99 :祭り8青いハンカチのようです
川 ゚ -゚)「……よし」
姿見の前で一回転すると、薄桃色の浴衣の袖がふわりと靡く。
帯のズレなども見当たらないし、どうやら満足に着こなせているようだ。
足の先まで確認し、前髪の些細なハネをしつこく気にしていると、チャイムの音が鳴り響いた。
川;゚ -゚)「ぬぅう! もう来たのか! まだ約束の時間ではなかろう!」
しかし時計を仰ぎ見るときっかり七時を指しており、
もうそんなに経っていたのかと、金魚の影絵の施された巾着をひっ掴み慌てて玄関に向かった。
('A`)「や、やぁ」
川 ゚ -゚)「わざわざ迎えに来させてすまんな」
('A`)「いや、人ごみで待ち合わせるよりいいよ」
そうか、と返事をして巾着を持っていない方の手を差し出す。
('A`)「じゃ、じゃあ、行こっか」
彼が私の手を取り、私たちはぎこちなく歩き始めた。
二人で来る初めての夏祭り。
そんなに大きなお祭りではないが、それでも小さな神社の境内は近所の子供たちで埋め尽くされていた。
('A`)「は、はぐれない、よう、手を握ったままでも、いいかな?」
断るわけがない。
言葉にする代わりに、私は彼の骨ばった手を握る力を強くした。
彼が、照れ臭そうに笑った。
色んな出店を見て回った。
彼も私もそんなに背が高い方ではないから、見えるのは人の背中ばかりだったけど、それでも楽しかった。
金魚すくいは二人とも惨敗で、来年に向けて特訓することにした。
私がベビーカステラを食べたがったら、綿あめを物欲しそうに見ていた彼は嫌な顔ひとつせずに一緒にベビーカステラを食べてくれた。
それから焼きそばも頬張る彼の横顔を見ながら、細っこくてもやっぱり男の子なんだなぁとしみじみ思った。
楽しい時間は早く過ぎるものだ。
話したいことや見たいものが、尽きるどころか増えていく一方だというのに、
だんだんと人がまばらになっていく。お開きの時間は近いようだ。
('A`)「……もういいかな」
彼が、私から手を離す。
もう、お別れなのかな。
……最後まで、浴衣のこと何も言ってくれなかったなぁ。
少し沈んだ気持ちでてこてこと歩いていると、ふいに足元でブツッという音が聞こえて、
川;゚ -゚)「えっ……」
とたんに私はバランスが取れなくなり、そのまま転んでしまった。
(;'A`)「す、素直さん!? 大丈夫!?」
川;x -゚)「つつ……あ、ああ、平気、だ。
……あ……浴衣が……」
綺麗な桃色は、砂ぼこりにまみれて見る影も無くなってしまった。
川 ゚ -゚)「……」
鼻緒が、切れてしまったらしい。
……こんなことになるなら思いきって浴衣の感想聞いておけばよかったなぁ。
(;'A`)「す、素直さん、ちょっとごめんね」
彼が青いハンカチで必死に汚れを擦り落とそうとしている。
しかし汚れは薄くなり広がるばかりだ。
川;゚ -゚)「もういい、帰って着替えるよ」
これ以上汚れた私を見せたくない。
別れも嫌だが、砂まみれのまま一緒にいるのも嫌だ。
だが彼は私の言葉を無視して、何度もハンカチを裏返し、砂を払い、畳み直し、汚れと戦い続けた。
川;゚ -゚)「もういいってば! 汚いから!」
(;'A`)「汚くない! 素直さんは綺麗! 輝いてる!」
川*゚ -゚)「なっ……」
(;'A`)「ただでさえ綺麗なのに、浴衣なんて着るから……俺なんかが隣に居て良いのかってくらい、今日の君は輝いてる」
(;'A`)「手を繋ぎっぱなしに……しとかなきゃ……
ほっといたら、他の男に連れてかれちゃいそうだった。不安だった」
突然何を言い出すのだろうこの男は。
急激なショックで心臓がはち切れんばかりに鳴っている。
いい意味で、死にそうだ。
('A`)「ごめんね……肝心なときに、手を離してて。
なにやってるんだろうね……情けないね。彼氏失格だ……」
川*゚ -゚)「……そう思うなら、名誉挽回のチャンスを与えるから、彼氏らしさをみせてくれ。」
(;'A`)「な、なに?」
川ノ*゚ -゚)ノ「だっこ」
(;*'A`)「え、ええぇえぇえ!?」
川*゚ -゚)「鼻緒が切れてて歩けんのだ。仕方なかろう。根性見せろ彼氏」
(*'A`)「が、がんばります」
そして、彼が私の背中と腿を抱えて持ち上げた。
女の子なら誰しもが憧れる、お姫さまだっこという奴だな。もう死んでも後悔はない。
……いや、キスくらいはしときたいな。まだ死ねん。
川*゚ -゚)「大丈夫か?」ギュッ
(;'A`)「お、おぉ、うん。平気、だ、よ」フラフラ
明らかによろめいている彼がなんだか可愛くて、顔がにやけるのが止められない。
どこまでもつのか見ものだ。
一秒でも長く、続けてくれるといい。
彼はゆっくりと、石段に向かって歩き出した。
川*゚ -゚)「浴衣、気合い入れて着てみたんだぞ」
(;'A`)「う、うん。かわい、いよ」プルプル
川*゚ -゚)「そう思ってるならもっと早くに言え! 会ってすぐさま言え!」
(;'A`)「ごめ、ん」フラフラ
川*゚ -゚)「なんとも思ってないのかと不安で仕方なかったわ!」
(;'A゚)「ごめ、ごめん。言うの……照れ臭……くて」ヒューヒュー
川*゚ -゚)「転ばなきゃ最後まで言ってくれなかったのか? これから何かと転んでやろうか?」
(;゚A゚)「そっ……そんな、やめて……あぶない……あぶない……から」プルプル
川*゚ -゚)「そう思うならもう少し口下手を直したまえ!」
川*゚ -゚)「でも、私は、言葉に出さずとも誰よりも私を想ってくれている、ありのままの君が大好きだよ」
川*゚ -゚)「……私は幸せものだ」ギュッ
もう心臓は限界値まで跳ね上がっている。これ以上ないくらいドキドキしている。
だから、少しくらい照れ臭いことを言っても、既に限界まで高なっている鼓動が更にヒートアップすることはない。
今なら、どんな恥ずかしいことも素直に伝えられる。
川*゚ -゚)「このまま教会まで運んでくれるか。浴衣で結婚式というのも悪くない」
(; A )「…………」ヒューヒュー
川*゚ -゚)「なぁ、それとも、地平線の彼方にでも連れ去ってくれるか?」
(; A )「…………すな、お、ざん」ヒューヒュー
明らかに異常な呼吸音に紛れて彼が私の名前を呼んでくれた。
ちらりと彼の顔を見る。
(;;゚;A'゚;;)
あ、さっきの青いハンカチのような色だ。
私は自然にそう思った。
(;;゚;A'゚;;)「ご……べん……げんか、い………」
それが私の聞いた彼の最後の言葉だった。
石段の途中で力尽きた彼と縺れあうように転がり落ちた私は、全身泥まみれでそのまま救急車で搬送され、頭を五針縫う手術を受けた。
彼の方は骨を折ったらしく、お互いにベッドから動けず、
顔をあわせられないまま……彼は私のもとを去った。
看護師さんづてに受け取った手紙には、
('A`)『筋トレの旅に出ます。怪我させて本当にごめんなさい』
とだけ記されていた。
……来年の夏には、また迎えに来てくれるだろうか。
今度は見違えるようなマッチョになって。
川 ; -;)「それまでに……私もダイエットしておくな……」
そう一人ごちて口に入れたポテチは、コンソメなのに塩の味しかしなかった。 おしまい。
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