167 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 20:27:39 ID: FVOz5oBx0   
全身をずぶ濡れにした二人が、とぼとぼと山道を下っていた。
空は薄暗く、もうすぐ日が落ちそうである。

(;-@∀@)「携帯、繋がります? 僕はまだ圏外なんですけど……」

(;'A`)「いや……ていうか携帯壊したみたいだ。画面が映らない」

(;-@∀@)「はぁ……」

壊れた携帯をポケットに戻すと、ドクオは手に持っている紙袋に目をやった。
命を賭けた紐無しバンジーで、頭は完全に混乱していたのに、手放してはいなかったのだ。

自分のせこさを感じ、ドクオは自嘲する。

 

 


  
(*'A`)「お……おお! 橋だ!」

(-@∀@)「車も通ってますね!」

遠くに真っ赤な鉄橋が見えた。
ちらほらと車が行き交う姿も見受けられる。
遭難を回避出来た嬉しさで、疲労も忘れて二人は走り出した。

 

 

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道標の青い看板に従い、二人は鉄橋を渡っていた。
看板によるとこの道を20キロ進めば、街に出られるとの事だった。
二人は車が通る度に、手を挙げてヒッチハイクを試みたが、誰も捕まらなかった。

ずぶ濡れで薄汚い二人は、今や浮浪者と見分けがつかない。
それも山の中というのが、二人の不気味さをさらに後押ししていた。

(-@∀@)「ん、あそこに人がいませんか?」

('A`)「何処?」

あさぴーが指さした先を見ても、誰もいないように見えた。
しかし必ずいると言い張るあさぴーを信じ、目を凝らしてみる。

すると、髪の長い、女性らしき人影がぼんやりと浮かんできた。

 

 


  
(;-@∀@)「ほら……あそこのちょっと窪んでるところ……ああああ!!!」

(;'A`)「おおおおお!?」

その人影は、橋の手すりに足を引っかけ、今にも飛び降りようとしていた。
二人は重い足を引きずって、慌ててその人影に駆け寄る。

(;-@∀@)「はあ……はあ……待って!」

「え?」

(;'A`)「は、早まるんじゃない……!」

「……」

 

 


  
近くで見ると、その女性は若く、中々美しい顔をしていた。
ただ顔は青白く、目に生気が無い。

(;'A`)「人生はまだ長いぞ! 生きていれば何か良いことあるかも!」

(;-@∀@)「そ、そうですよ! 今死んだら何もかもお終いです!」

「……何よ。人の気も知らないで、いい人ぶっちゃって」

 

 

('、`*川「私の人生、もうとっくに終わってるのよ!」

 

 


 

  Act4:橋

 

 

 


  
女は手すりの上に立ち、ドクオたちを見下ろしている。
少しでも後ろに体重をかければ、彼女は数秒後にはただの肉塊となるだろう。

(;'A`)「じ、事情はしらねえけどよ……死ぬことは無いって」

(;-@∀@)「良かったら訳を話してくれませんか?」

('、`*川「あんたたちに話す事なんて無いわ」

聞く耳もたず、女は怒鳴り散らす。
彼女が激情に駆られないように、ニトログリセリンを扱う気持ちで二人は説得を続ける。

(;-@∀@)「あの……では名前を教えて頂きますか? 私はあさぴーです」

(;'A`)「俺は鬱田ドクオ。サラリーマンだ」

('、`*川「……ペニサス」

 

 


  
(;'A`)「なあペニサスさん。訳くらい話してくれても損は無いだろ?」

(;-@∀@)「……駄目?」

('、`*川「……」

「……私はもう終わりなの」。
ペニサスは、そう言って話を切り出した。

('、`*川「生きてる価値なんて無いのよ」

(;'A`)「まだ若いのに……俺たち見てみろよ。どん底の30代だぜ」

(;-@∀@)「僕はまだギリギリ20代ですけど……」

('、`*川「年なんて関係無いわよ。生きるのが嫌になれば、小学生だって死を選ぶもの。
     今まで死ぬ勇気なんて無かったけど、ようやく踏ん張りついたのよ……」

 

 


  
(;-@∀@)「……どうして、死のうだなんて……」

('、`*川「……」

きっと深刻な事情があるに違いない、ドクオとあさぴーはそう考えた。
美しい女性である為、誰かに乱暴な事をされ、やけになったのでは……など。

しかし現実は妄想より単純なり。

('、`*川「フラれたのよ」

('A`)「へ?」

('、`*川「彼氏にフラれたのよ。信じらんない。
     高校の時から付き合ってたのよ!? 結婚だって約束したのに……」

(;-@∀@)「……それだけ?」

 

 


  
('、`#川「しかもあいつ、浮気してたのよ! それも超ブサイクな女と!」

('、`*川「会社はめんどくさいし、ダイエットも失敗したし……。
     生きるのが嫌になったって訳」

(#'A`)「……」

ふざけるな、ドクオはそう言いたかった。
命は決して一人の物ではない。

そもそも一人で生きている人間なんていないのだ。
そう叫んでやろうとした。

(#'A`)「お前(-@∀@)「ふざけるなよ……」

(;'A`)「え?」

 

 


  
あさぴーによって、ドクオの言葉は遮られる。
横にいた彼は、顔を真っ赤にして怒りに震えていた。

(-#@∀@)「何が浮気だ! 何がダイエットだ! 馬鹿かお前は!」

('、`*川「はあ?」

(-#@∀@)「お前なんか生きる価値以前に生まれる価値すら無かったんだよ!」

(;'A`)「お、おい……」

('、`#川「何よ人の気持ちを踏みにじって! 私は本気で悩んだんだからね!」

(-#@∀@)「うるせぇ――――――!!!」

('、`;川「ひっ!」

 

 


  
鉄橋を響かせる咆哮が、ペニサスを萎縮させた。
「僕はなあ……僕はなあ……!」あさぴーの言葉は、怒りと悲しみが入り交じっていた。

(-#@∀@)「僕は……今まで一度も、女性と付き合った事が無いんだ!」

('A`)「……」

('、`*川「だ、だから何よ」

(-#@∀@)「お前は贅沢過ぎるんだよ! いいじゃないか恋人がいたんだから!
       美人だしスタイルもいいし! 僕を見てみろ!
       ネクラで不細工でダサくてド近眼! 何一つ良いところが無いんだぞ!」

('、`;川「そんな事言われても……」

(-#@∀@)「借金だってあるんだ! 最初は30万だったのに、一気に124万になった!
       それからもいろんなところから借りて、今や1000万だ!」

('、`;川「えぇ!?」

(;'A`)「そりゃ殺されるわ……」

 

 


  
(-#@∀@)「お前みたいな奴は死んで当然だ! さっさと飛び降りろ!
       僕は生きるからな! 絶対お前より幸せになってやる!」

('、`#川「何よさっきから黙って聞いてれば……!」

(-#@∀@)「なにぃ?」

(;'A`)「な、なあ……ひとまず落ち着こうぜ……な?」

(-#@∀@)('、`#川「うるさい!!!」

(;'A`)「はい……」

(-#@∀@)「お前みたいな彼氏に寄生するような女はいつまで経っても
       独り立ち出来ないんだろうな! そういうのビッチって言うんだよ!」

('、`#川「恋人も作れない童貞野郎に偉そうな口叩かれたくないわね!
      所詮恋愛した事ない奴に失恋した女の痛みなんてわからないでしょ!」

(-#@∀@)「恋愛だって失恋だって経験済みだ! でも僕はお前みたいに
       いつまでもウジウジ引きずって人に迷惑かけたりしてないもんね!」

('、`#川「あんたの性欲丸出しのポルノ映画みたいな恋なんてどうだっていいのよ!
      私は純愛よ! 純粋な気持ちを裏切られたの! 貴方のそれと同じにしないで!」

(;'A`)「あのー……ちょっと……」

 


  
(-#@∀@)「お前の純愛なんてただの妄言だ! 本当に純粋なら結婚するまで寝るな!
       綺麗な体のまま花嫁衣装着てみろよ! お前みたいなのが出来ちゃった婚するんだ!」

('、`#川「寝る事の何が悪いのよ! 二人の愛を確かめ合う美しい行為じゃない!
      あんたは寝る相手がいないからひがんでるだけよ!」

(-#@∀@)「なぁぁぁんだとこのアマァァァ!!!」

('、`#川「本当の事を言ったまでよ! 悔しかったら恋人作ってみなさい!」

二人の言い争いはヒートアップしていく。
いつの間にか、街灯に光が灯っていた。

('、`;川「はあ……はあ……」

(;-@∀@)「ふう……ふう……」

(;'A`)「俺空気……」

 

 


  
('、`*川「……お腹空いた」

(;'A`);-@∀@)「?」

('、`*川「ご飯食べに行かない?」

気がつけば、彼女は手すりから下りていた。
返事も聞かず歩き出していく彼女に、ドクオたちは戸惑いながらもついていった。

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近くのパーキングエリアに、ペニサスの車があった。
彼女は車の中からサイフを取り出すと、そのPAのレストランに二人を連れて行った。

('、`*川「だから愛なの。でも彼氏は鬱陶しいって……」

(-@∀@)「独りよがりな愛は嫌われるもんだよ」

('、`*川「でも好きなんだから仕方ないじゃない」

(-@∀@)「好きだからこそ、相手の気持ちを尊重して……」

('A`)「ステーキうめえ」

レストランの中でも、二人の話し合いは続けられた。
ただし先ほどのような言い合いでは無く、ペニサスの愚痴をあさぴーが聞いている感じだ。

 

 


  
(*'A`)「ふー食った食った」

(;'A`)「あ、やばい! 今何時だ!?」

('、`*川「7時だけど……」

(;'A`)「今日中に家に帰らなきゃいけないんだ!
     頼む、近くの駅まで送ってくれ!」

('、`*川「いいわよ」

意外なほど、彼女はあっさりと承諾した。
その表情には血の気が戻っていて、目にも光がある。

そして何よりも、吹っ切れた表情をしていた。

 

 


  
駅まで行く間の車中、ペニサスとあさぴーはまだずっと話し込んでいた。
一度生を放棄した者同士、どこか波長が合うのかもしれない。
時折笑い声さえも聞こえてくる。

('A`)(もうすぐ……帰るからな)

山並みが後ろに過ぎていき、街灯から光の尾ひれが伸びる。
空に輝く、一際眩しい二つの星が、何かと重なって見えた。

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駅につくと、ドクオは助手席に座っていたあさぴーに、紙袋を差し出した。
あさぴーは最初遠慮していたが、それでもドクオは強引に紙袋を受け取らせた。

('、`*川「それ何が入ってるの?」

('A`)「金だ。数えてないからわかんねえけど、借金は返せるだろ」

 

 


  
(;-@∀@)「ほ、本当にいいんですか?」

('A`)「ああ。持ってけ」

車のドアを開け、まばらな人が行き交う駅前に、ドクオは一人下りていく。
「待って」開いたウィンドウから、あさぴーが顔を出した。

('A`)「何だよ」

(;-@∀@)「やっぱり受け取れません」

('A`)「どうして?」

(-@∀@)「貴方には凄くお世話になった。というか、命の恩人です。
      ただでさえ借りがあるのに、これ以上面倒をみてもらうなんて僕は……」

('A`)「……あのなあ」

 

 


 
ぽりぽりと頭を掻くドクオ。
「いいか?」ゆっくり、諭すようにドクオは言う。

('A`)「借りは、誰か他の相手に返せばいいよ。
    元々見返りが欲しくてお前を助けたんじゃないんだからな」

(;-@∀@)「それはもちろん、わかっているんですが……」

('A`)「まあ成り行きだけど、俺はお前の命を助けたな。
   でもその借りは、もうお前は返したはずだぜ?」

(-@∀@)「え?」

('、`*川「……」

 

 


  
('A`)「今までの自分におさらばして、その金でもう一度やり直せ。
    崖から飛び降りた時の勇気がありゃあ、何でも出来るだろ」

(-@∀@)「……でも、こんなお金……」

('A`)「いいんだよ、別に」

('A`)「俺はその金の何億倍も価値があるもの見つけたんだ。
    それに比べたら、そんなはした金……借りにもなりやしねえ」

(-@∀@)「……ドクオさん」

「じゃあな」二人をおいて、ドクオは歩き出していった。
後ろ姿が見えなくなるまで、二人はじっと駅の方を見つめていた。

('、`*川「……ねえ」

(-@∀@)「え?」

 

 


  
('、`*川「あの……さ」

(-@∀@)「……」

('、`*川「携帯のアドレス、教えてくれない?」

 

少し恥ずかしそうに、彼女は言葉を紡ぐ。
何かが――まだカタチになっていない何かが――始まろうとしていた。

何処からか、ギターの音色と歌声が聞こえてくる。
誰も知らないラブソングが、二人の乗っている車を包んだ。

 

Act4 『死にぞこないの賛歌』 完

 

 


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