( ^ω^)ブーンが別れを告げるようです
1 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 22:01:55.62 ID:OXVB4iNR0
- 「願いは叶う」を全員共通のお題に据え、
更にはグループ毎に貰ったお題で書かれる短編の集合である今合作。
今日のグループお題は「もう一度言って」
しかし今日投下するのは俺だけ!残念!!
まとめサイト
http://boooonbouquet.web.fc2.com/desire/mokuji.html
http://boonneet.web.fc2.com/gassaku.htm
http://hoku6363.sakura.ne.jp/sinjin-gasaku.html
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2 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 22:04:09.68 ID:OXVB4iNR0
──3年前、僕は天才だった。
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4 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 22:04:44.21 ID:OXVB4iNR0
( ^ω^)ブーンが別れを告げるようです
-
6 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 22:06:03.96 ID:OXVB4iNR0
僕は勉強が出来た。
小学校のテストはほとんど勉強しなくても100点。
中学校に入っても、勉強していればそれは変わる事がなかった。
現代文は逆接と転換の接続詞の後に気を付けて読めばいい。
古文は簡単な重要単語や順接確定条件を見抜けばいい。
英語は速く読めばいい。
社会はただ覚えればいい。全てを覚えればいい。
理科も同じだ。簡単な公式、簡単な基礎事項、簡単な図。それだけ知ればいい。
ただ唯一、数学だけは苦手だった。
でもそれはあくまで自分のレベルでの話。
平均的な中学生にとってそれは、十分に得意と言ってもよいレベルだった。
-
8 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 22:07:00.02 ID:OXVB4iNR0
驕りでもなんでもない。
勉強すればそれだけ勉強が出来るようになる。
必ず結果がついて来る。
そう、僕は天才だった。
だから、僕はそこを目指した。頂きを。
何にも比肩される事のない、絶対的な高さを。
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9 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 22:08:14.63 ID:OXVB4iNR0
国立、VIP高校。
東大に毎年100人以上輩出している、東大進学率50%超の進学校。
全国一と言って差し支えのないそこを、僕は目指した。
( ^ω^) (…弁護士になりたいお)
それが自分の夢であり、目標であり、願いであった。
自分の終着点のために最も平坦で楽な道を選びたいのは至極当然な行動原理であり、
そこで僕は、弁護士になりたいという終点から逆算していった。
弁護士になるには東大のロースクールに行くのが一番良い。
東大のロースクールに行くには東大に行くのが一番良い。
東大に行くにはVIP高校に行くのが一番良い。
だから、VIP高校を目指した。
そこから先の道が最も近道だから。
そして、その道を往くための努力もしてきたつもりだ。
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10 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 22:09:15.99 ID:OXVB4iNR0
願いを必ず叶えるため、僕はずっとやってきた。
この1年、ずっと勉強だけをしてきた。
私立だから通えないものの、試しに受けた早稲田や慶応の付属にも受かっていた。
合格通知はあっけないもので、電話で機械的な音声が合格を告げただけだった。
そんな事はどうでも良かった。
通えない以上は意味がない。
ラウンジ高にも特待生扱いで受かっていたが、VIP高でなければ意味がない。
全ては今日のため。VIP高の試験のためにやってきたつもりなのだから。
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12 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 22:11:40.04 ID:OXVB4iNR0
試験日となる今日の空は生憎の雨だった。
2月の雨ともなればその冷たさで皮膚の表面から千切れていきそうになる。
恵みの雨とはよく言ったもので、それも時期によりにけりだと思う。
コートを着てマフラーを巻いて手袋をして傘をさしていてもなお、
その雨は容赦なく自分に向かって降り注ぐ。
手がかじかみ、震える。
それが寒さによるものなのかどうかは、自分には分からなかった。
ただ、外とは裏腹に自分の心は晴れ渡っていた。
辛かった勉強の日々が、今日で報われるから。
それを思うだけで、自然と手の震えも収まる。
気持ちと裏腹に頭だけが冴え、落ち着いていく。
( ^ω^) (絶対に合格するお!)
そう心に念じ、席に着く。
程なくして、試験開始を告げるベルが響き渡った。
-
13 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 22:12:45.98 ID:OXVB4iNR0
長かった試験の終わりを告げるベルが鳴る。
国語はいつも通り出来た。
英語もまずまず。理科と社会が良く出来た。
数学が一番出来なかったが…元々苦手だったし、あんなものだろう。
( ^ω^) (…今日はとにかく、疲れたお)
そう、疲れた。
これが最後の試験だからだろうか。
第一志望の高校の試験だからだろうか。
それとも、VIP高の試験だからだろうか。
ただ、とにかく疲れた。
考えが何もまとまらない。
自分が今どこにいるかも分からない。
-
15 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 22:14:36.79 ID:OXVB4iNR0
いつの間にか僕は自分の家にいて、
カーチャンと二言三言交わした後に、布団に倒れこんだ。
雨の音と共に、自分の視界も思考も真っ暗になっていくのをおぼろげながらに知った。
( -ω-) (………)
その日は久しぶりによく眠れた。
試験が終わった安堵感だろうか。
今までの疲れを癒すかのように、僕は眠り続けた。
-
17 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 22:16:40.43 ID:OXVB4iNR0
翌日。
昨日こそVIP高の試験で休んだものの、中学校はまだ卒業式を迎えていない。
授業こそもう無くなっていたが、
試験という名目さえ無ければ学校を欠席することは許されていなかった。
そしてVIP高を受けるような生徒は自分の他にほとんどおらず、
登校した僕はちょっとしたヒーロー扱いだった。
从 ゚∀从「ブーン、VIP高はどうだったよ」
( ^ω^) 「受かるかどうかは分からないけど…受かる自信はあるお!」
( ´∀`) 「凄いなぁ」
从 ゚∀从「さすがだな、よっ天才!」
( ^ω^) 「まだ分からないけど、ありがとうだお!」
-
19 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 22:18:23.32 ID:OXVB4iNR0
分からないと口では言うものの、確信はあった。
確かに数学こそあまり出来なかったが、他の科目はいつも通りの出来だった。
いや、そもそも数学が苦手である以上、あまり出来ないのもいつも通りといっていい。
全ていつも通りならば、受かる。
何より、この1年ずっと勉強してきたつもりだ。
そんな事を頭の中で確認しながら皆と話していると、大柄で見慣れた顔が教室に入ってきた。
( ^Д^) 「うぃーす。ブーンいるかー?」
( ^ω^) 「プギャーおいすー。昨日はどうだったお?」
( ^Д^) 「んー、受かるんじゃね?そーいうお前こそどーよ?」
( ^ω^) 「とりあえずの自信はあるお」
-
21 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 22:19:58.81 ID:OXVB4iNR0
プギャー。
自分と同様に勉強の出来る友人だ。
少々乱暴なところはあるものの、よく期末試験の合計点や模試で競ったりした間柄だ。
最初こそクラスが違うゆえに微妙な仲だったが、VIP高を受けるのが自分の他にプギャーしかいないと分かってからは、
自然と話すようになっていった。
( ^Д^) 「まーVIP高行ってもよろしく頼むぜ」
( ^ω^) 「それはこっちこそだお」
そんな事を話しているうちに、始業のチャイムが鳴った。
( ^Д^) 「おっともう時間か。じゃーなブーン」
慌ててプギャーは自分のクラスへと戻っていった。
( ^ω^) (…VIP高の合格発表は10日後。卒業式はその翌日。
不思議なものだお)
-
24 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 22:21:20.38 ID:OXVB4iNR0
合格発表の翌日に卒業式。
なんだかよく分からないが、運命的な何かを感じた。
進学先が決まった後に中学校から卒業する。
少し面白いものだと思う。
それからは特に何をするでもなく、合格発表までのんびりと過ごした。
中学校に行き、友人と雑談をして帰ってきたら遊んで寝る。
ここまで1年ばかり、ずっと道を走りつづけてきたのだ。少しくらい休ませてほしい。
次は必ずあるのだから、それまでは足を止めても良いだろう?
誰に聞くでもなく、誰の許しを得るでもなく、僕はそうした。
-
27 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 22:23:09.84 ID:OXVB4iNR0
そしていよいよ、合格発表の日となった。
今まではどこも電話での通知だったが、VIP高だけは掲示板に見に行かなくてはならない。
偶然にも試験日同様、またも空は雨だったが構わなかった。
寒さ冷たさも興奮しているからか全く気にならなかった。
( ^ω^) (早く自分の番号を確認したいお!)
今の自分を突き動かすのはその衝動だった。
鼓動が高まり、落ち着かなくなる。
早く自分の番号を見て、この昂ぶりを抑えたい。
自然と早足になっていった。
-
29 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 22:24:12.01 ID:OXVB4iNR0
試験を受けたときと全く変わらぬ佇まい。
レンガ色の落ち着いた校舎。
変わるぬそれが、眼前にあった。
( ^ω^) (掲示板掲示板…)
掲示板を探す。
人影があまり見当たらない。
それだけ早く来てしまったのだろうか。
掲示板らしきものが目に入る。
白く大きな紙にでかでかと数字が羅列されている。
あれに違いない。
勢いよく地を蹴った。
-
30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
:2007/12/03(月) 22:24:46.68 ID:JIqonpjQO
- 支援するよ
-
31 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 22:25:27.11 ID:OXVB4iNR0
やっぱりそうだ。これが掲示板。
( ;^ω^) (凄い大きいお…)
目の当たりにすると、その大きさに圧倒される。
ここに自分の受験番号が書かれている。
そうに違いない。
急いで自分の番号と思しき場所を探す。
-
32 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 22:26:20.80 ID:OXVB4iNR0
…違いない。
確かに数学こそあまり出来なかったが、他の科目はいつも通りの出来だった。
いや、そもそも数学が苦手である以上、あまり出来ないのもいつも通りといっていい。
だから、自分は受かっているに違いない。
違いないんだ。
だって、いつも通りに出来たじゃないか。
願いを叶えるため、僕はずっとやってきた。
この1年、そのためだけに過ごしてきたのに。
それなのにどうして、自分の番号が無い?
どうして無い?
どうして、無い?
ドウシテ、ナイ?
( ω)(………………)
-
36 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 22:28:04.10 ID:OXVB4iNR0
何回も見た。
自分の受験番号に近いところだけでなく、掲示板を端から端まで見直した。
人目なんて気にしてられなかった。こっちはその目を借りたいくらいだ。
何回も何回も見直した。
本棚から自分の探している本を探す作業に等しいことを、何べんも繰り返した。
それでも、自分の見慣れた数字が見つからなかった。
呼吸が苦しくなる。
顔から血が引いていくのが自分でも分かる。
周りの景色が色を失っていく。
たかだか数字が見つからないだけで、世界はこんなにも一変するのか。
僕は、VIP高に、落ちた。
VIP高に、いらない生徒だと、通告された。
掲示板に自分の受験番号が無いその意味を理解した瞬間、雨が強さを増した。
氷のような冷たさを持ったそれが、心の奥底にまで容赦なく降り注いだ。
-
38 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 22:29:20.30 ID:OXVB4iNR0
-
今の僕は、どんな顔をしているのだろうか?
こういう時は泣くものなのだろうが不思議と涙は出なかった。なぜだろう?
はっきりしない足取りのまま、ぼんやりとそんな事を考える。
多分、家に向かっている途中なのだろう。
それすらもはっきりしない。
傘をさしているのかすら分からない。
VIP高のためだけに頑張ってきたのに、そのVIP高に入れなかった。
じゃあ僕の頑張りは、一体なんだったんだ?
そんな押し問答がグルグルと頭の中で小さな渦を描き始め、
いつしか大きな竜巻となってきた頃、ようやく家に着いた。
( ω)「ただいまだお…」
J( 'ー`)し 「おかえり……お疲れ様」
少しの間の後、カーチャンはそう労ってくれた。
僕の顔を見て察してくれたのだろう。
有難かった。
-
41 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 22:30:18.26 ID:OXVB4iNR0
自分の部屋を見渡す。
どうしても目に入る…勉強机。
この1年、どこよりも長く時間を過ごしてきた一角。
全てはVIP高のためだった。
VIP高。
それが自分の願いだった。
そこに入るための勉強はしてきたつもりだった。
頑張りさえすれば、願いは必ず叶うはずだった。
…ああ、そうか。
-
42 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 22:31:54.49 ID:OXVB4iNR0
-
僕は誰が証明した訳でもない、独り善がりの仮定と結論を頼みに勉強していたのか。
頑張れば願いは必ず叶うのだ、と。
頑張れば願いが必ず叶うなら、受験なんて戦いが起こりえるはずないじゃないか。
こんな簡単な事を見落としていたのか。
そしてその、努力さえも。
僕は勉強してきたつもりだった。
つもりじゃ、本当に勉強してきた奴らになど勝てやしない。
誰かに胸を張って言えない努力など、高が知れている。
まして僕は誰に言うでもなく、自分にさえ「つもり」だったのだ。
その結果がこれだ。
努力したつもりの勉強で。
勝手な思い込みで。
その思い込みで適当に頑張るようになって。
…苦手な数学にも、普通の人に比べれば十分だと目を瞑り続けて。
( ω)(…ブーンは一体、何をしていたんだお?)
今までの道を否定されることで、ようやくその道の間違いに気が付いた。
遅すぎる。そして、あまりにも下らな過ぎる。
-
44 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 22:33:20.81 ID:OXVB4iNR0
今更、悔いても遅い。受験は終わった。
僕はもう、二度とVIP高に入れない。
何をしてもどんなに足掻いても、絶対に、入れない。
VIP高に落ちたのだから、僕はラウンジ高に行かなくてはならない。
掲示板を見ていたときの興奮が収まり冷静になった今、それが奥底から溢れて来た。
( ;ω;)「ああああぁぁぁああぁあぁっっっ!!!」
VIP高に入れなかった事だけでない。
この1年の辛さが、そしてそれが過ちだったという事実が、感情を堰き止める術を失った。
僕はこみ上げて来るものを声と涙に変え、外に出し続けた。
雨が一層、強さを増した。
-
46 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 22:34:58.38 ID:OXVB4iNR0
いつの間にか外から、憎らしいほど清々しい朝の日差しが飛び込んできた。
泣き疲れて眠っていたらしい。
時計の針がもう学校へ行くべきだと告げているのにも関らず、それに従う気になれない。
何をするでもなくぼんやりとしていたところに、部屋の扉が開いた。
J( 'ー`)し「ブーン、もう起きないと…あら、起きてたのね。おはよう」
( ω)「カーチャン、今日は学校休むお」
J( 'ー`)し「何言ってんのよ。あんた今日は卒業式でしょ。
今日で最後なんだから、行きなさい」
( ω)「でも…」
J( 'ー`)し「カーチャンも後で行くから。ほら、ご飯出来てるわよ。急ぎなさい」
そう言ってさっさと戻っていく。僕に発言権は無いらしい。
このまま部屋に篭っていても、どうせすぐにカーチャンからの雷が落ちるだろう。
僕は諦めて立ち上がる。
その時になって初めて、自分に毛布やら布団やらがかかっていた事に気が付いた。
-
48 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 22:35:45.28 ID:OXVB4iNR0
( ω)(カーチャン……)
ごめん、ありがとう。
1人きりの部屋でそう呟いて、僕は学校に行く準備を始めた。
-
51 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 22:38:05.99 ID:OXVB4iNR0
思いっきり泣いたから、目がひどい事になっていた。
卒業式に相応しい晴れ晴れとした天気にも関らず、僕の心の雨はまだ止んでいなかった。
それでも皆に迷惑をかけないよう、僕は努めていつも通りの顔で行く事にした。
勢いよく教室のドアを開く。
( ^ω^) 「おいすーだお」
( ´∀`) 「や、やあブーン」
( ^ω^) 「いやー、VIP高落ちちゃったお!まーしょうがないお!おっおっおー」
从 ;゚∀从「そ、そっか。残念だったな」
( ;´∀`) 「そ、そうだね。残念だったよね」
動揺が手にとるように分かる。
やめてくれ。
見え透いた同情をかけないでくれ。
そんな腫れ物を扱うような態度、出さないでくれ。
予想こそついてはいた事だったが、耐え難い。
その哀れむような視線が。通り一遍の薄い言葉が。慰めようとする対応が。
ギラギラ光る剃刀となって僕を切り刻む。
それでも、明るく振舞いながら卒業式が行われる体育館へと向かった。
-
52 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 22:39:19.70 ID:OXVB4iNR0
( ^ω^) (今日で、ここともお別れだお)
3年間といえば約1100日もある。
その1日1日全てに大した思い出があるわけではない。
きっと、その内の50日分程度しか思い出となっていないだろう。
それなのに積み重なって1100にもなると、1100としての思い出になるから不思議だ。
3年間色々あったが、やっぱり最大の思い出は最後の…
それを思うと、どうしても気が沈む。
最後の卒業生一同での歌すら歌えず、僕の卒業式は幕を閉じた。
-
54 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 22:40:42.34 ID:OXVB4iNR0
帰り道。
誰かと写真を撮ったり話したりする気にもなれず、僕は早々に中学校を後にした。
そんな僕に声をかけてくる奴がいた。
( ^Д^) 「おーい、ブーン」
( ^ω^) 「おっ、プギャー」
( ^Д^) 「お前、VIP高はどーだったよ?」
そうか。
プギャーは僕が落ちた事を知らないのか。
( ^ω^)「いやそれが、ダメだったお。プギャーはどうだったお?」
( ^Д^) 「あれ、お前落ちたのかよ。俺は受かったぜ」
おめでとう、と口を開きかけた瞬間、プギャーが続ける。
-
57 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 22:42:15.79 ID:OXVB4iNR0
-
( ^Д^) 「俺が受かってお前が落ちたのか、こいつは傑作だぜ!!」
( ^Д^)9m 「マジ笑えるわwwwwwwプギャーwwwwwwwww」
( ゚ω゚)(……え?)
( ^Д^) 「あ、俺それだけ確認したかっただけだからwwwwwじゃーなwwwwww」
呆気にとられる僕を尻目に、さっさとプギャーは戻っていった。
プギャーの今のは、本音?
今すぐに走って追いついて、殴り飛ばしてやりたい。それが許されないのならせめて言い返してやりたい。
でも僕にそんな事をする資格はない。
僕は落ち、プギャーは受かった。
だから僕は何も、プギャーにやり返せない。
何も出来ない。
-
58 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 22:43:14.25 ID:OXVB4iNR0
拳を握りしめ、空を仰ぎ見ながら家に着いた。
( ;ω;)「 畜生、畜生、畜生!!」
何も出来なかった。何も言い返せなかった。
悔しいけど、それが事実だったから。嘘偽りのない事実だったから。
何も、何も出来ない。
僕はあいつに、何もやり返せない。
-
61 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 22:44:22.06 ID:OXVB4iNR0
…いや、違う。
僕にも出来る事がある。
東大に入ればいい。
そうだ。VIP高はゴールじゃない。
自分が東大に入って、プギャーを見返せばいい。
やり直そう。
もうVIP高に別れを告げ、やり直そう。全てを。
VIP高には入れなかったけど、東大に入るチャンスはまだ残ってるのだから。
道は険しくなったけど、まだ間に合うのだから。
( ω)(今度は絶対…)
( ^ω^) (絶対に、失敗しないお!)
-
63 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 22:45:06.86 ID:OXVB4iNR0
そう心に思うだけで、やる気が湧いてくる。
ラウンジ高でもVIP高でも構わない。
結局は自分がやるかどうかじゃないか。
3年間あれば、絶対に大丈夫だ。
涙を拭う。ぼやけていた視界がはっきりする。
ラウンジ高に行くことが、少し楽しみになった。
-
67 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 22:46:35.33 ID:OXVB4iNR0
4月。私立ラウンジ高。
どこにでもありそうな「なんちゃって進学校」である。
東大への進学を声高に主張しているものの、東大に受かっているのは毎年3名にも満たない。
一学年に300名前後いる事を考えれば、これは驚異的な数字であろう。…もちろん、別の意味で。
当然ながら、他の有名大学の合格人数も…である。
( ^ω^) (でも、東大進学を第一に持ってきてくれているのは助かるお)
県立の高校ではそういった環境はまず用意されていない。
その意味で、ここに特待扱いで合格できたのは運が良かった。
特待で安く上がらなければ、自分はまず入学できなかっただろう。
環境が整ってれば、後は自分次第だ。
桜舞い散る中にまだ新しさのうかがえる校門をくぐりながら、そう考えた。
-
68 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 22:47:53.01 ID:OXVB4iNR0
入学式もそこそこ、自己紹介もそこそこに、早速2者面談があるらしい。
さすがに東大進学を掲げるだけあって、受験方面に関した話題が中心のようだ。
2者面談が始まって自分の番が来る頃には、すっかりお昼時が過ぎてしまっていた。
空腹をこらえて教室のドアの2度ノックする。
「いいぞ、入れ」
中から先ほどの担任の声がした。
-
69 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 22:48:50.79 ID:OXVB4iNR0
(,,゚Д゚) 「よっし、2者面談を始めるぞ」
( ^ω^) 「お願いしますお」
担任のギコ先生。
担当教科は数学。
最初の自己紹介を聞いた限りでは、さばさばしていて話しやすそうな先生だった。
(,,゚Д゚) 「さて、ブーンに聞きたいんだが…
入試の成績見る限りじゃ、かなり出来るな」
そう言って手元にある紙にギコ先生が目を落とす。
おそらくは入試の成績や内申書なんかの資料だろう。
( ^ω^) 「ありがとうございますお」
(,,゚Д゚) 「まあそれで、だ。
行きたい大学、ってあるか?」
( ^ω^) 「自分は、東大に行きたいですお」
かすかだが、ギコ先生の目の色が変わる。
-
73 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 22:49:43.99 ID:OXVB4iNR0
(,,゚Д゚) 「ほう、そりゃなんでだ?」
( ^ω^) 「自分は弁護士になりたいんですお。
そのためにはやっぱり、東大の法学部に行くのが一番の近道だと思ったからですお」
(,,゚Д゚) 「なるほどな。じゃあお前は文科一類志望ってわけだ」
( ^ω^) 「ブンカイチルイ?」
初めて耳にする単語に、思わず聞き返した。
なんだ知らないのか、という顔でギコ先生が説明を始める。
-
76 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 22:51:23.68 ID:OXVB4iNR0
-
(,,゚Д゚) 「東大ってのは、最初は皆教養学部に所属するんだ。
そして入学してから2年後、各自で行きたい学部を選択する。
これがいわゆる進学振り分けってやつなんだが…
その進学振り分け、進振りにも枠があってな。
どの学部に行きやすい枠、行きにくい枠っていう制限があるんだ。
その枠が、さっき言った科類」
(,,゚Д゚) 「文系が文一、文二、文三、理系が理一、理二、理三と6つの枠がある。
で、お前が法学部に行きたいなら…文科一類、文一が一番ベストってわけだ。
法学部にはほとんどがこの文一から進学するからな。
まあその分、文二文三よか、入試の合格最低点が20点くらい高くなっちまってるが」
( ;^ω^) 「20点も違うんですかお。
他の科類から法学部には行けないんですかお?」
20点という想像以上の差に、思わず聞き返す。
-
78 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 22:52:23.24 ID:OXVB4iNR0
-
(,,゚Д゚) 「行けなくはないな。文三なんかにも多少の枠はあるし。
ただ…辞めとけ。
当然っちゃあ当然だが、進振りは成績順に決まる。
文三から法学部に行けるだけの成績を取ろうとするなら、文一入った方が楽だ。
たとえ、20点の差があってもな」
( ^ω^) 「…分かりましたお」
それで、だ。とギコ先生が続ける。
(,,゚Д゚) 「この時期に志望大学が決まってるってのは、凄い有利な事だぞ。
今のうちから大学を見据えて、しっかり勉強できる事につながるからな。
入試の成績見ても、数学がちょっと弱いくらいで他も申し分無い。
今からしっかりやっておけば、大丈夫だぞ」
( ^ω^) 「大丈夫って、何がですかお?」
(,,゚Д゚) 「そりゃお前、文一に行けるって事だ」
一瞬、その意味を分かりかねて思考が止まった。
淀みなく続いていた二人の会話に、一瞬の間が出来る。
それでもすぐ、ハッとして反論する。
-
82 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 22:55:09.13 ID:OXVB4iNR0
-
( ;^ω^)「でも、言葉は嬉しいですけど、そんな保証どこにも無いですお!!
現に自分は、VIP高にも落ちたくらいで」
(,,゚Д゚) 「何だお前、VIP高受けてたのか」
( ;^ω^) 「え、あ、はあ」
思わず間抜けな返事をしてしまう。
(,,゚Д゚) 「まあ、ラウンジはVIPとか他の高校落ちた奴らが集まるところだからな。
それはいいんだが…ここに来てもヘラヘラしてる奴らが大部分でな。
いくら東大東大とこっちが言っても、本人にやる気がなけりゃどうしようもない。
でもお前は違う。明確な意志で持って勉強しようとしている。
東大に行きたいと思っている。それもこんなに早い時期から。
だから、俺は受かると思ったわけだ」
何か言いたい事あるか、とギコ先生がこっちの顔を見てきた。
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86 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 22:56:48.57 ID:OXVB4iNR0
-
何もなかった。
また、間が出来た。
少しずつ、その意味を自分の中で消化して。
この3年間、絶対に一日一日を無駄にせず、頑張ろうと思った。
(,,゚Д゚) 「まあ、そういうわけだ。
この1年間は英語と数学だけやれ。
それだけで十分だから。他の科目は適当にやっとけ」
( ^ω^) 「英語と数学だけ…って。
国語とか社会はいらないんですかお?」
(,,゚Д゚) 「ああ。そんなのは高2になってからでいい。
やるとしたら、古典の文法をしっかり覚えておくくらいだな。
英語と数学は毎日の積み重ねがないと伸びない科目だ。
伸びるのに時間がかかるのに、受験じゃこの2つの配点が高いと来てる。
国語も高いっちゃ高いんだが、現代文は何をどれだけやれば伸びるかが掴みにくいしな。
だから今は英語と数学だけやってりゃいいってわけだ」
( ^ω^) 「分かりましたお。英語と数学だけをやりますお!」
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90 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 22:59:21.81 ID:OXVB4iNR0
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(,,゚Д゚) 「時間としちゃそうだな…学校ある日は必ず3時間やれ。
それが最低ライン。休日は任せるが、3時間以上な。
どうも英語が得意で数学が苦手みたいだから、気持ち数学を多めにな。
1年続けてみろ。凄い事になるから」
( *^ω^) 「把握しましたですお。目一杯やりますお!!」
(,,゚Д゚) 「うっし、そんじゃ今日はここまでだ。お疲れさん。頑張れよ!」
( ^ω^) 「ありがとうございましたお!」
少し、ワクワクしていた。
英語や数学の説明。時間配分。
そういった話が何か、戦略性の高いゲームでの組み立てを教わっているようで。
やる気が溢れて来た。
まずは1年、英語と数学を。時折古典の文法を。
ひたすら積み重ねてみよう。
そんな事を考えながら、教室を後にした。
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91 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 23:01:39.58 ID:OXVB4iNR0
毎日、学校から帰ってきたら英語の長文を読む。
出てきた未知の単語に印をつけつつ、何回も読み返す。
終わったらCDの発音と共に音読。
飽きたら単語帳で単語を覚えたり、文法の復習をしたり。
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92 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 23:02:32.03 ID:OXVB4iNR0
それにも飽きたら数学。
評判の高い青チャートとやらの、例題だけをひたすら解く。
数学は苦手だから、本番さながらのように記述しながら解いていく。
時間はかかるが、これが一番だと判断した。
10分考えても分からない問題は、解説を参考にしながら同じように解いていく。
そして間違えた証として印をつける。
時期を置いてそれが解けるようになっているか、またやり直すためだ。
それでも解けなかったらまた印をつける。
分からない問題を分からないままにしたのが、自分の数学が苦手な原因だと思ったからだ。
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93 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 23:03:40.73 ID:OXVB4iNR0
時々古典の文法を復習したりするものの、毎日をこんな調子で過ごした。
自分みたいな人間は、これぐらいやらないと東大に受からないと感じたからだ。
( ^ω^) (疲れるけど…辛いけど…やりがいがあるお!)
高校で友達も何人か出来たが、学校外での付き合いはあまりなかった。
誘ってくれる度に悪いなと思いつつも、断る事が多かった。
遊ぶと、どうしても家で勉強する気が無くなってしまうからだ。
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97 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 23:06:35.33 ID:OXVB4iNR0
そんな生活をしていたからか、時間はあっという間に経っていった。
春の陽気、夏の暑さ、秋の木枯らし、冬の寒さ。
それらが目まぐるしく変化していく間にも変わらず、毎日の積み重ね。
まずは前日の復習を1時間で終わらせてから、今日の勉強に入る。
いつしか、復習こそが勉強の要なのだと知った。
時間が無ければどんな風に解いたかをそらで思い出すだけでも、随分と違う。
そして復習しやすいよう、何の科目を何時間勉強したかメモし始めた。
時間が一目で分かるようになるし、何より時間が増えると自信になると思ったからだ。
少しずつ、でも弛まずに先を見据えて。
おかげで、高校ではずっと学年一位を維持し続ける事が出来た。
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99 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 23:08:40.91 ID:OXVB4iNR0
転機が訪れたのは高2に上がる直前の春。
突然、通ってもいない予備校に呼び出されたのだ。
( ;^ω^) 「自分が…ですかお?」
(@・Θ・@)「ま〜そうですね、受けてくださっていたうちの模試の結果を見せてもらいまして、
ま〜君がうちの特待生に相応しいという風にうちで話し合いましてね、
僕としても君にはその資格は十分にあると思うからそう話し合おうって決めて、
いやいやいや、成績見てま〜立派なもんだったからなんだけど、
ま〜それで、うちの特待生として君を招待しようって事になったわけなんですね、これが」
イマイチ要領を掴みにくい説明だったが、予備校の特待生として自分が招待されているらしい。
何かしたかと思いながら向かった予備校の一室で、にわかには信じがたい話をされていた。
赤ら顔でどことなく猿を思い出させる風貌の、マーさんからの電話での呼び出し。
本当なら嬉しい事この上ない話だ。断るはずがない。
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101 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 23:10:14.36 ID:OXVB4iNR0
( ^ω^) 「大変嬉しい話ですお。是非ともお願いしますお!」
(@・Θ・@)「ま〜そう言って貰えると嬉しいですね。
ただ特待生といっても、全部の科目で特待扱いにするとこっちの経営も破綻しちゃうからね、
いやいや、僕としては給料さえ貰えれば経営なんてどーでもいいんだけど。
あーあーこれ、他の人には言わないでもらいたいな。
仕方ない事だけどま〜1つの科目だけでしか特待扱いには出来ないんだよね。
そういうわけで、今からそれを選んでもらいたいって話なんだね。
英語か数学か古文か世界史。どれか1つだけね。
でもま〜、他の科目もお金払えば受ける事はま〜当然だけど出来るから」
そうは言ってくれたものの、家の事を考えれば予備校にお金を払う余裕は無い。
やっぱりここは…
( ^ω^) 「それじゃあ、数学でお願いしますお」
(@・Θ・@)「数学だね、はいはい。
ま〜君の成績を見ると数学が少しだけ英語や国語に比べて落ちるからね。
苦手な科目なのにそれを進んで受けるってのは、ま〜中々出来る事じゃないよね。
やっぱり普段からしっかり勉強しようっていう、ま〜心構えの現れだよね、いやいや。
それじゃあ4月から授業が始まるから、ま〜頑張ってね」
( ^ω^) 「ありがとうございますお!頑張りますお!」
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102 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 23:12:25.59 ID:OXVB4iNR0
嬉しかった。
模試の成績を認めてもらった。
1年前、ギコ先生に受かると保証された時と同じように嬉しかった。
このままやり続ければ、きっと大丈夫だ。
認めてもらう事が、自分を支える自信となっているのが分かった。
心の雨が、少しずつ弱まっていった。
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105 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 23:14:23.67 ID:OXVB4iNR0
高2に上がると社会を選ばなくてはならない。
センター試験で使う社会は簡単だという事で現代社会にしたが、二次試験の社会が問題だった。
東大では社会を世界史、日本史、地理の3つから2つを選ばなくてはならないのだ。
文科省のカリキュラムだか何かで世界史は学校で必修だから世界史は決まりなのだが、
日本史か地理かで悩んでいた。
( ^ω^) (日本史も地理も、どっちも特に好きでもないし…)
好きな方を選べとはギコ先生の談だったが、それでも決めかねた。
東大の日本史は古代、中世、近代、現代で各1問ずつ。
知識をあまり必要としない分、自分で思考して論述する力が必要とされる。
一方、東大の地理は90字程度の短めな論述問題が数多く出される。
それゆえに要点を抑えて簡潔に書き出す力が必要。
知識は日本史ほどではないものの、やはり基本的な事だけで良いという事だった。
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109 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 23:17:01.26 ID:OXVB4iNR0
-
( ^ω^) (日本史はどうも、現代文に近い感じがするお。
勉強しても解けるようになるのか、過去問見てもはっきりしないし…
それなら勉強しやすそうで問題もまだ簡単そうな、地理にするお)
結局、世界史と地理で受験する事にした。
同じく東大志望のドクオが地理を選んだ、というのも大きかったのかもしれない。
('A`)「何、結局地理にしたの?」
( ^ω^) 「だお。東大の日本史はブーンには難しすぎるお。
それに授業始まるのは来年からだし、気が変わったら日本史にしてもいいお」
('A`)「禿同。あんな気持ち悪い問題解ける気がしねぇ。
解ける奴の気も知れねぇ」
気だるそうに溜息を吐くドクオ。
高校に入ってから出来た、本音で話せる数少ない友人である。
普段からやる気無さそうな雰囲気を纏っていて、
科類こそ文三志望だが、自分と同じく東大志望という事もあってすぐに仲良くなった。
ドクオとの会話は、勉強の気分転換に欠かせないものだった。
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111 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 23:19:19.87 ID:OXVB4iNR0
('A`)「去年は模試で一度もお前に勝てなかったからな。
お前が1番で、俺が2番から5番をウロウロしてて…」
( *^ω^) 「おっおっ、お褒めに預かり光栄だお」
('A`)「今年こそはお前に勝つからな」
( ^ω^) 「そういう言葉聞くと、張り切って勉強する気になるお」
(;'A`)「今以上に勉強されると俺が追いつかなくなるんでカンベンして下さい」
( ^ω^) 「ドクオも今以上に勉強すればいいだけだおー」
('A`)「マンドクセ」
( ;^ω^) 「おっおっおっ…」
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113 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 23:22:47.24 ID:OXVB4iNR0
そう。ドクオは自分より明らかに勉強時間が少ない。
自分が平日3時間やっているところを2時間。休日に5時間以上やっているところを3時間。
話を聞く限りでは本当にそれしかやってないらしい。
多分だが、ドクオは要領が良いのだろう。
いや、ドクオより何時間と多く積み重ねても僅かの差でしか勝てない自分の要領が悪いのかもしれない。
でもそれは、自分が天才でない以上仕方の無い事だ。
天才でないのなら時間をより長くかけて勝負するしかない。
悔しいけど、認めたくないけど、考えたくないけど、知りたくないけど…才能の差は確かに存在する。
その差を埋めるのは、時間しかない。
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115 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 23:24:16.30 ID:OXVB4iNR0
高校に来て2度目の春になっても、高1とやっている事は変わらなかった。
英数を軸に毎日勉強する。
地理は高3から授業開始という事で全く勉強しなかったが、
世界史の復習をやったり古典文法なんかを勉強する事はあっても英数が中心にあるのは変わらなかった。
ただ、英数が中心にあるのが変わらないからこそ自然と勉強時間も増やさざるをえない。
英数の勉強量を落とすわけにはいかないからだ。
まして予備校の数学もあるから、それは非常にきついものだった。
辛かったけど、効果もあった。
それは5月に受けた模試での事。
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118 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 23:26:25.32 ID:OXVB4iNR0
( ^ω^) (この二次関数はyの範囲に制限が付いてるからそこから逆算してxの範囲を求めて、
更に放物線である以上xの範囲は1つだけじゃなく2つ存在しているから…
そこに気を付けて記述していけば解になるはずだお)
( ^ω^) (…お?今日の数学は簡単みたいだお)
ふと周りを見回す。
いや、違う。
皆、余裕しゃくしゃくといった顔ではなく真剣に問題と格闘している。
問題が簡単という訳ではない。
1年前に言われた言葉を思い出した。
(,,゚Д゚) 「1年続けてみろ。凄い事になるから」
( ^ω^) (先生…凄い事になりましたお)
試験中だというのに、身体が震えた。
返ってきた結果は、今までで一番の成績だった。
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122 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 23:29:31.88 ID:OXVB4iNR0
目に見えた結果が出た。
1年の勉強の成果が出た。
それが嬉しくて、夢中で勉強した。
夏休みの間も、早寝早起きの習慣を忘れずに。
無理はせずに、時折息抜きを挟みながら。
満ち足りた日常が、願いへの道になっているのを実感していた。
いつの間にか夏の太陽は去り、秋の訪れとなっていた。
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127 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 23:32:14.78 ID:OXVB4iNR0
(,,゚Д゚) 「そんじゃ、キャンセル代はさっき言った口座に振り込んでおくからな」
( ^ω^) 「申し訳ありませんお」
(,,゚Д゚) 「おいおい、お前が謝る必要無いだろ。しょーがないって。
ま、しっかり勉強しておけよ」
( ^ω^) 「はい、分かりましたお」
高校生の一大イベントといえば修学旅行だが、それに欠席せざるを得なくなった。
私立ともなれば旅行先は奈良京都ではなく、オーストラリアに1週間。
そんなところに行こうとすれば数十万というお金が掛かり…
今までの修学旅行への積立金を返してもらう他なかった。
家の経済状況を考えれば、それはしょうがない事だった。
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128 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 23:33:32.98 ID:OXVB4iNR0
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('A`)「ブーン、お前修学旅行に行かないってマジ?」
( ^ω^) 「マジだお。まあ勉強できるから結果オーライだお」
(;'A`)「まさかそれが目的で休んだんじゃないだろうな…
ま、土産は買ってきてやっから」
( ^ω^) 「おっおっ、サンキューだお!」
( ^ω^) 「ここはブーンに任せて、ドクオは先に行くんだおおぉーー!!
ブーンの屍を越えてドクオは勝つんだおぉおおぉーーー!!!」
(;A;)「ブーン、ブウウウウウウウウウン!!!!」
('A`)「って、何やらせんだよ」
( ^ω^) 「戦場で別れる親友ごっこver俺の屍を越えて行け」
(;'A`)「何だそりゃ」
1週間の秋休みをもらい勉強する事が出来る。
それは確かに嬉しかったが、一生に一度の修学旅行。
やっぱり、行きたい気持ちの方が強かった。
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134 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 23:37:02.12 ID:OXVB4iNR0
( ^ω^) (でも、仕方が無いお。
無い袖は振れないんだから…)
お金が無い。
だから浪人も出来ない。
私立の大学にこそバイトと奨学金でギリギリ行けるかもしれないが、それすら危うい。
ある意味、東大しか道は残されていないのかもしれない。
そう考え、机に向かった。
愛用の真っ黒いシャーペン。SMASHという名前に惹かれて買ったのだが、すこぶる書き心地が良い。
まるで自分の思いをそのまま書き表してくれるような、そんな感触すら得られるのだ。
そして気に入った消しゴム。AIR-INといったか。
軽くこするだけで書いた字がすぐに消せる。これも今では自分に欠かせない物だ。
SMASHとAIR-INさえあれば自分は何でも出来る。どこまでも行ける。
そんな錯覚さえ覚えながら、電気スタンドのスイッチを入れた。
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137 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 23:41:11.49 ID:OXVB4iNR0
秋が実りの季節なら、冬は蓄えの季節だろうか。
そんな事を思いながら、最後であろう雪の中を歩いて学校へと向かう。
英語も数学も、毎日続けた効果が如実に現れていた。
特に数学の伸びが凄く、今では得点源の科目とさえなっていた。
中学時代には考えられない事だった。
( ^ω^) (もうすぐ3年生、受験生になるお。
あっという間だお…)
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139 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 23:42:39.55 ID:OXVB4iNR0
時間とはこうも速いものなのだろうか。
もっと緩やかな流れだと思っていたのだが。
毎日勉強していたからあっという間に感じられたのだろうか。
1日1日、後悔せず過ごせていただろうか。
分からないが、受験まで後1年という事だけは自覚していた。
( ^ω^) (ここまで来たら、後はもう少しだお)
よくここまで止まる事なく続けることが出来た。
自分で自分を褒めたくなったが、それは受験が終わってからだ。
いつの間にか、心の雨もあまり降らなくなっていた。
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144 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 23:45:31.52 ID:OXVB4iNR0
今年は桜が随分と早咲きだったらしく、新学年の初日に桜吹雪は見られなかった。
吹雪となったそれは道中にチラホラと見られるだけで、空中には1つも見られない。
木にはまだ桃色のそれが少し残っているものの、それも後数日だろう。
来年の今頃はどんな気持ちで桜を見ているのだろうか。
願わくば、東大生として見たいものだ。
桜並木の中に直立不動の、見慣れた人影がある。
( ^ω^) 「ドクオー」
('A`)「おっ、ブーンか」
( ^ω^) 「何してたんだお?花見かお?」
('A`)「いや、ちょっと考え事をな。
来年の今頃はどういう気持ちで桜見てんだろうなーって」
( ^ω^) 「おっおっ、奇遇だお。ブーンも今そう思ってたところだお」
('A`)「お前もか。受験生ってのは似たような事考えちまうのかねぇ」
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146 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 23:46:39.69 ID:OXVB4iNR0
グーッと、ドクオが大きく上体を反らす。
ドクオは文三に、自分は文一に。
…願わくば来年の桜はドクオと二人、東大生として見たいものだ。
('A`)「さて、そろそろ教室行くか。
担任はまたギコさんなんだろうな」
( ^ω^) 「クラスは3年間同じらしいから、きっとそうだお」
('A`)「おかげで対人恐怖症な俺は大助かりだぜ」
( ;^ω^) 「微妙にコメントしにくい言葉だお…」
そんな掛け合いをしながら、二人同時に教室へと入った。
後1年。後1年で、全てが決まる。
これまでの積み重ねも、これからの積み重ねも。
3年生になった事を意味する、ホームルームのチャイムが鳴った。
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148 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 23:47:33.53 ID:OXVB4iNR0
(,,゚Д゚) 「模試の成績見る限りじゃ…
入学当時とは比べ物にならないくらい伸びたな。
あの時も基礎はしっかり出来ている印象はあったが」
ギコ先生との2者面談は、丁度2年振りになる。
2年の時はギコ先生が気になった生徒だけを呼び出して行われていたが、自分は呼ばれなかった。
呼ばれなかったのは問題無いという事だったのだろう。
( ^ω^) 「いえ、まだまだですお。東大にはまだ遠いですお」
(,,゚Д゚) 「その油断の無さが、お前の一番の武器だな。
英語と数学はずば抜けているし、国語や世界史も申し分無い。
判定も、BとCを行ったり来たりしている。現役でこれだけ取れてるなら上出来だ」
( ^ω^) 「A判定を全く取れてないですけど、大丈夫なんですかお?」
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151 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 23:51:13.80 ID:OXVB4iNR0
自分の問いかけが、ギコハハハと独特の笑い声で一掃される。
(,,゚Д゚) 「現役ってぇのはまだ、力を貯めている段階でな。
一通りの勉強を終えてないし演習量も少ない。
周りの奴も同じと言っちゃそれまでなんだが、
そもそも普段の模試じゃA判、まして東大のなんてほとんど出ない。
それに、模試で判定悪くても気にするな。
あんなの本番と同じ問題でもなければ本番と同じ採点基準じゃないし、気休めにしかならねぇ。
良ければ気にして、悪ければ気にせず必死に勉強する。
それくらいに考えとけ」
( ^ω^) 「分かりましたお!」
不思議とギコ先生に相談すると、気持ちが軽くなる。
いつの間にか、ギコ先生を頼っている自分がいる事に気付く。
(,,゚Д゚) 「さて、それじゃ最後の話だ。
センターで使う理科なんだが、ラウンジは志望者全員に地学を選択可能にしている。
お前も悪い事言わないから、地学にしとけ」
-
153 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 23:53:03.32 ID:OXVB4iNR0
( ^ω^) 「2年のときに勉強した生物や、1年のときの化学じゃダメなんですかお?」
(,,゚Д゚) 「いや、よっぽど得意なら俺ぁ強制しないが…
ブーン、理系がセンター試験で使う理科は何が多いと思う?」
( ^ω^) 「物理か化学か生物か、だと思いますお」
(,,゚Д゚) 「だろ。二次試験で使う科目だもんな。地学を使う理系なんてほとんどいない。
でもセンター試験の平均点はどの科目も似たり寄ったりなんだ」
( ^ω^) 「え、でも理系がほとんど使う物理化学生物は得点が高くなるんじゃ」
(,,゚Д゚) 「ところがそうはならない。
仕組みは簡単でな、理系がたくさん受けてくるとするだろ?
二次試験で使うような奴が受けるのに問題を簡単にしたら、平均点が跳ね上がっちまう。
そこで、理系が受けてくる物理化学生物は問題をそれなりに難しく、
逆にあまり理系が受けてこない地学は問題を簡単にする事で、平均点のバランスを取ってるってわけだ」
( ^ω^) 「なるほど!だから地学がオススメって事ですかお?」
(,,゚Д゚) 「そういうカラクリってわけだ。
実際地学は簡単でな、夏休み中にでも始めれば8割は固い。
覚える事も少ないし、穴場ってわけだ」
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156 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 23:54:24.11 ID:OXVB4iNR0
やっぱりギコ先生に言われると素直に納得してしまう。
説明が分かりやすく丁寧だからだろうか。
(,,゚Д゚) 「んじゃ、お前は選択科目で地理と現社と地学を選択、だな。
このまま順調に行けば、お前は大丈夫だから。
残り後1年足らず、しっかり勉強するんだぞ」
( ^ω^) 「勿論ですお!ありがとうございますお!!」
教室を出る前にお辞儀をして外に出た。
順調に行けば大丈夫。
このまま順調に行く。
そして東大に行く。
道にある障壁は全部取り除いた。
両手を広げて走れる程の道になった。
一度加速がついたら、後はもう駆け抜けるだけだ。
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158 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 23:55:28.20 ID:OXVB4iNR0
でも、
それは突 然に
最悪 のタイ ミ ン グで
道 を塞
い
だ。
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162 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/03(月) 23:57:27.08 ID:OXVB4iNR0
夏休み。
…いわゆる受験の天王山。
そして今日は、東大受験生の9割近くが受けているといわれる東大模試の日。
でもそんな事はどうでも良かった。
自分のこの先の道など、これからの道がない人に比べたらどれほどの価値がある?
急げ、急げ、急げ──!!
疲れる足を必死に動かす。息が切れる。汗が止まらない。
無機質で殺風景な建物の中を、必死で走り回る。
母親を待っている余裕など無かった。
もう会えない。「またいつか」は無い。
信じたくもない真実が、自分の背中にのしかかる。
だから少しでも長く、一緒にいたい。
─ここだ。電話で聞いた、この部屋!
なりふり構ってられず、思いっきりドアを開ける。
-
168 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 00:00:02.05 ID:TZ4Mc8Tm0
( ;゚ω゚)「トーチャン!!」
ベッドに寝ている人と過ごした、吹けば消えてしまいそうな思い出がある。
でも人の顔とはこんなにも変わってしまうのか。
肉がそぎ落ち、頬骨がくっきりと見える。
顔色は真っ青を通り越して、土気色。
もう寝ているだけでも辛そうな、枯れ木のような身体。
思わず顔を背けたくなる。見ているだけで「死」が現実となっているのが分かるから。
それでも、もう会えない。
だからその人の目の前までいき、手を取った。
冷たい。
ああ、もう長くない。
それを肌で感じ取ってしまった。
_、 _
(ヽ ∀`)「ブーンか?……何年ぶりだ?…
大きく、なった…な……」
-
169 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 00:01:15.65 ID:TZ4Mc8Tm0
目の前にトーチャンがいる。
すぐそこにいる。それなのに、それなのに。
あんなに大きかった背中が。大きかった存在が。
今にも儚く消え去ってしまいそうだ。
_、 _
(ヽ ∀`)「カーチャンには…ずっと…賭け事…で…迷惑を…かけた……
お前…にも……ごめん…な……」
( ;゚ω゚)「トーチャン!謝らないでいいお!!
ブーンこそ、こんな、こんな状態だって知らなくて…
ずっと、会いに来ないで…!!」
ガン、だった。肝臓の。末期の。
不摂生によるものらしいがそんな過程聞きたくなかった。
_、 _
(ヽ ∀`)「カーチャン…に…頼んでおい…たんだ……
東大…受…験するんだ…ってな………
だったら…俺の事はギリギリまで……隠しておいてくれ、と……
もう…それくらいしか……お前に…は…してやれない…から…」
-
172 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 00:02:53.56 ID:TZ4Mc8Tm0
息も途切れ途切れの、掠れた声が耳に残る。
嫌だ、嫌だ。
もっと話したい。笑いたい。
それなのに、
( ;゚ω゚)「そうだおトーチャン、ブーンは東大受けるんだお!!
ずっと学年一位の成績で、高校も予備校も特待なんだお!!
あと半年したらブーンは東大生だお!!!」
( ;ω;)「だから…だから長生きしてくれおおおおぉぉおぉっっ!!!」
それなのに視界がぼやけて、言葉に出来ない。
手の冷たさが、声が、顔が、もう長くないと告げていても、
それでも、何も言葉にならない。
小さい頃過ごしたときのように、泣き喚く事しか出来ない。
J( ;ー;)し「トーチャン…」
いつの間にかカーチャンも来ていた。
もう3人で仲良く話す事が出来ないなんて、
嫌だ、嫌だ。
-
175 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 00:04:17.44 ID:TZ4Mc8Tm0
_、 _
(ヽ ∀`)「ブーン、泣くな…頑張……れ…」
少しだけ手を握り返され、少しだけ強い声でそう言われた。
しかしすぐにその手の力が抜け、首から上がガクンと垂れ下がった。
トーチャン?トーチャン?
呼んでも返事が無い。何も返ってこない。
もう少しでブーンは、東大に受かるんだお?
一杯話したい事があるんだお?
トーチャン、トーチャン、トーチャン!!
-
179 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 00:05:13.42 ID:TZ4Mc8Tm0
( ;ω;)「うあああああああぁああぁあぁぁぁっっっっ!!!!!」
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181 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 00:05:47.58 ID:TZ4Mc8Tm0
止みか
けた雨 が
また、
降り
始 め た 。
-
185 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 00:09:59.65 ID:TZ4Mc8Tm0
通夜も葬式も、あっという間に終わった。
遺骨を見ても、脆くボロボロになったそれを骨壷に収めても、実感が無かった。
トーチャンが死んだ。
見る事も、話す事も、何も二度と叶わない。
葬式が終わってからすぐに勉強をまた始めた。
前以上に机に噛り付くようになり、勉強時間も大幅に増えた。
それなのに何も頭に入ってこない。覚えたそばから抜けていく。
2学期が始まっても、学校に行けない日が増えた。
予備校も休みがちになった。
何をしてもトーチャンは帰ってこない。
ならば勉強するしかない。
分かっているのに、頭では理解しているのに。
身体が動いてくれない。
勉強しても、何も身につかない。
-
187 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 00:11:49.97 ID:TZ4Mc8Tm0
( ´ω`)(疲れたお…)
トーチャンが死んでも時間は待ってくれない。
だから受験生として過ごす。
あまりにも辛い。
何も頭に入らないから1日1日が光となって過ぎ去っていく。
いつの間にか秋も深まり、秋の東大模試の開催日となっていた。
自分がこんな状態でも模試は待ってくれない。
一番重要な模試と言ってもいい、秋の東大模試。
半ばやけくそで、それを受ける事となった。
( ´ω`)(ダメだお…頭が働かない…右手が動かない…)
国語、数学、世界史、地理、英語。
その全てで失敗した。
-
189 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 00:12:51.21 ID:TZ4Mc8Tm0
1ヵ月後、学校で秋の東大模試の結果が返ってきた。
見るまでもなかった。断トツのE判定。
(;'A`)「お前、E判って…大丈夫かよ」
( ´ω`)「大丈夫だお…これから挽回するお…」
雨が強い。息が苦しい。道の先が見えない。
走ろうにも走れない。歩く事すら難しい。
順調だったはずなのに、どうして一番大事な模試で、一番悪い結果を。
-
192 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 00:15:09.80 ID:TZ4Mc8Tm0
(,,゚Д゚) 「おぅ、ブーン。
お前、今日ちょっと残れ。話がある」
( ´ω`)「はいですお…」
話など聞かなくても分かってる。
模試の結果についてだろう。
所詮自分のような才の無い人間が、東大の法学部を目指す事なんておこがましかったのだ。
そうだ。ギコ先生に相談して文三に志望を変えよう。
最低点が20点も下がれば、自分にもまだかすかだが望みはあるはずだ。
逃げよう。
確実に東大に入れる方へ、道を作ろう。
-
195 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 00:16:27.35 ID:TZ4Mc8Tm0
しかし、ギコ先生は予想外の事を口に出した。
(,,゚Д゚) 「お前、2学期に入ってから学校休みがちになったな。
何かあったか?俺でよけりゃ、話くらい聞いてやるぞ」
( ´ω`)「え?模試の判定の話じゃないんですかお?」
(,,゚Д゚) 「前にも言ったろ、模試の判定なんか当てにならんって。
…それにどうもその判定が悪かったのも、
学校休むようになった理由と関係ありそうだから、な」
そう言ってギコ先生はしげしげと自分の顔を見てくる。
教師というのは、こうも生徒一人一人の様子を詳しく見られるものなのだろうか。
誰にも話していなかった。話せなかった。
でも今は、ギコ先生が話を聞こうとしてくれている。
-
196 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 00:18:51.40 ID:TZ4Mc8Tm0
( ´ω`)「実は…夏休み中に父親が亡くなって…」
(,,゚Д゚) 「!」
( ´ω`)「それで勉強しても、頭に何も入らなくなって…
右手が動かなくなって…
学校にも来れなくなったりして…」
( ;ω;)「それで、もう全部分からなくなって…
いっそ文一じゃなくて文三に志望を変えようかと…」
ギコ先生の顔がにじむ。
何をすればいいのか、どうしたらいいのか。
無理難題をギコ先生に問いかけた。
神妙な面持ちで考えを逡巡する素振りをしていたギコ先生が、
しばらくして口を開く。
-
200 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 00:20:39.79 ID:TZ4Mc8Tm0
(,,゚Д゚) 「そいつぁ大変だったな…ご愁傷様。
ブーン、そういう事に関して俺は答えを教えられない。
答えってのは自分が納得いくものでないと答えじゃないからな。
だから答えは、お前が見つけるしかない。
突き放すようだがこれはお前の問題なんだ。
でもな、ブーン」
俯いて震わせていた自分の肩が、力強く掴まれる。
(,,゚Д゚) 「文一から文三には逃げるな。
お前がなんで文一を目指していたか。
なんでお前が勉強していたか。
それをもう一度、思い出せ。
…俺に言えるのは、これくらいだ」
( ;ω;)「はいですお…」
泣きじゃくりながら教室を後にした。
-
203 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 00:23:27.34 ID:TZ4Mc8Tm0
( ´ω`)(どうして東大に行きたかったか…)
自分の部屋で机に向かっても勉強しないのは珍しいことだった。
それでも今の自分には大切な事だ。
「もう一度、思い出せ」
その言葉が、頭の中をグルグルと巡っていた。
( ´ω`)(そもそも東大を目指したのは、どうしてだっけだお?
プギャーへの復讐?一番難しい大学だから?VIP高に落ちたから?
…どれも違うお)
自分はどうして東大に行きたかった?
-
205 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 00:24:19.20 ID:TZ4Mc8Tm0
…ああ、そうだった。
目指していたのは東大じゃない。
-
206 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 00:25:44.95 ID:TZ4Mc8Tm0
( ´ω`)(弁護士になるために東大のロースクールに行きたくて。
東大のロースクールに行きたくて、東大を目指して)
( ω)(…ブーンは東大に行きたいんじゃない)
いつの間にか目の前の目標しか見えなくなっていた。
だからその先を見落としていた。
( ω) (ブーンは東大の「法学部」に行きたいんだお)
文三に行っても意味がないんだ。
文一じゃなきゃ、ダメなんだ。
-
208 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 00:28:10.52 ID:TZ4Mc8Tm0
( ω)(トーチャン、ごめんだお)
そして、文一に受からないかもという不安を。
勉強できないというスランプの原因を。
全てトーチャンの死のせいにしてしまっていた。
受験に失敗したら周りはどう思う?
トーチャンが死んだのだからしょうがない、と思うだろう。
違う。トーチャンは悪くない。
それを証明するためにも、墓前で報告するためにも。
絶対に受かりたい。
-
210 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 00:29:17.63 ID:TZ4Mc8Tm0
( ω)(トーチャン…)
今ようやく、あの時の言葉が心に染み渡った。
( ^ω^) (頑張ってみるお!)
センター試験まで残り2ヶ月足らず。
遅れを取り戻すのは大変だが、やるだけやってみよう。
それしか今の自分には出来ないのだから。
-
211 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 00:30:26.61 ID:TZ4Mc8Tm0
なぜか毎年この日は雪が降りやすいらしい。
天気予報によればここ10年で7回も雪だったそうだ。
そしてご多分に漏れず今日も生憎の雪。
電車のダイヤに支障なかったのが、不幸中の幸いといったところか。
('A`)「お互い頑張ろうぜ」
( ^ω^) 「だお!」
傘をさして目的の場所へと進んでいく。
今日と明日はセンター試験。
とうとうこの日がやってきた。
入試が始まる。
東大でも得点に加算されるとはいえ、配点が低いからかそこまで気にはしていなかった。
とりあえずの目標は9割、810点。
しかしそれはあくまで目標であり、1つ1つの科目を全力で解くつもりだ。
-
214 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 00:33:34.00 ID:TZ4Mc8Tm0
('A`)「そんじゃ俺、あっちの教室だから。じゃーな」
( ^ω^) 「了解だおー」
ドクオと別れて自分の教室に入る。
もう大半の受験生が席に着いていた。
皆どことなく顔が固い。
周りにつられて、自分も緊張してしまいそうになる。
( ^ω^)(…落ち着いてやればきっと大丈夫だお)
-
216 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 00:35:28.40 ID:TZ4Mc8Tm0
目を瞑り、大きく深呼吸。
冷えた空気が肺から体全体を冷やしていく。
それからゆっくりと、目を開ける。
よし、大丈夫。
(゜3゜)「はーいそれじゃー、これからセンター試験を開始します。
問題用紙を速やかに後ろへと回していってくださーい」
公民の問題用紙が配られ始める。
センター試験が、始まった。
-
221 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 00:37:30.36 ID:TZ4Mc8Tm0
( ´ω`)(疲れたお…)
二日連続の試験とは、こうも疲れるものなのか。
最後の地学の頃には頭をフル回転させすぎて、ヘトヘトになっていた。
(ヽ'A`)「ブーンお疲れ。帰ろうぜ」
( ´ω`)「ドクオ、お疲れだおー…」
ドクオも相当疲れたのだろう。顔に疲労の色がありありと浮かんでいる。
それでもこれで、センター試験が終わった。
名前もしっかり書いたし、5分前にはマークミスが無いか点検した。
手ごたえからいって9割近く取れているはずだ。
…明日、学校で自己採点しないと分からないけど。
(ヽ'A`)「これで明日学校とかありえないんですけど」
( ´ω`)「でも行かないとダメだお。自己採点を報告しないと」
(ヽ'A`)「めんどくせーな畜生」
-
225 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 00:41:12.97 ID:TZ4Mc8Tm0
2日目も雪だったが試験中に止んだらしい。
雪で凍った地面に気をつけながら歩く。外はすっかり暗くなり、星が瞬いている。
(ヽ'A`)「お互い、東大行けるといいな」
( ´ω`)「だお」
(ヽ'A`)「………」
( ´ω`)「………」
もはや会話する元気も無い。
それほどまでに疲れきった。
-
226 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 00:42:28.41 ID:TZ4Mc8Tm0
家に帰って風呂に入るとすぐ布団に潜り込んだ。
疲れた。でもこれも、後1ヶ月だ。
そう思うだけでやる気が沸いてくる。
後少しなんだ。
でも後少し、じゃ意味がない。
-
228 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 00:44:51.96 ID:TZ4Mc8Tm0
センター試験の解答速報なんてのは即日に発表されるので、
その気になれば受けた日に採点する事も可能である。
でも、もし悪かったらそれを気にして調子を崩してしまうかもしれないから、
全て終わってから学校で採点する事にしていた。
( ^ω^) (○、○、○、○、○、○…)
手ごたえで9割近く取れたと実感していただけあって、
ほとんどの問題に○が描かれていく。
( ^ω^) (×、○…っと。これで、全部採点が終わったお)
後は合計点を出すだけだ。
-
229 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 00:46:29.01 ID:TZ4Mc8Tm0
英語:186
数学:195
国語:172
世界史:87
現代社会:83
地学:91
…814点。
目標だった9割を越えた。
( ^ω^) (いよっし、だお!)
右拳を握りしめた。
-
230 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 00:47:32.23 ID:TZ4Mc8Tm0
(,,゚Д゚) 「よくやったな!」
早速報告に行ったら頭をグリグリとやられた。
嬉しかった。とりあえず一安心。
後は私立の入試と二次試験だけだ。
そうだ、ドクオは。
はっとして教室の隅、ドクオの指定席に目をやる。
( ^ω^) 「ドクオ、どうだったお?」
('A`)「…かなりやばい。712点。
足切りされるかどうか、っていう点数だ」
( ;^ω^) 「ど、どうしてそんな…」
(;'A`)「国語で思いっきりこけた。120点代だからな…
他も微妙な出来だし…」
(;^ω^)「…出願は、どうするお?」
-
232 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 00:48:53.48 ID:TZ4Mc8Tm0
('A`)「まあ可能性はあるし、東大に出すさ。
二次で挽回するしかないけどな」
( ;^ω^) 「…頑張れ、だお」
('A`)「元からそのつもりさ。
お前も頑張れよ」
平静を装っているが、ドクオは明らかに動揺していた。
顔色が悪い。言葉の端々も震えている。
頼むからドクオに足切り通過させてやってほしい。
一緒に東大に行きたい。
その思いを胸に秘め、足切り発表までの日を勉強に費やした。
-
234 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 00:51:33.55 ID:TZ4Mc8Tm0
しかし現実は非情であり残酷だった。
自分は足切りされていなかったが、ドクオがされてしまった。
2月上旬。学校でそれを知った。
( ;^ω^)(ドクオ……)
かける言葉が見つからない。何を言ってやればいいか分からない。
文三に入って文学を専攻したいと話していた。
東大に入れなかったら浪人するとも言っていた。
そのドクオが、足きりされた。
しばしの沈黙。
…深い溜息の後に、やけにでかい声が響いた。
-
235 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 00:52:18.02 ID:TZ4Mc8Tm0
('A`)「あーあー、ダメだったか」
( ;^ω^) 「ドクオ…」
('A`)「俺はまた来年だ。
ブーン、お前は俺の分まで絶対に受かれよ!
じゃーな!」
そう言ってさっさと走り去っていく。
何となく、追いかけてはいけないような気がした。
ずっとドクオの顔が、気持ち上を向いていたから。
だから。
( ω)「ドクオ!!」
精一杯の声で呼び止める。
ドクオの足が止まる。
-
237 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 00:53:36.40 ID:TZ4Mc8Tm0
( ;ω;)「先に東大で待ってるお!!
来年、絶対に受かれお!!」
ドクオは振り向きもしなかった。
ただ、大きく右手をあげる。左手を顔に動かしながら。
そしてまた、歩き出した。
ドクオの道は、きっと東大に続いている。
-
244 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 01:00:11.88 ID:TZ4Mc8Tm0
二次試験まで残り1ヶ月を切っても、毎日勉強は続けた。
私立もいくつか受けたが、全て合格した。
早稲田の法学部、慶応の法学部、中央の法学部。
どれも電話の機械的な音声で合格を通達された。
たとえ合格してもあまり嬉しくはなかった。
早稲田や慶応には3年前に受かっているからだ。
むしろ受からなかったら3年間、何をしていたんだという事になる。
得たのは喜びよりも、安堵感であった。
-
245 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 01:01:31.01 ID:TZ4Mc8Tm0
( ;^ω^) (いよいよ、明日だお…)
ついに東大の二次試験日が明日になった。
てっきり本郷キャンパスで行われると思ったら、文系は駒場キャンパスでの試験らしい。
来年のためにも、という事でドクオが同伴を申し出てくれていた。
長かった。いや、あっという間だった。
3年間全てを勉強に費やした。
永遠のようにも、一瞬のようにも感じられた3年間だった。
最後の復習を終えてスタンドの灯かりを消す。
次に目が覚めたら二次試験だ。
緊張で目を瞑っても眠れない。
でも眠らなくては試験に集中できなくなる。
眠って次に目を覚ましたら試験だ。怖い。
でも眠らなくては。
半ば無理やり、眠りについた。
-
246 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 01:03:02.64 ID:TZ4Mc8Tm0
駒場キャンパスは最寄駅から非常に近い。
徒歩0分の名に偽りなく、駒場東大前駅を降りるとすぐ目の前にキャンパスが広がっている。
('A`)「こいつら皆、東大を受験するのか…」
雨が降りしきる中に溢れる傘の大群を見たドクオが感心したように呟く。
確かにこんなに多いとは思っていなかった。
思わず息を呑む。
この人達全員にとまではいかなくても、大半に勝たなくては合格できない。
皆、勉強できそうな顔つきをしている。
自分も周りにそう思われているのだろうか?
不安で目が眩む。呼吸が苦しくなる。
-
249 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 01:04:25.16 ID:TZ4Mc8Tm0
('A`)「ま、お前なら受かるから気楽に行って来い。
命を取られるわけでもあるまいし」
そう言われても怖い。
手が震える。手だけじゃない、身体中が恐怖している。
怖い。
( ω)「…ドクオ、もう一度言ってほしいお」
('A`)「あ?だからお前なら…」
そこまで言ってドクオが口をつぐむ。
自分の異変に気付いたのだろうか。
グッと、右手を強く握られる。
-
250 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 01:05:17.91 ID:TZ4Mc8Tm0
(#'A`)「受かるぞ!!」
力強いその言葉は身体の芯にまで届き、自分を痺れさせる。
…震えが止まった。
( ^ω^) 「ありがとうだお!行ってくるお!!」
ありがとう、ドクオ。
今日と明日で全て終わる。
いや、終わらせる。
振り返ることなく、自分の試験会場へと歩を進めた。
-
252 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 01:07:39.43 ID:TZ4Mc8Tm0
1日目の試験は国語、数学。
国語はいつも以上に良く出来た感触があるが、不安は次にあった。
数学。
おそらく3年前の自分が落ちた理由である、数学。
この3年間で得意にしてきた。
それでももし、自分の分からない問題が出てきたら?
…いや、大丈夫。
あれだけやってきたんだ。
それに全部の問題が解けなくてもいい。
半分ちょっと。半分ちょっと解いて50点。
それで十分なんだ。
-
253 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 01:09:04.74 ID:TZ4Mc8Tm0
( ^ω^) (自分が解けない問題なら、皆解けないお)
3年前には想像のつかない考えをしている事に驚く。
これも、ずっと努力してきたからだろうか。
目を瞑り、大きく深呼吸。
そしてゆっくりと目を開ける。
数学の試験が始まった。
-
255 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 01:10:16.98 ID:TZ4Mc8Tm0
-
解けた。4問中2問完答、1問解きかけ。
目標通りに出来た。上出来だ。
( ^ω^) (やったお!!)
かつてない充実感があった。
もうこれで、辛かった数学とはオサラバだ。
でも油断はしない。
明日の社会と英語が終わるまでは。
それで、全て終わる。
-
258 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 01:13:01.89 ID:TZ4Mc8Tm0
国語、数学、世界史、地理、英語。
…終わった。
全力を出し尽くした。
これで絶対に受かるという自信でもって試験が終わった。
頭と右手を使っていただけなのに、とてつもなく疲弊した。
私大の時はそうでもなかった。センターの時もこれほどではなかった。
第一志望ゆえの緊張があったのだろう。
( ´ω`)(これで、全て終わったお)
-
260 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 01:14:01.40 ID:TZ4Mc8Tm0
受験が終わった事を実感する。
後期試験はセンターの点数からいって足きり濃厚。
だから、これで全て終わった。
その喜びを噛みしめると、急に身体がだるくなる。
( ´ω`)(もう、寝るお)
試験の恐怖にも、受験の辛さにも、怯えなくていい。
その日、ブーンは死んだように眠った。
-
261 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 01:15:22.95 ID:TZ4Mc8Tm0
試験終了から合格発表まで2週間程度の間がある。
本来ならその間に後期試験の対策をしたりするのだが、
足切り濃厚である自分にとってそれは無縁な事であった。
今まで遊べなかった分、今思いっきり遊ぼう。
そう決めて連日遊び倒した。
( ^ω^) 「受験終わったおー!!」
思いっきりはしゃいだ。
遊んでいないと試験の出来が頭をちらつくから。
無理にでも遊ばないと不安になるから。
早く合格発表の日になれ。
そう念じながら残りの期間を過ごした。
-
266 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 01:31:49.03 ID:TZ4Mc8Tm0
ラウンジ高の卒業式は今日の翌日に開かれる。
東大の発表の次に卒業式とは、どこかで経験したことがあるような日程だ。
いよいよ今日が合格発表。
試験こそ駒場キャンパスだったものの発表は本郷キャンパスで行われる。
天気は生憎の雨だったが、仕方ない。
目一杯暖かい服装で本郷行きの電車に乗った。
-
267 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 01:32:44.65 ID:TZ4Mc8Tm0
普段から乗り慣れない電車に乗ると、まるで別世界までやって来たような錯覚を覚える。
ましてそれが初めてならば尚更だ。
本郷三丁目。本郷キャンパスへの最寄駅である。
勝手が分からずに少々迷ってしまった。
やはり雨は降り続いていた。
傘を開き、本郷キャンパスへと歩いていく。
-
270 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 01:36:59.99 ID:TZ4Mc8Tm0
( ^ω^) (きっと、受かってるお!)
自己採点は、センターの圧縮配点も合わせて350点。
例年ならギリギリ受かるかどうかという点数だ。
でも自己採点はかなり厳しくつけた。
だからきっと受かっている。大丈夫。
そう言い聞かせながら赤門を目指す。
-
272 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 01:39:06.86 ID:TZ4Mc8Tm0
でももし、落ちていたら?
かすかな不安が棘となって心を刺す。
心臓が早鐘を鳴らす。
雨が強くなり息も出来なくなる。
もしかしたら。もし、また落ちていたら?
そうだ、全部一緒じゃないか。
( ω)(…全部、一緒だお)
雨が土砂降りとなって降りつける。
-
274 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 01:41:18.43 ID:TZ4Mc8Tm0
第一志望の学校の合格発表日翌日に卒業式がある事も。
試験の日と発表の日に雨が降っている事も。
それまでの滑り止めは全部、電話で合格通知を貰っている事も。
…そして、第一志望に落ちる事も。
全部一緒じゃないか。
3年前と同じ道を僕はなぞっていたのか?
心の雨はまだ止まない。
それどころか一層強く降り始める。
視界は最悪だが、すぐ先に人が見える。
-
278 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 01:45:27.65 ID:TZ4Mc8Tm0
( ω)(あれは…ブーン自身?)
雨のせいでほとんど見えないが、確かにあの影は自分だ。
なぜいるのか。それは分からないが、確かにそこに自分がいる。
3年前の自分がいる。
真っ青な顔で息も絶え絶えな自分がいる。
まるで発表を見るなとでも言いたげに、
赤門の先への道を塞いでいる。
-
280 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 01:48:46.15 ID:TZ4Mc8Tm0
君はVIP高に落ちたときの僕か。
見て悲しい思いをするくらいなら、見ない方がいいと僕に教えてくれているのか。
過去の自分からの忠告。
見なければ結果は分からない。
受かっていたかもしれないし落ちていたかもしれない。
少なくとも、あの時のような悔しい思いはもうしない。
そんな誘惑が自分にされる。
…違う。
そんな曖昧な決着じゃ、僕は一生自分を越えられない。
-
282 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 01:52:17.75 ID:TZ4Mc8Tm0
3年前、僕は天才だった。
でもあれから僕は、自分が天才でないと知った。
だから誰よりも努力した。
今なら胸を張って言える。
僕は誰にも負けない努力をした。
( ω) (だから、今と3年前は違うんだお。
…どいてくれお)
音もなく自分の影が消えていく。
今、僕は3年前の自分に別れを告げた。
-
284 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 01:54:35.82 ID:TZ4Mc8Tm0
赤門をくぐり掲示板の場所へと向かう。
雨がいつの間にか弱まり、掲示板も見やすくなっている。
今度こそ自分の番号を。
必死でそれを探す。
あった。
-
286 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 01:58:34.34 ID:TZ4Mc8Tm0
あった、あった、あった!!
視線がそこに釘付けとなる。
何度見てもある!!
嫌になるくらい脳裏に刷り込まれた番号が、そこにある!
携帯を取り出す。
震える手で、電話をかける。
( ω)「カーチャン、カーチャン!!」
『ブーン、どうしたの?』
( ;ω;)「受かったおおおおぉおぉおぉっっ!!!!!」
そう叫んだ瞬間、確かに雨が上がった。
-
289 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 02:01:40.85 ID:TZ4Mc8Tm0
気がついたら僕は宙に舞っていた。
アメフト部の人たちが胴上げをしてくれたのだ。
嬉しさで涙が止まらない。
まだ電話していない友人を思い出し、電話をかける。
『もしもし、ブーンどうだった?』
( ;ω;)「ドクオ、受かったお!!!」
『わり、うるさくて聞こえねー。もう一回言ってくれ。何だって?』
( ;ω;)「だから、東大に受かったんだお!!!」
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290 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 02:03:44.15 ID:TZ4Mc8Tm0
少しの静寂の後、反応があった。
『…そっか、おめでとう、ブーン』
( ;ω;)「ドクオも、来年必ず来るんだお!!」
『ああ、待っててくれよ。絶対に行くから』
心なしかドクオの声が震えている。
鼻をすする音が聞こえる。
『ブーン、本当におめでとう!』
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292 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 02:07:14.89 ID:TZ4Mc8Tm0
単純な事だった。
歩いてダメなら、走ればいい。
道を走れなくなったら、空を飛べばいい。
雲を突き抜ければ、雨もない。
あまりに単純な答え。
中学校の卒業式では歌えなかった、あの歌の歌詞が頭に流れ込んでくる──
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294 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 02:09:06.20 ID:TZ4Mc8Tm0
今 別れの時
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295 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 02:09:53.58 ID:TZ4Mc8Tm0
飛び立とう 未来信じて
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297 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 02:10:46.46 ID:TZ4Mc8Tm0
はずむ 若い 力信じて
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300 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 02:11:43.36 ID:TZ4Mc8Tm0
この広い この広い
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301 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 02:13:00.33 ID:TZ4Mc8Tm0
大空に
-( ^ω^)ブーンが別れを告げるようです 終わり-
304 : ◆QGVrMyUvvQ
:2007/12/04(火) 02:15:21.29 ID:TZ4Mc8Tm0
以上で投下終わりです。
長丁場になりましたが、ありがとうございました!
明日以降も合作は続きますので、楽しみにしていてください!!
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