117 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 19:46:04 ID: FVOz5oBx0
山の中、ドクオはあてもなくさまよっていた。(;'A`)「ちくしょう……このままじゃ時間に遅れちまう。
連絡しようにも携帯は圏外だし……あの野郎」
もし今度会ったら、顔面に一発お見舞いしてやる、とドクオは誓う。
('A`)「にしても……」
(*'A`)「これ、いくらあるのかな?」
手に持った紙袋を下ろし、中の札束を数え始めた。
('A`)「ひいふうみ……1000万以上あるな。こんな大金見たことねえや。
まあどうせ汚い金だ。あとで警察に渡そう」
札束を数えるのをやめ、再び歩き出そうとしたその時だった。
「助けてええええええええ!!!!!」
(;'A`)「えぁ!?」
聞こえたのは、天に響き渡る大絶叫。
そして、木々の向こう側から、何かがやってくるのが見えた。
(;-@∀@)「ひいいいいいいい!!!」
(;'A`)「うわっ! なんだぁ!?」
(;-@∀@)「た、たすっ、助けて下さあああぁぁぁい!!!!!」
現れたのは、ドクオに負けず劣らずしょぼくれた男だった。
よれよれのシャツに、汚れたメガネ、ボサボサの頭。
浮浪者一歩手前のような風貌をしている。
(;-@∀@)「はわわわわわ……」
('A`)「何があったんだ。クマでも出たか?」
(;-@∀@)「もっと恐ろしいものです!」
男は後ろを指さし、ぶるぶると震えている。
数秒後、ガサガサと茂みが震え、そのクマよりも恐ろしいものが姿を現した。
鋭い目つき、隠しきれていない入れ墨、体の傷、サングラス、派手なシャツ。
それはそれはテンプレートな、その筋の人たちであった。
ヤクザ「誰だてめえ」
(;'A`)「へ?」
ヤクザ「人いるじゃん。だからバラすの夜になってからにしようって言ったんだよ」
ヤクザ「あ……やべ。携帯つながんねーや」
ヤクザ「こいつも殺します?」
ヤクザ「ちょっと待てよ。ジョルジュさんがまだ来てない」
(゚A゚)(え……? 何これ……)
男たちは、殺すという言葉を平然と使った。
それは脅しでも何でもなく、殺しが日常的になっている者たちの会話であった。
(;-@∀@)「たたた、助けて下さい……」
(;゚A゚)「な、な、何でだよ……俺知らないよ……」
ヤクザ「うるせえぞ。黙れ」
(;'A`);-@∀@)「はひぃっ!」
ドクオとメガネの男は、地面に正座させられた。
周りを囲まれ、逃げ道を塞がれる。
ヤクザ「お、きたきた」
数分後、縦にも横にもでかい大男が現れた。
どうやら彼らのボスらしい。
_
( ゚∀゚)「……お前、誰?」
(;'A`)「あ……僕はただのサラリーマンでして……」
_
( ゚∀゚)「何でここにいるの?」
(;'A`)「えっと……自分でもよくわからないというか……その……」
_
( ゚∀゚)「他に連れは?」
(;'A`)「……いないです」
ヤクザ「一応辺りを見てみたけど、誰もいませんでした」
_
( ゚∀゚)「そうなんだ」
_
( ゚∀゚)「じゃあこいつも殺そう」
(゚A゚)「ひぃぃぃぃ! そんな!」
(;'A`)「あ……そうだ」
ドクオは持っていた紙袋を広げて、中の札束を見せた。
ヤクザ「おお、すげえ」
(;'A`)「おおっお、お金ならあります!
それにこの男とは全くの無関係であって僕は殺される筋合いなんか全く……」
(;-@∀@)「そんな薄情な!」
(;'A`)「うるせえ!」
_
( ゚∀゚)「お金あげるから逃がしてくれって?」
(;'A`)「……」
_
( ゚∀゚)「別にいいよ。殺して奪うから」
(゚A゚)(話になんねえ――――!!!)
ジョルジュはコートの中に手を入れた。
同時に周りのヤクザたちもエモノを構え始める。
ドクオはそれがスローモーションに見えた。
(゚A゚)(駄目だ……今度こそ死ぬ……)
(゚A゚)(……死ぬ?)
思い描いていた未来が、音を立てて崩れ始める。
セーラー服を着た娘。
校門の前、笑顔でピース。
初めての彼氏。
嫉妬する自分。
大学生になり、娘は一人暮らしを始める。
娘のいなくなった家が、妙に広く、静かに感じる。
結婚式、娘の晴れ着。
スピーチで涙を流す自分。
出産、孫が生まれる。
育児に悩む娘を優しく諭す。
老後は孫の成長を暖かく見守る。
娘は正月や盆には必ず会いに来てくれる。
そしていつも、隣には妻がいる。
ベッドの中で、自分の心臓が止まるまで、彼女は傍にいる――。
('A`)「……帰るんだ」
ヤクザ「あ?」
ヤクザ「何だって?」
('A`)「家に帰るんだ。俺は」
ヤクザ「いや、もう無理だから」
ヤクザ「もうすぐ土に還るんだし」
ヤクザ「あ、それうまくね?」
_
( ゚∀゚)「……」
(;-@∀@)「……」
銃口がドクオたちに向けられる。
すると突然、ドクオはあさっての方向を指さして叫んだ。
('A`)「あ! 希志あいのだ!」
ヤクザ「マジで?」
('A`)「今だ、逃げるぞ!」
(;-@∀@)「は、はい!」
一瞬の隙をつき、ドクオは男の手を取って走り出す。
ヤクザ「やべ。逃げられた」
ヤクザ「ばーか」
ヤクザ「好きなの?」
ヤクザ「俺ファンなんですよ」
_
( ゚∀゚)「……追え」
(;'A`)「はあ……はあ……」
(;-@∀@)「ひい……ひい……」
ヤクザ「おーい待てよー」
ヤクザ「もう殺さないからさー話し合おうぜー」
(;'A`)「ちくしょう! もっと早く走れよ!」
(;-@∀@)「ぼ……僕はっ……今までずっと……走ってたっ……から……」
(;'A`)「追いつかれるぞ!」
(;-@∀@)「ひぃ……! ひぃ……! も、もう駄目だ……もう走れない……!」
(;'A`)「ちっ……!」
地面にへたれこむ男。
ドクオは足を止めざるを得なかった。
(;'A`)「立て! 走るんだ! 殺されるぞ!」
(;-@∀@)「はぁ……はぁ……僕の事は構わず……」
(;'A`)「馬鹿野郎! 見捨てておけるか!」
(;-@∀@)(さっき思いっきり見捨てたじゃないか……)
(;-@∀@)「それに……生き延びても仕方ないよ。
どうせこの先生きてても……良いこと無いだろうし……」
(#'A`)「何だと……」
(;-@∀@)「……」
(#'A`)「……お前最低だな。もう駄目? 生きてても仕方ない?
お前みたいな奴は一杯見てきたけど、お前は特に最低だな」
(;-@∀@)「……そうさ。僕は最底辺の人間だよ。3浪して入った大学を1年で中退。
ようやく入れた会社ではお荷物扱い。仕事も雑用ばっかり。
お見合いも全部失敗。親も見放した。僕は最低さ。クズなんだよ……」
(#'A`)「……」
(;-@∀@)「さあ、早く行きなよ。君だけなら逃げられるかも」
(#'A`)「俺に指図すんじゃねえよ」
ドクオは男の首根っこを捕まえ、無理矢理立たせた。
(;-@∀@)「やめろよ! 何すんだよ!」
(#'A`)「てめえ見てるとイライラすんだよ!」
('A`)「……昔の俺を見てるみたいでな」
(;-@∀@)「え……」
('A`)「俺だってそうだった。4流大学を出て、糞みたいな会社で働いてた。
毎日朝がくるのが怖かった。寝てる間に死んでたらいいな、なんて考えてた。
でもな! 俺は変わった。大切なものが出来たから、俺は変われたんだ」
(-@∀@)「大切な……もの」
ヤクザ「あ、いたいた。おーいこっちにいたぞー」
(#'A`)「いいか! 人は変われる! 最底辺なんだから後は上がるだけだ!
上がってみせろ! お前なら出来る! 俺が出来たんだからな!」
(-@∀@)「……まだ、間に合うのかな」
ヤクザ「おい。動くなよ」
('A`)「間に合うさ。手遅れなんてねえ」
(-@∀@)「……」
ヤクザ「手間かけさせやがって……」
(-@∀@)「あ、紅音ほたるだ!」
ヤクザ「マジかよ!」
(;'A`)「ナイス!」
(#-@∀@)「うおおおおおおお!」
男はそっぽを向いていたヤクザに体当たりをぶちかました。
穴が出来た包囲網を飛び出し、二人は再び走り出す。
ヤクザ「いってぇ……また引っかかった」
頭を抱えるヤクザの後ろに、いつの間にかジョルジュがいた。
手にサイレンサーをつけた拳銃を持って。
_
( ゚∀゚)「あのさ、悪いけどお前クビ」
ヤクザ「え?」
ヤクザの眉間に、銃の照準が合わせられる。
発砲音はほとんどしなかった。
その代わり発射と共に、眉間に穴が空き、後頭部から血と肉片が飛び散る。
地面に倒れた男は、数秒間手足を痙攣させていたが、すぐに動かなくなった。
ヤクザ「あーらら」
ヤクザ「AVの見過ぎっすね」
_
( ゚∀゚)「行くぞ」
ヤクザ「はい」
(;'A`)「はあ……! はあ……!」
(;-@∀@)「ふう……! ふう……!」
(;'A`)「……?」
遠くから、木々の間を抜けて妙な音が聞こえてきた。
最初に気が付いた時は、川のせせらぎのような微かな音だった。
しかし音が近くなると共に、地響きのような激しい音になってくる。
(;'A`)「!」
眩しい光に一瞬目がくらむ。
林を抜けて、開けた場所に出たのだ。
(;'A`)「う」
(;-@∀@)「……しまった」
そこは切り立った崖に囲まれていた。
水しぶきを立てて、豪快に水を吐き捨てる滝がすぐ傍に見える。
地響きのような音はこの滝が出していたのだ。
ヤクザ「みーっけ」
ヤクザ「だから言ったじゃん。行き止まりって」
林の奥から、目を光らせた人型の獣たちが下りてくる。
ドクオたちは諦めたように、ただ棒立ちで滝壺を見下ろしていた。
(;'A`)「……」
(;-@∀@)「……!」
ドクオは何かを確認するように、男をじっと睨んだ。
男は一度だけこくりと頷いた。
彼らは、諦めてはいなかったのだ。
ヤクザ「銃ある?」
ヤクザ「俺持ってません」
ヤクザ「あー持ってる持ってる。俺がやるよ」
('A`)「お前、名前は?」
(-@∀@)「……あさぴー。君は?」
('A`)「ドクオだ。お前が死んだら、墓くらいは作ってやるよ」
(-@∀@)「ありがと」
ヤクザ「ねー何喋ってんの?」
('A`)「……ただの世間話だ」
ヤクザ「ああそう。じゃあ……」
ドクオたちは同時に踵を返し、前に飛び出した。
後ろから怒声が聞こえたが、二人が振り返る事は無かった。
地面が途切れ、体が宙を舞う。
あさぴーはボサボサの髪を振り乱しながら、ドクオに笑いかけた。
ドクオはかっこつけて笑い返そうとしたが、上手く笑うことが出来なかった。
ヤクザ「うわ、すげえ」
ヤクザ「やりやがったよあいつら」
_
( ゚∀゚)「どうした」
ヤクザ「いや、あいつら飛び降りたんすよ。ここから」
_
( ゚∀゚)「……」
ヤクザ「死んだでしょうね。早く回収に行きましょう」
_
( ゚∀゚)「……本当に、死んだのかな」
ヤクザ「え?」
_
( ゚∀゚)「あさぴーは知らんが、あの男は生きてるかもしれない。
ああいう目をする奴は、中々しぶといんだよ」
「はあ……」ヤクザが気の入ってない返事をする。
ヤクザ「もし生きてたら、どうするんですか?」
_
( ゚∀゚)「もちろん始末する」
ヤクザ「やっぱり」
理性と狂気を併せ持つ、獣たちの目が光る。
狩りは、まだ始まったばかりだった。
Act3 『ジョルジュ一家、始動』 完