222 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 21:06:45 ID: FVOz5oBx0
疲れた体をシートに沈ませ、ドクオは天井の広告をぼおっと見上げていた。
一定のリズムで揺れる電車に合わせて、ドクオの体も微かに上下している。
周りの乗客はまばらで、空いている座席が目立った。
('A`)(疲れたなあ……)
ため息と共に、全身に溜まった疲労をはき出す。
その時、電車の振動音に混じり、言い争うような声が聞こえてきた。
(,,゚Д゚)「だからそういうのがウザいんだよゴルァ」
(*゚−゚)「お弁当が食べたいって言ったのギコ君じゃない」
('A`)「……」
目の前で、何やら口げんかをしている高校生のカップルがいた。
以前なら心の中で目一杯罵倒していたところだが、ドクオはドクオであって毒男ではない。
心に余裕があるからか、それほど苛立たしくは感じなかった。
(,,゚Д゚)「はあ……」
(*゚−゚)「……サイテー」
(,,゚Д゚)「ああ?」
(* − )「一生懸命作ったのに……」
('A`)(ありゃりゃ。泣いちゃったよ……)
目を伏せて泣き出す女に、男の方は困り果てて、頭を抱えている。
ドクオは我関せずといったように、視線を再び天井の広告に移した。
(*'A`)(次の駅で降りれば、家はもうすぐだ)
すっかり遅くなってしまったが、約束通り結婚記念日には間に合いそうだった。
駅が近くなると、待ちきれないのか、ドクオは立ち上がりドアの前で待機を始める。
止まったらすぐに降りて、誰よりも早く改札口を出る。
そして一番近いタクシーに乗り込んで、後は一直線に家を目指す。
頭の中のシミュレーションは完璧だった。
しかし、イメージトレーニングは無駄に終わってしまう。
('A`)(あれ?)
ドアのガラスの向こうで、目的の駅が通り過ぎていった。
電光掲示板は、既に次の駅名を表示している。
(;'A`)(乗り間違えた……?)
そう思って冷や汗を垂らしたが、どうやら違っているらしい。
周りの乗客の中にも、ドクオと同じようにドアの前で首を傾げている者がいた。
(;'A`)(とにかく、次の駅で降りて引き返そう)
今ならまだ間に合う、とドクオは思っていた。
しかしこの電車に乗った時点で、既に手遅れだったのだ。
『えー乗客の皆様に悲しいお知らせがあります』
(;'A`)「……」
嫌な予感がする。
『ただいま緊急通信が入りました。それによると、電車に爆弾が仕掛けられたらしいです』
(゚A゚)「え?」
(,,゚Д゚)「……は?」
(*;゚ー゚)「嘘……」
『先ほど犯人から連絡があったようで、今さっき爆弾を起動させたらしいです。
何でもスピードを落とすと爆発する仕掛けらしくて、電車を止める事が出来ません。
あー申し遅れました。わたくし、車掌のビコーズです。彼女募集中です』
車内はにわかに慌ただしくなった。
座席を立ち、周りの者と話し始めたり、落ち着き無く歩き回る者が出始める。
(;'A`)(爆弾だって? そう言えば飛行機に乗ってる時……)
昼に読んだ新聞を思いだした。
未逮捕の連続爆弾魔の記事だ。
( ;゚Д゚)「お、おい……何かやばくね?」
(*;゚ー゚)「う、うん……」
鈍感そうなカップルも、危機を感じ慌て始めている。
(;'A`)(それにしても、やばいぞこれは……!)
電車がまた一つ駅を通り過ぎていった。
だんだんとドクオが降りる駅から遠ざかっている。
(;'A`)(このままじゃ家に帰るどころか死んじまう……一体どうすれば……)
『余談ですが、私は中々イケメンで、性格も良いとよく言われます。
乗客の皆様の中で、ハニワが好きな女性がいましたら、運転席にいる私の所までお越し下さい』
(;'A`)「余談過ぎるだろうが……!」
車掌は頼りにならないし、他の乗客に期待するのも無駄。
警察もあてにならないとすると、自分で何とかするしかない。
(;'A`)「……覚悟決めるか」
ここに爆弾処理員、鬱田ドクオが誕生した。
('A`)「おいバカップル」
(,,゚Д゚)「お、俺たちの事か?」
('A`)「今から爆弾を探して解除する。お前らもついてこい」
(*;゚ー゚)「オジサン、警察の人?」
('A`)「いや違う」
('A`)「鬱田ドクオ。サラリーマンだ」
( ;゚Д゚)「でもドクオさん、爆弾なんて解除出来るんすか?」
('A`)「子供の頃は負け無しだったぜ」
(,,゚Д゚)「負け無し……?」
(*;゚ー゚)「……ボンバーマン、てオチじゃないですよね」
('A`)「…………」
( ;゚Д゚)(当たりっぽい!)
(#'A`)「グダグダ言ってねえでついてこい!」
( ;゚Д゚)「は、はい……!」
(*゚ー゚)「でも私たちも行く必要あるんですか?」
(#'A`)「馬鹿野郎!」
('A`)「……一人じゃ、心細いだろうが」
( ;゚Д゚)「……」
(*;゚ー゚)「……ああ……そう」
その後ドクオたちは懸命に爆弾を探した。
網棚の上、トイレの中、連結部分のなんかごちゃごちゃしたところまで。
そうしてくまなく探していった結果、ゴミ箱の中で爆弾らしきものを発見した。
それはゴミ箱の底を貫通して床に貼り付けられており、外せないようになっていた。
( ;゚Д゚)「これを床からひっぺがして、窓から捨てましょう」
('A`)「駄目だ。下手に動かすと起爆するだろう」
(*;゚ー゚)「これくらい小さい爆弾なら、後ろの車両に避難していれば助かるんじゃ……」
('A`)「いや、これはあくまで起爆装置だ。たぶん爆薬はレール付近に繋がれている」
( ;゚Д゚)「どういう事っすか?」
('A`)「少ない爆薬量で、最大限の効果を得る為だ。
レールの近くで爆破されたら、スピード次第だがおそらく脱線する。
ごちゃごちゃした都内の路線で脱線してみろ。必ず何かに衝突する」
(*;゚ー゚)「……」
( ;゚Д゚)「……マジかよ」
('A`)「助かるには、これを止める他ないって事だ」
(;'A`)(でも見つけたはいいけど……どうやって解除するんだ。
こんなのドラマか映画でしか見たことねえぞ……!)
('A`)(……そういえば、昔“新幹線大爆発”っていう映画があったな。
あれも確か、爆弾はゴミ箱の中にあったはずだ。
待てよ、映画の中ではガスバーナーとペンチで爆弾を解除してたぞ)
('∀`)「よし、ガスバーナーとペンチだ!」
(#'A`)「ねえよ!」
忙しいドクオであった。
(*;゚ー゚)「ペンチだったら、私持ってますよ」
(*'A`)「本当か!?」
(*゚ー゚)「はい。私工作部に入ってますから」
(,,゚Д゚)「ガスバーナーだったら俺が持ってますよ」
(;'A`)「なんでだよ!」
(,,゚Д゚)「俺も工作部なんで」
('A`)「工作部すげえ!」
ドクオはさっそく解除にとりかかる。
まずバーナーでゴミ箱に穴を空け、中を覗いてみた。
配線が縦横無尽に張り巡らされていて、まるで蜘蛛の巣である。
(;'A`)「俺はキアヌリーブスだ……俺はキアヌリーブスだ……」
(*;゚ー゚)「……“スピード”かしら」
( ;゚Д゚)「“スピード”だろうな……」
(#'A`)「よし、やるぞゴルァ!」
(,,゚Д゚)「俺のアイデンティティが!」
それはまるで取り憑かれたかのような早業だった。
ペンチを使い配線をこねくり回し、切断と接合を繰り返す。
目にも止まらぬ手さばきで、ドクオは徐々に爆弾をただの無機物へと変えていく。
(*;゚ー゚)「凄い……! 工作部部長、神速の兄者さんを越えるスピードだわ!」
( ;゚Д゚)「それだけじゃねえ。複雑な配線をかき分ける反射神経と動体視力。
そしてこのペンチ捌きは、指技巧職人と言われた副部長の弟者さんを越えている!」
(#'A`)「うおおおおおおおおお!!!」
(*;゚ー゚)「この人こそ……生ける伝説となったうちの学校のOB」
( ;゚Д゚)「“工作の女王”に違いない……!」
(#'A`)「ただのサラリーマンだし男じゃボケ!」
('A`)「さて、そんなこんなで、後は配線を一本切るだけになったぜ」
(,,゚Д゚)「すげ――! 勘だけでここまでやりやがった!」
(*;゚ー゚)「早く解除しましょう」
(*'A`)「へっへっへ。まあ任せとけって」
('A`)「えーと、ど・れ・に・し・よ……」
( ;゚Д゚)「ちょっと待った――! 何やってんすか!?」
(*;゚ー゚)「ここにきてそれですか!?」
(;'A`)「いや、何ていうか……配線が二本のこっちまってな。
赤と青の配線なんだけど、どっちかが解除用で、どっちかが起爆用のはずなんだ」
映画やドラマでよくある、運命の二択である。
( ;゚Д゚)「ここは慎重に選びましょう」
(*;゚ー゚)「そ、そうですよ。間違えたらみんな死んじゃうんですから……」
(;'A`)「そうは言っても時間が無いんだよ。
いつまでも電車が走り続ける訳無いからな」
( ;゚Д゚)「……赤か」
(*;゚ー゚)「青……」
(;'A`)「……さあ、腹をくくろうぜ。どっちを選ぶ?」
( ;゚Д゚) ドクン…
(*;゚ー゚) ドキドキ…
(;'A`) ゴクリ…
(;'A`)「よし……赤を――」
「駄目!」
('A`)「?」
(,,゚Д゚)「しぃ……?」
(*;゚−゚)「赤は……赤い糸の赤だから……」
(*; − )「私とギコ君を結ぶ……赤い糸だから――」
(,*゚Д゚)「しぃ……お前……」
(#'A`) ビキビキ
(,,゚Д゚)「……ごめんな。弁当の事。本当は恥ずかしかったんだ。
だからあんな事言っちゃったんだけど……美味しかったよ」
(*゚ー゚)「ギコ君――!」
(,*゚Д゚)「しぃ――!」
(#'A`) プチン
ドクオは迷う事無く赤い糸を切った。
(*;゚−゚)「ちょっとぉぉぉぉぉぉぉ!?」
( ;゚Д゚)「オッサン何やってんのおおおおお――――!?」
(#'A`)「うるせえボケ! 死んでしまえ!」
( ;゚Д゚)「そ、そうだ! 爆弾は!?」
切ったのが起爆用のコードなら、とっくに爆発しているだろう。
ドクオが選んだのは、解除用のコードだったのだ。
(*;゚ー゚)「……止まった?」
( *゚Д゚)「やったぜしぃ! 俺たちの愛が勝ったんだ!」
(*゚ー゚)「私たちを引き裂く事なんて出来ないのね!」
(#'A`)良かったね ああ良かったね 良かったね
ドクオ カップルに捧げる心の俳句
三人は車掌のところに、爆弾が止まった事を伝えにいった。
車掌は嬉しさのあまり、全裸で踊り始める。
電車は次の駅で無事停止する事が出来、乗客は死の恐怖から解放された。
(;'A`)(くそ……俺の家から結構離れちまったな……)
(,*゚Д゚)「俺たちのラブはネヴァーエンドだぜ。しぃ」
(*゚ー゚)「貴方の瞳にリバースフォーリンラブよ、ギコ君」
(,*^Д゚)(^ー^*) イチャイチャ…
(#'A`) ブチ…
赤いコードは切れたし、ドクオもキレている。
しかし二人を結ぶ赤い糸だけは、切れなかったようだ。
Act5 『恋の爆弾は止められない』 完