('A`)ドクオと飛竜と時々オトモのようです5−3前編
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603 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/10(土) 23:02:50 ID:tZ7fnqaMO
英雄とは何か。
そんな質問を、最近よく投げ掛けられるようになった。
それに我が輩は答えられずにいる。
英雄などと自分の身の丈にそぐわぬ呼ばれ方をされて、数年。
未だに、その存在に答えは出せない。
だが、今現在、まだまだ未熟者のである我が輩が、それに一つの答えを出すとすれば
『英雄とは 光射す者である』
―――とある英雄の手記より―――
604 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/10(土) 23:06:19 ID:tZ7fnqaMO
この物語を読んでいる諸兄、諸姉は迅竜についてご存知だろうか。
竜盤目 竜脚亜目 前翼脚竜上科 ナルガ科
正式名称:ナルガクルガ
多湿な気候を好み、樹海や渓流等に生息している。独特の進化を遂げた飛竜種であり、非常に好戦的な性格をしている。
【轟竜】ティガレックスと同じ四脚歩行型の骨格を持ち【迅竜】の呼び名の通り、しなやかで俊敏な動きを持ち味とする。
605 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/10(土) 23:07:21 ID:tZ7fnqaMO
他に挙げられる特徴では、体は真っ黒な体毛で覆われ、強靱な前脚と鋭利な牙を持っている。
翼末端部には、爪から変化したブレードを持ち、その切れ味は樹齢五百年を越える大木ですら一撫でで両断する。
また、尾の先端には棘状の鱗が生えており、鱗自体を飛び道具として使用する事もある。
しかし【迅竜】ナルガクルガの最も特筆すべき武器は、此処に非ず。
それは――――
606 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/10(土) 23:08:15 ID:tZ7fnqaMO
('A`)「……ツー、この場所から一番近いのはユクモ村か?」
(*゚∀゚)「んにゃ、微妙な距離だけどパッソ村だニャー」
この様な凄惨な場面においても、ドクオとツーは全くブレなかった。
目の前にスプラッタな死体が転がっているにも関わらず、一人と一匹の会話は普段と変わらず、焦りであったりだとか、ましてや恐怖なんて物は全く感じられない。
それは、ドクオとツーがこのような場面に慣れている事を表している。
しかし、もう一人の少女は別だ。
ξ )ξ
なんの穢れも知らない、この女の子は、目の前の惨状に声も出せずにいる。
狩人といえど、まだまだHR2の新米。
ヒトの死に慣れているとは言えない。
607 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/10(土) 23:09:01 ID:tZ7fnqaMO
('A`)「……しっかりしろ、ツン」
ξ゚听)ξ「……えぇ」
それでも、少女の身体から震えは消えない。
('A`)「ツー、ユクモに帰ってこの事を報せてきてくれ。それと、緊急クエストの申請も頼む。この傷口、彼が言い残した事から推測するに、相手は【迅竜】ナルガクルガだ」
少女の身体が一際大きく震えた。
(*゚∀゚)「ニャー、クエストの申請は問題ないニャー。被害が出た時点で、フリークエストとなるニャー。でも、オレっちが行くよりも……」
ツーの視線の先には、ツン。
確かに、このままのツンでは使い物にならないだろう。
608 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/10(土) 23:10:10 ID:tZ7fnqaMO
だがドクオは、その疑問を遮った。
('A`)「ツン」
ξ゚听)ξ「……なによ」
ドクオは、目に力を込めツンに語り掛ける。
('A`)「怖いのは分かる。不安もあるだろう。しかし、これは絶対に越えなければ一歩だ。ここで立ち止まる事は、狩人に許されない」
ξ゚听)ξ「……うん」
('A`)「この先、ずっと明るく照らされた道を歩ける訳はない。暗く、何処に道があるのか、どちらが前なのかすら、分からない中で、それでも歩かなければならない時もあるだろう」
少女は、黙って男の言葉を聞いていた。
生気の無い表情。気怠げな雰囲気。
一流の狩人とは、思えない体付き。
だが、彼の言葉には力があった。
609 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/10(土) 23:10:45 ID:tZ7fnqaMO
('A`)「だがお前には“道標”がある。きっと、この先。ツンが進む道はデレが優しく照らしてくれるだろう」
('A`)「お前には“支え”がある。きっと、お前が躓いて転びそうになった時は、ブーンが強く支えてくれるだろう」
―――だから
『最初の一歩は俺がエスコートしよう』
('A`)「お前の一歩を、俺が護ろう」
610 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/10(土) 23:12:04 ID:tZ7fnqaMO
不思議と、震えは止まっていた。
ξ )ξ「……うん」
('A`)「……大丈夫。きっとお前の目は、この暗闇でも光を見つけられるさ」
ふと、おかしな疑問が浮かんできた。
この人にも‘道標’となってくれる人がいたのだろうか。
この人にも‘支え’となってくれた人がいたのだろうか。
こんなにも‘暖かな気持ち’にしてくれる人が、彼にも居たのだろうか。
611 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/10(土) 23:12:48 ID:tZ7fnqaMO
(*゚∀゚)「はぁー、オトモとしては妬けちゃうのニャー」
('A`)「どうした?」
(*-∀-)「ニャー、刺されない様に気を付けるのニャー」
(;'A`)「へっ?」
全ての飛竜を圧倒し、一撃も食らう事なく討伐してしまう完全無欠の狩人であろうとも、乙女心、もといオトモ心には疎いドクオなのである。
612 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/10(土) 23:13:28 ID:tZ7fnqaMO
('A`)「状況と役割を確認するぞ」
ξ゚听)ξ「えぇ」
(*゚∀゚)「ニャー」
二人と一匹は、輪を作り、現状を把握する。
('A`)「恐らく今回の討伐対象は【迅竜】ナルガクルガだろう。奴の習性からして、群れでいる事もないだろう。今回はナルガクルガ一頭の討伐となるはずだ」
(*゚∀゚)「ニャー」
基本的に提示していくのは、ドクオだ。それに相槌を打つのがツー。
('A`)「恐らく、被害者の男はパッソ村に住んでいる男だろう。服装からもハンターとは思えないからな。という事は、この男を探してこの森に入っている者がいる可能性も考えられる」
ξ゚听)ξ「それは無いんじゃないかしら。基本的に、行方不明者の捜索も狩人の仕事だし、明日にでも届け出を出すつもりじゃないかしら」
('A`)「いや、最悪の場合を想定しておいた方が良い」
少しでも疑問に思えば質問する。それも大切な事だ。
613 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/10(土) 23:15:00 ID:tZ7fnqaMO
('A`)「一番の問題となるのは、件のナルガクルガが‘人間の味’を知ってしまった事だ。奴は、これから人間を見ても‘脅威’ではなく‘食料’として認識するだろう。こうなってしまった飛竜は、一刻も早く討伐しなければならない」
ξ゚听)ξ「だからこそ、行くんでしょ?」
('A`)「あぁ」
少女に、もう不安はない。恐怖は、確かにある。しかし、それは当然の事なのだ。
今から彼女は、自分の何十倍もある飛竜と相対する事になるのだ。
そこに広がるのは、死と隣り合わせの世界。
一瞬の油断が、いや、油断せずとも死ぬ場所へと向かうのだ。
それは当然の感情。
('A`)「よし。ツー、ギルドへの報告は任せた。俺とツンは討伐に向かうが、増援の要請はしなくても良い。ギルドマスターに判断は任せてくれ」
(*゚∀゚)「了解だニャー」
ドクオが、指示を下すと直ぐ様地中に潜っていったツー。
614 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/10(土) 23:15:55 ID:tZ7fnqaMO
ξ--)ξ「……ふぅ」
ツンは、その場で一つ深呼吸した。
('A`)「ツン、覚悟は良いか?」
ξ゚听)ξ「うん。もう大丈夫。行けるわ」
手持ちの弾を、胴部と腰部のポケットに入るだけ詰め込む。
入り切らない分は、腰に巻いたポシェットに収めた。
ドクオも背に納刀していた金銀の双剣を抜き、一度だけ軽く撫でるように打ち付ける。
キン、と乾いた音が響く。
それだけで、ドクオが握っていた番い剣から、火花が散った。
いや、火花なんて生易しい物ではない。
ξ゚听)ξ「………」
ツンには、ドクオの腕に炎が巻き付いている様に見えた。
それも一瞬。
次の瞬間には、何事も無かったかのように双剣はドクオの背に納められている。
615 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/10(土) 23:16:41 ID:tZ7fnqaMO
('A`)「行くぞ」
ξ゚听)ξ「うん」
二人は、深い深い闇へと入っていった。
616 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/10(土) 23:17:22 ID:tZ7fnqaMO
様々な草花が生い茂り、適度な湿り気を含んだ気候が木々の成長を促進する。
ここは、樹海。
数多の生命が共存しているこの地で、一人の男と、一匹の化け物の戦いが始まろうてしていた。
617 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/10(土) 23:18:08 ID:tZ7fnqaMO
('A`)「……疾風迅雷、か」
油断無く双剣を構える覇気の無い男。
それに相対しているのは【深淵の雷】ナルガクルガ。
そして、彼らを高みから眺める者達がいた。
(´・ω・`)「ふぅ、全く。相変わらず悪趣味だね、君たちは」
そう言いながら、持っていた一升瓶をそのまま煽る。背に担いでいるのは【重火槍】グラビモスだ。
“G級”に分類される【鎧竜】と【黒鎧竜】の貴重な素材を使った、重槍。
狩人の中でも、ほんの一握りの傑出した実力の持ち主にしか使う事の許されない最硬のランスである。
('、`*川「そんな堅い事ゆーんじゃないわよ。こんなに良い肴があるのに、飲まない訳にはいかないでしょーがよー」
それに答えたのは、しなやかな肢体をした女性。
こちらは、武器も防具も身に付けてはいない。
他にも屈強な身体付きをした男が数人、輪を作って酒を食らっていた。
618 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/10(土) 23:19:26 ID:tZ7fnqaMO
(´・ω・`)「ジョル、見えるかい?」
( ゚∀゚)「あァ、まだ動いてねーな」
一人、一際高い所に胡坐をかいて酒を飲んでいた男は、目を細める事もしないで下の様子を伺っていた。
男の横に置かれているのはクイックシャフト。
伝説に唄われた【幻獣】キリンの特上素材を使って作られた、美しく洗練されたフォルムを持つヘビィボウガンである。
『ドクオの奴、一人で大丈夫なんかねー』
『あひゃひゃwww アイツが死んでくれりゃ、俺がG級になれるから有り難いけどなぁ!!』
今まさに、眼下では壮絶な殺し合いが始まろうとしているというのに、全く緊張感の無い会話だ。
619 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/10(土) 23:21:21 ID:tZ7fnqaMO
('、`*川「いいねー。おばちゃんもG級の称号はいらないけど、贈られるG級武器は欲しいねー」
ペニサスの言葉に、ショボンとジョルジュは、背筋に冷たい物が走るのを感じながら、下の様子に注視していた。
( ゚∀゚)「動くな」
(´・ω・`)「そうだね」
先に動いたのは、飛竜だった。
‘動いた’というより耐え切れずに‘動かされた’という風だ。
('、`*川「おい、小僧共。賭けようじゃないか」
妙齢の女性は、手に持っていた升をグイっと飲み干し地面に叩きつけた。
('、`*川「……ドクオが勝つか、負けるか」
620 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/10(土) 23:22:10 ID:tZ7fnqaMO
『いいねー!!』
『面白いじゃねーか!!!!』
次々と銭袋を取出し賭けていく男達。
('、`*川「おい、ショボもジョルもやるんだよ。さっさと賭けなー」
ふぅ、と肩を竦めたショボン。
(´・ω・`)「どうする?あんな事、言ってるけど」
( ゚∀゚)「……俺の分も頼む」
なんでもないように差し出された袋。
一際大きな銭袋を二つ持ったショボンが、ペニサスの下に向かう。
('、`*川「……どっちにするのん?」
(´・ω・`)「勿論、ドクオが勝つ方にだよ」
それを聞いて、ペニサスは舌打ちした。
スッ、と差し出された升。そこには、もう限界まで銭が積み上げられていたのだ。
621 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/10(土) 23:22:41 ID:tZ7fnqaMO
(´・ω・`)「ふぅ。全く、君達は本当に素直じゃないね。ペニサスさん、胴元の貴方はどうするんですか?この様子ならドクオの負けに賭けて、もし当てれば一生遊んで暮らせますよ」
ショボンの誘惑を、ペニサスは『ふふん』と一笑に伏した。
('、`*川「あたしは、分の悪い賭けはしない趣味なのよ」
その言葉に、ショボンは満足そうに笑顔を零した。
( ゚∀゚)「じゃア、どれくらい掛かるかにすれば良いじゃねーか」
『しゃーねーな。そうすっか』
『流石にオレらの同僚を三十人食った迅竜だ。半日って所じゃねーか』
『俺は、一日だな』
思い思いに賭け直していく男達。
だが、最短の予想でも半日。最長で三日という者もいる。
622 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/10(土) 23:23:38 ID:tZ7fnqaMO
その流れを変えたのはペニサスだった。
('、`*川「三時間」
差し出された銭袋は、見る者を圧する程の大きさだ。皆の袋を足して届くか、届かないか、という程の。
しかし、どよめきはこれで留まらなかった。
(´・ω・`)「二時間」
凄腕の狩人が充分な準備をして、通常の飛竜と戦った場合、恐らく二時間程度だろう。
しかし、この戦いは遭遇戦。ドクオには何の準備もない。
( ゚∀゚)「一時間半だな」
ましてや、それを下回る一時間半などあり得るはずがないのだ。
('、`*川「相変わらず面白いねー、アンタらは。良いねぇ、燃えてきたわー」
623 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/10(土) 23:24:47 ID:tZ7fnqaMO
『面白い。その賭け、私も参加させて貰えるか?』
川 ゚ -゚)「ドクオが疾風迅雷を、どれくらいで狩れるか、という事で良いんだな」
(´・ω・`)「やぁ、クー。君も来たのかい」
川 ゚ -゚)「ドクオが、久々にクエストを受注したと聞いたのでな。激励するつもりだったんだが、こんな大物と遭遇しているとはな」
クーも、ジョルジュと同じく、下の様子が仔細に見えているようだ。
('、`*川「良いねぇ、久々にドンドルマの誇るG級が勢揃いじゃなーい。賭けなさい、クー。アンタのパートナーが何時間で奴を狩れるか」
ふふっ、とクーは笑った。
624 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/10(土) 23:25:17 ID:tZ7fnqaMO
そして皆と同じように銭袋を取出し、こう言ったのだ。
川 ゚ー゚)「30分だ」
625 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/10(土) 23:26:48 ID:tZ7fnqaMO
草村を掻き分けて進んでいく二人。
気配を消す事はしなかった。
飛竜を相手にする時、待ち伏せの場合を除いて、気配を気にする事は無い。
何故なら飛竜の縄張りに入るというのは、それだけで自分の存在を知られるのと同義だからだ。
人間の感覚と、飛竜の感覚を同じ物差しで比べるのはナンセンスである。
そういう物なのだ。
しかし、それは狩人にも言える。
通常の飛竜は、自分の存在を隠すような事をしない。
その圧倒的な存在、故の気配。
だから狩人にとっても、飛竜の縄張りに入れば直ぐにそれを感じ取る事が出来る。
626 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/10(土) 23:27:27 ID:tZ7fnqaMO
ξ゚听)ξ「ドクオは、ナルガクルガを狩った事があるのよね?」
('A`)「あぁ。ナルガクルガとは何度も戦った事がある。この装備も、ナルガクルガから取れた素材から作った物だしな」
ξ゚听)ξ「あら?それ、ナルガクルガの素材から作ったんだ。それにしては存在感があるというか、ユクモで見た物とは少し違ってるのね」
ツンの言う通り、ドクオの身に付けている装備は、ユクモの狩人が着ている装備と少し違っている。
('A`)「そうだな。これはナルガX。ナルガクルガの中でも“G級”に分類された竜“疾風迅雷”の素材から作った物だからな」
ξ゚听)ξ「G級?モンスターにもG級があるの?」
('A`)「あぁ。十人単位の人間を食らった飛竜、それをドンドルマでは“G級”と呼び、最高位の狩人でなければ狩れないという規制が掛かる」
ξ;゚听)ξ「……十人単位、って。そんなの化け物じゃない」
('A`)「俺が討伐したナルガクルガは、三十人以上の狩人を食った正真正銘の化け物だったよ。狡猾な奴でな。一撃を振るっては隠れての繰り返しで、なかなか骨が折れた」
ドクオは、もう思いだしたくもないというように顔を顰めた。
その様子が、ツンには少し可笑しかった。
627 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/10(土) 23:28:02 ID:tZ7fnqaMO
いつも平然と感情を表に出さないドクオが、ここまで嫌悪感を示すのは珍しかったから。
その様子を見て、緩んでいると思ったのか。
ドクオは言った。
('A`)「……気を引き締めよう、もう近いぞ」
ドクオが見付けたのは真新しい足跡。
大きさはツンの身の丈程もありそうだ。
間違いなく、これは飛竜の足跡である。
('A`)「感じるか、ツン。俺達は、もう奴の縄張りの中だ」
ξ゚听)ξ「……全然よ、言ったでしょ。姿が見えなくちゃ、私には、そんな鋭敏に気配を感じるなんて事できないわ」
確かに、ツンはまだまだHR2。一年目の新米狩人だ。気配や雰囲気と言った、目に見えない物を感じ取る事は出来ない。
決して、能力的にではない。
ただ圧倒的に経験が不足しているのだ。
628 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/10(土) 23:29:06 ID:tZ7fnqaMO
('A`)「……ツン、一度目を閉じてみろ」
ξ;゚听)ξ「……へ?」
('A`)「十、数える。その間、ずっと目を瞑ってみれば良い」
ξ゚听)ξ「……うん」
目を閉じるツン。僅かに照らしていた月明かりも消え、文字通り、何も見えない無の世界。
一。
不安に駆られるツンだが、心を落ち着ける様に、胸に手を当てる。
二。
徐々に波立っていた心が、静かになっていく。
629 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/10(土) 23:29:34 ID:tZ7fnqaMO 三。
突然視界にノイズの様な物が走った。
四。
不規則に揺れ動きながら、確かにこちらを見つめている紅い眼光。
五。
ツンは、目を開けたくなる衝動を必死で抑えた。
六。
だが、その目は無遠慮に。ふてぶてしく、どんどん自分に近づいてくる。
七。
その距離が後少しまで迫った時、一気にソレは自分に襲い掛かった。
ξ;゚听)ξ「……!!」
十秒、数え切る事なく、ツンは目を開けた。
630 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/10(土) 23:30:19 ID:tZ7fnqaMO
('A`)「……」
しかし開けた視界には、特に異常もなく、先程までと同じように、ドクオが無機質な目で、こちらを見ているだけだった。
ξ゚听)ξ「……今のは」
しかし、異常は視界に起こった訳ではなかった。
ξ゚听)ξ「……なんだか、凄く息苦しい」
どうして今まで気が付かなかったのだろうか。
ツンが今立っている、この場所は、こんなにも‘死の臭い’に満ち溢れていたというのに。
631 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/10(土) 23:32:40 ID:tZ7fnqaMO
('A`)「それが気配だ。分かるか?」
ξ゚听)ξ「……えぇ、出来ればずっと知りたくなかったわ」
寒さを堪える様に、二の腕を擦るツン。
('A`)「その感覚を忘れるな。凄腕の狩人ならば、飛竜に気付かれない距離からでも、今のを感じ取る事が出来る」
ξ゚听)ξ「……はい」
('A`)「気配に敏感な者ならば、ある程度の位置まで特定する事も容易だ」
ツンは、ドクオの言葉を聞きながらも、背に携えていた自身の武器であるライトボウガンを引き抜いた。
('A`)「………」
そして何の躊躇もなく、ジャギットファイアに貫通弾Lv.2を装填する。
ξ゚听)ξ「……ドクオ」
その様子に、ドクオも気が付いた。
少しの笑みを浮かべて、ドクオも呼応するように背の双剣を抜く。
632 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/10(土) 23:33:13 ID:tZ7fnqaMO
('A`)「……良いだろう、なら開戦だ」
633 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/10(土) 23:34:18 ID:tZ7fnqaMO ツンもニヤリと笑った。
ドクオはゆったりと、出来るだけ自然体で双剣を構える。
('A`)「レディーファーストだ。タイミングは任せる」
初撃は、ツンに任せた。それだけの力がある、とドクオは確信したのだ。
ξ-听)ξ「……」
片目を瞑り、十分に狙いを定めるツン。
心臓の鼓動と、自分のタイミングが合致するのを待つ。
セーフティを外し、撃鉄を起こす。
ξ-听)ξ「………」
ゆっくりと引き絞られていく引き金。
心地良いトリガー・プルを感じながらも、照星は全くブレる事なく、撃ち手の視線と同じ軌道を辿るようにソレは飛び出していった。
一発の弾丸。
開戦の狼煙が上がった。
634 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/10(土) 23:35:25 ID:tZ7fnqaMO
('A`)「……やるか」
乾いた銃声が聞こえると同時に、ドクオも走りだした。
風の様にスルスルと進む。ツンが狙った方向に。
そして予測していたかの様に前転。
直後、獰猛な唸り声があがった。
間違いなく飛竜の咆哮。
次いで、激しい木々の騒めき。
('A`)「……来る、な」
飛び出して来た黒い影。
『Gyaaaaaaaaaaa!!!!!!』
ドクオの眼前には紅い眼。間違いなく【迅竜】ナルガクルガだった。
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