('A`)ドクオと飛竜と時々オトモのようです 6−8
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332 :
6―8
:2011/12/22(木) 04:17:50 ID:tS9kwa0AO
ユクモ山、山頂付近。真っ黒な雲が架かっているせいか、視界はかなり悪い。雨は全く降っていないのに、雷が鳴り響いている。所々に、雷が落ちたのか真っ黒く焦げた跡が残っていた。
標高が高いためか、背の高い草木は生えていない。
山でありながらも、広場の様になっている。
その中央に【雷狼竜】ジンオウガは鎮座していた。
そこに、ゆっくりと上がってきた男。ドクオだった。
333 :
名も無きAAのようです
:2011/12/22(木) 04:18:37 ID:tS9kwa0AO
('A`)「……肉が食いたい」
.
334 :
名も無きAAのようです
:2011/12/22(木) 04:19:30 ID:tS9kwa0AO
ここに至ってドクオは普段通りだった。決戦を前に気負いはない。
('A`)「さっさとお前を討伐して、飯でも食うか」
ここまでの戦いは終始ドクオが攻めている。だからこそジンオウガは一旦退いたのだ。
しかしジンオウガが、ここで待っていたという事は、逆を言えばこの場所でなら勝機があるという事だ。
それはドクオも重々承知。
335 :
名も無きAAのようです
:2011/12/22(木) 04:20:00 ID:tS9kwa0AO
『Waohooooooooo!!!!!!!』
ジンオウガの咆哮が響く。ドクオも背の双剣を抜き構えた。
最後の決戦が始まる。
('A`)「そろそろ地に伏せろ」
ドクオは、身を低くしジンオウガへと近付く。
一方、ジンオウガも敵をリーチ内に入れさせまいと、乱暴に尻尾を振るう。
まさに嵐、ドクオも一旦止まらざるを得ない。
('A`)「鬱陶しい尻尾だ、見てるだけで気が滅入る」
しかし尻尾を気にせずにジンオウガに攻撃を加える為には、奴の股下まで入り込まなければならない。
それには、あの嵐を潜り抜ける必要がある。
336 :
名も無きAAのようです
:2011/12/22(木) 04:20:50 ID:tS9kwa0AO
('A`)「………」
ドクオは、ここで距離を開けた。
しかし、距離を取ればドクオの攻撃は届かない。完全にジンオウガの距離となってしまう。
('A`)「来いよ」
だが、ドクオの狙いはソコだ。
自分が一方的に攻撃出来る状態だと思うと、攻守の比重は確実に攻撃へと傾く。
ドクオは待っていた。散漫とした突撃を。
337 :
名も無きAAのようです
:2011/12/22(木) 04:21:23 ID:tS9kwa0AO
『Waohooooooooo!!!!!』
しかし、ジンオウガはなかなか攻撃をしてこない。
('A`)「……なかなか賢いな。やはり通常のモンスターの様にはいかないか」
ならばと、一気に距離を詰めに行く。だが勿論ドクオを狙って尻尾は動く。
八方塞がり、ここに来て増してくるジンオウガの圧力。
('A`)「ふむ」
だが、ドクオは焦らない。ドクオには確信があった。この根比べ、勝つのは自分だと。
338 :
名も無きAAのようです
:2011/12/22(木) 04:22:33 ID:tS9kwa0AO
さて、皆はカロリー(calorie,記号:cal)の役割を知っているだろうか。
カロリーとは、熱量の単位である。食品等に明記されている物だ。
人間は、カロリーを採るために物を食べる。
物を食べる事は、空腹や栄養分の補給は勿論、身体に熱量を取り込むという大きな役割を持っているのだ。
その熱量は、身体を動かしたり、頭を働かせたりする事によって消費されていく。
340 :
名も無きAAのようです
:2011/12/22(木) 04:26:01 ID:tS9kwa0AO
('A`)「そろそろ、か」
明らかにジンオウガの動きが遅くなってきた。口からはだらしなく涎を垂らし、肩で息をしている。
カロリー切れである。
ジンオウガの様な大きな身体をした生物は、ただ起きているだけで大量のカロリーを消費する。それが、さっきまでの様に尻尾を乱舞し、飛び掛かりと繰り返せば、その消費量は爆発的に増大する。
何時間も一切補給をせずに戦えば、ガス欠になるのは当然だ。
加えてドクオの愛双【鋼龍双】ラファール=ダオラが、ジンオウガの熱をどんどん奪っているのも大きい。
341 :
名も無きAAのようです
:2011/12/22(木) 04:27:39 ID:tS9kwa0AO
('A`)「さて、と」
ドクオは、迷いなく懐へと入り込んだ。そして乱舞。前脚を重点的に、撫で斬る。
遂に見出だした勝機。一気にドクオは、決めに掛かっている。
('A`)(ここで取る……)
血飛沫が飛び散る。その一粒一粒が、ラファール=ダオラの圧倒的冷気により凍り付き、結晶化していく。
もしこの戦いに観客が居れば、誰もが魅入られていただろう。
辺りを漂う雷光虫の白玉と、ジンオウガの紅玉が周囲にたゆたう。
343 :
名も無きAAのようです
:2011/12/22(木) 04:28:40 ID:tS9kwa0AO
('A`)「これでッ!!終わりだッ!!!」
ドクオの双剣が、今日初めてジンオウガの頭部へと走った。
突き刺さった双剣、ドクオはジンオウガの首下を蹴り上げる事で引き抜いた。
('A`)「………」
ドクオの片手にはジンオウガの尖角が握られている。
だが何時もの様に、綺麗なまま解体した訳ではなく、根元がポッキリと折れてしまっている。
その尖角は、未だに熱い。
('A`)「ギコ……」
ギコのあの時の一撃が、ジンオウガの尖角を、ここまでボロボロにしていたのだ。
344 :
名も無きAAのようです
:2011/12/22(木) 04:30:07 ID:tS9kwa0AO
('A`)「!?」
しかし、感慨に浸る暇はない。
ジンオウガの身体から三度の発光が起きたからだ。今度は前回までと違い、強烈な光量。
('A`)「……ヤバいな、これは」
ピリピリと肌を刺激するジンオウガの雷。
―――そして
(;'A`)「!?」
周囲が光に包まれた。雷が落ちたのだ。ジンオウガへと。
345 :
名も無きAAのようです
:2011/12/22(木) 04:30:45 ID:tS9kwa0AO
光々と輝くジンオウガ、まさに神。今までのジンオウガの姿は全く嘘の様だ。
圧倒的な威圧感に、初めてドクオは表情を変えた。
変化は容姿だけではない。
『Wlohoooooooo!!!!!!!』
今までと全く違う咆哮。
ジンオウガが持っていた理性が全てぶっ飛び、野性が帰ってきた様だ。
ジンオウガを撃退した四人の狩人達は、さぞ絶望した事だろう。
もう終わりだと、身を粉にして戦っていれば、更にもう一段上があったのだから。
('A`)「それがお前の本気か」
天晴れだ、ユクモにもここまで力を持った怪物がいた。
346 :
名も無きAAのようです
:2011/12/22(木) 04:31:30 ID:tS9kwa0AO
('A`)「それでも、俺は負けない」
ジンオウガはドクオへと疾走する。もうジンオウガには、ドクオが人間だと認識出来ていない。ただただ自分の存在を脅かす化け物。
ジンオウガの巨体が勢いを付ければ、それはもう凶器である。
('A`)「コイツ、リミッターが外れて速さまで上がったか」
先程までの、ジンオウガの動きになれてしまったドクオの目は、今のスピードに付いていけずにいる。
怒りによる大幅な身体能力向上、これはドクオの様な思考派の狩人にとっては大きな不安要素となる。
('A`)「チッ!!」
ジンオウガは、不規則に飛び続ける。しかも、切り返しの時間が驚く程短い。
('A`)「……」
ならばと、ドクオも腹を括った。
半身に構え、どっしりとジンオウガを迎え撃つ。
狙いは頭部、先程付けた頭の傷だ。あそこにねじ込む。
('A`)「……来いッ」
.
347 :
名も無きAAのようです
:2011/12/22(木) 04:32:59 ID:tS9kwa0AO
ジンオウガの前脚がドクオへと迫る。
反らす様にして、それを紙一重で躱した。
―――そして
ドクオの双剣が、ジンオウガの頭部を刺した。
348 :
名も無きAAのようです
:2011/12/22(木) 04:33:58 ID:tS9kwa0AO
舌打ちが聞こえる。
(#'A`)「クソッ!浅かったか!」
そして状況は最悪となる。
('A`)「やってくれる、ジンオウガめ」
ドクオの片方の双剣が、ジンオウガの頭部に突き刺さったまま、取れなくなっていた。
ここに来ての握力低下。ジンオウガも確かに補給出来ずにいたが、ドクオも何も食べていなかったのだ。
これはドクオが、ユクモに来て初めて犯したミスである。
残された剣は、あと一本。
だが、これでは敵の攻撃を受け流す事は出来たとしても、受け止める事は出来なくなった。
('A`)「絶体絶命、か」
349 :
名も無きAAのようです
:2011/12/22(木) 04:35:00 ID:tS9kwa0AO
残った一本を左手で順手に構える。
('A`)「最期の足掻きだ。来いよ、ジンオウガ」
ジンオウガの身体が唸った。単純な突進、されど小さな人間を潰すには充分な一撃だ。
ドクオは、左へと身体をずらしジンオウガの右側へと回り込んだ。
―――そして
('A`)「オラアァァアアア!!!!!」
驚くなかれ。ドクオは、ジンオウガの右前腕を殴り付けたのである。
何を血迷ったか、と笑うだろう。強靭な身体を持つ怪物を素手で殴るなど、正気の沙汰ではない。
350 :
名も無きAAのようです
:2011/12/22(木) 04:35:22 ID:tS9kwa0AO
―――だが
351 :
名も無きAAのようです
:2011/12/22(木) 04:36:04 ID:tS9kwa0AO
『Waohooooooooo………』
苦悶に満ちたジンオウガの悲鳴が聞こえる。
カン、と音を立てて砕けたのはジンオウガの前腕だった。
('A`)「身体の細部の感覚に鈍いお前達だからこそ、気が付かなかったのさ」
――――自分の腕が凍っている、という事にな
.
352 :
名も無きAAのようです
:2011/12/22(木) 04:37:18 ID:tS9kwa0AO
執拗に狙い続けた前脚、その狙いが今、明かされた。
自身の脚をもがれ、痛みにのたうち回るジンオウガ。
全双剣の中で、極低温の刀身を持つ【鋼龍双】ラファール=ダオラが為せる技だ。
('A`)「だが、俺もこれで完全にネタ切れさ」
万策尽きた。これでジンオウガが立ち上がるならば、もうドクオに抵抗する力は殆んど残っていないだろう。
普通のモンスターならば、これで立ち上がれるはずがない。
―――だが
これが、神と呼ばれる怪物【雷狼竜】ジンオウガ。
ジンオウガは、二本の後ろ脚だけで立ち上がった。
353 :
名も無きAAのようです
:2011/12/22(木) 04:37:37 ID:tS9kwa0AO
ドクオから勝ちの目が消えた。
354 :
名も無きAAのようです
:2011/12/22(木) 04:38:10 ID:tS9kwa0AO
('A`)「ふぅ……本当に不味いな。こりゃ詰んだ」
体力も限界だ。集中も続かない。
のそりと近づいてくるジンオウガ。
ズルズルと下がるが、背後は断崖絶壁。
355 :
名も無きAAのようです
:2011/12/22(木) 04:38:34 ID:tS9kwa0AO
『ドクオー!!!!』
.
356 :
名も無きAAのようです
:2011/12/22(木) 04:39:19 ID:tS9kwa0AO
突然反対側から聞こえた、自分を呼ぶ声。
誰かは、すぐに分かった。
ユクモに来て初めて出来た、ドクオの大切な“友人”だ。
(* ∀ )「ドクオ!!!!!!」
ペイントの臭いを辿ってきたのか。
全く、なんて友達甲斐のあるアイルーなんだ。
反対側から猛烈な勢いで駆けてくるツー。満身創痍、オトモの体力でこの山を全速力で登り降りしたのだ。
ドクオの胸に、真っ赤な火が再び灯った。
.
357 :
名も無きAAのようです
:2011/12/22(木) 04:40:49 ID:tS9kwa0AO
('A`)「来い!」
【雷狼竜】ジンオウガは、己の全霊を賭けて、放った一撃。
ドクオには、それが見えていた。
完全に、スローモーションで。
だから、それを避けるのは容易い。
その筈だったのだ。
.
358 :
名も無きAAのようです
:2011/12/22(木) 04:41:22 ID:tS9kwa0AO
ジンオウガが叩いたのは地面。ドクオの前方を、殴り付けた。
崩れる足場、ドクオの身体が宙を舞った。
(;*゚∀゚)「!?」
その時、ツーは見てしまった。ドクオの口が動くのを。
“あの時”と同じ、あの言葉。
359 :
名も無きAAのようです
:2011/12/22(木) 04:42:20 ID:tS9kwa0AO
('A`)『良かった、お前が無事で……』
360 :
名も無きAAのようです
:2011/12/22(木) 04:42:47 ID:tS9kwa0AO
(*;∀;)「ドクオオオオオォォォォオオオオオ!!!!!!!!!」
361 :
名も無きAAのようです
:2011/12/22(木) 04:43:22 ID:tS9kwa0AO
―――
――
―
助けてくれた時の大きな背中
('A`)『俺はドクオって言うんだ。ドンドルマでハンターをしていた。
お前の名は?忠義者のオトモさん』
困ったような、不器用な笑顔
('A`)『なんでお前は、俺の頭の上に乗ってるんだ?』
優しく、割れ物に触れる様に、撫でてくれた手
('A`)『一日でそれだく集めたか。流石だな』
―
――
―――
362 :
名も無きAAのようです
:2011/12/22(木) 04:44:06 ID:tS9kwa0AO
『言っただろ。【Gの狩場に敗北はない】これで“相討ち”だ!糞野郎!!』
363 :
名も無きAAのようです
:2011/12/22(木) 04:45:43 ID:tS9kwa0AO
ドクオは、宙に浮き上がりながらも【雷狼竜】ジンオウガの頭部を蹴り飛ばした。
頭部、即ちジンオウガの頭に突き刺さった“ドクオの双剣の片割れ”をだ。
めり込む双剣が、ジンオウガの脳を潰す。
ジンオウガの目から、光が完全に消え去った。
364 :
名も無きAAのようです
:2011/12/22(木) 04:47:06 ID:tS9kwa0AO
―――そして
ドクオは、真っ暗な崖下へ。音もなく、消え入る様に墜ちていった。
('A`)ドクオと飛竜と時々オトモのようです
六話 急転直下―― 一応の帰結・闇の胎動 ―― 了
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