52 :祭り5 ( ФωФ)Mr.ギウラーの開発レシピ(夏)のようです
彼の名は杉浦ロマネスク。悪の組織の博士である。兎を狩る時も全力を尽くす彼に一切の驕りは無い。
('A`) 久々の休暇が縁日と被るなんて運がいいや
('A`) ま、恋人がいるわけでも無いし一通り遊んだら帰ろう
( ФωФ) 一人で祭にくるとは寂しい男である
('A`) ……ミスター、何してるんですか
( ФωФ) 見てわからないであるか?
('A`) ある程度予想はできますが一応聞きましょう
( ФωФ) 出店の営業
('A`) なんのですか?
( ФωФ) 出店攻略グッズ
('A`) 世界侵略グッズ作れこのポンコツ
市民が憩う祭りの街道に今一頭の虎が牙を剥く。
杉浦ロマネスク、彼の野望は尽きることを知らない。
これは
日本を舞台に繰り広げられる
正義と悪の戦いの物語である
( ФωФ)Mr.ギウラーの開発レシピ(夏)のようです
祭り。それは夏の風物詩。
封鎖した街道を神輿と踊り子が練り歩き、沿道には様々な屋台が軒を連ねる。
無機質なアスファルトに溢れかえった人々はささやかな非日常に浮き足立ち、街はまるで生き物のように活気に溢れるのだ。
神輿の通る大通りに交わる沿道。最も屋台が多くならび最も多くの人が行きかう屋台激戦区である。
その外れ、祭りの中心地である大通りから最も遠い位置にその出店は存在した。
長机を組み白い布を被せただけの簡素な品台。
売り子の日よけに設置されたカラフルなビーチパラソル。
日の光を弾き輝く品台に並んだ用途不明の品々。
そしてパラソルの日影でアイスキャンディを三本同時に舐める売り子の男。
飢えた獣を思わせる見開いた目、愛嬌のある口元、少々丸みのあるボディ。
そう、彼こそが我らが悪の組織の幹部にして技術開発局最高責任者、杉浦ロマネスク。
人呼んで「Mr.ギウラー」である。
('A`) もう一度聞きます
('A`) この店はなんの店ですか?
この、世の不幸を顔面に濃縮還元したような男の名は宇津田・B・ドクオ。
誉高き「超変身改造人間」シリーズのプロトタイプの一体であり、ロマネスク直属の保護者である。
( ФωФ) 出店攻略グッズ
('A`) さっぱりわかりません
( ФωФ) 簡単にいうと祭りをより楽しむためのアイテムである
('A`) さっぱりわかりません
( ФωФ) 論より証拠。試しに使ってみればいいであろう
('A`) 見た目はただの眼鏡ですよね
( ФωФ)いいから着けるである
(∩0A0)∩ スチャッ
(-0A0) ………
……… ζ(゚ー゚*ζ
(-0A0) ………
ζ(^ー^*ζ
(*-0A0) 、
( ФωФ) 夏祭りエンジョイ恋愛シミュレーションメガネ、名付けて
( ФωФ) 「ナツプラス」である
(*-0A0) ミスター彼女は一体
( ФωФ) メガネから発せられる特殊なパルスが脳に干渉し幻覚を見せているのである
(-0A0) …幻覚?こんなにリアルなのに
ζ(゚ー゚*ζ 幻覚だなんて酷いなぁ
(-0A0)
(-ノ%□ノ%) しゃべったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!1!!
( ФωФ) 大声をあげるでない
( ФωФ) 特殊パルスは五感全てに干渉するである
( ФωФ) 声はもちろん、感触匂い味全て感じることができるのである
ζ(^ー^*ζ そういうこと。分かった?
(*-0A0) は、はい…
ζ(゚ー゚*ζ じゃぁ行こっか
(-0A0) え?
ζ(^ー^*ζ どうせ一人なんでしょ?一緒に見てまわろ!
(*-0A0) は、はい!!
( ФωФ) …行ったか
( ФωФ) 我輩の心血を注いだ廃人育成システムの実験のためである
( ФωФ) 存分に死んでこい
( ФωФ) さて。我輩はナツプラスの説明でもするであるか
___________
【ナツプラス廃人育成機能その@ 〜精神支配〜】
ナツプラスは某ゲームを元に開発したリアルタイム、リアル感覚恋愛シミュレータである。
装着者の五感を支配し理想の恋人をさも現実のように作り上げる。
「偽物である」という認識は開始5分から徐々に封印。
なお、この機能はメガネを外せば自動的に解除されるので安心してほしい。
ζ(゚ー゚*ζ どっくんどうしたの?ボーっとして
(*-0A0) え、ああ。女の子と祭歩くなんて初めてだから
ζ(゚ー゚*ζ やだ、どっくん。去年だって一緒に歩いたじゃない
(-0A0) え?
ζ(^ー^*ζ ま、去年はまだ「友達」だったけどね
(*-0A0) そ、そうだったね!まさか付き合えるとは思ってなかったよ!
ζ(^ー^*ζ うふふ
さらにナツプラスのヒロイン達は過去を捏造する。これもパルスによって促進されそう思い込むように設定した。
ちなみに、幸せな思い出が少ない者ほど効果が大きいようだ。
故に大抵の毒男は@の機能で陥落する。
【ナツプラス廃人育成機能そのA 〜肉体的快楽〜】
先の機能により精神を陥落した後、さらに駄目押しとなるのがこの肉体的快楽機能である。
@でも述べたようにナツプラスは触角や嗅覚にも影響を及ぼす。
エロい、もとい賢い人間ならばすでに予測しているとは思うがヒロイン達の身体は触ることが出来る(触ったように感じる)。
触れるたびに脳内麻薬の分泌を促すよう設定したのでその幸福感、興奮度は現実の女以上であろう。
ζ(゚、゚*ζ どっくん、あのさ…
(-0A0) ん?どした?
ζ(゚、゚*ζ 手、繋いでもいい?
(*-0A0) え、あ……うん
ζ(゚ー゚*ζ えへへ、やった
(*-0A0) (手ぇやわらけぇぇぇぇぇ!!!)
お望みとあらば大人な快楽も味わう事ができるが、ヒロイン達から誘うことは無い。
故にユーザーが未経験である限りそこに持ち込むことは大凡不可能であろう。
もし出来たとして一人で宙空ににハァハァするという異様な空間が出来上がるのでオススメはしない。
【ナツプラス廃人育成機能そのB 〜遊び〜】
さて@、Aはどこにでもある一般的な恋愛シミュレーションの機能である。
ここでナツプラスの夏祭り特化機能を紹介したい。
今回の被験者にあてがわれたヒロインは金魚掬いのプロ。
彼女に金魚掬いのやり方を教わる、それが夏祭り特化機能である。
ζ(゚ー゚*ζ いい、どっくん
ζ(゚ー゚*ζ 金魚は影に集まるから自分の頭を使って影を作って集めるの
彼女達は後ろから覆いかぶさるように手を取り実際に手を誘ってくれる。
ポイの侵入角度や受けるお椀の位置、金魚の追跡の仕方。
耳元で細かな解説をしながら、胸を背中に押し付けながら、まさに手取り足取り教えてくれるのである。
(*-0A0) (むむむ、胸が!胸が!)
ζ(^ー^*ζ もー、どっくん焦りすぎ。もっと優しくね
(*-0A0) ひゃ、ひゃい!がんばります!
まぁ、周りからすればハァハァしながらテクニカルに金魚を掬う変人にしか見えないであるが。
【ナツプラス廃人育成機能そのC 〜世話〜】
ナツプラスのヒロインは甘えるだけでは無い。甲斐甲斐しく世話もしてくれる。
良き妻がそうであるように、使用者が口にする前に気が付き行動を起こすのだ。
ζ(゚ー゚*ζ ちょっとそこのベンチで休もうか
(-0A0) そうだね
ζ(゚ー゚*ζ はい、さっき買っておいたラムネ
(*-0A0) え、あ、ありがとう
ζ(^ー^*ζ どう致しまして
(*-0A0) ぷは、うまい
ζ(^ー^*ζ うふふ。私冷やしパイン買ってくるね!
(*-0A0) うん
(*-0A0) …幸せだ
無論彼女が持ち出す飲食物もパルスが脳に干渉し見せた幻覚である。
周囲には笑顔で飲み食いのパントマイムをする変人にしか見えない。
が、実際に買って食べるよりも経済的なのでなんら問題は無いであろう。
【ナツプラス廃人育成機能そのD 〜別れ〜】
出会いがあれば別れがある。一夏の恋とは駆け抜けるように過ぎ去るのだ。
そうした甘くほろ苦いチョコレートのような経験を経て少年達は大人になってゆく。
(-0A0) どうしたの?
ζ(゚ー゚*ζ ……どっくん私ね
ζ(゚ー゚*ζ 海外に引っ越すことになったの
(-0A0) !!
ζ(゚ー゚*ζ 本当は今日の朝だったんだけど、パパとママに無理言って、待ってもらったんだ
(-0A0) そんな…!
ζ( - ζ ごめんね黙ってて
(-0A0) デレちゃん…
ζ(^ー^。ζ 私のことなんかさっさと忘れてさ、いい人見つけてね!
(-0A0) ……待ってる
ζ(゚、゚*ζ え?
(-0A0) いつまでだって、君のことを待ってる
ζ(;ー;*ζ ……ありがとう、どっくん…
『そして僕たち二人は強く抱き合い、全てを忘れるように熱く口付けを交わす。
絡みあった二人の唇が解けるころにはそこに彼女の姿は無かった。
僕は賑やかな人混みの中、そっと呟く。』
('A`) ずっと待ってるよ……
こうして使用者は別れを乗り越え一つ大人になるだろう。
正直な話、どうしても数時間でバッテリーが切れてしまうために苦し紛れにつけただけの機能なんであるが。
__________
( ФωФ) どうだったであるか?
('A`) 素晴らしく、そして恐ろしいアイテムでした
('A`) 正直2〜30万くらいなら払える気分です
( ФωФ) このパルスは脳に負担がかかるから暫くは余韻が残ってそういう酔ったような気分になるである
( ФωФ) その隙に続きのデータチップと専用バッテリーを高額で売りつける
( ФωФ) 組織の資金繰りと一般人の精神破壊が同時に出来るである
('A`) なんか久々に恐ろしいアイテムを見た気がします
( ФωФ) であろう。さて、今日の営業時間は終わりである
('A`) あ、俺も帰ります
( ФωФ) あ、そうだドクオ
('A`) ?なんです?
( ФωФ)死ぬなよ
('A`) ?
【ナツプラス廃人育成機能幻のE 〜黒歴史〜】
ナツプラスから放たれている特殊パルスは脳にそれなりの負担をかける。
故に使用を辞め記憶が正常になったとしてもしばらくの間は地に足のつかない状態だ。
正常に見えて冷静さは無くどちらかといえばナツプラスをつけている状態に近いまま。
それ故に真実を思い出してもヒロイン達との幸せな時間をなんら問題無く反芻できる。
が。
(゚A゚) うぉぉぉおええええぁぁぁ!!!!!!!
(゚A゚) ぷゲラ!!ぷゲラ!!!
(゚A゚) おんぎゃああああ!!!
時間が経過し、全てが正常にもどれば別である。
誰も居ない空間に笑顔で話しかけ、誰も居ない空間に手を差し伸べ、存在しない胸の感触にニヤニヤとし、ありもしないラムネを飲んでゲップをし、挙げ句の果てには虚空に本気のキス。
しかも老若男女問わぬ大勢の人の前で。
('A`) …………もう、外になんか出られない
('A`) 鬱だ死のう
これこそがこのナツプラスの真骨頂と呼べるかもしれない。
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彼の名は杉浦ロマネスク。
彼に人の情は無く。
彼に正義の心は無い。
彼の心にあるのは欲望一つ。
夜に響く叫びは子守唄。
天才は世界を征する夢を見る。
( ФωФ)Mr.ギウラーの開発レシピ(夏)のようです
おわり
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