('A`)ドクオと飛竜と時々オトモのようです4-6 前のページへ] 戻る [次のページへ

392 :4−6:2011/06/02(木) 19:12:21 ID:OeLLN6Qs0

大剣というのは、人間の使ってきた武器の歴史において特異な存在である。

武器に求められる性能は、大きく分けて二つ。

【威力】と【リーチ】だ。

効率良く、多くのモンスターを狩るために、人は【威力】を求めた。

傷つかず、無傷で敵を倒すために、人は【リーチ】を求めた。

石斧や石槍から脈々と受け継がれてきた武器の系譜。

しかし、その二つを両立する事は決して出来なかった。

いや、出来なかった訳ではない。

人は【大剣】という形で、そのテーゼに答えを出したのだ。

しかし、それは人の身体には余りに大きく、普通に扱える物ではなかった。

だからこそ、大剣使いは少ない。

(#,,゚Д゚)「いくぞゴルァ!!」

彼は、数少ない大剣使いの一人。 それも一流の。

全身を使い振り回される大剣は、当たらないと分かっているドクオでさえ、迫力を感じさせる。

真っ直ぐ、リオレウスの眉間に叩き込んだ。

堪らずリオレウスは、後ろへと下がる。

ドクオの双剣では、意に介さなかったリオレウスであっても、何百キロの重量を持つ大剣であれば話は別だ。


393 :4−6:2011/06/02(木) 19:13:50 ID:OeLLN6Qs0

('A`)「――♪」

ドクオは、鼻歌でも歌うかのように余裕の表情でリオレウスの懐に潜り込んでいた。

脚と脚の間。

如何な生物でも死角となる絶対的安地。

リオレウスは、異常さに気付く。

自分が、ここまで良い様にやられた事は無かった。

飛竜として、生態系のトップに君臨していた自分を脅かす存在になど遭った事がなかったのだから。

加えて言えば、野性に生きる物が、そのような生物に出会ってしまった時点で、待ち受ける末路は等しく死、なのだから。

しかし飛竜の本能は極限まで、敵に背を向ける事を許さない。

その闘争心こそが、真の飛竜の武器なのだ。

だからリオレウスも負けない。

ブレスを三方向に分けて、吐き出す。

ドクオは、前転する事でそれを回避。

ギコは、自らの大剣でそれを封じた。

透かさず攻勢に移ろうとする。

リオレウスは、その様子を見て一度飛ぼうと翼を広げるが、風を起こすだけで身体が浮上しない。


394 :4−6:2011/06/02(木) 19:14:47 ID:OeLLN6Qs0

('A`)「地に墜ちたな、空の王」

空高く飛びすぎた物の終焉は、その高さ故に陽の光に焼かれると相場が決まっている。

ドクオは、リオレウスから距離を取った。

見極める為だ。

ギコの素養を。

(,,゚Д゚)「ゴルァァアアアアァァ!!!!」

身体全体を捻り、広範囲、高威力で繰り出される凪ぎ払い。

一分の迷いも無く、その迷いが死に繋がると正しく理解している動き。

やはり最初に推し量った通り、ギコの実力はドンドルマにいた凄腕と比べても、なんら遜色ない。

それに、先程のリオレウスの翼を奪った一撃。

あれは、そんな生易しい物ではない。

まず、問題としてリオレウスが低空飛行している状態でギコの場所を通過しようとしなければならない。

それにはリオレウスの行動をある程度支配する事が絶対だ。

そしてギコは、信じなければならない。

ドクオの事を信じ、歯痒い心を押し殺して我慢する辛さ。

それを知ったギコに、もう不安は無かった。


395 :幕間:2011/06/02(木) 19:16:02 ID:OeLLN6Qs0

洞窟の一番奥に居ても聞こえてくる飛竜の咆哮。

聞こえてくる度に、ヘリカルと身を寄せ耐えた。

川‘‘)「……おにーちゃん達、帰ってくるよね?」

(‘_L’)「……あぁ、きっと帰ってきてくれるよ」

ドクオさん達と話している時は、言わなかったが   彼らが敗れれば、それは私達親子の死に直結する。

川*‘‘)「うん!帰ってきてくれるって約束したもんねっ!!」

こんな死が目の前の状態だからこそ、分かる。

自分は、この子にずっと引け目を感じて生きていたんだな、と。

ヘリカルの本当の親を殺してしまった自分。

その罪をいつまでも忘れないように、ヘリカルを引き取った。

だからこそ、この子が自分に向ける純粋無垢な笑顔が眩しかった。

川*‘‘)「ヘリカルねっ!また皆でご飯食べたいっ!!」

忙しく動き回る自分は、きっとヘリカルに随分と悲しい思いをさせてきたのだろう。

私の仕事に付いてきたがったのも、そんな気持ちに気付いて欲しかったからだろうか。


396 :幕間:2011/06/02(木) 19:16:59 ID:OeLLN6Qs0

(‘_L’)「……ヘリカル」

名前を呼び、抱き寄せた。

川‘‘)「……なーに? おとーさん」

( ;_L; )「……寂しかったかい?」

寂しくないはずがないだろう。

それでもヘリカルに、そう尋ねてしまったのは、自分のズルさなのだろう。

否定して欲しい、と。

心の奥底で、それを願うズルさだ。

川‘‘)「ヘリカル寂しくなかったよ!」

(‘_L’)「……ヘリカル」

川‘‘)「おとーさん、お仕事の後は、ぜーたい楽しいお話してくれたし!  うん、ヘリカル寂しくなかったよ!!」

涙が止め処なく溢れる。

こんな状況になるまで気付かないなんて。


397 :幕間:2011/06/02(木) 19:17:41 ID:OeLLN6Qs0

私は、ヘリカルを愛していた。

家族として。

愛していたのだ。

( ;_L; )「……愛してるよ、ヘリカル。私の可愛い娘」

先程のズルさを、掻き消すように先に言った。

自分の気持ちを。

川*‘‘)「うん!  わたしもおとーさんの事、だーいすきっ!!」



暫くして、戦いも終盤へと移ってきたようだ。

頻繁に聞こえてきたリオレウスの咆哮も、たまにしか聞こえない。

しかし、かなり距離としては近づいていた。

(‘_L’)「………」

この子だけは、なんとしてでも助けたい。

そう祈るばかりだ。


398 :幕間:2011/06/02(木) 19:18:22 ID:OeLLN6Qs0

川‘‘)「くろかみ♪ なーがい髪をのばしてー♪ ほーそい手足はもやしのよう♪ 背にはふたつの刀がひとつー♪ リオの名を持つ金と銀ー♪」

その時、ヘリカルが歌いだした。楽しそうに。

(‘_L’)「その歌は?」

川*‘‘)「ヘリカルね。 おにーちゃんと約束したの! 帰ってきたらもう一回聞かせてあげるねって!」

えへへー、と笑うヘリカル。 なんの疑いもなく彼らの帰りを信じている。

(‘_L’)「……大丈夫だよ、きっと彼らは帰ってくる。ヘリカルの歌はきっと届くよ」

川*‘‘)「うん!!」

薄暗い洞窟の中、ヘリカルの奏でる拙く、それでも暖かな音色は、その中で反響し重なり合い

外の世界に漏れ出した。


399 :4−6:2011/06/02(木) 19:19:41 ID:OeLLN6Qs0

狩人たちの戦局は、緩やかに終わりへと近づいていた。しかし決定打に欠ける。

元々はは翼の一撃で怯んだリオレウスに、ギコの一撃を以って終わらせるはずだったのだ。

ドクオの使う双剣は手数が多いが致命傷には至りづらい。 加えて火を司るリオレウスとの相性も最悪だった。

だからこそ、この戦いを終わらせるのはユクモの狩人であるギコだと最初から睨んでいた。

しかしそのギコも後一撃が出ない。

細かな打撃を与えたところで、空の王の心は折れない。

('A`)「ギコ、このままじゃ埒が明かないぞ」

(,,゚Д゚)「わかってるぞゴルァ! だがこうも動かれちゃー、狙えねーぞ」

('A`)「あぁ、分かってる。一度だけチャンスが来る。恐らく、後5合も俺が切れば、奴は一瞬怯むはずだ。チャンスはそこだ」

(,,゚Д゚)「お前、なんでそんな事……あぁ。もういいぞゴルァ!!!!やってやる!!!!!」

('A`)「決めろ、ギコ」

(,,゚Д゚)「任せろ」

この戦況を長引かせる訳にはいかない。二人はあの少女と大切な約束をしたのだから。


400 :4−6:2011/06/02(木) 19:20:08 ID:OeLLN6Qs0

『くろかみ♪ なーがい髪をのばしてー♪ ほーそい手足はもやしのよう♪ 背にはふたつの刀がひとつー♪ リオの名を持つ金と銀ー♪』


ドクオが斬りかかろうとした時、それは聞こえてきた。


あの暖かな音色。純粋で、なんの悪意にも染まっていない彼女の音。


小さく、密閉された洞窟のなかを反響し、それが拡声器の代わりとなって、確かに二人の元まで届いた。


('A`)「!?」


(,,゚Д゚)「!!」


誰かを願う歌は、誰かを護る力となり


    狩人たちに無限の力を与える ヘリカルの想いが歌となり二人の身体に染み込んでいく。




('A`)「……やるぞ」


(,,゚Д゚)「おう」


401 :4−6:2011/06/02(木) 19:20:49 ID:OeLLN6Qs0

ドクオの身体が、紅い風を纏った。


人が人以上の力を出すときに纏う、紅いオーラ。


【鬼人化】というのは、己の心拍数や血圧、全てを高め脳内のリミットを意図的に外して行う生者必滅の技だ。


ドクオの双剣が舞う。圧倒的な速度、圧倒的な手数。一見、球体の様にドクオの回りに金と銀の壁が出来る。


それはドクオの宣言どおり五合目だった。


リオレウスは、堪らないとばかりに身体を捩じらせた。


ギコに与えられた絶好の好機。二人で作り出した最後のチャンス。


限界まで捻り、そこで押し留める。自分のタイミングを計る。ミキミキと、ギコの身体から嫌な音が聞こえてくる。
自分の身体が壊れていくのを省みない、その最大威力の攻撃。






(#,,゚Д゚)「ゴルァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!」






【抜刀全開溜め斬り】


その一撃は、周辺に聳えるユクモの巨大な木々をも揺らす程の威力。


402 :4−6:2011/06/02(木) 19:21:25 ID:OeLLN6Qs0

('A`)「……すごいな、これは」


顔の半分が拉げてしまったリオレウス。


(,,゚Д゚)「ハァハァ……」


これこそが大剣の本質。圧倒的威力にして、一撃必滅の技。


403 :4−6:2011/06/02(木) 19:22:28 ID:OeLLN6Qs0











            しかし


404 :4−6:2011/06/02(木) 19:23:00 ID:OeLLN6Qs0

空の王、リオレウスは倒れなかった。いや、飛竜としての本能が。王としての矜持が、顔の半分を潰され、片翼を折られても倒れることを許さなかったのだ。


もうリオレウスに意識はない。ただ本能のみがリオレウスを動かしていた。


−−−−空へ


もう一度あの青い蒼穹を、自由に飛び回りたい。


('A`)「!?」


(,,゚Д゚)「……おいおい、まじかゴルァ」


リオレウスは飛んだ。折られた翼で。それでも空を飛んだ。


そこが自分の還る場所なのだから。


(,,゚Д゚)「くそがぁ! なんて奴だ!! あんな状態でまだ空に君臨するってのか!?」


余りに神々しいその姿に、ギコは一瞬見惚れるが、それでも自分達がすべきは奴を狩ることだ。


このまま逃げられれば、また一からやり直すことになってしまう。


405 :4−6:2011/06/02(木) 19:24:02 ID:OeLLN6Qs0

『狩りは、最後まで気を抜いてはいけない。上に立つなら覚えとけ』


一瞬の閃光、余りに眩くギコは我慢できずに目を押さえた。


次いで、地面に衝撃が走る。


三度落ちた空の王。


【対飛竜用 閃光玉】  


ドクオが最初に用意した勝利のピース。


フィレンクトの許可を得て、拝借した光虫と素材玉を調合して作った物だ。


地に堕ちたリオレウスに止めを刺そうとドクオが近づく。


('A`)「……!! コイツ、さっきの墜落で……」


リオレウスは既に力尽きていた。


翼を捥がれ、顔を潰されてもなお、王の視線の先には空があった。


蒼い、蒼い空があった。


406 :4−6:2011/06/02(木) 19:24:59 ID:OeLLN6Qs0

リオレウスの討伐終了後、ドクオとギコの二人はヘリカルとフィレンクトを無事シルミド村へと送り届けた。

道中、モンスターの襲撃もなく、フィレンクトの傷口も開く事なく、至って安穏な道程だった。

二人きりの帰り道、ドクオとギコはゆっくりと、話をしながら帰った。

(,,゚Д゚)「しかし凄いとは聞いていたが、あそこまでとは思わなかったぞゴルァ!」

('A`)「リオレウスとの事か?  大したことはしてないぞ。結局、最後にアイツを倒したのはお前だしな」

少年のようにキラキラと目を輝かせながら尋ねるギコに、ドクオは頬を掻きながら答える。

(,,゚Д゚)「おぉ! ドンドルマにはドクオみてぇな狩人がうじゃうじゃ居るんだろ?」

('A`)「……そんなに多くはないよ。まぁ、俺より狩りが上手い奴は、両手に余るほど居たが」

やはり、ギコも自分の知らないドンドルマに興味がある。

幾人もの凄腕狩人を排出してきたドンドルマは、ギコ自身文献でしか読んだことが無いが、ドクオの実力の一端を垣間見た今、どれほどの物なのかは予想出来る。

(,,゚Д゚)「聞いた話じゃ亜種って奴らも、ゴロゴロいるんだろ?」

('A`)「……まぁ、居たな。簡単に狩れるような相手じゃないが。   それに世界地図のど真ん中にあるドンドルマは、モンスターの行き来が激しくてな。見たことのないモンスターが、突然表れる事も珍しくなかった」

(,,゚Д゚)「……うぉ、地獄みたいな所だな」

('A`)「まぁな。  だが、それだけ狩人というのは人の尊敬を集める。  ユクモの様に権力や派閥争いなんかは無かったな」

ドクオの答えに、ギコは目を見開いた。

(,,゚Д゚)「お前……知ってたのか?」

('A`)「いや、ユクモに来る前に教えられていただけだ。  確か【狩人派】と【騎士派】だったか。  俺達には、そういう経験が無いからな」

(,,゚Д゚)「確かに、ユクモ以外の者に話して楽しいような事じゃないな。  馬鹿馬鹿しい事だ、人を助けたいと思いつつも、プライドの為に一つになれない」

忌々しそうに、ギコは足下に転がっていた石を蹴った。


407 :4−6:2011/06/02(木) 19:25:49 ID:OeLLN6Qs0

(,,゚Д゚)「前まで【騎士派】の連中もそこまで大きな事はしなかったんだがな。  ロマネスクさんとベーンさんが居なくなって、随分と幅を利かせるようになってきやがった」


('A`)「………」


(,,゚Д゚)「HR6の狩人が居ないギルドに、村人を護ることなんて出来ないってな。  今は、騎士長であるフォックスさんが抑えているから大事になってないが、これから先、フォックスさんが居なくなってしまう事があれば、ただの喧嘩じゃ済まないよーな事態になりかねねぇ」


('A`)「なるほどねぇ」


ドクオが遥々ドンドルマからユクモに招かれた理由。


厳しくギルドで監視していたクルペッコの突然の出現。


フィレンクトに大量に発注された大樽爆弾G。


様々なピースが、組み合わさって一つの答えを示す。   だが、まだ全てのピースが出揃った訳ではなさそうだ。


('A`)「ギコ」


(,,゚Д゚)「なんだ?」


('A`)「見失うなよ。俺達に出来るのは狩ることだけだ。良くも悪くも、な」


(,,゚Д゚)「……おう」


408 :4−6:2011/06/02(木) 19:26:16 ID:OeLLN6Qs0

―――それに




('A`)「ロマネスクとベーンという偉大な先人を失った今、ユクモを支えるのは、他の誰でもなくお前だ。それを絶対に忘れるな」


(,,゚Д゚)「……おう」


二人の歩く道は、暖かな夕日に照らされ   赤く、輝いていた。


次世代のユクモの大黒柱と、ドンドルマのG。


二人の出会いが、これからこの小さな世界にどれ程の光を生み出すのか。


まだ、誰もそれを知らない。


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