彼が死亡へと導かれる最大の要因。
誰かがそれを行っているというのなら、意志という力の直下に彼の死は確立している。
そして、これはゲームであり、それが意味する事は勝利条件はお互いに必ずあるということになる。
ならば、彼が掴むべき勝利条件は『相手の意思に対し反抗する手段を見つけること』に違いない。
このゲームの参加者が誰であるかは、各々の主観で大きく変わってくるだろうが、なんにせよ、このシークエンスにおいて彼は気がついても良い状況下である事は間違い無い。
川 ゚ -゚)「思ったよりも、早かったな」
( ^ω^)「思った時には、遅かったんだお」
本来ならば物語の本質である現象に、彼女が関わるべきではなかった。
イレギュラーとは、それ自体が不確定な要因である事、そのものだ。
川 ゚ -゚)「何か言いたいことがあるかね?」
( ^ω^)「聞きたいことなら山ほどあるお」
川 ゚ -゚)「そうか、ならば、やる事は一つか――」
『答え合わせを始めよう』
今を生きる、そのために。
…………。
『VIP市発の電車が――脱線し――』
テレビから漏れて聞こえる声を聞いていた。
それは、自分が一歩一歩勝利に近づいている音だ。
まだ『あいつ』は死んでいないらしい、自分がこうしていると言う事は、つまりそう言う事なのだろう。
『あいつ』の死は確定している、二つの因果によって。
と。
視界が暗転した。
『アイツ』が、死んだらしい。
また次の『今日』を迎える事になる。
さて、今度はどうしよう。
…………。
■( ^ω^)は十回死ぬようです。
■四回目の放課後・再開。
空は暗くなっていた。
電車は予想通り、否、経験どおりにと言うべきか、綺麗にあの場所で脱線したらしい。
らしい、というのは、すれ違う全員が全員、『電車が脱線した』と大騒ぎしているからだった。
すぐに行きたかったが、歩いて踏み切りの位置まで向かうならば、歩きだと三時間かかることになる。
向かったとしても一般人は立ち入り禁止だろうが。
( ^ω^)「……ドクオ、クー、先生、カーチャン……」
何より今現在、ブーンは駅で拘束を受けていた。
駅員に絞られている最中に、本当に脱線事故が起きたのだ。
問い詰められるのは当たり前、である。
「おい」
「あ、来てくださいましたか」
その声に、ブーンは聞き覚えがあった。
自分が座っている駅員室奥から、開いた扉の前に立つ影。
「こいつか、この胸糞悪い事故を予言してたのは」
サラリーマン調のスーツを着ているその男は。
「……なんだ、その顔は」
( ^ω^)「あ、ジョ、ジョルジュさ……」
( ゚∀゚)「あ? 何でお前、俺の名前知ってんだ?」
二人は駅から移動し、ジョルジュの車の中に居た。
( ゚∀゚)「何でお前があの事故の事を知ってたのか、俺は知らん、つーかこれから直接事故現場へ向かう」
( ^ω^)「へ?」
( ゚∀゚)「人手が足りねぇんだよ、家まで届けてやっから、後日警察署にきやがれ」
あのまま駅で事情聴取を続けられるかと思いきや、ジョルジュはブーンの首根っこを掴むと、『長い話になるので』と駅員を切り捨て、速攻で移動を開始したのだった。
( ゚∀゚)「今ヘリで自衛隊も向かってきてる、言っておくがお前、大事故なんだぜ、これ」
わかっている。
文字通り目の前で体験し、そして死んだのだから。
ブーンは、確認の意を込めて、ジョルジュに聞いた。
( ^ω^)「刑事さん、今日、マンションから若い女の人が飛び降りませんでしたかお……?」
( ゚∀゚)「……お前、何で知ってんだよ」
ぎん、と運転しながらだが、ジョルジュの視線がブーンへ向く。
( ^ω^)「いえ、その、聞いただけですお」
( ゚∀゚)「誰から、何で、何所でだ」
( ^ω^)「ええと……」
( ゚∀゚)「前も言ったろうが、この俺の前で嘘は吐けねぇんだっつー……」
あれ?
ジョルジュは自分でも不思議そうな顔をした。
首をかしげて、横目でブーンをにらみつける。
( ゚∀゚)「……おい小僧、俺とお前は初対面だよな?」
( ^ω^)「え、あ、一応そうですお」
( ゚∀゚)「……おかしいなぁ、何か前にもこんな会話した気がするんだが……」
……何で。
( ゚∀゚)「ちぃ、色々あったから混同してんだな、畜生」
覚えてるんだ?
( ^ω^)「刑事さん……、図書館の前で交通事故は……」
( ゚∀゚)「ああ、なんだよ」
( ^ω^)「死んだのは一人だけ……ですかお」
( ゚∀゚)「一人だけじゃなくて、一人も、だよ。 学生だ」
そんな内容をぺらぺらと話していいのかどうかは、この男に求めても無駄だろう。
何でこんな事を聞いたのか、自分でもわからなかった。
…………。
それから終始、無言だった。
ブーンは何か言う気になれなかったし、ジョルジュはイライラした様に煙草をすい続けていた。
ジョルジュがブーンの元へ来たのは偶然ではないだろう。
事故が起きた場合、ジョルジュは事故のほうへ調査に向かう。
やがて、車が止まる。
ブーンの家の前だった。
( ゚∀゚)「テメェ、後で絞るからな……」
( ^ω^)「……はいですお」
ついていく気にはなれなかった。
カーチャンの安否は気になるが、今の彼にとっては。
車はエンジン音を立てて走り去っていった。
鍵をポケットから取り出し、開錠する。
すぐにどたばたと騒がしい足音が聞こえてきた。
ξ゚听)ξ「馬鹿っ!」
( ^ω^)「ぐえっ」
ツンが、扉を開けたブーン目掛けて鳩尾に拳を放ったのだった。
ξ#゚听)ξ「何のための携帯電話よ! 出なさいよ! ええ!?」
どうやらずっと電話をしていたらしい。
ポケットの中を探ってみると、電話は確かにあったが、しかし同時に画面が割れているのも確認できた。
……壊れてたらしい。
( ^ω^)「ごめ、ごめんだお…………」
ξ#゚听)ξ「ごめんですんだら警察も消防署もマカロニもいらないのよー! それよりお母さんが!」
ツンも知っているらしい、強かった口調が、ゆっくりと弱くなっていく。
ξ゚听)ξ「コンサートに行くって、出て行って、それで……」
それで、電車が。
ξ 凵@)ξ「大丈夫かな、お母さん、大丈夫だよね、ね……!」
( ^ω^)「……絶対に大丈夫だお」
普段、こんな姿を見せない妹の頭を撫でて、ブーンは言った。
居間に入ると、テレビがついていた。
ずっと見ていたのだろう、音量は大きめだ。
地方局にチャンネルがあわされていて、ニュースでは現地にいるキャスターが何かを叫んでいた。
潰された、救急車を背景に。
『えー、こちら事故現場です、現在確認できているだけで死者数十名、重軽傷者合わせて数百名――』
『踏み切りを待っていた救急車両も巻き込まれ――』
『女性教諭一名と、救急隊員一名が死亡、付き添いの男性ともう一名は重症で――』
( ^ω^)「な、あ、ああ?」
その情景が把握できなかった。
あの時間、救急車に乗っていた女性教諭など、あの人以外に誰がいるだろうか。
ξ゚听)ξ「ど、どうしたのよ……」
( ^ω^)「な、んで……」
それに、ブーンは思い当たった。
それに、ブーンは思い当たった。
脱線事故は起きる。
だがブーンが死んだのは車の中だ。
つまり、脱線事故が起きたことにより→車が潰されて→死ぬ、という現象。
脱線事故は、あくまでおまけ。
あの場所であの時間に車に乗っている事こそが本当の死。
『起こるべくして起こる死』だと、言う事か。
( ^ω^)「――二人?」
アナウンサーはまだ何かを言っていたが、死亡したのは確かに『女性教諭』と『救助隊員』、一名ずつだと言っていた。
ジョルジュがさっき言っていたように、各シークエンスでは同じ出来事が起こり、同じ結果が成立している。
違うのは、誰が死ぬか、と言う事だけで。
( ^ω^)「ならあの時――、僕と、もう一人以外は、生きていた?」
誰が生きていた。
誰が生きていた。
何で、生きていた?
そこに、追い討ちだった。
テレビにはテロップが流れていた。
確認された死亡者の中で、身元が判明している人たちの名前が次々と羅列されていった。
ξ゚听)ξ「う、そ」
( ^ω^)「……」
そこには、一番見たくない名前が。
ξ 凵@)ξ「おか、あ、さん……?」
( ^ω^)「……っ!」
ブーンは振り返ると、走りだし、居間から飛び出た。
ξ 凵@)ξ「あ、あああああああんっ!」
妹が泣く声を背中に、ブーンは走る。
待ってろ、ツン。
すぐ、全部、元に戻してやるから――
ブーンが走り、辿り着いた場所。
オートロックというシステムは、外側から鍵を使ってあけるか、内部の住人からあけてもらうかのどちらかで入る事ができる。
当然のことながらブーンは鍵を持っていないのが、しかしもう一つ入る手段がある。
管理人に見付からないように、じっと影を潜めて待つ。
十分程度で、それは実現した。
中から人が出てきて、扉が開く。
それとすれ違うように、ブーンもまた移動する。
辿り着いたのは、九階。
クーの部屋の前だった。
902号室の周囲には『立ち入り禁止』のテープが張ってある以外、無人だった。
本来ならば警官がいるのだろうが、事故の問題があるので、皆そっちに行ってしまったのだろう。
それは、考えてはいけないことだったが。
しかし、最も最良な手段だった。
ブーンが死んだ場合、次の『今日』が始まり、今までのシークエンスは彼の記憶を残し無かったこととなる。
ならば。
自分が死ねば。
『皆が死んでしまった現実はリセットされて、やりなおせる』
ドクオ、たった一人の親友。
クー、僕を護るために消えた少女。
ペニサス、生徒を護る為に、そしてその所為で死んだ教師。
カーチャン、僕を、この世界に産んでくれた人。
( ^ω^)「待ってて、今、助けるから――」
ゆっくりと、体を乗り上げる。
落下は一瞬だった。
この高さから落ちるのは二度目。
だが、もう見逃せない。
許す訳には行かない。
皆を死なせる訳には、行かない。
( ^ω^)「僕が、必ず、皆を――っ!」
決意とともに、ブーンの意識は、地面と接触した瞬間、途絶えた。
:四回目の死亡・転落死/自殺
:実行犯・ブーン
:死亡時刻・八時十五分
:( ^ω^)は十回死ぬようです・続く。
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