82 :祭り7 ドクオの夏祭りのようです




―――夏、それは恋の季節。
それは前に座っている女子のブラ紐が気になる季節。
それは街の女たちが薄着になり、運がよければ海ではポロリが見られる季節。

そして、最も俺が鬱になる季節でもある。


    |                       \
    |  ('A`)       ドンドンピーヒャラキャッキャ
   / ̄ノ( ヘヘ ̄ ̄               /




('A`)「もう祭りの日だったっけ……ウツダシノウ」

外からかすかに聞こえてくる祭囃子……。
若い男の笑いと、女達のはしゃぐ声。
それが組み合わさると、ギシアンよりなお強力な催鬱効果がある。

リア充死ねえ!とか、そんな気力も奪われるくらいだ。


('A`)「あーあ、いきなり俺死なねえかな。
    隕石とかがこの街に直撃したりして」

この時期に実家に帰ってくると毎回こんな気分になる。
……次回から帰省の時期をずらしてみようかな。
マジでこのまま祭りの音を聞いていると自殺してしまいそうだ。

('A`)「……ちょっと早いけど、抜いて寝るか」

PCを起動して、行きつけのアダルト動画サイトへとんだ。
……だがサイトのトップを一目見るなり、俺はブラウザを閉じることになる。
「夏祭り!人気女優特集!」という宣伝文がそこに載っかっていたのだ。

ファック。お、ちょっとうまかったかな。

('A`)「そうでもねえか」

('A`)「……どいつもこいつも浮かれ騒ぎやがって」

乱暴に電源を落とすと、俺はタオルケットを被った。
祭囃子は、無情にもその薄い生地を貫通して俺の耳に入り込んでくる。
お布団ちゃんが恋しい、ああ、俺にも彼女がいればこんな気分にはならないのに。



('A`)「はぁ」

コンコン

「ドクオ、起きてる?」

ため息をついた時、カーチャンがドアをノックした。
どうぞ、という返事の前にカーチャンは部屋へと入ってきた。

J( 'ー`)し「あら、ドクオもう寝るの?」

('A`)「……おう」

J( 'ー`)し「健康的でいいけど……ねえお祭り、行かない?」

(;'A`)「はぁ?」

あまりにも唐突な提案だった。
っていうか、一緒に行くのか?

(;'A`)「え、何?マジで言ってるの?
     もう俺23だしさ、親といく歳でもねえだろ」

J( 'ー`)し「トーチャンがね、久しぶりにドクオとって聞かないのよ」

(;'A`)「トーチャンが?」



父がそんな風に祭りに誘うなんて何年振りのことだろうか。
それこそ、十年振りくらいだろう。

J( 'ー`)し「とにかく服着替えておいで、もうトーチャン玄関で待ってるから」

(;'A`)「え、あ、うん」

優柔不断な俺が、厳しい父に逆らえるはずもない。
俺は部屋着を脱ぐと、さっと着替えて玄関へと出た。

. _、_
( ー` )「来たか」

('A`)「うん」

J( 'ー`)し「あーいいわよねえ、このお囃子!
     いくつになっても心踊るっていうか」


('A`)「……ああ」

父は着流しを着て、玄関の外で一人煙草を吸って待っていた。
煙草の香り、父の着流し、夜の香り。俺の脳裏に幼い頃の祭りの思い出が蘇ってくる。
……なんだか、妙な気分だ。



. _、_
( ー` )「じゃあ、行くか」

('A`)「そういえばさ、神輿ってトーチャンもう担がないのか?
    毎年楽しみにしてたよな、この時期になると」

俺がふと思いついてそう言うと、カーチャンの表情が曇った。

J( '-`)し「……去年で最後だったのよ。
     年齢制限みたいのがあってね」
. _、_
( ー` )「……俺ももう爺さんって言うわけだ。
    少なくとも町内会の決まりじゃな」

('A`)「……そうか」
. _、_
( ー` )「でもさ、祭りの笛と太鼓聞いてるとたまんなくなっちゃってよぉ。
    どうせドクオも行きたくないだろうが、ちょっと付き合ってくれ」

('A`)「そういやなんで俺もなんだ?
    二人で行ってくればいいじゃん」
. _、_
( ー` )「いいじゃないか、たまの休みなんだから」

('A`)「……まあ、そうだな」

なんというか、今度は寂しそうな父の顔を見ると断れなかった。
それに、ちょっとだけ祭りにも興味が出てきた。
行きたい、と半分ぐらい思い始めていた。



祭りをやっている通りに着いてから、もっぱら家族三人で出店を回った。
……やはり祭りというものは一種独特の雰囲気を漂わせている。
色んなのぼりと、喧騒と様々な食い物の混じった匂いはいつの間にか俺を引きつけていた。

J( 'ー`)し「本当に久しぶりだねぇ、三人でってのも」
. _、_
( ー` )「最後はあれか?中学生の頃か」

('A`)「……」
. _、_
( ー` )「……ドクオ?」

(;'A`)「ん?ああ、そうだったと思う」
. _、_
( ー` )「……懐かしいな」

父は、懐かしげというより寂しげにそう言った。
……父の背中は、記憶の中の物より頼りなさ気に、そして小さく見える。
それでも俺の貧弱な体躯に比べれば相当に頑健だったが。



そのうち俺の住んでいる地区の神輿が、俺たちの前から現れる。
目の前を歩く父が、ぱたっと足を止めた。
. _、_
( ー` )

('A`)

J( 'ー`)し

神輿を担いだ男たちに、祭りの客達が何やら声をかけたりしていたが、
俺たち家族は黙ってそれが通り過ぎていくのを見送った。
父は、腕組みをして。

……ほかと比べて小さな神輿が人混みの中に遠ざかって見えなくなると同時に、
父がボソリと「なってねえな」とつぶやく。
それからふっ、と鼻から短く息を吐くとそのまま前へと再び歩き出した。

父がそれに関してなにか言ったのは、この時はこれだけだった。

('A`)「ん、そういえばいまどこへ向かってるんだ?」

J( 'ー`)し「ふふふ、楽しみにしてな」

このまままっすぐに進むと山がある。
あ、もしかすると……。
. _、_
( ー` )「まあ、行けば分かる」



祭りのただ中を抜けて、俺達が着いたのは神社の階段の前だった。
町内会の本部テントの中では、じいさんが椅子に座って居眠りをしていた。

. _、_
( ー` )「登るぞ」

J(;'ー`)し「ごめん、あたし疲れちゃった」
. _、_
( ー` )「うん?そうか、じゃあちょっと待ってるか?」

J( 'ー`)し「そうね、少し休んだら行くから先にドクオと行ってて」

(;'A`)「うわあ、ここ登るのかよ」
. _、_
( ー` )「……たまには体を動かせ」

(;'A`)「たしかに運動にはなりそうだけどさあ」

しぶしぶ、父の後ろについて階段を登った。
……案外登るのは苦ではなかった。
中学の頃は野球部の練習でここを登ったり下ったりしたっけなあ。

その時の貯金で、俺はなんとかやっていけてる。
そういえば野球部入部を勧めたのは父だったな。
病弱な俺を心配して、当時の担任で部活の顧問の先生に「どうか鍛えてやってください」。
と、家庭訪問の時に言っていたのを思い出した。


. _、_
( ー` )「なあ、ここ来たの覚えてるか?一回だけ二人だけで」

('A`)「え?二人で?どうだったかな」
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( ー` )「……ここの神社の前でキャッチボールしただろ」

('A`)「ああ」
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( ー` )「あん時は俺が取りそこねたボールが神社の方に跳ねてって、
    ガラス割っちゃったんだ。それで二人して神主に叱られた」

(;'A`)「そんな事あったっけ?」
. _、_
( ー` )「なんだ、忘れてるのか?
    あの時はなんというか情けなかったよ、我ながら」

('A`)「……それはたしかに情けないな」
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( ー` )「おいおい、フォローしてくれよ」

父の表情がほころぶ、それが提灯の薄明かりに照らされるのが見えた。
……長い長い階段と、提灯の灯、父の笑み。
なんだか夢のなかのような光景だった。



階段を登り切った先の神社の境内は静かなものだった。
こんな日は物陰でギシアンする連中がいる事が多かったのだが、珍しく誰もそこにはいなかった。
. _、_
( ー`;)「ふう、ひさびさだとこたえるな。
    寄る年波ってやつか」

(;'A`)ゼエゼエ「安心しろトーチャン、俺も、しんどい、から」
. _、_
( ー`;)「あらら……しょうがねえな」

息も切れ切れに俺がそう言うと、父は首に掛けていたタオルを放ってよこした。
黙ってそれを受け取ると、俺はざっと顔を拭った。
そうして今度はそのタオルを俺が首に掛ける。

それから小さなベンチのところへよろよろと歩き、そこにどさっと腰をおろした。
父はまたその隣りのベンチに腰掛ける。

. _、_
( ー` )「だらしねえぞ、大の男がこのくらいで」

(;'A`)「悪かったな」
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( ー` )「……お前が小さい頃はカーチャンが心配したもんだ。
    お前が元気に育つかとか、病気しないかとか」

('A`)「それはあなたもでしょ!……ってカーチャンがよく言ってるよな。
    そういう話になると」
. _、_
( ー`;)「まあ、確かにそうなんだがな」

父は小さな声でそういうと頭をバリバリと掻いた。


. _、_
( ー` )「……お前があんまり何度も寝こむからここで願かけたりした。
    酒を絶って、煙草やめて……最近は油断して煙草は吸ってるが」

('A`)「酒も飲んでいいよ、俺はもうたぶん大丈夫だから」
. _、_
( ー` )「いや、飲めんな。酒をもう体が受け付けねえんだよ。
    まいったよな、好きだったのに」

('A`)「知らなかった。ありがとな」
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( ー` )「ん?いやいいんだ。酒豪ってわけじゃなかったから……」

('A`)「じゃなくて、願掛けの話だよ」
. _、_
( ー` )「お……話してなかったか?」

('A`)「うん」
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( ー` )「そうか」

思えば、あまり会話のない父子だった。
小さな頃は厳しい父に近寄りたくなかったし、
思春期になるといちいちうるさいのでそもそも家にあまり帰らなかった。

だから、こうしてじっくり話すのは本当に久しぶりのことだった。


それから父と、母が来るまでとりとめのない話をして過ごした。
ふたりとも口下手だったが会話が途中で止まることはなかった。

父は俺の小さな頃とかのことを本当にくだらないことまで覚えていて、
ずうっとそのことを喋り、俺はそれに相槌を打った。
時折、父は微笑み俺もそれにつられて笑った。

しばらくして母がのんびりと階段から姿を現した。
そして俺が父のタオルを首から掛けているのを見て、笑った。

J( 'ー`)し「はあ、遅くなっちゃった」
. _、_
( ー` )「大丈夫か」

J( 'ー`)し「平気、ところでまだ始まってない?」
. _、_
( ー` )「ああ」

('A`)「何の話?」
. _、_
( ー` )「三年に一度……覚えてないか?」

('A`)「……三年?」

('A`)「あ!」



その時だった。
やかんが湧いた時のような音が微かにして、ぱっと周りが明るくなる。
俺がはっとして上を見上げると頭上には大輪の花が咲いていた。

赤、緑と色を変えながら、一瞬の光輝は夜闇の中に姿を消す。
そして遅れて、腹に響くようなどおおんという音が響いた。

('∀`)「花火か……!」
. _、_
( ー` )「これを見せたかったんだ。
    三年前はもうあっちに帰ってたからな」

J( 'ー`)し「きれいねぇ」

町が少なくない金を出して上げる、三年に一度のの花火だった。
かなりきちんとした花火師を呼んできて上げるので、市外からも人が来るほどだ。
子供の頃は毎回これを家族でここに見に来ていたものだ。

なんでいままで忘れていたんだろうか。



下の方からは花火が打ち上がるごとに歓声が聞こえてくる。
家で聞いたカップルの声と大差ないものだったが、いらつくことはなかった。
全く自分でも不思議なものだった。

. _、_
( ー` ) J( 'ー`)し

父と母の方を見てみると、二人は一心に空を見上げていた。
久しぶりに家族三人で見る花火だ。また格別のものがあるのだろう。
それは俺にとっても同じだった。

('A`)「……たまには悪くないな」
. _、_
( ー` )「ああ」

J( 'ー`)し「そうねぇ」

家族で祭りというのも悪くない。全く悪くない。
まあ、彼女とのほうがきっと恐らく楽しいんだろうが……。
ひとまず今はこれで満足しておこうか。それが俺相応ってもんだろう。

そうやって俺は一人で頷いた。
それを見ていたらしい父も、何故か頷いていたのがたまらなくおかしかった。

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