('A`)ドクオと飛竜と時々オトモのようです3−1 2話最初へ] 戻る [次のページへ

166 :登場人物:2011/03/29(火) 16:22:17 ID:GkD/7Z4s0
【ハンター】

●('A`) ドクオ=ウェイツー
人間
26歳 【称号:ドンドルマの英雄】
HR:6 
所属猟団:無所属
使用武器:???(双剣)
防具:ナルガXシリーズ
現在地:ユクモ村へと帰還中

●(,,゚Д゚) ギコ=ストッドウッド
人間
26歳 【称号:???】
HR:5
所属猟団:荒鷲団
使用武器:???(大剣)
防具:???シリーズ
現在地:???

●ζ(゚ー゚*ζ デレ=ツンデレート
人間
21歳 【称号:無し】
HR:4
所属猟団:ユクモギルド
使用武器:フロギィリボルバーV(弓)
防具:マギュルSシリーズ
現在地:ユクモ村へと帰還中


167 :オトモ:2011/03/29(火) 16:24:00 ID:GkD/7Z4s0
●(*゚∀゚) ツー
獣人族(アイルー)
?歳 【称号:???】
使用武器:【旗本】ネコ合戦旗(剣斧)
兜:旗本ネコ【陣笠】覇
鎧:旗本ネコ【胴当て】覇
現在地:ユクモ村へと帰還中


168 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/29(火) 16:24:55 ID:GkD/7Z4s0

信頼というのは、実に厄介な物である。    目には見えず、人に確かめることも出来ない       そしてなにより、それは狩りに絶対に必要な物なのだから。


                   ―――ナイトリーダー 騎士長フォックス―――


169 :3−1:2011/03/29(火) 16:26:12 ID:GkD/7Z4s0

帰り道、いきなりの雨。ギギネブラの狩猟を終え、一日が経った。ユクモから凍土までは丸二日かかるのだが、ドクオ達はかなりゆったりとしたペースでその道を進んでいた。

というのもオトモであるツーが、大気の震えを感じてなかなか進みたがらないのだ。

そう言うツーに、ドクオは特に何も言わず歩幅を合わせて歩いていた。  デレは、そんなドクオとツーの少し後ろを歩いている。

これは特に位置取りを気にしての事ではなく、ただ単にデレがドクオに遠慮してしまっているからだ。

空には分厚い雲が現れ、昼間だというのに辺りは薄暗い。

といっても、時刻は午後三時。明かりが全く灯っていないこの辺りでは、安全を確保する為に、移動出来るのは精々午後六時まで。

ζ(゚ー゚*ζ(ギルドに着くのは明日になっちゃうなー)

特に急を要する案件もないし、寧ろ私に今課せられた依頼はドクオさんの監視だ。 私だけ先に帰るわけにもいかない。

しかし、帰ったらどうギルドに報告をすれば良いのだろうか。

あの驚くべき動き、経験に裏付けされた的確な判断。 今ならば最初に見た時、頼りないと思ったあの細い身体の意味も分かる。

彼の最大の武器であるスピードを生かす為の、あの身体なのだ。

不必要な部分を極限まで削り取った完成形が、彼なのだ。

このデレの予想は、半分当たっている。ドクオは、自分の武器である瞬発力を生かすのに必要のない筋肉は鍛えず、狩りに必要な部分のみを鍛え上げていた。


170 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/29(火) 16:27:51 ID:GkD/7Z4s0
('A`)「―――♪」

ζ(゚、゚*ζ「………」

今も鼻歌を歌いながら、ツー様から借りたブーメランを投げて、見事に兎に命中させている。

ドクオさんと狩りに出て五日。 一度も食料を採集しに行っていない。勝手にドクオさんが、野兎やら猪やらを狩ってしまうのだ。

ギルドから配給されている携帯食料にも、まだ手を付けていない。

ドクオが、「ギルドの携帯食料は保存が効くので、本当に必要な時に食べれば良い」と言うからだ。

('A`)「……そういえば、君」

ζ(゚ー゚*;ζ「はっ、はいっ!」

いきなり、ドクオさんに呼ばれて声が裏返ってしまった。  ドクオさんについて考えていた所で本人に声を掛けられたからだ。

('A`)「ユクモ特有の飛竜は何種くらいいるんだ?この辺りには轟竜や迅竜も生息していると聞いたことがあるが」

ζ(゚ー゚*ζ「そうですね。ティガレックスやナルガクルガも居ますよ。他にユクモ村特有の飛竜種となるとベリオロスや先日狩ったギギネブラなどですね」

牙獣種や、鳥竜種は地方によってかなり多種多様な種類がいるが、飛竜はあまり多くの種類は存在しない。まず器がちがうからだ。前者は、歩行移動のため余り遠くには行けないが
飛竜は飛行移動するのでかなり広範囲の縄張りを持っている。だからこそ牙獣種などの生存競争はその地方でのみ行われるが、飛竜は文字通りこの世界すべててで行われている。


171 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/29(火) 16:28:39 ID:GkD/7Z4s0
('A`)「成る程な。基本的にドンドルマとほとんど変らないわけだ。ここまできて迅竜や轟竜の顔は見たくなかったが、仕方ないな」

ζ(゚ー゚*ζ「でも、ユクモ独特のモンスターはまだ沢山いますし、それにこの地方独特の行動とかもあるみたいですよ。   私はユクモのモンスターしか見たことがありませんが」

('A`)「……そうか」

それを聞いたドクオさんの顔は、どこか嬉しそうでした。やはり狩人の血が騒ぐのでしょう。見たことの無い土地、見たことの無いモンスター。私はまだその境地に達することが出来ません。

飛竜と戦うのは、やはりいつも怖い。傷つくのも怖いし、死ぬのも絶対に嫌だ。でもやめられない。こんな中途半端な気持ちでこの先やっていけるのだろうか、と不安になることは間々あった。

ζ(゚ー゚*ζ「最近では“疾風緑迅”や“黒虎轟竜”と呼ばれているモンスターもいるそうです。本当かどうかは知りませんが。
ユクモでは亜種と呼ばれる存在なんてほとんど確認していませんでしたから」

('A`)「亜種か」

ζ(゚ー゚*ζ「亜種なんて、本当にいるんでしょうか……」

('A`)「亜種は確かにいる。ドンドルマで幾つか見たことがある。亜種とういよりもアレは別の進化をした何かだな。   肉質も弱点も、何もかもが違う。ただ形が似ているだけだ。
名を挙げようと何人もの狩人が挑んだが、凡そ返り討ちにあっていたよ」

でも、とドクオさんは少し間を置いて言った。

('A`)「俺達狩人は矛だ。ギルドの人達に危害が及ぶとなればそれを放って置くわけにはいかない。狩れと言われれば狩る。
というか、俺達は狩る事しか出来ない」

これが完成された狩人の姿、心持なんだな、と感じた。狩人に志願した以上、少しでも上を目指す。その姿勢はユクモの狩人だけのものではないんだ。


172 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/29(火) 16:29:08 ID:GkD/7Z4s0
(*゚∀゚)「それに最後までオトモするのがオレっち達の役目にゃんだニャー」

さっきからずっとピリピリしていたツー様が、多少和らげながら言った。
ツー様はなかなか、いや結構、ううんかなりドクオさんに懐いていた。

(*-∀-)「楽チンだニャー」
('A`)「……」

長年付き従った主人とオトモのように、なんの違和感も無く、暖かな空気も醸し出している。

('A`)「そういえば、君の妹さんはどうしてる?」

ζ(゚ー゚*ζ「デレで良いですよ、ドクオさん。私の妹も狩人をしています。一昨日話した幼馴染の男の子と一緒によく狩りに出かけてます」

('A`)「そうか、妹もデレと同じような気持ちで狩人になったのか?」

いいえ、と私は首を振った。

ζ(゚ー゚*ζ「ツンは私と違って強い子ですから、お祖母ちゃんのため、というよりは皆のためですね」

それもなかなか難儀だな、とドクオさんは答えるというより呟くように言って黙った。

ζ(゚ー゚*ζ「まだまだ新米なので、今は村のためというより幼馴染の男の子と一緒にいるため、という感じですね!」


173 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/29(火) 16:29:34 ID:GkD/7Z4s0
幼馴染、その言葉を聞いてドクオに懐かしい記憶が甦った。

自分にも確かにあった新米の頃。どの道を歩くのもビクビクしていた。モンスターを見れば最初に感じるのは恐怖。
あの時の自分は理由など無くただ“アイツ”に言われるがまま狩人をしていた。

川 ゚ -゚)『おい、ドクオ。どうして私の言ってることが出来ないのだ』

(;'A`)『おいおい……そんな事言われたって……』

川 ゚ -゚)『グイーンと引っ張って、バーってブチ破って、突き刺すんだ』

('A`)『はぁ、その理論を本当に自分のものにしちまってる所がクーの凄いところだよ』

川 ゚ -゚)『なんだと!?私は凄いのか……』

('A`)『あー、凄い凄い。だから俺には弓なんて使えないって。俺は近距離、クーが遠距離から弓で援護。
それが一番相性のいい形だよ』

川 ゚ -゚)『むぅ……しかし』

('A`)「俺はクーだからこそ、馬鹿みたいに突っ込んでいけるんだよ。だから今のままで良い」

川 ゚ -゚)『……なにか巧くのせられた気がするぞ』


174 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/29(火) 16:29:55 ID:GkD/7Z4s0
('A`)「……」

ζ(゚ー゚*ζ「ドクオさん?」

('A`)「あぁ、すまない。少し昔を思い出してた」

二人の会話を黙って聞いていたオトモがここぞとばかりに口を挟む。

(*゚∀゚)「ニャー!ドクオの昔の話気ににゃるニャー!」

デレやツーにとって、このユクモが全てなのだ。世界は確かに広けれども、二人はユクモ以外の世界を知らない。
外に興味を示すのも当然だった。目を輝かせる二人。

('A`)「うーん、大してここと変わらないぞ。ただ狩人の絶対数は確実にドンドルマの方が多かったな。
それに加えて、狩人のレベルは凄く高かった。中でもG級の狩人は一線を画していたな。なんというかモンスターより化け物じみた奴らがいた」

(*゚∀゚)「流石は狩人の聖地だニャー」


175 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/29(火) 16:30:28 ID:GkD/7Z4s0
ζ(゚ー゚*ζ「G級というのは噂で聞いたことがありますが、先日のドクオさんを見て納得しました」

('A`)「……俺なんか大したものじゃない。ティガレックスの突進を素手で受け止めるような奴もいたからな」

ドクオの呟きに言葉を失う二人。あまりに異常。圧倒的身体能力とヒトの何十倍の体躯を誇る飛竜の、そのなかでも最凶のティガレックスの
突進を素手で受け止めるなんて。

その発想自体が正気の沙汰ではない。

『広い視野と大きな度量を持つこと』

それも狩人にとっては大事なことだと、ドクオはそこで区切って話を終えた。

時刻は夕方になる頃、そろそろ歩くのをやめキャンプを設営しようかという時間になっていた。


176 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/29(火) 16:31:55 ID:GkD/7Z4s0
雷狼竜の存在、それをユクモギルドが確認したのは六百年ほど前のことだ。切っ掛けは突然の雷光虫の消失。
雷光虫は、人の生活に密接に関係する重要な虫だ。夜を照らす街灯だったり、狩人を安全に狩場に案内する道標でもある。
そんな雷光虫が一気に取れなくなった事を深刻に見たユクモ村の村長が、ギルドに調査を依頼したのが始まりだ。

雇われたのは四人の狩人、全員HR3の狩りに慣れた者達であった。

ギルドも調査だけなら簡単に済むだろうと、事態を軽んじていたのだ。

結果、四人が渓流の中で発見された。無事ではなかったが。ヒトは脳や脊髄から発せられる微弱な生体電気の命令を受け行動する。
帰ってきた四人はその生体電気を完全に狂わされていたのである。自分の意思で行動することが出来なくなっていたのだ。

これに驚いたのはギルドだ。今までこんな事は一度も無かった。クエストで死ぬ人間はいたが、このような事態は初めてだった。
すぐに浮き彫りになった新種の存在。

/ ,' 3「今後、このモンスターの撃退が終わるまで、一切の渓流への狩りを禁ずる」

ギルドマスターの判断は的確だった。この後送り出されたHR6、つまりギルドを背負う凄腕の狩人たち四人によって行われた撃退戦で
一人が死亡、もう一人が再起不能となったからだ。

これを新米狩人達が行ったならば、もっと悲惨な結果になっていただろう。

その後、新種の撃退が確認されギルドはこのモンスターを【雷狼竜】と命名した。

曰く、無双の狩人

曰く、雷雲を司る者

曰く、ユクモの守り神

この事があって、ユクモ村は【雷狼竜】を奉る事にした。被害を受けた六人の偉大な狩人を偲び、いつかその領域に届くようにと。


177 :3−2:2011/03/29(火) 16:32:44 ID:GkD/7Z4s0

ζ(゚ー゚*ζ「そういえば、ユクモにはクルペッコという変わったモンスターがいるんですよ」

('A`)「ほー、そいつもドンドルマにはいなかったな」

最初は妙に遠慮していたが、一度話し出すととまらなかった。ギギネブラと相対しているときに見たドクオさんの背中は、随分と小さく見えた。
だからこそ、話しやすかった。

キャンプの準備をしながらも、デレはドクオに話しかけていた。


Gyaaaaaaaaa


ζ(゚ー゚*ζ「そうそう、ちょうどこんな感じの鳴き声で……!?」

(*゚∀゚)「!! なにかいるニャ!」

('A`)「……ツー、どんな奴か確認してきてくれ。恐らく先ほどの咆哮からして南南西に少し行った所だろう」

いきなり空気が張り詰めた。モンスターの咆哮、それが明らかに戦闘中に出す物だったからだ。

ツー様が地中に潜り、ドクオさんに言われた方向へ静々と向かっていった。


178 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/29(火) 16:33:40 ID:GkD/7Z4s0
('A`)「デレ、準備をしておけよ。これは緊急クエストになるかもしれない」

ζ(゚ー゚*ζ「はい」

背負っていた弓を再び取り出す。弦は外しておいた。それを末弭と本弭に結びつけた。数秒とかからない。
弓使いである自分が、一番最初にいつも行う作業である。
だからこそ、そのスピードは一瞬だった。

('A`)「……どんなやつだと思う?」

ζ(゚ー゚*ζ「……凍土からはかなり離れました。一番ここから近い狩場というと渓流ですから、もしかしたらそこからここまで戦いながら移動して来たのかもしれませんね」

渓流、嫌でもあのモンスターの顔が浮かぶ。あの奇妙な踊り、そして厄介な声真似。

先ほど、自分がドクオさんに言おうとしたあのモンスター。

('A`)「ビンの予備は十分か?」

ζ(゚ー゚*ζ「大丈夫です!ギギネブラとの戦闘ではほとんど消費しませんでしたから」

というより、ドクオさんに見惚れていてビンを使うのを忘れていた。

地中が盛り上がり、そこからアイルーが飛び出してくる。

('A`)「ツー、どうだった?」

(*゚∀゚)「分かったのニャ!さっきの鳴き声は【彩鳥】クルペッコだニャ!戦ってるのは二人、ブーンとツンだニャ」


179 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/29(火) 16:34:39 ID:GkD/7Z4s0
ζ(゚ー゚*;ζ「本当ですか!?」

余りに馴染み深い名前に耳を疑う。ツンがもうクルペッコの狩猟を行っているのか。

(*゚∀゚)「多分採集に来て鉢合わせてしまったんだろうニャー」

ζ(゚、゚*;ζ「早く応援に向かわないと……」

('A`)「落ち着け、デレの顔見知りとはいえいきなり乱入していくのは不味くないのか?」

以前記した通り、狩人とは誇り高い生き物なのだ。例え自身が危機に瀕していようと、他人からの助けを拒むことは
往々にしてよくあった。

考える、ツンの性格を。あのプライドの高い気性。人当たりのきついところを考えると確かに良い顔をしないかもしれない。

ζ(゚、゚*ζ「……でも」

('A`)「とりあえず様子を見る、行くぞ」

考えても、考えても、どちらが正解なのかは分からない。
そして、その正解を導き出すまでの時間は、私達には無かったのだ。


180 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/29(火) 16:35:05 ID:GkD/7Z4s0

どうしてこんな事になったのか。隣の家のお婆ちゃんが風邪を引いて大変だったから『ケルビの角』を採ってこようと思いついたのが始まりだった。
いつものように幼馴染のツンを誘って渓流まで採集に向かった。

狩猟環境不安定とは受注欄に書いてあったが、ケルビは比較的低地に生息しているので問題ないだろうと判断した。
ミセリ姉さんだって大丈夫だと言っていたし、HR1の自分でも採集クエストは単独で受注できるのに。

(;^ω^)(なんでこんな奴と合っちゃうんだお)

目的のエリアに着くと、思いのほかケルビが多くいたため剥ぎ取りに時間がかかってしまった。
ケルビの角は貴重だ、なにより頭数が少ないのでハンマーで軽く殴りつけ気絶させている間に角を折った。

こうする事によって、ケルビを殺さずに角だけを剥ぎ取ることが出来るのだ。

ツンはボクが気絶させたケルビから、角を剥ぎ取ってくれていた。

そうすることにボク達二人は夢中だった。

だから気が付かなかった。背後から近づく【彩鳥】の存在に。

最初はクルペッコも水を飲みに来ていただけだったのだろう。だからこそ、モンスター独特の威圧感を感じ取ることが出来なかった。
そこで気が付いていれば、ボクがツンを止めていれば、クルペッコは悠々と水を飲み去っていたのだろう。

しかし、あそこで通常弾Lv1を撃ったツンを責める事は、ボクには出来なかった。


181 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/29(火) 16:36:38 ID:GkD/7Z4s0
途端に空気が重くなったのを覚えている。クルペッコがこちらに気が付いたのだ。

クルペッコが両翼を広げた。大きい、先ほどまでドスジャギィ程度の大きさかと思っていたのに。
息を呑んだ。それは隣にいたツンも同じだったようだ。

クルペッコが翼先に付いている火打石を叩き合わせる。この時、自分が動けたのは運が良かっただけだ。
ツンを守らなくては、その気持ちが自分を動かしてくれた。

(;^ω^)「逃げるお!!!!」

未だに動かないツンの手を乱暴に握り一気に駆け出す。もうどこに向かって走っているのかも
分からなかった。ただ逃げたい、このモンスターからツンを守りたいという一心だった。

気が付けばギルドが指定する狩場を大きく逸れた場所まで来てしまっていた。

(;^ω^)「ハァハァ……」

ξ;--)ξ「……」

( ^ω^)「ツン、大丈夫かお?」

ξ;--)ξ「ハァ……大丈夫な訳ないでしょ!なんであんなところにクルペッコがいるのよ!」

(;^ω^)「ボクにもわかんないお」

クルペッコはギルドが指定するHR昇級クエストの対象となるモンスターだ。また、そのモンスターの特性ゆえにギルドが厳しく管理しているはずだった。
それが何故ギルドの監視の網を抜けて、あんなベースキャンプに近いところまで降りてきていたのか。
しかし、今はそんなことよりも近づいてくる羽ばたき音をどうにかしなければ。


182 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/29(火) 16:37:06 ID:GkD/7Z4s0
( ^ω^)「もうこうなってしまったら仕方ないお。ボク達で奴を撃退するしかないんだお」

ξ;゚听)ξ「撃退って言ったってどうすれば良いのよ!? 私とアンタはHR1、新米もいいところ!それに私は採集だって思ってたから弾も通常弾Lv1くらいしか持ってないわよ!」

わかってるお、と怒鳴りたいのを辛うじて抑えた。

誰かの責任にするのは簡単だ。しかしそれを他人に押し付けたところで、だれも助けてはくれないのだ。

それならば今出来ることをやるのみ、だ。

( ^ω^)(ツンは、僕が護るお)

舞い降りる一匹の鳥に目を向ける。クルペッコの狩猟を受けられるのはHR2から。まだ狩人になったばかりの自分には大きすぎる敵だ。
でも今、ツンを護れるのは自分だけだ。

そう思うと身体の奥底から力が湧いてきた。

ξ゚听)ξ「……ブーン」

( ^ω^)「……ツンは下がってるお。僕がやるお」

ξ゚听)ξ「でも……」

何か言いたそうなツンに背を向けた。


それは拒絶だった。


183 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/29(火) 16:38:30 ID:GkD/7Z4s0

('A`)「……あれが幼馴染みの男の子か」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ」

なるほどな、と言ってドクオさんは握っていた双剣を背に戻した。

ζ(゚ー゚*;ζ「応援に、向かわないんですか!?」

('A`)「……あぁ。万が一の為に準備はしておくがな」

ζ(゚、゚*ζ「……私は」

手に持っていた弓を、ギュッと握り締めた。折ってしまいそうな力で。

('A`)「心配するな……と言っても無理な話か」

ζ(゚、゚*ζ「すいませんが……」

うーん、と頬を掻いて少し恥ずかしそうにドクオは言った。

('A`)「なんというか凄く不確かな物になるんだがな」


『こんな時の男は絶対に負けない』

ζ(゚ー゚*ζ「………」

('A`)「女性には、多少分かりずらいかもしれないがな」


184 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/29(火) 16:38:56 ID:GkD/7Z4s0



デレは意外に思った。ギギネブラとの戦いで見せたあの的確な判断力と行動力、あれはドクオの元来の性格が冷静沈着な事から出来る物だと思っていたからだ。

でも、照れ臭そうに頬を掻く今のドクオを見ればそんな風には思えなかった。

また、それを踏まえてドクオの本質を見極める力は今のデレには無かった。

('A`)「静かに見守ろう」

ζ(゚ー゚*ζ「……はい」


185 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/29(火) 16:39:25 ID:GkD/7Z4s0

背中に携えていたハンマーを抜き取る。見据える先には【彩鳥】クルペッコ。

黄と紫の羽が入り混じった身体。奇抜に尖った嘴。翼の先に持つ火打ち石。

実際に相対したことは無いが、文章では幾度も読んだ。

お前の事はよく知っているぞ、彩鳥。ブーンは普段の人懐っこそうな目を存分に釣り上げて睨み据える。

―――そして

( `ω´)「うおおぉぉおお!!!」

吠えた。

以前飛竜の咆哮について記述したが、狩人の咆哮はまた違った意味を持つ。

飛竜のそれは、相手を威嚇するだけの叫び。しかし、狩人のそれは違う。

相手を威嚇するだけでなく、自分を鼓舞する咆哮。

勝つ、勝ってみせると自分に言い聞かせる決意の証。


186 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/29(火) 16:39:53 ID:GkD/7Z4s0
だからこそ、先手を取ったのはブーンだった。

身体を存分に捻り、その体勢のまま走りだす。

目指すは奇妙な踊りを続ける【彩鳥】クルペッコ。   速さは無い。必要無いのだ。

クルペッコは侮っていた。常日頃飛竜の存在に怯えている自分だが、この程度の小さな存在に脅かされるはずがないと。

(#^ω^)「ふおぉぉぉおお!!!!」

だからブーンの一撃は届いた。

素早く力を溜めてから走りだした勢いのまま繰り出す“カチ上げ”。

それがクルペッコの頭を揺らした。

堪らずクルペッコは、踊るのを一旦止めて翼を広げる。

(;^ω^)「……」

それだけでブーンは一歩退がらざろうを得なかった。  これはブーンが自らの意志で退いた訳ではない。ヒトであれば誰しもが、その大きさに怯んでしまうのだ。

絶対に忘れてはいけない。モンスター達に本能があるように、ヒトにも本能があるのだ。

モンスターもヒトも、等しく動物なのだから。


187 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/29(火) 16:40:53 ID:GkD/7Z4s0
(#^ω^)「やってやるお!ツンはボクが護るんだお!!」

それでもブーンは、自分の無様に震える脚を叩き、もう一度駆け出した。

振り絞った小さな勇気を誉めるべきか、無謀な蛮勇を諫めるべきか。

経験不足の新米が、気安く叩ける程、【彩鳥】は優しくないのだ。

例えば、クルペッコが翼を広げたまま一回りするだけで

(;^ω^)「くっ……」

人間の身体など簡単に動けなくなるのだ。

そしてこの行為が蛮勇と言われるのは、今ブーンが攻めの姿勢でいる事にある。  クルペッコの前に曝け出された余りに無防備なブーンの身体。

クルペッコは一歩、たったの一歩でブーンとの距離を詰め、重厚な嘴でブーンを軽く突いた。

(メ^ω^)「グハッ……」

クルペッコにとっては、軽くともブーンにとっては、尋常ではない衝撃。

鋭い痛みがブーンの右肩を襲った。

ξ;゚听)ξ「ブーン!?」

ツンも動揺を隠せない。初めてだったのだ。生命の危機に瀕するモンスターと戦う事が。


188 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/29(火) 16:41:30 ID:GkD/7Z4s0
(メ^ω^)「大丈夫だお、擦っただけだお」

ツンは、ブーンを追いかけて狩人になった。狩人になれば村の人も喜んでくれるし、前と変わらずにブーンと一緒に居られる。

そして、いつか二人で一人前の狩人になって村の皆を護る槍となるのだ、と。

そう思っていた。

その夢が今閉ざされようとしている。

目の前でふざけた踊りを舞っている【彩鳥】のせいで。

それを許せる程、この勝ち気な少女は純朴ではなかった。

ふざけるな。高々“鳥風情”に私達の夢を摘ませたりはしない。

少女も覚悟を決めた。

素早く背後に背負ったライトボウガンを取り出す。


189 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/29(火) 16:41:49 ID:GkD/7Z4s0
デレから【狙撃手】ガンナーの何たるか、という手解きは数え切れない程受けていた。

ガンナーは自分の武器を大切にする。

【剣士】ストライカーが、武器の整備を怠った所で、切れ味が落ちるだけだが   ガンナーが整備を怠れば、照星や銃口がズレてしまい味方の誤射。つまり仲間の命に関わる問題となるからだ。

だからこそ採集クエストであろうとも、武器の手入れは入念にしていた。

問題は弾丸。自分が持っている弾丸は二種類。

通常弾Lv1と、もう一つ。通常弾Lv1は、大量に持っているが如何せん威力が低い。

だからこそ考えなければ。どうすればブーンの事を助けられるのか、を。

ブーンは未だに、二撃目をクルペッコに与えられていない。しかし、少しずつ自分から遠ざかっていた。

ξ゚听)ξ(ブーンが……私だけを逃がそうとしているの?)

多分、いや、きっとそうに違いない。


190 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/29(火) 16:42:12 ID:GkD/7Z4s0
ξ゚‐゚)ξ「……あのバカ」

そんな事、絶対にさせない。第一、ブーンは私が『ブーンを囮にしている間に逃げよう』なんて考えると、本当に思っているのだろうか。

いや、これはきっとブーンの“信頼”なんだ。

私ならブーンの意志を汲み取ってくれると信じてくれているのだ。

(メ^ω^)「こんのぉぉおお!!!!」

先ほどからブーンが繰り出す攻撃は、ただの威嚇でしかない。出来るだけ素早く、広範囲にハンマーを振るう。その全ては、クルペッコに躱され、その度に手痛い反撃を食らっていた。

それでもブーンは倒れない。ツンが逃げる時間を稼ぐまでは、倒れる訳にはいかない。

(メ^ω^)(逃げてくれお、ツン)


ξ )ξ「………」

自分だからこそ、ブーンの一番近くにいる私だからこそ、その気持ちは痛いほど伝わってきた。


191 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/29(火) 16:42:32 ID:GkD/7Z4s0
ブーンの気持ちを尊重するならば、この行動は間違いなのかもしれない。

これは、ブーンの想いを踏み躙る事なのかもしれない。



それでも私は




「自分を囮にして欲しいだなんて………」


ξ#゚听)ξ「そんな“信頼”は糞食らえなのよ!!!!!!」


クルペッコに向けて、引き金を振り絞った。

精一杯の“信頼”を込めて。



('A`)ドクオと飛竜と時々オトモのようです

  三話 才気煥発――誇り高き騎士――





2話最初へ] 戻る [次のページへ