノハ;゚听)「しまった、そんなもん無いぞぉぉ!!!」

(´・ω・`)「……」

ノハ;;)「ショボが軽蔑した目で見てくるぅぅぅ!!!」

(´・ω・`)「ぶっ、あははははっ!」

ノハ;゚听)「むー、笑うことないだろっ!!!」

(´・ω・`)「ごめんごめん、あんまり表情が豊かだから、見てて気持ちよくてね。
        とりあえず、今日はゆっくり休みなよ」

ノパ听)「うん……、ありがとな、ショボ」

 
219 ◆Cs058I7w36 :2007/12/02(日) 23:27:57.99 ID:9o0CqC+nO
明歴元年、二月四日



ノパ听)「おおっ、夜の内に雪が降ったみたいだな!!!」

ガラガラと戸を開けて外を一瞥し、ヒートはそんなことを言った。
容赦なく飛びこんでくる眩しい朝日に顔を顰めながらも、
彼女の表情はその嬉びの色をあらわにしている。

(´・ω・`)「それなら外出を控えたいね」

ノハ;;)「えー……」
    『遊びたい』

不満げな顔にうっすら涙を浮かべてショボンを見つめる。
彼女はサトリの能力を、単に動物と話せるだけのものだと思っている。
そのため本人は気がついていないのだが、その心中はショボンにだだ漏れだ。

(´・ω・`)「ヒート一人で行く分にはいいと思うよ」

ノハ><)「うー……」
    『一緒がいい』

(´・ω・`)「……やっぱり久々に、僕も遊んでみようかな」

ノハ*゚听)「おおっ、さっすがショボだ!!!!」

(;´・ω・`)「だから僕はショボじゃなくてショボン……って、早々に行っちゃった」

 
221 ◆Cs058I7w36 :2007/12/02(日) 23:29:39.13 ID:9o0CqC+nO
((;´・ω・`))「さささ寒い!」

家から外に出、彼は開口一番にそう述べた。

ノパ听)「よし、私がショボを暖めてやろう!!!」

ノパ听)つ====〇「とりゃっ!!!」

(´>ω<`)「うわっ!」

ヒートが投げた雪玉は、ショボンに当たって弾け散った。

(;´・ω・`)「これじゃあ、余計に寒くなっちゃうよ!」

ノパ听)「ふっふっふ、本当にそう思うか?」

(´・ω・`)「そりゃ当たり前で……」

ノパ听)つ====〇「とりゃっ!!!」

(´>ω<`)「うわっ!」

再びショボンに雪玉がぶつけられた。

 
224 ◆Cs058I7w36 :2007/12/02(日) 23:33:23.20 ID:9o0CqC+nO
(#´・ω・`)「いくらなんでも怒るよ」

そう言いつつ、しゃがみ込んで雪玉を作り始める。

( ´・ω・)つ====〇「たあっ!」

ノハ;゚听)「うおっ!!」

今度はヒートが雪玉を喰らった。

ノパ听)「よし、仕返しの仕返しだぁぁぁ!!!」

(´・ω・`)「負けないぞ!!」

その声を合図に雪玉、さらには笑い声が飛び交い始めた。

ノハ*゚听)「ほらっ、動いたら暖かくなってきたろ!!?」

(*´・ω・`)「そうだねっ!!」

キラキラと日光を反射して輝く雪の飛沫。
そして、それに負けないぐらいに眩しい二人の笑顔。

冬の日の朝の、ちょっとした出来事。

 
225 ◆Cs058I7w36 :2007/12/02(日) 23:35:25.08 ID:9o0CqC+nO
明歴元年、二月十三日。


畳敷きである寝室にて、ショボンとヒートが正座しながら向き合っている。

(´・ω・`)「これでいいかな?」

ショボンはそう言って、茶褐色の液体が入った磨り鉢を差し出す。
ヒートは鉢を受け取ると、真面目な顔をしてその液体に口をつけた。

ノハ--)「ふむ……悪くはない」
    『あああああっ、やっぱり甘草の不思議な甘みは最高!!』

ノパ听)「だがしかーし、まだ心が篭り切っていない!!!
      だからえーと……、あれだ、精進するんだ!!!」
     『やっぱり甘い物はいいな。
      なんだか久々に、あんこが食べたくなってきたぞ』

(´・ω・`)「ふふっ」

ノハ;゚听)「なっ、何故笑う!!?
      自分が作った薬をけなされたんだぞ、笑い所じゃないぞ!!?」

(´・ω・`)「ははは、精進します。
        ……今度、草饅頭でも食べようか」

 
228 ◆Cs058I7w36 :2007/12/02(日) 23:38:12.18 ID:9o0CqC+nO
明歴元年、二月二十七日。



(´・ω・`)「今日は静かだなぁ」

呟きつつ、一人工具の手入れをするショボン。

ヒートとショボンは昨日町へ行き、そこでヒートの父と旧知の仲だった男と出くわした。
そしてその際、本草学に関する本を譲り受けたのだ。
だからヒートは現在、それを使って勉強をしている。

(´・ω・`)「ああ見えて、本の虫だもんなぁ」

「きぃきぃ」
『こんにちは』

と、木組みの窓を器用に開け、一匹のリスが部屋へと入ってきた。

(´・ω・`)「久しぶり、キュート」

「あはは、やっぱりバレちゃった?」

キュートと呼ばれたリスは、人間の女の声でそう言った。
直後、リスを中心に白い煙が立ち込める。
それが晴れた時、

o川*゚ー゚)o「ひさしゅうございます、なんちゃて」

ショボンやヒートとは明らかに異質の服……スカートを身につけた女性が、そこにいた。

 
231 ◆Cs058I7w36 :2007/12/02(日) 23:39:34.09 ID:9o0CqC+nO
(´・ω・`)「女狐も化けるもんだ」

o川*゚ー゚)o「ノンノンノン、私は女狐なんかじゃなく、れでぃーキュートなのです!」

(´・ω・`)「のんのんのん? れでぃー?」

o川*゚ー゚)o「いやー、ちょっと遠出してたら、海の外から来た鳥さんに出会っちゃってね。
       その時に学んだ言葉だよん」

(´・ω・`)「ああ、異国の言語なんだ……。
        それで、ここには何の用? 食べ物目当て?」

o川*゚ー゚)o「なんでそんなこと言うんよ、ひどいなぁ。
       いやね、久々に君に会いたいなって、本当にそれだけ」

(´・ω・`)「好きあらば、油揚げをくすねようとする癖に」

o川;゚ー゚)o「それはそれ、これはこれ、明日は明日の風が吹くってね」

(´・ω・`)「分かったような、よく分からないような」

 
232 ◆Cs058I7w36 :2007/12/02(日) 23:41:21.63 ID:9o0CqC+nO
o川*゚ー゚)o「それにさ、秘密が通じない君に嘘ついても意味ないじゃん」

(´・ω・`)「確かにそれはそう……って、あれ?」

o川*゚ー゚)o「どうしたん?」

(´・ω・`)「そういえば、君の心の声が聞こえないなって思って」

o川*゚ー゚)o「ああ、それは思ったことを素直に言ってるからだと思うよ。
       話し言葉と心の声とやらが同じなら、多分両方が被って聞こえるでしょ?」

(´・ω・`)「ああ、なるほど!」

(´・ω・`)(ヒートの心が時々しか読めないのも、きっとそれが原因かな)

 
235 ◆Cs058I7w36 :2007/12/02(日) 23:42:50.58 ID:9o0CqC+nO
o川*゚ー゚)o「にしても、君も随分とやるようになったもんだね」

そう言って、障子の方を指差す。

o川*-ー-)o「うむむ、若い女の臭いがぷんぷんする」

(;´・ω・`)「どこの助平河童だよ」

o川*゚ー゚)o「助平は助平でも、私は可愛い女の子になれるわけやん。
       だからむしろ、助平も長所になっちゃうのです!」

(´・ω・`)「どこから突っ込めと……。
        というか、相変わらず話し方に整合性がないね」

o川*゚ー゚)o「んー、意識してるつもりはないんやけどね。
       私、他人の影響受けやすい性質だから」

キュートはそう話すと、突然ショボンに抱き付いた。

(;´・ω・`)「えっ、ちょっ、いきなり何を……」

o川*-ー-)o「奥にいる女の子が君のことをどう思ってるか、試してあげる」

(;´・ω・`)「へっ?」

o川*>ー<)o「会いたかったよショボン、また二人で愛に満ちた生活を営んじゃおうね!!」

キュートはショボンに抱き付いたまま、大声を出してそう言った。

 
237 ◆Cs058I7w36 :2007/12/02(日) 23:45:18.77 ID:9o0CqC+nO
ノハ--)「ふむ、土と草とを混ぜ合わせる際に、火や水を用いるか否かの判断は……」

「会いたかったよショボン、また二人で愛に満ちた生活を営んじゃおうね!!」

ノハ;゚听)「ん……?
     女の客人が来ているのか?」

「ちょっ、ちょっと!!」

「ああっ、ショボン、昼間っからそんな大胆なっ!!!」

ノハ//)「なななななな何だこの怪しからん声は!!!!
     むむむ……」

「ショボン、いい、あなた最高!!!」

「落ち着いて、頼むから落ち着いてよ!!!」

「いやん、意地の悪いこと言わないで!!」

ノハ;゚听)「気になって本が読めん。
      仕方ない、直接行って見てくるか」

 
239 ◆Cs058I7w36 :2007/12/02(日) 23:46:55.95 ID:9o0CqC+nO
ノハ;゚听)「ショボ、一体何をやって……」

ガラガラと勢いよく障子を開けるヒート。
その先には、

o川*>ー<)o「きゃーきゃー、助平助平!!!」

(;´・ω・`)「だから落ち着いてって!!」

倒れ込みながら抱き合っている二人の姿があった。
実際にはキュートが一方的にショボンを捕まえて離さないのだが、
ヒートの目からそんなことは分からない。

o川*>ー<)o「あっ、胸に触ったな!!」

(;´・ω・`)「そんなとこ触っていな……んっ?」

ノパ听)「………」

(´・ω・`)「………」

o川*゚ー゚)o「わくわく」

 
240 ◆Cs058I7w36 :2007/12/02(日) 23:49:19.66 ID:9o0CqC+nO
ノハ//)「わわわわわわ私は何も見なかった、何もだ!!!」
    『ショボの変態っ!!』

(;´・ω・`)「ちょっと待ってよヒート、これは誤解だって!!」

ノハ;゚听)「さあて、勉学に励むかっ!!!!」
     『忘れよう、うん』

o川*゚ー゚)o「あらら、戻ってっちゃった」

(´・ω・`)「ショボーン」

o川*゚ー゚)o「しかしまあ、江戸の世には珍しくうぶな子やん。
      ショボン、頑張りなよ」

(´;ω;`)「いや、もう、間違いなく変態視されたって」

o川;゚ー゚)o「あらら、なんか素でへこんじゃってる」

 
242 ◆Cs058I7w36 :2007/12/02(日) 23:53:22.98 ID:9o0CqC+nO
日が暮れ始め、朱の光が空を占める時間帯となった。

o川*゚ー゚)o「それじゃ、そろそろおいとましようかな」

(´・ω・`)「つーん」

o川;゚ー゚)o「いつまでも拗ねないの!」

(´・ω・`)「だってさぁ」

o川*゚ー゚)o「もうっ、男の子なんだから堂々とした態度でいなさい!」

そう言うと、キュートはショボンの耳に口を近づけてこう付け加えた。

o川*^ー゚)o「そうすれば、きっとあの子と相思相愛になれるよ」

(;´・ω・`)「べっ、別にそこまでは望んでいないよ」

o川*゚ー゚)o「どうだか……。
       ま、頑張りなよ。私はまた適当にぶらつくけど、
       今度ここに来た時には、君らに当て付けられることを期待しとくから」

(;´・ω・`)「当て付けるって……」

 
244 ◆Cs058I7w36 :2007/12/03(月) 00:02:40.45 ID:aqpdFX5TO
明歴元年、三月二十日。


ショボンとヒートが共に暮らし始め、はや二月が経過した。
その間、大きないさかいが起きることも無く、積み上げられたのは安穏とした日々。

そんな中、冬の、ある肌寒い昼下がりのこと。

ノハ><)「さぶぃぃぃ!!!」

(´・ω・`)「この分じゃ、今夜辺り雪が降るかもしれないね」

ノパ听)「雪かぁぁ、また一緒に遊ぼうな!!!」

(´・ω・`)「うん!」

二人はいつものような会話をしつつ、それぞれ薬や刀を作る作業に精を出していた。

 
246 ◆Cs058I7w36 :2007/12/03(月) 00:04:18.14 ID:aqpdFX5TO
ノパ听)「後は寝かせておけば完成、っと」

ヒートはそう呟くと、煎じたての薬が入った鉢を床に置き、
すっくと立ち上がった。

ノパ听)「ちょっと出かけてくるな!!!」

(´・ω・`)「どこに行くの?」

ノパ听)「……薬の材料を探しにな!」
    『町に出かけることには感づかれたくない』

(´・ω・`)「そっか、気をつけてね」

ノパ听)「ああ、なるべく早く帰るから!!!」
    『今日はあくまで様子見にしよう』

 
250 ◆Cs058I7w36 :2007/12/03(月) 00:06:05.49 ID:aqpdFX5TO
(´・ω・`)「様子見って、なんのさ……」

誰もいなくなった家の中、ショボンは一人呟いた。

(´・ω・`)「心の声、か。
        ま、誰にだって隠し事ぐらいあるよね」

一人納得したショボンは、再び刀作りに没頭し始める。

カンカンカン、鉄を打つ音と、
ぱちぱちと囲炉裏で火が弾ける音のみが、その場に鳴り響いていた。

 
251 ◆Cs058I7w36 :2007/12/03(月) 00:07:50.85 ID:aqpdFX5TO
明歴元年、三月二十七日。


ノパ听)「ショボ、今日も出かけてくるな」
    『こっそりお金を持った、そのことには気付かれていないようだな』

彼女が単独で町に出るのは、これで八日連続。
ショボンそのことについて訝り始めていた。

(´・ω・`)「……ねえ、ヒート」

ノパ听)「どうした?」

(´・ω・`)「もしかして、何か隠し事とかしてないよね?」

ノハ;゚听)「わわわ私がそんなことする性格に思えるか!!?」
     『もしかして気付かれたのか?
      そしたらこの計画の意味は、半減してしまう』

(´・ω・`)「……いや、何でもないよ。
        気をつけていってらっしゃい」

ノパ听)「ああ、いってきます!!!」

 
253 ◆Cs058I7w36 :2007/12/03(月) 00:09:22.65 ID:aqpdFX5TO
(´・ω・`)「ヒート、信じていたのに」

ショボンはその人格に大きな欠点を持っていた。
彼はサトリの能力柄、重度の人間不信だったのである。

とはいえ、常に本音を語るヒートと触れ合うことで、
その欠点は少しずつ解消されようとしていた。

だが……。

(´・ω・`)「ヒートはお金を持ってここから出ていった。
        きっと僕に嫌気がさして、それで逃げることにしたんだ」

反動。

ショボンは一度ヒートに多大な信頼を寄せた分、
それが揺らいだ現在、彼女に極端な疑念を抱いてしまっていた。

(´・ω・`)「本当、信じていたのに」

もはや今の彼は、誰かを信じるという行為を放棄している。
突飛な行動のようではあるが、彼にはそうする以外の考えが浮かばなかったのだ。

 
256 ◆Cs058I7w36 :2007/12/03(月) 00:10:47.92 ID:aqpdFX5TO
(´・ω・`)「そういえば、彼女が作った脇差しがあったな」

呟きつつ、完成した刀をまとめて置いてある場所へと近付く。
ショボンその中から、取り分け不格好な小刀を取り出した。
ものは試しとショボンに見守られながら、ヒートがその手で作った物である。

(´・ω・`)「ヒート、いつの間にか僕は君のことを……だからこそ、耐えられないんだ」

(´―ω―`)「信じてやれなくて、ごめん。
        真実を知ることから逃げて……ごめん」

誰も信じられないことに対する絶望を肥料とし、
この部屋に赤黒い花が咲いたのは、数瞬後のことだった。

 
258 ◆Cs058I7w36 :2007/12/03(月) 00:12:35.86 ID:aqpdFX5TO
ノパ听)「ショボ、喜んでくれるかなぁぁぁ!!?」

軽快な足取りでショボンの家へと向かうヒート。
その手には、一足の鞋が握られている。

ノパ听)「ショボの鞋は傷んでいたからな、きっとこれが一番だろう」

ショボンの予想とは裏腹に、ヒートが頻繁に町へと繰り出していたのは、
彼女がショボンへの恩返しとして贈る品物を探すためだったのだ。

ノパ听)「喜んでくれたら、こっそり薬を売ってお金を貯めた甲斐があったってもんだ!!!」

と、ショボンの家が彼女の視界へと入ってきた。
彼が驚きながらも喜ぶ様を想像し、計らずも口元を緩ませる。

自然と歩調も早まった。

 
260 ◆Cs058I7w36 :2007/12/03(月) 00:14:04.31 ID:aqpdFX5TO
ノパ听)「あれっ!!?」

引き戸の前で、ぴたりと足を止める。

ノパ听)「鉄を打つ音が聞こえないな。
     ……休憩してるのか?」

不審に思いながらも、すぐに表情を元に戻す。
そして口の両端に指を当て、軽く口角を吊り上げた。

ノパー゚)「笑顔、笑顔っと」

そうして、勢いよく戸を引いた。

 
264 ◆Cs058I7w36 :2007/12/03(月) 00:15:51.71 ID:aqpdFX5TO
ノパ听)「ただい…ま……?」

(´―ω―`)「………」

ノパ听)「えっ、ショボ……?」

血まみれで床に倒れ込んでいるショボン。
ヒートはよろよろと彼に近付いていく。

ノハ;゚听)「嘘だろ、嘘だろショボ!!!」

脈動を確かめようと、ヒートは彼の手首に手を当てた。

ノハ;゚听)「大分弱まって……早く止血しないと!!!!」

そう叫び、応急処置にと手近なてぬぐいで傷口を縛りつける。

ノハ;゚听)「駄目だ、こんなんじゃ血が止まらない」

ヒートは何か適当な薬がないものかと、必死に辺りを探し周り始めた。
しかし彼女が目当てとする種の薬は、一向に見つかる気配を見せない。

ノパ听)「あっ、お金にするために売っちゃったから……」

ノハ;;)「うっ、ああっ、どうしよう……」

ヒートは床に手を付き、ボロボロと涙を流し始めた。

 
265 ◆Cs058I7w36 :2007/12/03(月) 00:17:49.42 ID:aqpdFX5TO
ノハ;;)「嫌だ、ショボまで失いたくない!!!!」

頭を掻きむしり、床に拳を叩きつける。
手に痣ができたが、そんなことなど気にも止めない。

ノハ;;)「どうして、本当にどうして!!?」

「彼は、可哀相な人なんです」

不意にヒートの背後から声がした。

ノハ;;)「っ!!?」

彼女が振り向いた先にいたのは、

*(‘‘)*「お久しぶりです」

ノハ;;)「ヘリカル……」

 
269 ◆Cs058I7w36 :2007/12/03(月) 00:19:33.28 ID:aqpdFX5TO
ノハ;;)「ヘリカル、私はどうすればいいんだろう。
     ショボを救うためには一体……」

*(‘‘)*「あなたは一人前の医者を目指し、日々頑張ってきた筈です。
      ならば今やるべきことは一つでしょう?」

ノハ;;)「えっ?」

*(‘‘)*「ほんの少し、手助けします」

そう言ってヒートの着物の帯に手を添える。
直後、帯の隙間から光り輝く物体が浮かび上がった。

それは、以前ヘリカルがヒートに贈ったお守りだった。

 
270 ◆Cs058I7w36 :2007/12/03(月) 00:21:06.13 ID:aqpdFX5TO
*(‘‘)*「願いとは、そしてそれを叶える奇跡とは、きっと日常の延長にあるものです。
      それが起こせるかどうかは、あなた自身が一番よく知っているでしょう」

ノハ;;)「奇跡……」

お守りが独りでにヒートの手の上に乗った。
そしてその中から、黄金色の粉が溢れ出してくる。
それは霊木を用いて作られた特別な薬だった。

*(‘‘)*「守れますよね、大切な人を」

ノハ )「……一番大切な人も救えなかったら、何が見習い医者だって話だよな」

ノパー゚)「ありがとう、私、頑張るよ」

 
273 ◆Cs058I7w36 :2007/12/03(月) 00:22:30.15 ID:aqpdFX5TO
ノパ听)「まずはこれを火に焼べて……」

基本に忠実に、できる限り冷静に。
今まで積み重ねてきた鍛練を足場に、ショボンを救うという願いへと手を伸ばす。

ノパ听)「奇跡は起きる、起きなくても起こす」

いつになく真剣な表情で、ヒートはそう呟いた。

ノパ听)「よし、後はこれで……」

有り合わせの材料で作った薬と、お守りに入っていた薬とを混ぜ合わせる。

ノパ听)「ショボン、待っていてくれよ!!!!」

 
274 ◆Cs058I7w36 :2007/12/03(月) 00:24:04.63 ID:aqpdFX5TO
ちゅんちゅん。

スズメの鳴き声。

差し込んでくる、暖かな朝の陽光。

(´つω―`)「んんっ」

目元を擦りながら、ショボンがもぞりと動いた。

(´・ω・`)「あれっ、僕は死んだはずじゃ……」

「気がつきましたか?」

(´・ω・`)「君は?」

*(‘‘)*「どうも、ヘリカルといいます」

そう言って微笑んでみせるヘリカル。
ショボンは彼女に軽く笑い返すと、
血に塗れた自分の服と、泥のように眠っているヒートとを見比べた。

(´・ω・`)「……教えてくれないかな、昨夜何が起こったのかを」

 
277 ◆Cs058I7w36 :2007/12/03(月) 00:25:33.40 ID:aqpdFX5TO
(´・ω・`)「そうか、ヒートが……」

ヒートが自分を治療したこと、
また、自分のために鞋を買いに行っていたことを聞いたショボンは、
とてつもない罪悪感に苛まれた。

(´・ω・`)「僕はなんということを……」

*(‘‘)*「ある所に、一柱の神がいました」

突然、そう語り出すヘリカル。

*(‘‘)*「神は自分を慕ってくれる人間が大好きで、
      彼等が願うそばからその望みを叶えてきました。
      彼女はそれが彼等のためになると考えていたのです……そんな筈ないのに」

(´・ω・`)「………」

*(‘‘)*「神に願いを叶えられた人間は、いつしかそれに頼り切るようになってしまいました。
      そんな人間に嫌気がさした神……私は、彼等の願いを叶えることを止めたのです」

 
278 ◆Cs058I7w36 :2007/12/03(月) 00:27:37.27 ID:aqpdFX5TO
*(‘‘)*「するとすぐに神社は荒れ果て、そこで私は、私を慕っているように見えた人間が、
      実は下心のみで自分に近付いて来ていたことに気がつきました。
      そうして人間に嫌気がさしてから月日が流れたある日、私はヒートに出会います」

(´・ω・`)「ヒートに……」

*(‘‘)*「彼女は、真っ直ぐな人でした。
      いつの間にか私は、再び人を信じてみたくなりました。
      そして今、信じてよかったと、心から思っています」

(´・ω・`)「ヒートは純粋だからね。
        なのに、僕は信じてやれなかった」

*(‘‘)*「大切なのはこれからどうするかです。
      彼女はきっと笑ってあなたを許してくれますよ」

(´・ω・`)「そうだね、ヒートならそうするだろう。でも……」

そこで言葉を区切り、目をつぶる。

(´―ω―`)「……言伝を頼めるかな」

 
280 ◆Cs058I7w36 :2007/12/03(月) 00:28:57.66 ID:aqpdFX5TO
ノハつ-)「ううっ……」

ノハ;゚听)「そうだっ、ショボンはどうなった!!?」

勢いよく起き上がり、辺りを見渡す。
しかし部屋内にいたのは、ヘリカルのみだった。

*(‘‘)*「彼ならここから出ていってしまいました」

ノハ;゚听)「どういうことだ!!?」

*(‘‘)*「……あなたへと預かった言葉があります」

 
282 ◆Cs058I7w36 :2007/12/03(月) 00:30:55.87 ID:aqpdFX5TO
ヒート、馬鹿なことをしてごめん。
白状するよ、僕は君が自分から黙って離れていくんじゃないかと疑って、あんなことをしたんだ。

謝ることはもう一つある。

君は僕の能力を、動物と話せることだと思っていたよね。
でもそれは間違いで、僕の本当の能力は、誰かの心の表装を知れること。
動物と話せていたのも、彼等の心を読めたからなんだ。
君の心の中を見てしまったことも、何度かあった。

大事なことを隠して、それなのに君を疑ったりして、本当にごめん。

僕は旅に出る。
いつか君の眩しさを受け止められるような人間になれたら、その時ここに戻ってくるよ。
だから……虫のいい話だけど、よかったら、待っていて欲しい。

そうそう、君から貰った鞋、凄く履き心地がいいんだ。
本当に、ありがとう。

それじゃあ最後に一言だけ、




*(‘‘)*「大好きだよ、ヒート」

ノパー゚)「私も、ショボのこと大好きだ」

 
285 ◆Cs058I7w36 :2007/12/03(月) 00:37:48.41 ID:aqpdFX5TO
*(‘‘)*「ねえ、ヒート」

ノパ听)「何だ?」

*(‘‘)*「何か願いごとはありませんか?
      もしも一つだけどんな願いでも叶うとしたら、あなたは……」

ノハ--)「願いごと、ねぇ」

目を閉じ、考え込むヒート。
ややあって彼女は、笑顔を浮かべながら口を開いた。

ノパー゚)「あったぞ、私の願いごと」

*(‘‘)*「お聞きしてもいいですか?」

ノパ听)「ああ、私の願いは―――」

 
286 ◆Cs058I7w36 :2007/12/03(月) 00:39:30.11 ID:aqpdFX5TO
寂れた街道を、一人の男が歩いている。


時折吹き付ける北風に身を縮めながらも、ゆっくり前へ前へと。


びゅううっ


不意に暖かな追い風が、男の背中に吹き付けた。


それを受けた男は、空を見上げてこう一言。



「聞こえたよ、君の声」



彼が履いている鞋は、やけに真新しかった。



〜FIN〜


 

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